転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第52話 村人転生者、呪いについて学ぶ

呪い、それは古くから人々の間で行われていた神秘の儀式。

“人の世に恨み尽きまじ”、人の思いは必ずしも叶うなどと言う事は無く、その努力や才能、己の持つ力がどれほどのものであろうとも叶わぬ思いは必ず存在する。

ましてや力のない虐げられし者ならなおの事。そんな時、人は一体どう言った感情に支配されるのだろうか。

恨めしい、妬ましい、人の根源たる負の感情、その想いは時代が変わろうと世界が変わろうと決して失われる事の無い人の本質と言うものの一面なのであろう。

 

かつて魔力など存在しないとされる世界ですら広く民衆の間で行われていた呪いと言う行為。丑の刻参り、縁切り神社、黒魔術、その種類や方法は違えども己の欲を満たし人の不幸を願う思いは形となって現れ続けて来た。

ましてやここは不可思議な力が存在する剣と魔法の世界、呪術の類が存在しないなどあり得るはずもないだろう。

 

「お父さん、呪いって一体何?」

唐突に息子より投げ掛けられる問、ついに来たかと身構える父ヘンリー。

呪い、それは勇者病仮性患者にとって、魔法に次ぐご褒美の言葉。

“封印されし邪神の力”、“この身に舞い降りし堕天使”、彼らの口から紡がれる呪いの呪文の数々。だが我が息子ケビンはそんな生易しい答えを求めてなどいない筈、なぜなら彼は<仮性>中の<仮性>、<超仮性>なのだから。

 

「呪いか、前にも言ったがお父さんは元冒険者だ。だからお父さんが知っているのは状態異常などのスキルを使う魔物が使う呪いについてになるが構わないか?」 

父ヘンリーの出した結論、それは自らの体験や知識を基に現実に則した形での呪いについて語る、これに尽きるのであった。

 

 

「マルコお爺さん、ちょっといいですか?」

連日のように通い詰め新しい魔道具の作製方法について研究を続けるケビン少年。その発想は流石勇者病仮性と言った突拍子もないものばかりではあるが、秘めた情熱は職人のそれであり、決してただのおふざけなんかではない。

孫のような年齢のケビン少年に触発されたマルコは、久しく忘れていた魔道具に対する熱い心をすっかり取り戻していた。

 

「なんだいケビン、また何か面白い事でも思い付いたのかい?」

「いえ、勇者物語に出て来る呪われた魔道具について少し。呪いって何なんですかね?」

呪われた魔道具、その言葉を聞き渋い表情になるマルコ。

思い出されるのはかつての王都での暮らし、そしてかつての魔道具工房での日々。呪われた魔道具、それは自分から全てを奪い去った苦い思い出。

 

工房の若手の中で一番の腕前と呼ばれた自分にとある貴族からと言われ齎されたペンダントの修復依頼、だがそこに含まれていたものは使用者に害をなす呪いの付与、所謂呪いの魔道具の作製依頼であった。

当然その様なものを受ける訳にはいかない、マルコは工房主に訴え掛け依頼を跳ね除けようとした、だが現実は無常であった。その日から始まる工房内での嫌がらせ、そして見え隠れする依頼者の影、命の危険すら感じる明らかに不自然な事故の数々。マルコは妻とまだ幼い二人の子供を連れ夜逃げ同然に王都を離れる事しか出来なかった。

大きく成長し、捨て台詞を吐いて巣立って行った子供たち。一切の便りも届きはしないが、彼らは無事に過ごしているのだろうか。妻とあの子たちには苦労のさせ通しであったと、未だ悔やまない日はない。

呪われた魔道具とはマルコにとってそれほどに忌み嫌う代物であった。

 

だがケビン少年は何と言ったか。彼は”呪いとは何であるのか?”と問うて来たのだ。

彼は決して“呪いの魔道具を作りたい”とか“呪いの魔道具が欲しい”とか言っているのではなく、その根本、“呪いとは何であるのか”と聞いている。

これからも勇者病<仮性>である彼の好奇心が止まる事はないだろう。その道すがら呪われた魔道具に出会う事もあるだろう。無いとは思いたいが人の欲望とは深く暗いもの、世の中には人知れずこうした呪具があふれているのだから。

 

