転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第519話 秘密基地のマスター、お客様とお話しする

“コトコトコトコト”

竈に掛けた鉄鍋が音を立てる。トメート、コーン、ブロッコル、色とりどりの夏野菜がビッグワーム改干し肉と共に鍋の中で踊る。

お玉でスープを掬い、小皿に移して味見する。トメートとビッグワーム改干し肉から出るうま味成分がいい感じの出汁となってスープに力強さを与えている。

 

“カチャ”

素焼きの小壺から海水から作った塩を少々。塩田のやり方など分からないので、低木のよく葉の茂った木の枝を束にしたものに海水を掛けて天日に干しただけという非常に原始的なやり方で集めたものだ。

単に桶に入れた海水を使って生活魔法<ウォーター>を唱えるだけでも塩は取れるのだが、天日干しのものの方が味がまろやかと言うか、口当たりがいい気がするので愛用している。

 

別の鍋では赤い身体に大きな目が特徴の魚を煮る。味の基本はエルフの里で手に入れた溜まり醤油、魔国で手に入れたシュガールと言う魔物から取れる調味料を使い甘く煮込む。イメージは在りし日の思い出の味、金目鯛の煮つけだ。

以前であれば何でここにご飯がないんだと喚いていたが、その点は抜かりない。エルフの里で確り米も入手、聞けば扶桑国や武連国、創国といったエイジアン大陸東部の国々では米が主食になっているらしい。

という事は世界には麺やパスタが主食といった国もあるんだろうか?小麦の可能性は無限大、夢が広がるのはいい事だと思う。

 

「さて、こんなもんでいいかな?」

 

俺は竈の薪を散らし火を小さくすると、調理場を出て接客フロアへと向かう。

全体が木で覆われた落ち着きのある店内、一枚板で作られた重厚なカウンターテーブル。いくつかあるテーブルや椅子は、無骨な造りではあるがとても丈夫そうに出来ている。

店内を落ち着いた明りで照らす魔道ランプ、大きく透明度の高い窓ガラスの向こうには夜空が広がり、星々が美しくきらめいている。

そんな店内には一つ大きな特徴があった。それは訪れるであろう人々を優しく見つめるかのように設置された女神様像。

精巧に作られたそれは、今にも話し掛けて来そうなほど柔和な笑みをたたえる。

俺はそんな女神様像の前に向かい、膝を突き祈りを捧げる。

 

「お待たせいたしました。居酒屋ケビン、本日開店いたします」

 

“カチャッ”

“ケビン、遅い!!一体いつまで待たせるのよ”

 

突然開かれた扉、そこに立つのは美しく輝く髪もぼさぼさに、整った容姿、吸い込まれるような青い瞳の下に凶悪なクマを従えた天上のOL(総合職)あなた様。

 

「どうも、こないだ振りで。ってこれって結構なる早で開店したと思うんですけど?当初の予定だったら秋の収穫祭が終わってからオープンって事だったんですから。

まぁ今回はこっちも色々ありましたし、本部長様にもご足労願う様な事がありましたんでね。多分呼び出されるんじゃないかなと思いまして、このような形を取らせて頂きました。

 

と言うかなんであなた様がそんなにやつれてるんです?

今回の事態って結構ヤバ目ですよね、上位者権限の下アーカイブが精査されて本部長様クラスが直接動くような案件なんじゃないんですか?」

 

俺は“あなた様ってそんなに偉かったっけ?”と首を傾げつつ、「まぁ立ち話もなんですから」とカウンター席を勧め、自慢の料理をお出しするのでした。

 

“コトッ、コトッ、コトッ”

「赤魚の煮つけ、夏野菜のスープ、それと白米になります。白米は東方で主食とされる穀物ですね、エルフの里を訪れた際に大量購入して来ました。

お疲れの様ですし、先ずはお腹を満たしていただいて、それからお話を聞く方が良いと思いまして」

 

俺はスプーンとフォークをお出しし食事を促す。流石にあなた様でも箸は使えないだろうからね、本部長様なら問題ないかもしれないけど。

 

“ハァ~、美味しい。こうやってゆっくり食事をすると心が落ち着くわ。この魚料理もいいわね、ただ甘く煮ただけじゃなくて、酸味と言うか塩味と言うか、魚から出るうま味と上手く混ざって優しい味わいに仕上がってるわ。

