転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第524話 辺境の剣客、授けの儀を受ける (4)

それはこれまで経験した事の無い不思議な出来事であった。

十二歳になり授けの儀を受ける為に訪れたグロリア辺境伯領領都グルセリア、教会の大聖堂はこれまで見たどの建物よりも荘厳で格式の高いものの様に思われた。

大聖堂内に入ればすでに準備が出来ていたのかいかにも聖職者といった服装の神官様方が大きな女神様像の前に揃っており、その中で最も高位であろうメルビン司祭様に促され、床に膝を突き女神様に祈りを捧げる事となった。

司祭様の上げる祝詞、身体を包み込む暖かな何か。以前ミルガルの街の教会でエミリーにかけて貰った<祈り>に似たそれは、身体の緊張をやわらげ、気持ちを軽くさせてくれた。

俺は自身が知らず知らずに緊張していた事に苦笑するも、授けの儀を終え手の付けられなくなったケビンお兄ちゃんを思い出し、自身にも剣の道を進むために役に立つスキルがいただければと淡い期待を膨らませるのであった。

 

それからどれくらいの時が過ぎたのだろう、気が付けば周囲から音が消え、隣にいたはずのフィリーの気配も感じられない。

 

“目を開けなさい、女神様の子らよ”

耳ではなく心に直接語り掛けられるような呼び掛けに目を開ければ、見た事の無いような不思議な場所で跪き祈りを捧げている俺。

 

そこから先は驚きと言う言葉では物足りない様な奇跡の連続、暗黒大陸で起きた諸々の騒動の処理の為に天使様方が直接俺のステータスを確認し対処してくれた事、神の加護を複数の神々が申請しているとの説明で俺がそれらのうちのどれかを選ぶ事になったと言う事、戦いを司る神々と一柱ずつ模擬戦を行えた事。

剣で、拳で、全身を使って。神々との闘いの日々は喜び以外の何ものでもなかった。どれくらいの月日が過ぎたのか、腹も減らず、のども乾かず、怪我や疲れも瞬時に回復してしまう不思議な場所での戦いは、その場に乗り込んで来た一柱の神による一喝で幕を閉じる事になった。

何でも加護・祝福・寵愛といった“神々による見守り”は、基本的に一人につき一つまでとされているものらしく、俺の場合鬼神様と愛神様の二柱が加護の申請の他にそれぞれ祝福と寵愛を与えてくれていたらしい。

この事に気が付いた神々の調整や監視を行っている管理神と呼ばれる御方が激怒、俺との模擬戦に興じていた神々全員に連帯責任を申し渡し反省部屋送りにしてしまったのであった。

 

“ジミーよ、ウチの馬鹿どもが本当にすまない事をした。いくら天界では時の流れを操れるとは言え、この様な場所に長期間。人の身では精神に支障をきたしかねないと言うのに、この事はよくよく反省させる故許して欲しい”

 

管理神様は神々の不始末は自身の管理不行き届きであるとして深々と頭を下げてくれた。

俺はむしろ望むところであったので「謝罪は受け取ります、ですので頭をお上げください」と言葉を返し、その場を収めるのだった。

 

“してジミーの加護であるが、馬鹿どもは反省部屋送りにしてしまったので私の加護を授けるものとする。そうは言っても私の加護は<整理整頓>が上手く出来る様になるというだけなのだがな。

だがこれは大人になり仕事をするようになればそれなりに役に立つものでな、部屋の片付けから仕事の段取り、勉学の学習においても下支えになってくれるであろう。

ジミーのこれからの活躍、影ながら見守らせてもらおう”

 

管理神様から頂いた加護、それは戦闘に直接関係するものではないとの事ではあった。だが話を聞けば十分生活の役に立ちそうな素晴らしい加護であった。

直接的に武力に関係するものだけが強さに繋がるとは限らない。これはボビー師匠が常に口にする言葉であり、俺はその事を身を以って知っている。

マルセル村の理不尽はただ真っ直ぐ剣の道を目指す者ではないにも拘わらず、未だ最強の座に君臨し続けているではないか。

“石は誰が思おうとしなくても石である”

ただあるがまま、自然であるからこその最強。全てを受け入れ、その上で自らの道を模索する。

俺は管理神様に心からの感謝の言葉を述べ、深く頭を下げるのだった。

 

“ではジミーよ、これからあなたを地上世界へと戻します。あなたが天界に訪れてからの日々は地上世界では瞬きの瞬間よりも短い時間しか経っていません。

ここでの体験は心の内に秘め、これからの人生を実り豊かなものにしてください。女神様の子らに祝福を”

 

天使様から掛けられた言葉に俺の身体が光り出す。眩いばかりの光に包まれた俺は、気が付けば大聖堂の女神様像の前に立っていた。

周囲の者はそんな俺に誰も気が付かない様で、声一つ上がらない。これは俺が天使様の仰っていた“瞬きよりも短い時間”にいると言う事なのだろうか?

