転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第522話 辺境の剣客、授けの儀を受ける (2)

荘厳な造りの領都大聖堂。以前ミルガルの大聖堂に行った事があるが、そこよりも大きく立派な建物に終始圧倒される。

 

「それではジミー・ドラゴンロード様、フィリー・ソードお嬢様、こちらの女神様像の前に膝をお突きになり、本日まで無事に育つ事の出来た事の感謝と職業とスキルをお授け下さるご慈悲に祈りを捧げてください」

メルビン司祭様に促され女神様像の前に跪く。隣では共に授けの儀を受けるフィリーが神妙な面持ちで祈りを捧げる。

 

「“我らを見守る偉大なる女神様、本日あなた様の子が新たなる一歩を踏み出します。願わくば彼の人生に幸多からん事を”」

上げられる祝詞、以前ケビンお兄ちゃんに聞いた話では女神様から与えられる<職業>はこの授けの儀を行わないと授かることが出来ないらしい。

十二歳になったからと言って教会に行き祈りを捧げても<職業>を授かれる訳ではないとの事、職業を授かれない場合所謂職業補正や職業スキルと呼ばれるものに目覚める事は出来ないとの事だった。

 

ただしスキルに関しては生まれながらに備わっている場合もあり、その限りではないとの事で、後天的に身に付ける事の出来るスキルも十七歳を過ぎれば授けの儀を受けていなくても発現する事があるらしい。

魔法に関しては言わずもがな、魔法適性は基本的に生まれながらに決まっていて、授けの儀を受ける前でも初級魔法を使えることはジェイクやエミリーが実証済みだ。

 

本当にケビンお兄ちゃんはこんな知識をどこから集めて来るのか、謎が多過ぎてマルセル村では“ケビンはそういうモノ”として認識される様になってしまった。

“ケビンお兄ちゃんだから仕方がない”は既に死語となり、最近では“ケビンがケビンした”と言うのがもっぱらの言い回しになったとヘンリーお父さんが言っていた。

 

メルビン司祭様の祝詞の後、暖かな何かが身体を包み込んだ。これは癒し系の魔法か何かなんだろう、ジェイクやメアリーが言っていた“お貴族様向けの気遣い”というものの様だ。

個別の授けの儀は年四回の無料で行われるものと違いそれなりのお布施を包むんだとか、ケビンお兄ちゃん曰く「教会としてもその辺は差別化してありがたみを演出しているんじゃね?」との事だった。

 

厳かな雰囲気に包まれた大聖堂、俺は静かにメルビン司祭様の言葉を待つ。

 

“目を開けなさい、女神様の子らよ”

 

それは耳ではなく心に直接聞こえる声音。以前霊亀と対峙した時に体験した<念話>と呼ばれるもの。

俺は一体どうした事かとゆっくり(まぶた)を開く。

 

薄っすら光り輝く景色、太い石柱のような柱が何本も立つそこは、何かの儀式を行う場所のような、神聖な神殿のような。

明らかに大聖堂とは異なる様子に驚くも、それよりも自身を囲む人々から目が離せない。

 

“バサッ”

大きく広げられた純白の翼、煌めく美しい金糸、芸術的な整った面立ち、青く澄んだ瞳がこちらを優しく見つめる。

 

“あなたはジミー・ドラゴンロードで間違いありませんか?”

目の前の御方様方は神聖な気配を漂わせながら、自身の名を問い質してくるのでした。

 

—―――――――――

 

「まぁ状況は分からないわよね、ちゃんと説明するから椅子とテーブルを用意してくれる?それと飲み物は光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーター(ジャイアントフォレストビーバージョン)でお願い、二人前ね~」

 

ジミーの授けの儀、今回は特に問題もなくさっさと終わらせて帰るつもりだったものがメルビン司祭様の祝詞の後淡く光るジミーは姿を消すわ、周辺の動きが時が止まったかの様にピタリと止まるわって、まんまエミリーちゃんの授けの儀の時のようにですね。

急ぎ原因究明のためにあなた様に緊急連絡を差し上げようとすれば、「その必要はないわ」とばかりにご本人登場って意味解んない。

その上マイペースに飲み物を要求って、後ろにおられる御方様が目を丸くして固まってらっしゃるんですけど?