白米との相性もバッチリよ”

 

なんかあなた様の姿が仕事の帰りにおふくろの味を売りにする小料理屋に立ち寄ったOLにしか見えない。プロジェクトリーダーに抜擢されたのはいいけど、取引先から次々に仕様変更を言い渡されて四苦八苦しているみたいな?もしくはクレーム処理に奔走していたとか。

 

“ケビン、聞こえてるわよ。しかも当たらずとも遠からずってところが余計ムカつくんだけど。

さっきケビンも言ってたけど、今回の件、暗黒大陸魔国の魔王アブソリュートを使った人類粛清計画。当然の様に天上界でも大騒ぎになっているわ。

以前ケビンからの指摘で行われた調査で一部上級天使の指示により魔王の種が与えられたことは判明しているわ。天界の見解は魔王アブソリュートの行動が理性的かつ建設的なものである事から、要観察対象にとどめ様子を見るという事に落ち着いていた。

実際魔王アブソリュートが作り上げた魔国という国家は、多種族多民族国家と言う人族の新しい一面を見せてくれていた。それぞれの民族が協力し、暗黒大陸という人族にとって厳しい環境で独自の文化文明形態を築き上げていた。この功績は評価するに値するものだったの。

 

でもその裏で堕天使が受肉する為の器が作られていたなんて。

そもそもの話、ケビンの指摘が無ければだれも魔王アブソリュートに注目しなかっただろうし、魔王軍による大侵攻は堕天使の計画通りに発生していたでしょうね。

私たち天界は今回発生するはずだった魔国の侵攻も人族の行う戦争の一環として捉えていたはず、これまで人族の魔王は観測されてない事から魔王と自称しているだけと考えられたはずよ。

そして全ては後手に回り複数の国家と多くの人命が失われていた。

ケビンの推測の様に上級天使の妨害工策も行われたでしょうからね。

 

天上人と地上人の関わり合いについては昔から多くの議論が交わされて来たの。地上人は天上人の指導の下生きるべきであると主張する者、今回の堕天使の様に一度すべての地上人を滅ぼし一からやり直すべきだと主張する過激な意見を述べる者もいるわ。

地上人は堕落し腐り切っている。地上人に深入りし過ぎて堕天してしまう者たちがいる事を指摘し破壊と創造を求める者たちは、自分たちが主体となって新たな人類、完璧な人類を作り出す、作り出せると主張しているの。

皆頭では馬鹿な事を言っていると思うんだけど、天上人は特別な存在、地上人を導くのは私たちの使命なんて耳心地のいいことを言われちゃうと心が揺さぶられちゃうものなんでしょうね。

 

今回の上級天使の騒動は天上人の在り方を問うようなものだった。この一件は直ぐに女神様にも報告が上がってね、徹底的な調査と原因の究明、天界システムの見直しが行われているわ。

私の部署もその例外じゃない、過去の膨大な資料を精査しての問題点の洗い出し、地上人との接触記録等々。こうしてこの場に来れたのも大特異点であるケビンとの接触が最優先事項とされているからね、これが終わったらまた残業続きの日々が待ってるわ。

ケビンには散々居酒屋の開店をせかしたけど正直そうそう顔を出せそうもないわね、この嵐を乗り切らない限り天界に未来はないもの”

 

そう言い力なく笑うあなた様。その儚いお姿は企業合併に翻弄される中間管理職を彷彿とさせます。

 

“コトッ、スーーー”

カウンターテーブルに差し出した一杯のグラス。俺は無言のままその場を離れ調理場に向かいます。

あなた様は淡く光るグラスの中の飲み物を暫し見詰め、ゆっくりとした動作で口を付けられました。

 

—――――――――

 

「$$%&、大変よ、またケビンがやらかしてるわよ」

 

その連絡が入ったのは、現在進めているプロジェクトの肝である汎用型闇属性魔力回収装置の打ち合わせからの帰りの事であった。

地上界における闇属性魔力の偏り、魔力バランスの調整問題は長きに渡る課題であった。これまでその解決方法として用いられて来たのは魔王の種を地上の生き物に植え付け、その魂に蓄積させることで地上の生き物に闇属性魔力を回収させるというもの。だがこれは地上界に魔王災害という新たな問題を作り出す結果となっていた。

