未だざわめきの収まらない大聖堂。「今のは一体何だったのだ」だの、「あの御方は一体・・・そう、女神様の使いになられたに違いないわ!是非教会にお勤めを」などといった声がですね。
「おい、ボビー!今のは一体何だったんだ!?
前に来たジェイク君にしろエミリーちゃんにしろ、お前マルセル村の子供たちに何をしたんだ!!
正直に答えろ、いまなら女神様もお許し下さるかもしれないぞ」
ドカドカとやって来てボビー師匠の胸ぐらを掴みガクガク揺するメルビン司祭様。そんな司祭様に、「喧しいわ、この不良司祭。そんなの儂が聞きたいくらいじゃわい。何かあるのならそっちの理不尽に聞かんか!」と言って矛先を逸らすボビー師匠。
・・・はっ?俺っすか?
俺が何か知っている訳ないじゃないですか、嫌だな~。
「ふ~ん、ケビンがね~。よし、ケビン、懺悔室に行こう。本日は特別に司祭である俺自らが話を聞いてやろうじゃないか」
そう言いじりじりとにじり寄って来るメルビン司祭様。嫌だな~、司祭様の目が猛禽類のそれなんですけど?獲物を見つけたバトルホークのようなんですけど?
“ドタドタドタ、バタンッ”
廊下を走り勢い良く大聖堂に飛び込んで来た男性が、司祭様の方に駆け寄って来ます。
「司祭様、少々お話を宜しいでしょうか」
「ん?お前さんは書士の・・・、よし、分かった。廊下で話そうか」
メルビン司祭様はそう言うや、その書士の男性と共に扉の向こうに消えていくのでした。
「うむ、メルビンの奴、何かあったのかの?」
「おそらくですが、鑑定の結果で何かあったのかもしれません。本日の鑑定は貴族が行う個別鑑定とは言え男爵家の者の鑑定です。高位貴族の子弟がいる訳でもないですから、一般的な鑑定士による所謂簡易鑑定が行われたのでしょう。
ですが先程のジミーの様にあの二人は豊富な魔力を有している。魔力量の多いものは上級職と呼ばれるものを授かり易いと言う事は、教会では広く知られていますから、二人のどちらか、あるいは二人共が上級職を授かったのやもしれません。
そうなると教会としては詳細人物鑑定を掛ける必要が出て来ますので、それで慌ててるんじゃないんでしょうか」
俺の言葉に、「「あぁ、そう言う」」と納得顔になる父親二名。
“バタバタバタ”
「いや、すまんすまん。ちとこちらの準備不足の事態が起きてな。これは教会の規則なので詳しくは言えんが、ボビーの娘のフィリーちゃんが所謂上級職を授かってな。それとヘンリー殿のご子息のジミー君、今はすっかり鳴りを潜めているがあの魔力量、あれだけのものを自在に操るって、ボビー、お前本気で何を教えたんだ?ありゃ宮廷魔導士どころの話じゃないぞ?
いずれにしても二人には詳細人物鑑定が必要になったんで、今それが出来る者を呼びに行ってる所だ。
まぁここで待っててもなんだし俺の執務室に行くか?ジミー君とフィリーちゃんには鑑定が終わり次第執務室に来て貰うように手配するが」
ですよね~。だってフィリーちゃん、大賢者シルビア・マリーゴールド様と賢者イザベル様の薫陶を受けたエリートですもんね~。
俺は詳しく聞いてなかったけど、多分複数の魔法属性が確認されてたんじゃないかな?少なくとも複数属性魔導士、うまくすれば賢者?
そのいずれかを授かったって事なんだろうな~。
「そうじゃの、女神様には失礼になるが、正直大聖堂で待っていても仕方がないしの。
ディア、ヘンリー、ケビン、お言葉に甘えようとするかの?」
「あぁ、そうするか。メルビン司祭様、そう言う事ですのでお言葉に甘えさせていただきたいと思います」
ボビー師匠と父ヘンリーの言葉に大きく頷かれたメルビン司祭様は、近くにおられるシスター様にお茶とお茶菓子の準備を頼むと、「こっちだ」と言って俺たちを執務室へ案内してくれるのでした。
“カチッ、カチッ、カチッ”
そこは落ち着いた雰囲気の品のいい執務室、幾つかの家具と来客用のテーブル、奥にメルビン司祭様用の執務机が用意されている。
そんな中一際目を惹くのが大人の背丈ほどもある柱時計、大きくてのっぽで古くって。この時計が止まった時、司祭様は・・・。
まぁおふざけはいいとして時計ですよ時計、超高級品って以前行商に来たモルガン商会のギースさんに聞いた事があった奴ですよ。
スゲー、やっぱり領都の教会って持ってるんだな~。坊主丸儲けって本当の事だったんですね。
「ん?ケビンはそいつが気になるのか?