まぁ用意いたしますけども。

俺は収納の腕輪から飴色の木製テーブルと同じ材質の椅子を取り出し、ティーセットを並べてお茶の準備をするのでした。

 

「ハァ~、やっぱりマスターの一杯は美味しいわ~。仕事中だからお酒が飲めないのが残念だけど、本当に残念だけど、今は山を乗り越えないといけないのよね。

重ねて言うけど、この度は天上人が大変なご迷惑をお掛けした事、天使を代表してお詫びいたします。本当に申し訳ありませんでした。

また地上世界を大混乱に陥れるはずであった事態を未然に抑えてくれた事、心より感謝いたします。誠にありがとうございました」

 

そう言い深々と頭を下げるあなた様と御方様。

これってあれだよね、部下の不始末の謝罪に訪れた上司の仕草だよね。自分は何も悪くないんだろうけど、会社組織としては頭を下げざるを得ない。妙な若さを持ってる者だったら「何で課長が謝るんですか、課長は何も悪くないじゃないですか」とか、「頭をお上げください、あなたが悪い訳ではないのですから」とかって話になるんだろうけど、これは天界と言う組織としてのケジメ、粛々と受け取るのが双方にとって最もいい形でしょう。

 

「あなた様からのお言葉、地上人ケビン・ワイルドウッド、確かに受け取らせて頂きました。後ろに御方様をお連れになったのもそうした謝罪をする事で本人にケジメと切り替えを促す事が目的とお見受けします。

御方様は未だ静養が必要なお身体とか、今回の事態を考えれば心と身体と魂が馴染むのに多くの時間が掛かるのは致し方のない事でしょう。

あの場でも言いましたが、全ての者は他人。真の意味で心が一つになる事などあり得ないし、だからこそ文化や文明が発展する。

御方様が覚えているかは分かりませんが、暗黒大陸には他者に寄生する粘菌生物のようなモノもいました。あの生き物は個にして全、全にして個を体現するような存在だった。

他者もなく自己もない、真の平和、究極の理想像とはそうしたものになってしまう恐れがある。

 

悩む事、恐れる事、他者を蔑み悦に浸る事。争い、奪い、騙し、それでも他者を愛し共に在ろうとする。

人とは、世の中とはかくも矛盾に満ち混沌としている。だからこそ面白いし美しい。

 

死なば仏、“善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや”。

これは俺の前世、こことは違う世界のとある島国に伝わる思想です。

この世の全ては女神様によって創造された。その存在に上もなく下もない、何故なら全ては女神様の子なのだから。

ただし、全ては違うものであり同じものなどあり得ない。男があり、女があり。人があり、魔物があり。地上人があり天上人がある。

大地は空を見詰め雲は天より雨粒となって降り注ぐ。大地を潤した雨はやがて集まり川となって海へと至る。

母なる海は多くの命を育み、やがて再び天へと昇って雲になる。

全ての事象は流転する。

 

死して天へ召された魂は女神様の慈悲の下、魂の故郷へと帰りいつの日にか新たなる命として産声を上げる。それぞれの刻む時の流れは違えどもそれは地上人であろうと天上人であろうと変わる事の無い真理。

我々は全てが女神様の子なのだから。

 

御方様は再び天上へと帰られた、これまで不可逆とされていた事象ゆえ今は好奇の目に晒され多くの戸惑いを抱えておられると思います。

ですがこれも全ては女神様の御慈悲。

新たなる生を受けたと思い、日々を健やかに過ごされますことを望みます」

 

俺は長々と話をした事を詫びるとポットに聖茶の茶葉を入れ、光属性魔力マシマシウォーター(熱湯)を注ぎ入れお茶の準備を・・・。

 

「だ~か~ら~、何でケビンはそんなに達観した思想を語るかな~。どこの聖人様だ、どこの。

大体ケビンはギャップが激し過ぎるのよ、無茶苦茶をやってると思えばどこぞの司祭顔負けの話を語り出す。#@&&、気をしっかり持ちなさいね?この馬鹿こんな事言ってるけど基本何も考えてないから、面白そうって理由だけで奇跡を引き起こす天然の厄災だから。称号“天然の魔王”は伊達じゃないから」

 

酷い、あなた様からの謂われ様においらのガラスのハートはブレイクよ?俺っち傷付きやすい十代、失敬、もう成人してました、立派な大人でした、この秋結婚を予定してるんでした。

俺が“いや~お恥ずかしい”と心の中で思いながら頭を掻いていると何故か真顔になるあなた様。

 

「はっ?ケビン、今あなた何を考えていたのかしら?口に出して言ってごらんなさい」

「は、いえ、既に成人しているのにお恥ずかしい事を思っていたなと反省を」

 

「その後よ、秋に何があるって?」

「あぁ、その事ですか。いえ、俺も成人したんでこの秋の収穫祭の時にでも結婚のお披露目を。えっと、掲示板の方で騒ぎになってませんでした?なんかアナさん派やらケイト派やらパトリシアお嬢様派なんかが色々盛り上がってるって前にあなた様に聞いた事があったんですけど?」

 

「はぁ!?私聞いてないんだけど?って言うか恋愛関係はムカつくからチェックしてないんだけど!?