「これは儂の経験から来る知識じゃから正確ではないかもしれん。それでもかまわないかな?」

知らなくてもいい事がある、知らない方がいい事がある、だがそれでも知っておかなければいけない事もある。

ケビン少年はこれからどんどん色んな世界に飛び込んで行くだろう、その時これらの知識が少しでも彼の助けに成るのなら。マルコはこれまでの自身の経験も踏まえ、呪いの魔道具について、そしてそれを求める人々について、ゆっくりと重い口を開くのであった。

 

 

エルフ族は神に祈らない。彼らは神の祝福たる授けの儀を放棄し、独自の文化、独自の技術を発展させてきた。それらは彼らの種族特性と言うよりも彼らを取り巻く環境がそうさせたと言えるだろう。普人族と神との関係はそれ程迄に密接であり、神の代行者たる教会は、普人族の国や組織と密に繋がっているのだから。

 

人を恐れ人から隠れ住まざるを得ない彼らエルフにとって、神は果てしなく遠い存在になってしまったのであろう。

 

そんな彼らが手にした武器、それが魔術。魔術はスキルや魔法とは異なり神の承認を必要とはしない魔力の行使を、独自の理論体系の基作り上げた英知の塊。

魔術は常に進化し引き継がれていくエルフ族の宝。いつまでも若く長い寿命を持つ彼らエルフ族にとって魔術は生き残る術であり生命線、その習得にかける熱意は人族のそれとは比較にならないであろう。

そんな彼らであれば同じ魔法体系に含まれないこの技術についても何か知っているかもしれない。

少年ケビンは村に隠れ住む一人の老婆にこう尋ねるのであった。

「アナお婆さん、呪いって何?」

 

――――――――――――――――――――

 

いや~、なんか色々濃かったわ。流石は欲望と憎悪の産物、“呪い”。人を呪わば穴二つって言うけど、その物語に巻き込まれた者達は堪ったもんじゃないって言うね。人生ズタボロ、洒落にならないっての。

かつての世界では雨乞いの儀式みたいに人々の役に立つ様な呪術ってのもあったって言うけど、この世界じゃそう言ったお困り事は魔法が解決してくれるからな~。呪術に関しては欲望一直線と言いますか何と言いますか。

 

父ヘンリーの語る魔物が使う呪いの何と可愛らしい事か、あくまで戦闘手段の一つとして相手の足止めや敵の殲滅に使われるそれは、方法として間違ってるとは思えないしね。魔物の呪いはスキルや魔法でも似た様なものがありそうって言うのが全体の印象、中には石化の呪いや死の呪いなんてよく分からない厄介なものもあったけど、話しを聞いても凄く楽しかったです。

 

問題は人の呪いですわ。マルコ爺さんのお話し、ドロドロやん。何よ呪いの魔道具作製依頼って、王都の貴族たちってそんな事ばかりしてるの?しかも製作者側の命を狙うって、秘密を知る者は生かしてはおけない的なアレ?秘密の鉱山は炭鉱夫ごと生き埋めじゃ~的な奴?王都目茶苦茶怖いじゃん、貴族・駄目・絶対じゃん。

ファンタジー定番の太古の呪われた魔道具やダンジョン産の呪いのアイテムの話しなんてほんのちょっとよ?ほぼほぼ人の欲望渦巻く呪いの話し、ためにはなったけどげんなりですわ、マジで。

 

そしてメインはあれですよ、迫害されし種族、エルフ族の話しですよ。やっぱりありましたよ、呪術。そりゃね、ケイト君が呪われちゃうくらい一般的?なものだし、教会の治療時に“この症状は呪われてます、治療にはまず解術が必要です。因みにお布施の方なんですが~”って酷く俗な話が出ちゃうくらいですからね、あるとは思ってましたよ。

 

エルフ族なんて呪いで雁字搦めにされるなんて日常ですからね、その対策の為にも知識の習得は必須だった訳です、生き残る為に。

自らの存在証明の為に最も忌み嫌う呪術に手を染めなければならないエルフ族、病原菌に対処する為に新たな病原菌を作り出す感染症研究所の職員の様に日々矛盾との戦いなんだろうな~。

でも敵を知らずばじゃないけど、解術の為には呪い自体を知らないといけないですもんね。凄い勉強になりました。

 

で、これらの話を総合して俺の持った印象としては、“やっぱり呪いって魔力じゃね?”って事なんですけどね。

 