それは時計って言ってな、教会が鳴らす時を告げる鐘があるだろう?あんな感じに時刻って奴を教えてくれる便利な魔道具だ。
俺も詳しい事は知らないんだが何でも魔石を使った物らしくて、こちらが設定しなくても正確な時刻に勝手に合わせてくれる優れ物らしい。
以前の司祭が見栄っ張りでな、リフテリア魔法王国から取り寄せた品なんだと。
まぁ教会の備品として購入した手前持ち出せなかったみたいだけどな、今頃王都で高貴な御婦人方相手にヒーヒー言ってるんじゃないのか?
女性の美に対する欲求は凄まじいからな~、ざまぁ♪」
なんかこの部屋の趣味と若干違うと思ったらそう言う理由だったんですね、納得です。
“コトッ、コトッ、コトッ、コトッ、コトッ”
メルビン司祭様に「まぁ座れや」と着座を勧められテーブルに着くと同時に、シスター様がティーセットをご用意くださいました。
ふわりと広がる匂いはカモネールの香り、色々バタついた気持ちを和らげようというシスター様の御気遣いを感じます。
「まぁ授けの儀による職業付与は女神様からの授かりものだしな、俺たち地上の者がどうこう出来る問題じゃないんだが、実際問題どうするつもりなんだ?上級職って事は王都の中央学園行きが確定だろう?」
メルビン司祭様は心配気にボビー師匠と父ヘンリーの顔を見やります。
実際問題入学準備って結構なお金が掛かりますからね。これが平民であれば学園の斡旋で古着の制服を仕立て直す事で済むんですけど、貴族となるとそうはいかない。制服は自前で用意しないといけないわ移動も自分で行わないといけないわ。そう言った場合は寄り親である高位貴族にご相談ってな形で貴族間の関係を深めて行くって事になるんですけどね。
今回の場合はホーンラビット伯爵様にご相談って形を取るのが本来の筋になるんですが。
「そうじゃの、大森林に行ってレッサードラゴンの二~三体でも狩ってくれば問題ないじゃろう」
「いや、レッサードラゴンばかりだと値崩れの恐れもある。ブラックウルフかバトルディア辺りも混ぜた方が良くないか?」
そんな司祭様の御心も知らず、戦闘狂のお二人は大森林に金策に行く算段を始められちゃっておられます。
「はぁ~!?お前、それって大森林の魔物じゃないか!
いくら金が無いからってそんな無茶をする奴があるか!!俺だって少なくない貯えくらいあるんだ、入学に掛かる費用くらい用立てしてやるっての」
メルビン司祭様かっけ~。普段おちゃらけてるのに友人のピンチに男気を見せるって、こりゃ女性にモテる訳だわ。
男性にも女性にも慕われる真のイケメン、メルビン司祭様。
ジミーはメルビン司祭様の付き人でもやった方が将来役に立つんじゃね?称号に<ジゴロ>とか付きそうだけど。
ボビー師匠と父ヘンリーが一瞬驚き顔になった後、目茶苦茶優しい眼差しを司祭様に向けてるし。司祭様、「な、なんだよ、ふざけて言ってるんじゃないんだからな」とか何処のツンデレって感じのセリフを吐かれてるし。
「メルビン司祭殿、その御気持ち誠にありがたく、心より感謝申し上げる」
「儂からも感謝を。これまでマルセル村の諸々に対しお骨折り下さった件も含め、大変世話になっております。本当にありがとうございます」
マルセル村の二大巨頭、鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーに感謝の言葉を贈られ戸惑いを見せるメルビン司祭様。魑魅魍魎渦巻く教会政治に身を置いていた司祭様にとって、純粋な感謝の気持ちを向けられる事って少なかったんだろうな~。
「でも安心せい、これでも儂は剣鬼ボビーと呼ばれる男、王城に乗り込んで脅しを掛けた実力は伊達ではないわい」
「それに王家からも大森林の獲物を卸して欲しいと言われておりまして、どのみち農閑期に入ったら狩りに行くつもりだったのですよ。
今回の事は丁度良い切っ掛けであったのかと」
二人からの言葉に口を開けてポカンとするメルビン司祭様。「そう言えばボビーの奴はこの冬に王都で大暴れしてたんだったわ」と呟き、どこか気恥ずかし気にそっぽを向く司祭様。
“コンコンコン”
「失礼します。司祭様、ジミー様とフィリー様をお連れいたしました」
「おお、そうであったか。中に入って貰いなさい」
扉から聞こえるシスター様の声に透かさず返事をするメルビン司祭様は、話題を変え様とするかのように二人の若者を招き入れるのでした。
「ヘンリーお父さん、ボビー師匠、無事鑑定の儀が終了いたしました。
これが俺たちの鑑定書になります」
そう言いジミーから差し出された二通の封筒、父ヘンリーとボビー師匠はその鑑定書に目を通してから、「これ、みんなに見せてもいいか?」と言葉を掛けるのでした。
「はい、この場にいる人たちでしたら」
「私も構いません」
ジミーとフィリーちゃんが了承の意を示した事でテーブルに広げられた鑑定書。さて、フィリーちゃんの鑑定結果はどうなってるのやら。
鑑定結果
名前 フィリー・ソード
年齢 十二歳
種族 普人族
職業 賢者
スキル
杖術 意思疎通 魔力支配 空間把握 状況判断 身体強化 空中歩行 金剛力 幻影魔法 念話
魔法適性
水 風 土 光
称号
ゴブリンの呪いを受けし者 精霊に去られし者 ゴブリンの呪いから解放されし者 スライムの王の弟子 理不尽の弟子 大賢者の弟子 精霊の友 聖者の従者
加護
なし
おぉ~、流石は元精霊の巫女、魔法適性がいかにもって感じじゃないですか。しかも既に<幻影魔法>まで習得済みとは、中々に優秀。
称号の<聖者の従者>ってのはヨークシャー森林国のアレですね。おそらくディアさんにも同じ称号が付いてるんだろうな~、<儀式魔法>に参加しちゃったし。
大賢者様、称号に出るくらい存在値が大きくなられてるんですけど、魔王城でも余裕かましてたし、賢者師弟のお二人って結構ヤバい存在になってません?大丈夫?