俺は急ぎ女神様像の前に膝を突き、祈りの姿勢を取り目を瞑る。

 

“ガサガサ”

衣擦れの音が鼓膜を揺らす。

 

「それでは皆様、ゆっくり目をお開けください。

これにて授けの儀、滞りなく執り行われました。皆様方におかれましては常に女神様を身近に感じ、日々を健やかに過ごされますようお祈り申し上げます。

本日はおめでとうございます」

 

メルビン司祭様の言葉にゆっくりと目を開き、膝を上げ立ち上がる。

 

「ジミー様、フィリー様、引き続き“鑑定の儀式”を執り行います。鑑定は別室で執り行いますのでご移動をお願いいたします。

なお、鑑定結果につきましてはご本人様のみにお知らせさせていただいておりますので、ドラゴンロード男爵様、ソード男爵様、ワイルドウッド男爵様方はこちらの大聖堂でお待ちいただくか、お部屋前の廊下にてお待ちいただければと・・・・・・」

 

シスター様の声が掛けられ、俺は移動の為にその場を“スパーーーーンッ”

 

“$#%&%&$#*@!?”

大聖堂に鳴り響く軽快な打撃音、頭部から突き抜ける痛みに悶え苦しむ俺。硬い物で殴られたわけじゃない、衝撃もほとんどなく本の表紙で軽く小突かれた程度の感覚。にも拘らず目茶苦茶痛いって、一体何がどうなってるんだ!?

 

「おはようジミー、目が覚めたか?って言うか状況が分かってるのか?

何か知らないが、今のお前色々駄々洩れだぞ?

周りを見てみろ、周りを」

 

俺は傷む頭を押さえ、犯人であろうケビンお兄ちゃんを睨みつける。だが当の理不尽は肩に大きな紙束のようなものを乗せ、呆れた様な表情で俺を見ながら顎をクイッと横に向ける。

 

「はぁ!?」

渋々向けた視線の先には俺の事を目を丸くした表情で見詰め、口を開けたまま固まるメルビン司祭様をはじめとした教会の方々。隣にいるフィリーを見れば、顔を真っ赤にして固まっている。

 

「まずその無意識に溢れさせてる魔力を引っ込めろ、そんで気配を落とせ。何か知らんが今のジミーは雰囲気が凄いから、野性味あふれる美男子と言うか物語に出てくる王子様と言うか、“視線でサキュバスを孕ませる男”って聞かされても納得って状態だから」

「なっ、ケビンお兄ちゃん、いくらなんでもその言い方は酷くない?俺でも傷付くんだけど?」

 

「えっ、お前知らなかったの?これって武術大会の時のお前の二つ名よ?宿屋の女将さんに教えて貰ったから本当の事よ?

マルセル村に帰ったら白雲かシルビアさんに聞いてみな、みんな知ってるから」

ケビンお兄ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。俺ってそんな風に思われてたの?あまりの衝撃に目の前が暗くなって来たんだけど。

 

「お~い、ジミーや~い。落ち込むのは後にしてまずは今の状態をどうにかしろ~。大森林で走り込みをした時くらいの心持になれば何とかなると思うぞ~」

俺はがっくりと肩を落としつつも、ケビンお兄ちゃんの言葉に従い自身の気配を消していくのでした。

 

「そうそう、ジミーは取り敢えずこれを手首に巻いておいてね」

そう言いケビンお兄ちゃんが渡して来たのは、一本の黒い組み紐。

 

「これはケイトにも渡している“目立たなくなる組み紐”だな。ジミーもある程度自覚していると思うが、お前は目立つ。特に女性からしつこいくらいにすり寄られることは確実だ。

これは色男の宿命というか、男どもから嫉妬され女どもからは欲望全開の愛を押し付けられる事になるだろうな。中には違う者もいるだろうけど、そんなの見分けがつかないからな、自己申告ほど信用ならないものもないしな。

かと言ってケイトみたいに自己呪いで姿を変えるって訳にはいかないだろう?だから多少なりとも目立たなくする工夫は必要って事だ」

 

「強さが全ての暗黒大陸と違ってエイジアン大陸は面倒臭いぞ~」と言い肩を竦めるケビンお兄ちゃん。俺は先程体験した奇跡の出来事にどこか浮かれていた自身を反省し、言われるがまま組み紐を「あっ、私が手伝いますね」

