転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第527話 辺境男爵、奔走する

「学園長様、お久しぶりでございます。急な訪問にも関わらずご対応いただきありがとうございます」

 

王都には学園と呼ばれる若者たちの学び舎が三つある。一つは武術系職業を授かった者たちが集まる“王都武術学園”、もう一つは魔法系職業を授かった者たちが通う“王都魔法学園”。

王都は人口が多くまた多くの周辺諸侯の子弟が集まることからそれぞれの専門分野に分かれた学園が作られた経緯がある。

そして最後が“王都学園”、通称“王都中央学園”と呼ばれるそこは所謂高位貴族の子弟と王族の者たちが通う由緒正しい学園であり、授けの儀において上級職と呼ばれる国防の要となる職業を授かった若者たちを集め共に学ばせる事で、国の中枢を担う人材を育成する特別な学園である。

 

「いやいや、ワイルドウッド男爵殿はホーンラビット伯爵様に仕える身。王都とは遠く離れた地よりお越しいただいているのです、こちらから無茶は言いませんよ。

それと購入をお願いされていたケビン・ワイルドボーイ著書「生活魔法と応用」、モルガン商会より届いています。私も目を通させてもらいましたが、あれは中々に興味深い内容でした。

一見生活が便利になる程度のちょっとした魔法であり魔法と言えば魔物に対抗するための手段と考える者からすれば馬鹿にされそうですが、その応用範囲は多岐に渡る。

生活魔法<ウォーター>を使った洗濯物の乾燥法や薪の作り方など、目から鱗とはこういう事なのかと感心した程です。

こうして教本として見て行くと生活魔法がただ多少便利な魔法の寄せ集めという訳ではなく、きちんとした分類系統があるという事がよく分かる。魔法学習の基礎としてぜひ押さえておきたい分野ですよ」

 

そんな王都中央学園の学園長執務室で学園長であるシュテル・バウマン卿と挨拶を交わす場違いな田舎者。どうも、辺境の雇われ男爵、ケビン・ワイルドウッドです。

田舎者のお前がこんな華々しい所で何をやっているのか?

まぁ簡単に言えば仕事の打ち合わせですね。俺っち来春からこの学園で講師という名の監視員の仕事をすることになりましてね、それに際する細々とした打ち合わせをですね。

やろうとしている事はスパイや潜入捜査官のそれ、下拵えはとても重要です。誰にも気が付かれずにいつの間にか入り込めるのは王都で流行りの小説の中だけのお話、“講師でございます、でもそれは名目上ですからあまり干渉しないでね”で済むほど簡単な話じゃないんですね、これが。

 

「ご評価いただきましてありがとうございます。実際生活魔法に精通しているのかどうかは戦場での生存率にも関わりますから。

本来であれば広く国民に教え、生活水準の向上に役立てて欲しいのですがね。

我がホーンラビット伯爵領はかつて“オーランド王国の最果て”、“貴族令嬢の幽閉地”などと呼ばれ、冬の餓死者が絶えない地と言われておりました。ですが現在はまるで違う豊かな土地となりました。この村の発展に生活魔法が大きく貢献した事は言うまでもありません。

 

ですがこれはあくまで庶民の話、この学園に通われるような国の中枢を担う方々にとって必要かと言われれば何とも返答に詰まる事柄です。

ですのであくまで趣味、学ばれるのは興味が湧かれた方だけでよいのですよ。強制された知識ほど役に立たないものはありませんから」

 

そう言い肩を竦める俺に、「それもそうですね」とため息を吐く学園長。学園長も教育者としてご苦労なさっておられるのでしょう、高位貴族の子弟が皆して品行方正であるなどありえない話ですから。

貴族は嘗められたらお終い、蝶よ花よと育てられたのぼせ上ったお貴族様たちの中に放り込まれるジミーたち。

・・・絶対トラブルが起きるじゃん、これって俺が対処しないといけないの?監視だけじゃダメ?ダメなんですね、分かりましたからそんなジト目を向けないでください。

 

「そうそう、お願いしておりました講師ビーン・ネイチャーマンの件はどうなっておりますでしょうか?」

「あぁ、その件はヘルザー宰相閣下からもうかがっていたからね、既に手続きは済ませてあるよ。

これが講師ビーン・ネイチャーマン名義の通行許可証になる。正門を通る際は門兵に提示する事となるから必ず携帯しておいて欲しい。

それとネイチャーマン氏の容姿なんだが・・・」

 