「ふむ、儂は賢者のステータスを見るのは初めてなんじゃが、魔法よりではあるものの中々に良いスキル構成なのではないかの?
魔法職において弱点とされる接近戦も<杖術>が補ってくれるであろうし、今使っておる木刀を杖として使えば戦いの幅も広がるじゃろうて。
マルセル村に戻ったら杖の使い方でも手解きするかの」
「はい、よろしくおねがいします、ボビー師匠」
義父であるボビー師匠の言葉に嬉しげな表情を向けるフィリーちゃん。
「イヤイヤイヤ、ボビー、ちょっと待とう。フィリーちゃんのステータスって色々おかしいからね?魔法職に偏ってるって言っても、<魔力支配>って何?魔力を支配しちゃうの?
<空間把握>に<状況判断>、 <身体強化>に<空中歩行>に<金剛力>って何処の将軍様?戦場を席巻しちゃうのかな?
<幻影魔法>って三百年前の伝説の大賢者シルビア・マリーゴールド様が得意とされた伝説の魔法よ?すでに失われた魔法と呼ばれているんだよ?
しかも称号に<大賢者の弟子>って付いてるし、大賢者様ってご存命なの?三百歳を超えてるの?」
「あっ、因みに称号の<理不尽の弟子>の理不尽とはケビンの事じゃからな?マルセル村にはケビン以上の理不尽は存在せんからな?
それと<スライムの王>はおそらくケビンが飼っておるスライムの大福じゃな。儂とヘンリーが束になって掛かっても未だに勝てない最強魔物じゃからな」
ボビー師匠からの追撃に意味が分からないとばかりに頭を抱えるメルビン司祭様。
「それとジミー君の<剣天>って何?初めて聞く職業なんだけど」
「教会の司祭であるお主が知らん職業を儂らが知っておる訳もあるまい。少なくとも剣士よりかは上の職業と言ったところではないかの」
「<魔力支配>と<身体支配>って確かマルセル村の勇者様と聖女様も持ってたよね、絶対マルセル村での修行とやらが関係してるよね?
それと<剣理>は剣術系スキルとしても、<明鏡止水>?<鎧袖一触>?
<生活魔法>ってあの“生活魔法”だよね?何でスキル欄に載ってるのさ。
<自己回復>はいいスキルだけど、<魔物の友>に<ポケット>って、極端から極端だな、おい。
これ、王都に行ったら絶対何か言われるからね?
剣士系職業で魔力量が多いから王都の中央学園行きにはなるとは思うんだけど、正直俺では判断が付かないんだよ。それに魔法適性がないのも問題でね、いくら魔力量があっても宝の持ち腐れって言われかねない。
唯一分かり易い魔法スキルが<生活魔法>だからな~。
ボビー、ジミー君の後見人ってどうなってるの?あれだったら俺が一筆添えようか?」
カ~ッ、もう今日だけでメルビン司祭様の評価爆上がり、格好良すぎでしょう。いよ、王都の悪童、流石だぞ!!
「それなら大丈夫だと思いますよ?ホーンラビット伯爵閣下は勿論、ベルツシュタイン伯爵閣下、ヘルザー宰相閣下辺りなんかも名乗りを上げてくれると思いますから。
まぁホーンラビット伯爵家はそれだけの貢献をしたって言う事で、メルビン司祭様は心置きなくこの鑑定結果をグロリア辺境伯様と王家にお伝えください。
勇者ジェイクと聖女エミリーお嬢様の件もありますんで、すんなりご学友ってことになるはずですから」
にこりと笑い「大丈夫ですよ」と応えるケビンの態度に、“こいつ、絶対裏で何かしてるだろう”と疑いの目を向ける保護者二名と司祭なのでありました。
「・・・で、<管理神の加護>って一体なぜ?管理神様って天界で各神様を管理する神様だよね?」
「「「さぁ~?」」」
普通だったら大騒ぎになるだろうフィリーのステータスと、謎だらけのジミーのステータス。
メルビン司祭はしばらく頭を悩ませた後、“ま、難しい事は上の人間が考えるだろうし、誤魔化さずに結果を送っておけば問題ないでしょう”とばかりに考える事を放棄するのでした。
本日一話目です。