転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

528 / 860
第528話 王都の買取り役人、辺境を訪れる

“カラカラカラカラ”

初秋の草原に風がそよぐ。未だ夏の暑さが残るものの、季節の変化が感じられるくらいには、過ごし易さが増して来た。

 

「ハァ~、しかしなんだって俺が“辺境の蛮族”の下に向かわなければならないんだ。この話が決まった当初は<鑑定>のスキルすらないよその部署の連中までもが、偉そうに名乗りを上げていただろうが!

大森林の素材、その入手に口を挟む気満々といった顔で皮算用を弾いていやがったくせによ。なにが「“辺境の蛮族”などと言われていても所詮は武力頼りの田舎者、一度関係を結べば後はどうとでも転がせる」だよ、ホーンラビット伯爵家の騎士男爵が王城で威圧を放った途端全員掌を返しやがって。

確かに俺も王城勤めだけどよ、俺の仕事は倉庫係だぞ?素材鑑定なんざ碌にさせてもらってないんだぞ?

大体査定も出来ない人間を素材買取りに送り出してどうするってんだよ、上の連中ってバカじゃないのか?」

 

広がる草原を貫くように伸びる一本の街道を、一台の馬車が駆け抜ける。綺麗に整備された石畳は揺れも少なく、パカパカという馬蹄のリズムが耳に心地よい。

 

「しかし話に聞いてはいたが、こんな辺境の地にここまでの街道整備をするって、グロリア辺境伯家は何を考えてるんだ?

いや、既にこの地はホーンラビット伯爵領、別領地だったか。という事はホーンラビット伯爵家が自力でこの街道を敷いた?

イヤイヤイヤ、それこそあり得ないだろう、こんなもの作ったら幾ら掛かると思ってるんだ。

確かにホーンラビット伯爵家には先の取引で莫大な利益が王都商業ギルドから齎されたとは聞いているが、その殆んどは商業ギルドの口座に入れたままのはずだ。ここまでの敷設工事を行えば人件費だけでも軽く貴族家の年間予算数年分は掛かるんだぞ?

ホーンラビット伯爵家が表立って大森林素材取引を行ったのは前回が初めてのはず、一体どうなってやがる」

 

王都において様々な噂の流れるホーンラビット伯爵家。先のダイソン公国との戦乱を僅か三十騎の騎馬隊で鎮めた奇跡の軍団、王都南門前に集まった王宮騎士団をたった八騎の騎馬で壊滅に追い込んだ辺境の蛮族、魑魅魍魎渦巻く王都貴族社会を壊滅させて回った悪鬼のごとき主従。

 

近付く事、関わる事は身の破滅を意味する。そう言われる一方でその力を手中に収める事が出来れば自家の発言を無視できる貴族家はいなくなる。

渦巻く思惑は三英雄の一人パトリシア・ホーンラビットに向かい、多くの貴族家の若者たちが求婚の為に辺境の地に向かったと聞く。

 

「旦那、前方に何か見えて来ました。恐らくホーンラビット伯爵領マルセル村付近だとは思うんですが、ありゃ一体何ですかね?」

御者の兵士が声を掛ける。馬車の中の男性は、その声に漸く目的地に到着したのだと安堵しつつ、この男も災難なものだとため息を漏らす。

 

本来、大森林からの素材買取りといった重要取り引きの護衛に兵士一人などという事はあり得ない。いくら王城からの馬車とはいえ、そのような事は盗賊に襲ってくれと言っているようなものであり、安全面ばかりでなく王家の面子としてもおかしな事態であった。

 

“騎士団の者が身を震わせて拒否するって、アイツら国の最高戦力じゃなかったのかよ”

だがホーンラビット伯爵家騎士団が王家に刻み付けた恐怖は、そんな面子などゴミカスであると言わんばかりに王宮騎士たちを尻込みさせてしまったのである。

 

「まぁ第三騎士団所属の友人の話じゃナイフ一本でオーガに挑むほうがましって思えるくらいの恐怖だったって事だし、仕方がないと言えばそうなんだろうけどよ、俺ってこれからそんなオーガよりもヤバイ連中の巣窟に行かなけりゃならないんだろう?どうすんだよコレ」

男性はそう呟きながら馬車の小窓から顔を覗かせる。

 

「何だあれは?」

それは街道の前方、マルセル村門前らしき場所の直ぐ側に建てられた建造物であった。

周囲に広がる草原の中に忽然と姿を現した異質ともいえるその場所に、男性はただただ首を捻る。

 

「こちらはホーンラビット伯爵領マルセル村である。貴殿らの所属並びに訪問理由をお聞かせ願いたい」

「私は王宮所属資材管理部ケープ・ゴートと言う。

この度王家との間に交わされた大森林素材買い取りの件でお伺いさせて頂いた。ホーンラビット伯爵閣下への取次ぎをお願いしたい」

 

村門前に立つ門兵に所属と名前を告げる男性。ケープは「確認を向かわせる故今しばらくお待ち頂きたい」と言葉を返す門兵に了承の意を示すと、先ほどから気になっていた事を問うことにした。

 

「ところで先程から気になっていたのだが、あの建物が何か教えてほしいのだが?