「はい、色々考えまして、こうした変装を取らせてもらう事といたしました」

俺はそう言うと“パチンッ”とフィンガースナップを一回。

“ブワッ”

途端俺の身体を淡い光が包み込み、いかにも研究者といった頼りなさげな三十代前半ほどの男性が姿をあらわす。

 

「はじめまして、来春より講師を務めさせていただきますビーン・ネイチャーマンと申します。ワイルドウッド男爵様にはこの様な大変光栄なお話をいただき、感謝の言葉しかございません。

私が王都に勤めに入ると聞いて妻も大変喜んでくれたんですよ。まぁしばらくは単身王都暮らしになってしまうんですが」

“ハハハハハ”と笑いながら頭を掻くビーンの姿に口を開けたまま固まる学園長。

 

「えっ、いや、ケビン殿、これは一体・・・」

「はい、これは幻影魔法を使った変装術になります。変装術としては闇属性系魔法である<自己呪い>と呼ばれるものが有名ですが、これは学園の様な高貴な身分の子弟が通われるような場所では対策がなされているかと思いまして、光属性系魔法に当たる幻影魔法を採用させていただきました。

この姿であれば周囲から警戒される事もないかと思うのですが、どこかおかしいでしょうか?」

 

容姿ばかりでなくその話し方や雰囲気がまったくの別人と化したケビン。

“ヘルザー宰相閣下が仰っていた「苦労を掛けるがよろしく頼む」とはこういう事だったのか”

現在一学年に在籍している第五王女フレアリーズ殿下、来年度入学予定の第四王子アルデンティア殿下とその側近たち。

ホーンラビット伯爵領よりやって来る<勇者>と<聖女>を巡り様々な思惑が渦巻く事は必定。

 

「そうそう、おそらくですがホーンラビット伯爵領からあと二名上級職入学者が追加されると思います。

一人は“剣鬼ボビー”の娘、フィリー・ソード。授けの儀にて<賢者>の職を授かりました。

もう一人は“鬼神ヘンリー”の次男でジミー・ドラゴンロード。<剣天>という司祭様でもご存じない職業を授かったのですが、魔力量が多いという事で王都学園への推薦をいただいておりました。

このジミーは私の弟になりますので、兄弟共々よろしくお願いします」

 

そう言い柔和な笑みを浮かべるビーン・ネイチャーマン。学園長シュテル・バウマンは胃の辺りが重くなるのを感じながら、「ハハハ、それはおめでとう」と引き攣った笑みで応えるのでした。

 

――――――――

 

「店主ポーラ・キムーラ殿はおられますか?」

王都の片隅に店舗を構えるぬいぐるみ工房モフモフマミー、その品揃えは素晴らしく、この場で一日過ごせと言われても「はい、喜んで!!」と即答してしまいたくなるぬいぐるみワンダーランド。

 

「はい、お待たせいたしました。店主のポーラ・キムーラでございます。お客様、どの様なご用件でしょうか?」

店の奥から現れたのはこの店の店主にして天才ぬいぐるみアーティスト、ポーラ・キムーラ殿。その飽くなき好奇心はどうも海洋生物に向いている様で、店の片隅には壺から頭と足を出すタコさんのぬいぐるみがですね。これって壺もちゃんとぬいぐるみになってます、帰りに買っていこう。

 

「はい、私はケビン・ワイルドウッド男爵様の使いでビーン・ネイチャーマンと申します。

ぬいぐるみ工房モフモフマミーに依頼した商品の引き取りを申し付かりましてお伺いさせていただきました。出来ましたら商談室の方でお話しさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

俺の言葉に訝しげな瞳を向けるポーラさん。おそらくワイルドウッド男爵自ら商品の引き渡しに現れると思っていたのだろう。

 

ポーラさんは暫し考えられたのち、「ではこちらへどうぞ」と俺を工房奥の商談室へと案内してくれるのでした。

 

「こちらがワイルドウッド男爵様よりご注文いただきましたラクーン種とウルフ種のぬいぐるみ、小・中・大となります。

数は小・中がそれぞれ百体、大が二十体となっております。手に取りお確かめください」

商談室に次々と運び込まれるぬいぐるみ。俺はその一体一体を手に取り細部にわたり検品して行く。

丁寧な縫製、リアルの中にもかわいらしさを忘れない作りの素晴らしさに、感嘆のため息が止まらない。

 

