転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第532話 辺境の伯爵令嬢、辺境男爵家に嫁ぐ

「パトリシアお嬢様、とってもお綺麗でございます」

旅立ちの朝、パトリシアはメイドが持つ鏡に映る自身の姿に、不安げな表情を向ける。

 

「私、本当に大丈夫なのかしら?私なんかがケビンの隣に立つなんて・・・」

思わず弱気な言葉が口を衝く。弱かった自分、何も出来なかった自分、そんな自分がマルセル村を今日のように発展させてきたケビンに嫁いで何が出来るというのか。

 

「何を仰るんですか。パトリシアお嬢様、もっと自信を持ってください。

目を瞑って思い出してください。パトリシアお嬢様がマルセル村にやって来てからの日々の事を」

メイドの言葉に従い目を閉じるパトリシア。

 

「パトリシアお嬢様はマルセル村に来てまず何をなさいましたか?

“魔力纏い”の訓練をして、角無しホーンラビットたちのお世話をして。お嬢様はシリアル湖の別荘で“魔力枯渇訓練”や“空中歩行訓練”なんかもなさっておられましたよね?

マルセル村に戻って来てからは本格的な“魔力枯渇訓練”に加えて剣術の稽古もなさって。“覇気耐性訓練”に“乗馬の訓練”、“覇魔混合”の訓練はきつかったな~、エミリーお嬢様の拳は生涯忘れられない恐怖として魂に刻まれましたから」

そう言いブルリと身を震わせるメイドと同じく身体を震わせるパトリシア。二人の口からは自然と笑いが漏れる。

 

「メイドである私が申し上げるのは僭越ではありますが、パトリシアお嬢様は大変お強くなられました。それは単に武力に優れたというばかりでなく、その御心もです。

でなければあの理不尽・・・失礼いたしました、ケビン様を射止める事など叶わなかった事でしょう。

 

ケビン様はただ利己的に縋り付く様な者を嫌います。自らの足で立ち、その上で共に在りたいと願う者を傍に置かれるような御方。

その事はワイルドウッド男爵家の使用人の方々を見れば明らかでしょう。

あの家の方々は本当に自由でいつも楽し気で、でもそれは好き勝手をしているというのではなく心からケビン・ワイルドウッド男爵様をお慕いしているから。

 

パトリシアお嬢様はそんなケビン様の下に嫁がれるのです、何を不安に思う事がありましょう。

もう一度申し上げます。パトリシアお嬢様は御強くそしてお綺麗になられた。自信を持ってください、パトリシア様は誰よりも美しいのですから」

 

そう言い笑顔を向けるメイドに「ありがとう」と感謝の言葉を返すパトリシア。

 

「三人とも、これまで私に尽くしてくれて本当にありがとう。

今日、私はワイルドウッド男爵家に嫁ぎます。そうなると家柄としては皆と変わらなくなるわね、これからは主従ではなくなる訳だし、気軽にパトリシアと呼んで欲しいわ。

それと弟のロバート、バーミリオン、妹のマリアンヌの事、どうかよろしくお願いします。弟妹の事で何かあればすぐに言って、私に出来る事なら出来る限り手を貸すから。

 

これからはワイルドウッド男爵家の人間になるけど、私がデイマリアお母様の娘でありドレイクお義父様の娘であることには変わりないわ。

これからもよろしくお願いします」

「「「パトリシアお嬢様!!」」」

 

抱き合い別れを惜しむパトリシアとメイドたち。

 

「ところでみんな、ホーンラビットのお世話と横綱との稽古はどうするのかしら?」

「「「もちろん参加します!!」」」

 

「ハハハハ、うん、カミラメイド長の許可をいただいてから参加してね、勝手すると私が怒られるから」

「「「そんな~、パトリシアお嬢様~」」」

 

主従の別れ、それは旅立ち。パトリシアは素晴らしいメイドたちとの出会いを女神様に感謝しつつ、彼女達にも素敵な伴侶が見つかることを祈らざるを得ないのでした。

 

―――――――――

 

“ガタガタガタガタ”

馬車は進む、マルセル村の村道を村外れの礼拝堂を目指して。

馬車に揺られるパトリシアの心には既に不安はなく、何か楽し気な気持ちが胸に広がっているのだった。

 

「これもあの娘たちが気遣ってくれたお陰ね」

ホーンラビット伯爵をはじめとした家族の者は既に礼拝堂に到着しており、メイドたちは屋敷の管理の為にホーンラビット伯爵家本邸に残っているのだった。

最後の見送りをしてくれたメイドたち、いつまでも手を振ってくれた姿を思い出すと胸の奥が温かくなる。

 