王城の騎士訓練場に近しい感じがするが、村門前にある様な物でもないと思うのだが。

それとあの立て看板がな・・・」

ケープからの言葉に、「あぁ、アレですか」と呆れ混じりの声を上げる門兵。二人の向ける視線の先には「“貴様の様な下賤の輩は我が姫にはふさわしくない。集え、勇敢なる戦士たちよ!!”

第一回真の男決定戦開催、参加費は大銀貨二枚。(参加者の皆様にはもれなくヒーラーによる治療とマルセル村での美味しいお食事を進呈)」と書かれた立て看板が。

 

「ケープ殿はホーンラビット伯爵閣下のご息女パトリシア様が、多くの貴族子息から求婚されているという話をご存じでしょうか?」

「あぁ、その話なら王都でも噂になっているからな。先のダイソン公国との戦いを収めたホーンラビット伯爵家、三英雄の一人として一躍名の売れたパトリシア・ホーンラビット嬢。

そんな彼女を引き入れる事が出来れば貴族社会において強い発言力を得る事が出来るは必定。

王城謁見の間において中央貴族の者たちが散々な目にあったというのに、皆して大した度胸だと呆れたものだよ」

 

「そのパトリシアお嬢様がこの度ホーンラビット伯爵家旗下の騎士男爵と婚姻を結ぶことになりまして。その事を知った多くの貴族子息の方々が抗議の声を上げられたんですよ。

中にはあの看板に書かれている様に“貴様の様な下賤の輩は我が姫にはふさわしくない。剣を取れ、この私がその事を身体に教えてやる!!”とか言って(くだん)の騎士男爵に決闘を申し込む輩もですね。

そこで一々乗り込んでこられても面倒だという事になりまして、だったら纏めて相手をしようという事に。

あの建物は王都にあるような闘技場を模したものですね。マルセル村には鬼神ヘンリーや剣鬼ボビーに挑もうという冒険者たちが多数訪れるものですから、以前から闘技広場を設けてはいたんですが、お貴族様方には受けが悪くてですね。

「我々を馬鹿にするのか!?」とか言われてもですね、馬鹿以外の何者でもないと思うんですが」

 

門兵は肩を竦め、呆れ混じりのため息を吐く。

ケープは“ハハハ”と乾いた笑いを浮かべながら、“ホーンラビット伯爵閣下も大変な事だ”と視線を逸らすのでした。

 

―――――――――

 

「お初にお目に掛かります。私は王宮所属資材管理部ケープ・ゴート、この度ホーンラビット伯爵家と王家との間に結ばれました協定に基づき買取り担当官として赴任させていただきました。

どうぞよろしくお願いいたします」

「王都からの長旅ご苦労様。既に買取り予定の素材はマジックバッグに収納してあるからね、後で執事長のザルバから受け取って欲しい。

到着して直ぐに帰路に就くというのも大変だろう。暫し我が家に逗留し、マルセル村の観光を楽しんで行って欲しい」

 

ホーンラビット伯爵邸の執務室、挨拶の口上を述べたケープ・ゴートはホーンラビット伯爵の物腰の柔らかさに、“噂と実際は得てしてかけ離れていたりするものだな”と内心胸を撫で下ろす。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、お心遣い感謝いたします。これからは買取り担当者として度々お世話になりますので、交流という意味でもぜひ村内を周らせていただきたいと思います」

「ふむ、ではメイドを案内に付けよう。ガーネットはまだ王都だったな、ザルバ、リンダを呼んで来てくれ」

 

ホーンラビット伯爵の言葉に一礼をし退室する執事長。暫しの後連れて来られたメイドは「リンダでございます。ゴート様、滞在中はよろしくお願いいたします」と挨拶し、深々と頭を下げるのでした。

 

「ゴート様はこうした買取りや査定業務は長いのですか?」

“マルセル村と言えばまずはホーンラビット牧場でしょうか?”というリンダの提案に道案内を頼んだケープは、道すがら掛けられた言葉に苦笑いを浮かべ口を開く。

 