天上界はこの問題を重要視し、魔王に変わる試みとして魔力結晶体を使った闇属性魔力集積装置を地上に設置、周辺各国に危険性を周知させたこともあった。

だがそれは周辺国同士の戦乱を招き、集積装置の大爆発という最悪の結果を招く事になってしまったのであった。

 

現在進めているプロジェクトは闇属性魔力を集積するのではなく、回収毎に処理場送りにするというこれまでにない発想のものであった。

試作品の稼働率は高く想定よりも遥かに多くの闇属性魔力を処理場に送り込み、地上界が如何に多くの闇属性魔力を抱えているのかを改めて思い知らされる結果となったのであった。

 

“問題は回収量と転送速度、過去のデータを見れば機能限界ギリギリでの使用が数回記録されている。一応は神器の部類であるとは言え、あの腕輪はその場で作った急造品、これ程の使用に耐えられるようには出来てないのよね。

想定が甘かったのか腕輪を渡した相手が特殊過ぎたのか。いずれにしても皆にはこのデータを基に、汎用型の闇属性魔力回収装置を設計して貰いたいの。人族が日常的に身に付けられて負担にならないものが望ましいわ、彼らが生み出す闇属性魔力をこまめに取り除いていくことが目的な訳なんだし”

 

工房でのデザイン設計や根本的なシステムの見直し、試作品から送られたデータを基にした問題の洗い出しは順調に進んでいると言えた。

そんな順調に仕事が進んでいる矢先に聞かされた特大の厄ネタ、脳裏をよぎるこれまでのあれやこれや。

突然地上に召喚されたり、特異点のやらかし対処の為の呼び出しで有給休暇を潰されたり、天界に地震を引き起こされたり!!

 

“はぁ!?魔王城で魔王と対峙って、一体何をやってるのよあの馬鹿は!!”

急ぎ確認した地上界の記録に頭を抱える私。最近新設された掲示板システムではケビンや弟ジミーの話題で大盛り上がりのお祭り騒ぎ。ケビンの行動記録のライブ視聴が百万アクセスを超えてるって、あなた達仕事しなさいよ仕事、天界人口の十分の一が視聴してるってどうなってるのよ!!

 

そして天界人の十分の一が目撃する事となる衝撃の真実、魔王アブソリュートに憑りつき地上界を破滅に導こうとした堕天使の存在、上級天使たちの暗躍。自分たちの存在意義は何なのか、皆が衝撃を受ける中進んだ世界滅亡のプロセス。そして・・・。

 

“堕天使を天使に戻すって一体何なのよ。こういった場合なんて言うの?昇天使?昇天したら成仏しちゃうわよね?”

自分が一体何を言っているのかが分からない、それ程の衝撃の光景。方法はどうであれ堕天使を天使に戻すなど竈の灰を薪に戻すようなもの、これまで不可逆とされた事象を覆した地上人。

この出来事に天界中が大騒ぎとなった事は言うまでもなく、その事は直ぐさま女神様に報告されそれと共に上級天使の行いは弁明のしようのない形で天界中に知れ渡ることとなった。

 

その後**#@様と共に天上界に戻った元堕天使は一躍時の人となり、医療機関での詳細な検査と経過観察を主とした保護が行われる事となった。

また元堕天使の証言によりシステムのアーカイブが精査され、今回の件に関わったすべての天界人に調査の手が伸びる事となった。

またこの事態を重く見た女神様の指示により、天界の在り方そのものを見直す事となったのである。

 

“要するに残業の日々がいつ終わるのか分からないって事なのよね”

思わず洩れる本音、ケビンが悪い訳ではないという事は分かっている。

原因も事態を引き起こしたのも全て天界側、ケビンの働きが無ければ被害がどれ程のものとなったのか想像すら付かないのだから。

 

“コトッ、スーーー”

カウンターテーブルに差し出された一杯のグラス。淡く光る液体に満たされたそれは、これまで飲んだどのカクテルとも違う、神聖な雰囲気を醸し出していた。

手に取りその神秘的な美しさを眺めてから口を付ける。

甘酸っぱいさわやかな酸味が口腔に広がる。何か酷く懐かしい様な、何か忘れていたものを思い出したかのような。

 

“未来の私、頑張ってるみたいね”

声を掛けて来たのは若かりし頃の私?