「素晴らしい品々でした。ワイルドウッド男爵様もさぞお喜びになられると思います。工房の職人の皆様にもぜひお礼の言葉を伝えてください」

俺は全ての品をマジックバッグに仕舞うと、深々と頭を下げ礼を述べる。

 

「はい、ありがとうございます。職人たちの励みになります。

それとこちらですね」

“パンパン”

 

ポーラさんが手を打ち鳴らす。すると“カチャリ”と部屋の扉が開き、二人の女性が入室してくる。

 

「こっ、これ程とは・・・」

 

頭部に装着されたカチューシャに取り付けられた可愛らしいラクーン耳とウルフ耳、腰バンドによって装着された尻尾が腰下でフワフワと揺れる。

気恥ずかし気に頬を染めるモデルさん方の仕草と相まって、その破壊力は天元突破。天然ものとはまた違う、人工的なものだからこそ表現できる理想の姿、ぬいぐるみ職人ポーラ・キムーラ渾身の作。

 

「こちら、ワイルドウッド男爵様よりご教示いただきましたケモ耳尻尾を私なりに表現させていただいた品となります。

ケモ耳尻尾の可能性、まだまだ改良の余地はあると思いますが、私の持てる力の全てを注がせていただきました」

 

そう言い頭を下げるポーラさんの姿は、職人の生き様を感じさせるとても美しいものでありました。

 

「ポーラ・キムーラ殿、耳と尻尾だけを作れなどという意味の分からない大変無茶な注文であったにもかかわらず、これ程の作品を作り上げてくださったポーラ殿の職人の矜持に深い尊敬と感謝を。

そんなポーラ殿にいつまでも偽りの姿で接するのは失礼というものでしょう」

俺はそう言うと胸のループタイに手を伸ばす。

 

“ポワッ”

淡い光が身を包み、その顔が普段の自分に変わって行く。

 

「失礼、王都においてホーンラビット伯爵家の者は何かと目立つのでな、使用人として姿を偽らせてもらっていた。

ポーラ殿、素晴らしい作品の数々、このケビン・ワイルドウッド男爵、心よりの感謝を。

そして新たなる分野への挑戦を続けるポーラ殿の意欲に尊敬を。

海の生き物シリーズ、是非購入させていただこう。

 

我がホーンラビット伯爵領ではホーンラビットの飼育事業もおこなわれている。そこで今度はホーンラビットのぬいぐるみ作製を依頼したい。

数は小・中がそれぞれ百体、大が二十体でどうだろうか?

期限として春には受け取りに来れるのでその頃を目処に作製をお願いしたい。前金として金貨二十枚を置いて行こう、足りない分は後程請求して欲しい」

 

俺は収納の腕輪から金貨の入った皮袋を取り出しテーブルに置くと、「はい、お任せください!!」と答えるポーラさんたちに向かい満足そうに頷くのでした。

 

―――――――

 

王都の片隅、多くの商人や役人といった所謂上級民と呼ばれる人々が暮らす住宅街の一角に、周囲の人々から“商人街の悪夢”と呼ばれる有名な化け物屋敷があった。

過去に起きた凄惨な殺人事件、仲の良い商人一家を襲った何者かの凶刃。以来その屋敷は王都という国の中枢にあって、ありえない程のおぞましい気配に包まれた異界と化してしまった。

多くの冒険者や聖職者がその解決に乗り出すも、いずれも這う這うの体で逃げ出す結果となってしまっていた。

 

そんな事態が変わったのは春先の事、門扉を閉ざしていたドッカン不動産商会の進入禁止を警告する鎖が外され、屋敷の庭を覆っていた雑草や雑木が刈り取られ始めたのだ。

普段から見るのも(はばか)られるとして人の近寄らない屋敷である。

周囲の住人はまたどこぞの田舎者が悪徳不動産商会に騙されたのかと噂し始める程度でさほど気にも留めなかった。

 

だがその変化は短期的なものに収まらなかった。庭先はただ雑草が刈られただけに(とど)まらず、まるで日々庭師によって管理される貴族屋敷の庭の様に、美しい花々の咲き誇る落ち着きのある庭園へと様相を変えて行った。