「いや、俺は普段倉庫管理の仕事をしていたんだがな、今回の大森林素材買取りの話が出た事で急遽配置転換という事になったんだ。

君が知っているのかは分からないが、この春に王城でホーンラビット伯爵家騎士ワイルドウッド男爵殿が買取り査定を行ったことがあってな。その時にワイルドウッド男爵殿が行った覇気による威圧に上の者たちがすっかり怯えてしまって、初めはあれほど名乗りを上げていた者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出して、最終的に下っ端の俺にそのお役目が回って来たって訳だ。

こう言っては何だが王都ではホーンラビット伯爵家の事を“辺境の蛮族”と呼んで恐れているからな、実態が分からないぶん想像だけが肥大化しているんだろうさ。

俺もマルセル村に到着するまではどんな殺伐とした地域なのかと戦々恐々としていたくらいだしな」

曰く、巨大なヒドラが現れ村人たちとの戦いに明け暮れる。曰く、地這い龍の幼体を飼いならし手足のように使役する。曰く、オークキングが門兵の役割を担っている。曰く、村内を多くの魔物が闊歩する。

 

“馬鹿馬鹿しい、そんな村があったらとっくに滅んでるだろうが。噂好きの連中は本当に・・・”

ケープは自身の赴任が決まった途端頼みもしないのに様々な噂話を聞かせに来る上司や同僚の顔を思い出し、苦虫を嚙みつぶしたような顔になる。

 

“アイツら他人事だと思って面白がりやがって、絶対に許さん”

散々脅されていたマルセル村の様子、だが実際に到着してみれば村人たちは畑仕事に精を出し、牧歌的な雰囲気が漂う平和な村であったことにどこか拍子抜けした心持ちになる。

 

「あちらがホーンラビット牧場になります」

そう言い指差された場所にはどう見ても村人とは思えない服装をした人々が集まり、歓声を上げながら拍手をしている姿が見える。

 

「彼らは一体・・・」

「はい、マルセル村は先のダイソン公国との戦いを収めた“聖者の行進”の出発の地という事で多くの観光客が訪れておりまして。三英雄のお一人パトリシアお嬢様のお姿を一目見たいという方や、鬼神ヘンリー・剣鬼ボビーをはじめとしたホーンラビット伯爵家騎士団の姿を見たいといった方々がマルセル村まで足を運ばれるんですよ。

中には力試しや自身の名声を上げようと訪れる冒険者などもおりますが、そうした方々は村門前の闘技場に案内されますから、村内は比較的平和なんですよ」

 

メイドの言葉に“なるほど、そう言う事か。ホーンラビット伯爵閣下も観光業とは思い切った事をなさる”と腕組みをし感心するケープ。

 

「皆さ~ん、頑張ってくれたラビット戦隊のみんなに温かい拍手を。ラビット戦隊のみんな~、私たちを守ってくれてありがと~」

“““““キュキュキュキューーー!!”””””

ビシッとポーズを決め観客にアピールするホーンラビットたち。観客の女性や子供たちからは「ラビ様~、こっち見て~」といった声が上がる。

 

「続いては皆さんお待ちかね癒し隊の皆が登場だよ~。癒し隊のみんな~、出ておいで~♪」

“““““キュキュキュキュキュキュ~~♪”””””

 

ピョコピョコと可愛らしい仕草で登場する沢山のホーンラビットたち。その姿からは森の悪魔と呼ばれる凶暴さは一切見る事が出来ず、ただただその可愛らしい仕草に目が奪われる。

すると脇の建物から頭に魔獣の耳の様な飾りを付け腰に尻尾を垂らしたメイド姿の者が、棒状に切ったキャロルの入った木製カップを並べた平箱を持ち、「モグモグキャロルはいかがですか~、一つ銅貨五十枚で~す」と言って売り子の様な事を始める。

 

「えっ、なっ、はぁ!?なんでホーンラビットがあんなに大人しく?って言うか餌付けをしている?ホーンラビットを?」

「はい、あちらは特別に飼育された訓練済みのホーンラビットたちですね。マルセル村の観光の目玉なんです。

よろしければ隣にある土産物屋“ポンポコ山のお店屋さん”を覗いて行きませんか?可愛らしいぬいぐるみを多数取り揃えているんですよ」

 

そう言いにこやかに微笑むメイド、“ここって一体何なの?”と想像の明後日の方向に進むマルセル村の様子に口を開けたままポカンとするケープ。

 

「因みにあの司会をしている女性がパトリシアお嬢様です」

「何をやってるの、三英雄ーー!!」

にこやかな笑みでホーンラビットたちと戯れる高位貴族令嬢の姿に思わずツッコミを入れたケープの声は、秋の高い空に吸い込まれて行くのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。