 

“フフフ、何よそんな驚いたグラスウルフみたいな顔をしちゃって、おかしい。でもあなたが頑張っている姿はずっと見て来たわよ?

私の夢、天使になって女神様のために働く。子供の頃翼を広げ地上世界に飛んで行く天使の方々の姿に憧れた、いつか自分もそんな天使の一人になりたいと願った。あなたはその夢を叶えてくれた、ううん、今も叶え続けてくれている。本当にありがとう。

あなたは私の誇り、そして憧れ。これからも忘れないで、あなたの事を応援し続けている者がいるという事を。それと頑張り過ぎないで、あなたが傷付く事で悲しむ者、共に傷付く者がいるという事を覚えておいてね”

 

見ればそこには若い私だけじゃない、幼い頃の私も、老け顔の未来の私も。

 

“““また会いましょう、今の私。忘れないで、あなたは決して一人なんかじゃないって事を”””

 

それは刹那の夢、一杯のカクテルが見せた幻。だがそれが思い違いなんかじゃないって事は未だ溢れて止まらない涙が教えてくれる。

 

“スッ”

カウンター越しに差し出された白いハンカチ。私はそれを受け取ると、目元に当て涙を拭う。

 

“マスター、このカクテルは・・・”

「はい、新作となります。日々私たちを見守って下さる天上の方々の癒しになればと考案させて頂きました。

一時(ひととき)の安らぎ、“天使の休息”。以前いただいたややサッパリ目のお酒をベースに、レムリンと言う柑橘系果実の果汁とジャイアントフォレストビーの蜂蜜を加え、疑似神気マシマシウォーターで割らせて頂きました。

これまでの様な味覚の暴力ではなく、疲弊した心を癒してくれる一杯に仕上がっているものと“ちょっと待ちなさいケビン!!”・・・はい?何か問題でもございましたでしょうか?」

 

“問題だらけでしょうが!!なに、その疑似神気って、神気を人工的に作り出す地上人が他のどこにいるって言うのよ!!

大体ケビンはやることが無茶苦茶過ぎるのよ、神気って生み出せるようなものじゃないのよ!?”

「あぁ、それですか。あれは要するにカクテルと一緒ですね」

 

“コトン、コトン、コトン、コトン”

それは陶器製の四角い容器、ケビンがその容器の蓋を開け中身を慎重に空のグラスに注いでいく。

 

「これは魔力を濃縮して作った魔力液、純粋な魔力の液体です。それをグラスに<光16:風3:水1>の割合で注ぎます。神性存在が光と風の魔力を伴っているという事は、精霊女王や神聖樹の分体を召喚した際に現れる魔方陣から溢れる魔力を観察する事で分っていました。

ただその二つを混ぜ合わせても神聖な魔力になるだけで神気とは似て非なるものだった。そこで光と風の他に別の魔力を混ぜる必要があるのではと研究を重ねた結果、一番近かったのが光と風と水の組み合わせだった。

配合に関しては只管試行錯誤の繰り返しです。幸い俺の雇用魔物には神気を持つ者がいますから、こうして味見をして貰ってですね。

魔力の場合はスキル<魔力融合>を使用して混合魔力を作り出します。魔力液の場合はただかき混ぜても混ざり合いませんので触媒として基礎魔力と呼んでいる属性を持たない純粋な魔力を少量加えます」

 

“カチャカチャカチャ”

“スーーー”

「疑似神気濃縮液となります。ただこのままお飲みいただくのは幾らあなた様でも危険かもしれません。神気を持つ雇用魔物の話では存在に訴え掛けるガツンとした味わいであるとか“クイッ”・・・あっ」

 

何かが弾ける。身体の奥から無限の力が湧いて来る。

 

“ウォ~~~~、残業が何だ~!!今夜はとことん飲み明かすぞ~~~!!”

その後三十分ほど騒ぐだけ騒いだ私は、まるで糸が切れた操り人形の様にその場に突っ伏すのでした。

それからどれくらいの時が過ぎたのか。目を覚ました私があまりの醜態の記憶に、“殺せ~~、今すぐ殺せ~~!!”と叫んだことは致し方のない事なのでありました。

 




本日一話目です。
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