転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第53話 村人転生者、呪いについて学ぶ (2)

畑脇の小屋の中、囲炉裏を囲んでお話しをするケビン少年と、アナお婆さんが噴き出したお茶を甲斐甲斐しく乾燥藁の束で拭き取るガルさん。

 

「何かお婆ちゃんが済みませんね~。おっと今は変装が解けてお若い姿でしたね、失礼失礼。

そんなにジト目をされても何も出ませんよ?」

“誰のせいだ”と言わんばかりにジト目を向けるアナスタシアに、飄々とした態度を変えないケビン少年なのでありました。

 

「あの~、もしそれが本当なのでしたら、私に掛かっている呪いの解術をお願い出来ないでしょうか」

そんな二人のやり取りに口を挟んで来たのは、普段寡黙なガルさんでした。

 

「えっとガルさんて何か呪いに掛かってるの?解術出来るかどうかは分からないけど試す事は出来るよ?手段自体はいたって簡単なうえに安全だから」

 

俺はそう言うと軽い調子で小屋の外に行き、ポーションビッグワームのミニワームプールから手柄なサイズの奴をチョイス、サクサクッと捌いて竈で炙り焼きに。

小屋全体に広がる得も言われぬ肉の香り、生ビックワームは久々なんだよな~、こいつら旨過ぎるんだもん。でも手間を考えると干し肉バージョンで十分なんだよね、すぐに食べれるし美味しいし。

すぐに食べれる干し肉か~、今度は燻製にチャレンジだな、絶対に旨いだろう。

 

そんな妄想を考えてるうちに焼き上がったポーションビッグワーム、無論岩塩を振り掛ける事も忘れない。ササッと切り分けて小皿に乗せたらはいお待ち。

“先ずは食べてみな”、とばかりにガルさんにフォークを差し出します。

 

呪いの話しをしていたはずなのに何故にビッグワームの炙り焼き?良く分からないままその肉を口に運ぶガルさん、そして。

 

「"#$%&'()&'KL+!!」

口いっぱいに広がる肉の旨味に目を見開いて固まるガルさん。言語中枢の崩壊、ポーションビッグワームの破壊力はビッグワーム改よりも数段上だからな~、ガルさん涙流しながら貪ってるし。

その様子にドン引きしつつフォークを伸ばした残りのお二人、一口食べた後の反応がガルさんと全く同じですよ?

暫し無言のままただ咀嚼音だけをさせる三人、俺はそんな三人を横目にズズズッと煮出し茶を啜り、彼らの意識が戻って来るのを待つのでした。仕方がないよね、あれは味の暴力だもん。

 

「ケビン君、大変申し訳ありませんでした。あまりの美味しさに我を忘れてしまいました、そして素晴らしいお肉をありがとう」

深々と頭を下げ感謝を述べる三人。彼らも順調にたんぱく質に対する信仰心を高めて行っている様で何より、美味しいは正義、人は誰も旨い肉には勝てんとです。

 

「それで肝心のガルさんのお話しだったよね、それでガルさんは一体どんな呪いを受けているの?」

俺の質問に暫し瞑目し、自分の中の考えをまとめるガルさん。それがどんなものかは知らないけれど、話す事を躊躇してしまう程度には重い話しと言う事なのだろう。

 

「実は私は・・・」

話しを始めるや急に固まるガルさん。その口から発せられたのは高く美しい声音(こわね)、これにはあまりの驚きに固まるアナスタシアさんと俺。

すると急に立ち上がり自分の身体を確認するかの様にまさぐるガルさん、そして何かに気が付き滂沱の涙を流しその場に座り込む彼。そしてそんな彼の肩をそっと抱き同じく涙を流しながら“良かったな、良かったな”と囁くグルゴさん。

 

“パチンッ、パチンッ”

囲炉裏の真ん中で音を立てて燃える薪。

「こうやって火を囲みながらボケッと燃え盛る様子を眺めるのって楽しくありません?」

 

「そうですね。折角ですから何かスープでも作りませんか?こないだ教えてくれた“すいとん”でしたっけ?あれ中々お腹に溜まって美味しかったんですよね」

 

「いいですね~、すいとんの場合ビッグワーム肉は出荷用の方が合うんですよ、今回は特別に香草仕上げのものを使っちゃいましょう、これもなかなか行けるんですよ?」

 

”パチンッ、パチンッ”

燃え盛る炎、五徳の上に水を入れた土鍋をセット、乾燥野菜と細かくした干し肉を入れたら蓋をして煮込むこと暫し。よく火が通った所で岩塩で味を整え、水に溶きドロッとさせた小麦粉をお玉で掬って少しずつ流し入れます。小麦粉を練って団子状にして入れるやり方もあるんだけど、個人的にこのやり方の方が好きなんですよね。モチっとした食感が堪らない、しっかり味が染み込んでるのもグッド。この辺は好みですよね、まさしく小麦粉の可能性は無限大って奴です。

 