そんな変わり行く屋敷の様子に目を向けた人々は気が付く、奥に聳える化け物屋敷と呼ばれた建物がまるで新築の屋敷の様に様変わりしているという事に。

 

この屋敷を購入した人物は何者なのか、噂が噂を呼び人々の関心が集まるまでそう時間は掛からなかった。

 

「兄貴、本当に行くんですか?相手はあの化け物屋敷をどうにかしちまったっていう貴族ですぜ?」

「馬鹿野郎、お貴族様がわざわざ“商人街の悪夢”とまで呼ばれる化け物屋敷を購入するかよ。精々が地方でそこそこ成功した成り上がり者だろうよ。

肝心なのはその使用人の中にいるだろう化け物屋敷を浄化した人間だ。教会の神官共がこぞって逃げ出したような呪われた屋敷を浄化した、そんな相手を他の人間が欲しがらないと思うか?

教会に不動産商会、その需要は多岐に渡る。上手くすれば一代での成り上がりも夢じゃないってな。

俺たちで手に入れられれば良し、最悪成り上がり者と手を組んでもいいだろう。甘い汁は目端の利く者しか吸えないってな」

 

王都は生き馬の目を抜く程の競争社会、ポッと出の田舎者が生き残れるほど甘い場所ではない。兄貴と呼ばれた男は口八丁手八丁、この俺に掛かればどうとでもなると笑みを深くする。

 

「こんにちは、少々よろしいでしょうか?」

門扉からの呼び掛けに応える者はいない。兄貴と呼ばれる男は「おじゃましますよ~」と声を掛けながら鉄柵の扉を開ける。

 

“キ~~~~ッ”

軽快な音と共にゆっくりと開く鉄門。

“ブワ~~~“

手入れの行き届いた美しい庭先から流れ出る背筋がゾクリとするような生暖かい空気。

 

「「えっ!?」」

目を開き固まる男たちにその声は優しく語り掛けられる。

 

「お客様方、当屋敷に何か御用でしょうか?」

声のした方を振り向けば、いつからそこにいたのか執事服を着た壮年の男性がジッと自分たちに目を向けている。

 

「あっ、いや、これは失礼した。お声掛けはしたのですがお返事を得る事が出来ず、お屋敷前に向かわせてもらおうとしたのですよ。

いや~、本当に美しい庭ですな、以前お見かけしたときは「ご用件をお願いいたします」・・・ハハハ、そうですな。私たちはこの王都でこまごまとした人材の紹介などを行っておりまして、これ程のお屋敷ですと「結構でございます。どうぞお引き取りを」

・・・あっ、しかしながら王都は何かと物騒な土地柄、このお屋敷の以前の持ち主も盗賊に襲われ命を失ったとか。あれは悲惨な事件であったと「お前たちに何が分かる“ブワッ”」!?」

 

突然雰囲気の変わる執事、その身から溢れる身を震わせるようなおどろおどろしい気配に、奥歯をガタガタ鳴らしへたり込む男達。

 

「あの時私は何故ご主人様たちを守れなかったのか、私は何故にこれほど弱いのか、私は、私は・・・・お前たちはまた私から主人を奪おうと言うのか・・・」

 

“ドバッ”

突然口から血を噴き出す執事、その腹部は剣を突き刺されたかのように赤く染まり、ドクドクと赤黒い液体を垂れ流す。

 

“今度こそ、ご主人様を守り抜く。ご主人様を害する者を決して許しはしない”(ニタァ~~~)

 

「「ギヤァ~~~~~~~~~~!!」」

一目散に逃げだす男たち、開け放たれた門扉がゆっくりと閉まっていく。

 

「あれ?誰かお客さんでも来てたの?」

そんな屋敷の庭園に響く間の抜けた呼び掛けに、執事はクルリと振り返る。

 

「これは御主人様、お越しになっていたのですか。

何やら訪問販売員の方々でしたのでお断りを。この辺は商人街ですから時々そうした方々がお見えになるのですよ」

「ふ~ん、そうなんだ。王都の商人は皆商売熱心だよね。

それよりみんな集まって貰える?ちょっと地下室に移動用の扉を設置しようと思ってね、皆にも使い方を説明するから」

 

そう言い屋敷の中に入って行く二人。

“パタンッ”

閉ざされた扉、誰もいなくなった庭園では、数匹のミツバチたちが花の蜜を求め飛び交っているのでした。




本日一話目です。
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