「あ、ガルさんお茶ありがとうございます。色々頭使ってたら疲れちゃって、主に精神的に。そんな時はお茶を飲んで落ち着くのが一番ですよね。

あ~、偽癒し草の煮出し茶が旨い。

折角なんでアナさんに俺の考察を聞いて貰いたいんですけどいいですかね?」

俺は煮出し茶を“ズズズッ”と飲み干してから話しを始めるのだった。

 

 

「先ず事の起こりですけど、皆さんケイト君って子どもを知ってます?皆さんが来る少し前、ヨーク村から移り住んできた親子ですね。その親子もやはり皆さんと同じ“よそ者”でヨーク村では迫害同然の扱いを受け生きているのが不思議な程でした。

でも彼らは他に行く当ても無かった、皆さん同様相当な訳アリの様でしてね。まぁその辺は詳しく聞く気もないんで知らないんですけど、その訳の一つがケイト君に掛けられた呪いなんですよ。

 

彼、以前何らかの理由で酷く喉を痛めて声が出せなくなったんだそうです。ケイト君の父ザルバさんは当然教会の治癒術師の下を訪れ彼の治療を頼みました。その時の答えが“この症状は呪われている、解術を行わなければ傷を癒す事は出来ない”だったそうです。

アナお婆さんなら呪いについて詳しいので知ってると思いますが、呪いにはその呪いを掛けた者の“鍵”が掛けられているらしいですね。魔物が行う呪いと人の行う呪いの最大の違いがそこです。その鍵が弱いものであれば、力業でも簡単に外す事は出来る。だがそれが強固なものなら、それなりの術師による解術が必要、その為のお布施の額はかなりの有力貴族の家を傾けてしまうほど。それ程に解術とは厄介で命懸けな行為、結果ケイト君は生涯口が利けない生活を送る、その筈だったんです。だったんですけどね~、話せる様になっちゃったんですよね~、彼。

 

まぁ、まだ短い単語だけなんですけどね、これが問題でして。

“虎穴に入らずんば虎子を得ず”って言葉を知ってますか?俗に言う“ワイバーンの卵”って奴ですよ。危険を冒さなければ宝は手に入らないみたいな言葉なんですが、僕は今までこの言葉を聞いて“なんでわざわざ危ないマネして虎の子を誘拐するかな、スライムでいいじゃん。虎のお母さん激オコだよ?”とか思っていたんですけどね。その子虎が不意に手元にいたって気が付いた時、僕はどうしたらいいんですかね。

 

言い訳の為に虎の穴に入らなければいけないこの矛盾、何で解術なんて出来ちゃったかな~、その事自体は喜ばしくともどうにかそれなりの説明と方法論の確立をですね。それも出来れば村人でも可能で、尚且つ一般ではまず出来ないって言う無茶苦茶矛盾だらけの方法を考えないといけないって言うね。

意味解らないでしょ?僕も分からない。でもケイト君今年授けの儀があるんですよ、それまでに言い訳を考えとかないとどこから情報が洩れるのか分からないんですよ」

 

そう言い頭を抱える俺、対して顔を引き攣らせ口をパクパクさせるアナお婆さん。

 

「なぁケビン君や、その言い回しだとまるで呪い解術の為の手段を持っている様に聞こえるが、私の聞き間違えかの?」

“ズズズズズズッ”

そう質問し乾いた喉を潤すアナお婆さんに一言、「有るよ」。

 

“ブフォッ”

「って汚いぞ婆さん、お茶を吹き出すんじゃない、鍋もの作ってる最中だったらどうするつもりだ!」

抗議する俺に対し恨みがましい目線を向けるアナスタシアさん。吹き出しついでに変装が解けちゃったのね、修行が足りないぞ?

 

「誰のせいですか、誰の。と言うか先程の話しからすると偶然にも呪いが解けたって事ですか?そしてその心当たりもある。それって大問題じゃないですか、何で私たちにそんな話をしたんですか!」

知ってしまった秘密、呪いの厄介さを身に染みて分かっているだけに事の重大さを理解出来てしまったアナスタシア。知りたくなかったと嘆いてみてももう遅いのだよ、ワハハハハ。

 

ハイエルフと言う素性をカミングアウトされ特大の心労を背負わされたケビン少年は、ここぞとばかりの仕返しにニヤリと悪い笑みを浮かべるのでした。




本日二話目です。
明日は土曜日、もうひと踏ん張りだ!
いってらっしゃい。
by@aozora
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