「騒がせてしまって済まない。ガルは泣きつかれた様で寝てしまった、ケビン君には礼の言葉もない」

そう言い深々と頭を下げるグルゴさん。どうやら呪いの解術は成功してしまった様です。しかもあれだけの大騒ぎ、それってよっぽどヤバい呪いって事じゃないですか~、嫌だな~もう。

 

「実は・・・」

そうして囲炉裏を囲み語り出したグルゴさん。本名はグルゴビッチ・エスティニオスさんと言うそうです。なんて素敵なお名前、家名持ちですか、厄介な臭いがプンプンじゃないですか。

そしてガルさん、本名ガブリエル・マルドーラ様。伯爵家嫡男であらせられる御方だとか。

僕もう帰っていいですか?駄目ですか、そうですか。

伯爵家嫡男と言うとんでもパワーワードの登場に、今度ミランダさんに胃薬の調合法を教わろうと決心するケビン少年なのでありました。

 

―――――――――――――――――

 

「グルゴビッチ、もう一度だ。次こそ勝つ」

「ハハハハ、このグルゴビッチ、これでも騎士長のお役目を授かっております。いくら若様とは言えそう易々と負けはしませんよ」

 

激しい打ち合い、刃引きの剣と言えそれは金属の塊、当たればただでは済まない代物を用いての鍛錬は必然的に真剣なものとなる。そんな厳しい鍛錬の下日々剣の腕を上げていく若者に、グルゴビッチの表情も自然と優しいものとなる。そんな彼の様子に馬鹿にするなと突っかかる姿も小生意気な弟にじゃれつかれる様で楽しくなるグルゴビッチなのであった。

 

グルゴビッチ・エスティニオスはマルドーラ伯爵家に仕える騎士であった。男爵家の三男として生まれ、いい婿入りの先でもないものかと入った貴族学園であったが、そこでの生活は下級貴族の三男である彼にとって決して楽しいものではなかった。

剣の腕前だけは立つ彼は、学園にたまたま訪れていたマルドーラ伯爵に見い出され、運よく伯爵家に仕える事を許された。男爵家の三男である彼にとって、それは望外の喜びであった。

 

彼は持ち前の剣の腕に更に磨きを掛け、誠心誠意マルドーラ伯爵家に仕えた。その働きは彼を見出したマルドーラ伯爵ですら目を見張るほどのものであった。そうして信頼と実績を積み重ねた彼はいつしか伯爵家嫡男であるガブリエル・マルドーラの教育係を務めるまでになっていた。

 

「若様、今日はいつもにもまして気合が入っておりましたがいかがなさったのですか?」

「ふん、それは嫌味かい?今日も僕はボロ負けだったじゃないか。まぁ気合が入っているのは本当だけどね。

来週末はいよいよ弟ウリエルの六歳のお披露目、兄としていつまでも教育係に負け続ける訳にはいかないだろう?兄は強いと言う所を見せたいじゃないか」

グルゴビッチの問い掛けに不貞腐れた様な顔をして答えるガブリエル。“本当に弟思いのお兄ちゃんだ事”、グルゴビッチは高位貴族にもこうした兄弟愛はあるのかと嬉しくなる半面、周りはどう思っているんだろうと心配にもなるのであった。

 

なぜならマルドーラ伯爵家嫡男ガブリエル・マルドーラは側室の子であり母親はすでに他界している、対して今度六歳を迎えるウリエルは正妻の子でありしっかりとした後援者が揃っているからであった。

高位貴族の跡目争いは日常茶飯事、特に今回の様に側室の子が嫡男である場合儚くなることは割とよくある事。それでも母親が存命であればまだ希望はあるのだが。貴族家の闇は何処までも深く暗いのであった。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします、グルゴビッチ・エスティニオス、御呼びにより参りました」

「うむ、入ってくれ」

 

マルドーラ伯爵家当主執務室、そこは当主であるマルドーラ伯爵のおられる場所。グルゴビッチは自分がどんなミスを犯してしまったのかと冷や汗を垂らしながら呼び出しに応じていた。

 

「そこまで緊張しなくてもよい。今日は少しお前と話をしたくて呼んだのだ、執事長、テーブルに酒を、他の者は下がってよい。グルゴビッチ、一先ずソファーに座り給え、ガブリエルの事を聞かせて欲しい」

マルドーラ伯爵に促され席に着くも、出された酒の味が全く分からなくなるほどにグルゴビッチは緊張していた。何せ自分をここまで導いてくれたのは他ならぬマルドーラ伯爵である、大恩ある伯爵を前にして緊張しないでいられるほど彼の神経は図太くはなかった。

 

「そうか、ウリエルに格好いい所を見せたいと、ガブリエルはそんな事を言っていたのか」

グルゴビッチの報告に目を細め嬉しそうな顔をするマルドーラ伯爵、だが何故かその表情には悲しげな悲壮感が漂っていた。

グルゴビッチにはそれが何であるのか理解出来ず、自分は何か気付かぬうちに失態を犯していたのかとただ困惑するのであった。

 