横合いからスッと伸びる手、見ればフィリーが組み紐を掴み取り、俺の手首にいそいそと巻き付けてくれるのであった。

 

“パンッ”

ケビンお兄ちゃんが掌を打ち付ける。その音に驚いたかのように、固まっていた人たちが正気に返って動き出す。

 

「で、ではこちらへ」

顔を赤くしながらも先に案内してくれるシスター様に続き、俺とフィリーは鑑定の行われる別室へと向かうのであった。

 

—―――――――

 

シスター様に連れられてジミーとフィリーちゃんが扉の向こうに消えていく。途端大聖堂内は安堵のため息と共にざわめきに包まれる。

いや~、参った参った。

ジミーってば行き成りやらかしてくれるんだもん。メルビン司祭様は驚きで固まったグラスウルフみたいな顔になっちゃってるし、ディアさんなんかは顔を真っ赤にしてポーッとしちゃってるし。

 

あなた様経由で本部長様から連絡が入り、ジミーが戻って来るとの知らせに急ぎ天界に戻られたあなた様と御方様。去り際にあなた様が「今度連絡するから寝る時に思念遮断するの止めなさいよね!!」とかなんとか言い残して行かれましたが、夜中に連絡されるのはちょっと。

だって眠いし、マジで勘弁してください。「一応月一でお供えはしてるんですから、用があればその時にでもお願いします」とは言っておいたんだけど、アレって言う事を聞かないと怒りそうだよな~。

あなた様って変な所で優秀だから質が悪いんだよな~。

 

そんで収納の腕輪から黒鴉を取り出して証拠隠滅、あなた様と御方様が振り撒いて行かれた神気を根こそぎ吸い取っていただいて、俺はもといた長椅子に座り待機。

“シュピン”とまるで瞬間移動のように現れたジミーは周囲を見回してから祈りの体勢に入ってスタンバイOK。

まるでそのタイミングを待っていたかのように時間停止が解除され、メルビン司祭様の御言葉が述べられました。

まぁ実際その辺は上の方で調整しているんでしょうけどね、こういった事は慣れているでしょうし。

 

で、問題はこの後。祈りから目覚めたジミー君、よっぽど上で神様相手に暴れて来たのが楽しかったのか、気配駄々洩れ魔力駄々洩れ、イケメンオーラ出まくりでキラッキラしちゃってるって言うね。案内係のシスター様、定型文を口にしてたのに最後の方で言葉を失っちゃってましたから。

百戦錬磨のナンパ師メルビンがお口あんぐりで固まるってよっぽどよ?

この御方、王都の魑魅魍魎渦巻く教会内で飄々と遊び歩いていた猛者だからね?他の方々なんか完全に意識を持っていかれちゃってたからね?

 

仕方が無いんで収納の腕輪から以前おふざけで作ったハリセンを取り出し、<覇魔融合>させた力を少量纏わせてジミーの頭にぶち込んだって訳です。

なんか目茶苦茶痛がってましたけど、怪我はないはずですよ?ハリセンですし。

 

そんでジミーに状況を確認させて“目立たなくなるシリーズ”のミサンガを手首に巻かせたって訳です。

なんかフィリーちゃんが満面の笑みでお手伝いしてたんだけど、フィリーちゃん、至近距離にいたにも拘らずジミーオーラから自力で復帰したのね。流石ジミーガチ勢、気合の入り方が半端ないです。

そんでディアさんが目茶苦茶悔しそうって、よく分からないけど水面下での女の戦いが勃発してたとか?

 

「おいケビン、いまのは一体何だったんだ?

ジミーの奴がとんでもない事になってたんだが・・・」

声を掛けて来たのは父ヘンリー。お隣のボビー師匠も真面目な顔でこちらに鋭い視線を送っておられます。

 

「さぁ、俺もよく分からないんだけど、おそらく授かった職業かスキルが何か関係してるんじゃない?

俺ってスキルに関してはあまり詳しくないから何とも言えないんだけど、暴走してたって言うより単に溢れかえっていたって感じだし、本人が自覚すれば制御出来る程度の事だから問題ないんじゃない?

 

それよりもなんかジミーの男前ぶりが凄い事になってたんだけど。この場にいたシスター様方が全員恋に落ちちゃってたんだけど?

取り敢えずケイトに渡してあった“目立たなくなる組み紐”で対処しておいたけど、これってどうしたらいいと思う?」

 

俺からの返しに額に手を当て首を振る父ヘンリー。

色男、いい事ばかりじゃ無かりけり。学園でジミーを待ち受けているだろうトラブル(女性問題)を思い、頭を抱える師匠たちなのでありました。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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