「パトリシアお嬢様、到着いたしました」

御者台から掛けられた騎士ギースの声に扉の向こうに目を向ける。馬車を降りた下は石畳に作り替えられており、義父であるドレイク・ホーンラビット伯爵が介添えとして出迎えてくれる。

 

「綺麗だよ、パトリシア。今日の君は本当に綺麗だ。王都中央学園で多くの男子生徒がパトリシアの事を慕っていた気持ちがよく分かる。

こんなに素敵なパトリシアに思われて、ケビン君は幸せ者だよ」

手を添え共に石畳を進む義父と娘、レースの入った純白に彩られたドレス姿のパトリシアに、参列する人々からは感嘆のため息が漏れる。

 

“ガタガタガタガタ”

間を置かずして、一台の馬車が到着した。

御者台に座るのは執事長ザルバと村役場のボイル。ザルバはサッと御者台から降りると馬車の扉を開け、中の人物に下車を促す。

 

陽光に照らされキラキラと輝く金糸、スッとした面立ち、愛らしくも大人びた目元。

 

「ザルバお父さん、どうもありがとう」

美しくも神秘的な声音(こわね)が鼓膜を揺らす。

白を基調としたシックなデザインのドレスが、女性の魅力を嫌が応にも引き立てる。

その場に居合わせたすべての者たちは動きを止め、その人物から視線を逸らす事が出来ない。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

介添えのザルバに手を引かれ、石畳を進む天使。その女性はパトリシアの横に並ぶとニコリと花のような笑みを向け、艶めく唇を開く。

 

「おはようございます、パトリシア。抜けるような秋空、収穫祭にもってこいの陽気になってよかったわね。

どうしたの?驚いたグラスウルフみたいな顔をしちゃって。パトリシアは今日の主役なんだから確りしなくちゃ」

そう言い優し気に目を細める女性。

 

「えっ、あっ、あなたは一体誰?と言うか今日はケビンと私、それとケイトとアナスタシアの四人で女神様に結婚のご報告を上げる日なんですけど?」

自分でも何を言ってるのかよく分からないと言った風に言葉を繋げるパトリシア。

 

「えぇ、分かっているわよ?だから私もここにいるんじゃない。

おかしなパトリシア。

ドレイク・ホーンラビット伯爵様、いつも父がお世話になっております、娘のケイト・フロンティアでございます。

これからはパトリシア様と共に手を取り、夫ケビンを支えてまいります。年若ゆえご迷惑をお掛けしてしまう事も多々ございますでしょうが、どうぞよろしくお願いいたします」

そう言い優雅にカーテシーを決め挨拶をするケイトに、驚きの表情を隠せないホーンラビット伯爵家の二人。

 

「えっ、あっ、えぇ~~~~~!!ケイト、って本当にあのケイトなの?普段ボーっとしていてやる気のない」

「フフフ、そうね、普段ボーっとしていてやる気のないって酷くない?私パトリシアにそんな風に見られてたの?って言うか事実だから否定しようもないんだけど。

私の望みはケビンと一緒にお布団様に包まれてキャタピラーになることだし」

 

輝く美しさ、天上の調べの様な美しい声音、伝承に謳われる天使とはこのような存在なのだろうと思わせるような人の心を惹き付けてやまない存在。

でもその本質はまさしくケイトそのもの。

パトリシアは混乱する思考を一旦脇に置き、一番気になっていた事を口にする。

 

「ケイト、なんか普段と口調が違い過ぎるんだけど?もしかして頑張っちゃってる?」

「う~ん、そんなつもりはないんだけど、普段心の中で思っている口調というか喋り方が無理なく出ているって感じなのかな?

私って昔王都で色々あったらしくって、感情表現が苦手なの。それにこの姿でいると余計な面倒事が多そうじゃない?