「グルゴビッチ、お前がガブリエルの事を心底信頼し教育してくれている事は良く分かった。そんなお前にこんな事を頼むのは非常に心苦しいが、お前にしか頼めないのだ。事は極秘裏に進めねばならない、協力してはくれないだろうか」

伯爵自らの頼みを断ると言う選択肢を彼は持ち合わせていない。グルゴビッチは腰に刺した剣を鞘ごと抜くとテーブルの前に出し、“この剣に掛けて”と誓いの言葉を述べるのであった。

 

 

「どうしたグルゴビッチ、今日はやけに静かじゃないか、悪いモノでも食べたのかい?」

今は領都にある商会からの帰り道、ガブリエルは週末に迫った弟ウリエルへの贈り物を選びに数名の供を連れての外出を楽しんでいる所であった。

 

「いや、このマルドーラ領は平和だなと思いましてね。民は皆明るく親切、大きな諍いもほとんどない。これもすべて伯爵様のお陰なんだなとね」

眼下に流れる大河、数百年前に建てられたマルドーラ大橋。日々点検され修繕が繰り返されるそれは、マルドーラ領の交通の要でもあった。

 

「なんだい急にそんな事、父上が善政を敷いているのは周知の事実、歴代のマルドーラ伯爵家当主でも父上ほどの者はいないと謳われるほどの傑物なんだからね」

父親であるマルドーラ伯爵の事を誇らしげに語るガブリエル、そんな彼を見詰めるグルゴビッチの顔は苦悶に歪んでいた事だろう。

 

グルゴビッチは腰に刺した剣をゆっくり引き抜くと力一杯欄干に叩き付ける。崩れ落ちるレンガ、突然の凶行に目を剥くガブリエル。

 

「若様、今日はお別れをお伝えしなければなりません。橋の老朽化、どうもこの場所は少し脆くなっていた様だ。かわいそうな若様、事故とは恐いものです」

グルゴビッチのセリフに表情の固まるガブリエル。だが彼は慌てるそぶりを見せる事も無く、ジッとグルゴビッチの目を見詰める。

 

「僕の役目は終わった、そう言う事かい、グルゴビッチ」

「御明察です、若様。もしかして若様は全てご存じだったので?」

 

「うん、ウリエルが二歳の歳を迎えた時に父上から聞かされたよ。その時は混乱よりもなぜか納得してしまった自分がいたんだ。この事は亡くなった母上と父上、他は側近数名のみの秘密だったかな?そう言う意味ではグルゴビッチは父上に信頼されてるって事だね」

「ハハハハ、嬉しい様なそうでない様な、複雑な気分です」

 

「ハハハ、そうかもね、でも誇っていいと思うよ、何と言っても父上に必要とされたんだから。グルゴビッチ、最後にお願いがあるんだけどいいかな?」

 

「なんです若様?」

「一度でいい、本気のグルゴビッチ・エスティニオスが見たい。これまでの指導なんかじゃ無くね」

 

互いに見詰め合う二人。共に剣を交え高め合って来た師弟、その想いはいかばかりのものか。

 

「分かりました、では行きますね、これがグルゴビッチ・エスティニオスの全力です」

“ドンッ”

 

それは瞬きの瞬間であった。周りにいた配下の者達ですらその姿を捉える事が出来なかったであろう程の速度、体捌き、足捌き、その全てが揃ったうえでの剣の柄による当身。相手に剣を抜かせる隙すら与えないその挙動は、音を置き去りにしてガブリエルの意識を刈り取った。

 

「さてと、若様は事故により橋の欄干より落下、教育係であり騎士長でもあるグルゴビッチ・エスティニオスはその責任を感じ後追いで身を投じる、正妻様の筋書きはそんな所かな?」

グルゴビッチの問い掛けに表情を歪める配下達、おそらく今回の計画を立てた首謀者は正妻派のマルドーラ領の生え抜き、グルゴビッチは外様であり自身が煙たがられている事は知っていた、だが彼に剣技で勝てる者など伯爵家には存在しなかった。彼らの思惑は一致する、グルゴビッチは体のいい生贄にされたのである。

 

「おいおいそんな顔をするなよ、まるで俺がイジメてるみたいじゃないか。どうせ橋の両端には伏兵でもいてこちらの様子を伺っているって所なんだろう?お前らも弱い立場だもんな。

まぁいいさ、こっちも閣下への恩義は果たしたし悔いはない」

 

“ガシャン”

腰より鞘ごと剣を引き抜き放り投げる。これはもう俺には必要ないとばかりに苦笑いを浮かべるグルゴビッチ。

 

「若様はお坊ちゃんだからな~、供回りがいないのも寂しかろう。お前らはうまく立ち回れよ?あんまり早くこっちに来たらぶん殴るからな?」

グルゴビッチはそれだけを言い残しガブリエルと共に崩れた欄干から飛び降りた。大勢の者が見詰めるも、彼らが再び浮かび上がって来る事はないのであった。




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