ウガ~~~!!人がヒーヒー仕事しているってのに一人だけ幸せ掴みやがって、ケビンのくせに生意気な~!!」

「え~、あなた様もいい人捕まえて幸せ掴めばいいじゃないですか~。矮小な地上人の事なんか気にしないでくださいよ~、俺なんかただの観察対象ですっての~」

 

「その余裕の態度がムカつく~!!**#@様に進言して祝いに駆け付けるぞこら!!」

「やめて、マジ止めて、生意気言ってすみませんでした~!!」

テーブルに額を付けて平謝りする俺氏。収穫祭での結婚披露の席に天使降臨、本気で勘弁してください。

 

「まぁいいわ、話が進まないから今回の用件を伝えるわね。

一つはケビンも言っていたけど#@&&の事ね。どうしてもあの事件の事を引き摺ってるのよね、これは致し方がない事とは思うけど、ケジメと言うか切り替えは必要じゃない?一番の当事者だと魔王アブソリュートって事になるんだけど、影響を与えたって意味だとケビンになるのよね。

#@&&にとってもこの顔合わせは転機になると思って連れて来たの。

これは**#@様のお考えよ、ケビンには悪いけど協力して頂戴。

 

もう一つはジミー君の事ね。これは例の掲示板で上がった議題だったんだけど、今回の魔王関連の事でジミー君には魔王由来の称号が付いたんじゃないのかって話が上がっていたのよ。これは今天界で検証していると思うけど、まず間違いなく“元魔王四天王”みたいな称号は付いている筈よ?

他には“霊獣討伐者”とか“鬼神討伐者”とか?

ケビンの弟なだけあって称号もあり得ない様なものになってると予想されているの。

 

ただまぁこれ自体がジミー君に何かの影響を与えるという事はないんだけど、その称号を見た地上人たちはどう思うかしら?ケビンが自身の称号を隠そうとしたように、地上人にとって称号は大きな意味を持つわ。

魔王は人類の敵、これは長い歴史の中で人類全体の共通認識となっている。であればいくら元が付くとは言え、魔王軍四天王の肩書を持つ人物が人族の中でどういう扱いを受けるか、実の弟が迫害された時、兄である理不尽がどういう行動に出るか。

あなたって自身の事なら面倒がって逃走一択なくせに、身内の問題となると命懸けで事に当たろうとするでしょう?

元魔王四天王の弟の為に“混沌の魔王”が世界を恐怖に染め上げるなんて事態になったら、天界の者たちが総力を挙げて対処に当たらないとどうにもならないじゃない?

ケビンには天界としても感謝しているの、今回の特別措置はそのお礼ね。

 

ちょっとごめんなさい、“はい、$$%&です。はい、分かりました、こちらでも確認してみます”

噂をすればなんとやら、**#@様からジミー君のステータスが送られて来たわ」

 

そう言い中空にジミーのステータスを映し出すあなた様。俺は神妙な面持ちでその映像に目を向けます。

 

名前 ジミー・ドラゴンロード

年齢 十二歳

種族 普人族

職業 剣天

スキル

魔力支配 身体支配 剣理 明鏡止水 鎧袖一触 生活魔法 法術 自己回復 魔物の友 鬼人化

魔法適性

なし

 

称号

スライムの王の弟子 理不尽の弟子 剣術の修羅 草原の救世主 龍人族を凌駕せし者 霊獣を討伐せし者 鬼神を討ち倒せし者 魔国総合武術大会優勝者 元魔王軍四天王

 

加護

剣神の加護(申請中) 拳神の加護(申請中) 闘神の加護(申請中) 武神の加護(申請中) 愛神の加護(申請中) 鬼神の加護(申請中) 鬼神の祝福

 

「「「・・・・・」」」

 

「えっと、ジミーってジェイク君やエミリーちゃんみたいに特別に選ばれた存在じゃないですよね?あくまで剣術が好きな田舎の少年でしたよね?」

「そ、そうね。まぁ普通の田舎の少年は武者修行とか言って単身暗黒大陸に渡ったりしないし、特殊と言えば特殊なんじゃないのかしら?」

 

「それと加護が未だに申請中ってなってるんですが?」

「ちょっと確認してみるわね。“**#@様、少々よろしいでしょうか。はい、はい、分かりました”

なんか未だに上で揉めてるみたい。ジミー君が直接手合わせをして決めるとかなんとか。愛神様は丁寧にお断りの言葉を向けられてメロメロにされてるらしいわよ?

あ、加護に<愛神の寵愛>が加わった。これって大丈夫なのかしら?」

 

「「「・・・ハァ~」」」

大特異点の弟はやはり特殊な人族であった。$$%&と#@&&はこの後の展開に不安を抱きつつ、中空に浮かぶステータス画面に目を向け大きなため息を吐くのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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