だから普段は変装していると言うかもう一人の自分になっていると言うか、どっちも私には違いないんだけどね」

 

そう言いどこか寂しそうに笑うケイト。

このマルセル村には様々な訳アリが集まると言う。家族に裏切られ、職場の同僚や友人に嵌められ、恋人や婚約者に貶められ、襲われて命からがら逃げだした者たち。ケイトもまたその様な者の一人であったのだと。

 

“ガタガタガタガタ”

ざわめきが収まらない礼拝堂前、そこにまた一台、ケビンワイルドウッド男爵家の使用人が操る馬車がやって来る。

御者席に座る使用人の一人、褐色の肌をした耳の大きな美しいメイドが馬車を降り、車内の者に下車を促してから扉を開ける。

 

「えっ、あのメイドって、えっ!?」

その光景に唯々唖然とする礼拝堂前の者たち。だがその驚きは、車内の者の登場で更なる混乱を迎える。

 

“ハラッ”

秋の風が頬を撫で、その者の美しい銀糸をやさしく靡かせる。白く美しい透明感のある肌、外側に伸びる大きな耳、唇にたたえられた柔和な微笑みは全ての者の心を掴んで離さない。

身体のラインを強調するような大胆な装い、その場にジェイクがいたのなら思わず口にしただろう「マーメードドレス・・・だと!?」と。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

褐色のメイドに介添えされ石畳を進む者、数々の物語に謳われる伝説の存在、その美しさから多くの者に狙われ自らの姿を偽らざるをえなくなった悲しき種族、隠れ住む森の民エルフ族。

 

「アナスタシア、いいのですか?あなたの場合私とは話が違う、豪商・権力者・王族、あなたを求める者たちは尽きる事が無い。

この場で正体を晒す事はあなたばかりではなく他の多くの者の命も危険に晒す事になるのではなくて?」

 

「フフフ、ケイト、それこそ今更です。私たちの旦那様は誰ですか?ケビン・ワイルドウッド様ですよ?

あの方の抱える秘密と比べたら私の存在など些事でしかありません。

まぁそれでもあえて余計な騒動を起こしたいとは思いませんから、普段は今まで通りの“アナさん”で通しますけどね。

ドレイク・ホーンラビット伯爵様、この姿でお会いするのはスラムの隠れ里で初めてお会いした時以来でしょうか?

日頃より夫ケビンがご迷惑をお掛けし申し訳ありません。

破天荒と言うか無茶ばかりする夫ですが、夫婦共々何卒よろしくお願いいたします」

 

そう言い深々と頭を下げるアナスタシアに「師匠、その挨拶はずるくないですか?何一人だけ長年連れ添った夫婦感を出してるんですか。私たちは新婚も新婚、まだ結婚もしてないんですよ?」と抗議の声を上げるケイト。

そんなある種混沌とした空気が流れる中、礼拝堂の扉が開き、白いスーツ衣装に身を包んだ新郎ケビン・ワイルドウッド男爵が姿を現すのだった。

 

 

礼拝堂の両開きの扉が大きく開け放たれる。精巧に作られた女神様像の前には聖職者の衣装に身を包んだ神聖な雰囲気を纏った女性が立ち、新たなる一歩を踏み出そうとする若者たちを笑顔で迎える。

 

「これより新たな家庭を築き、共に人生を歩まんとする者たちよ。女神様はこの世の全てを見守り、全てを(いつく)しんでおられます。

この世界に生き、この世界を愛する者として、女神様に新たなる一歩を踏み出す事をお祈りください」

 

女性の言葉に礼拝堂の中心で膝を突き祈りを捧げる若者たち。

床に刻まれた魔方陣が淡い光を放ち、六本の薄っすらとした光の柱が姿を現す。

 

「“この世界を創りし全てのはじまりたる創造の女神様よ、()の者たちを見守り幾久しく導いてくださることを望まん。

彼の者たちの行く末に女神様の祝福があらん事を”」

 

女性によりあげられる祝詞、四人の若者たちを淡く優しい光が包み込み、彼らの人生に明るい未来が訪れる事を願う。

 

“この世界の民よ、我が愛し子よ”

突如心に響く天上の声音、その変化はあまりにも顕著な形で現れた。光輝く女神様像、礼拝堂全体が淡い輝きに包まれ、周囲一帯が清浄で神聖な空気に包まれる。

 

“新たなる旅立ち、新たなる人生を歩む子よ。

その方らに祝福を、健やかなる日々を。

温かな家庭、温かな家族、その方らの人生に幸多からんことを”

 

“パァーーーーーーッ”

床下の魔法陣が強い光を発し、六本の光柱が天井高く伸びあがる。魔方陣の中心にいた四人の男女は、全身を神聖な光に包まれながら唯々この奇跡に祈りを捧げ続ける。

 

新郎であるケビン・ワイルドウッドは思う。

“あなた様、ちょっとあなた様、これってどうなってるんですか!?

今のってアレですよね、女神様の祝福って奴ですよね!!

人族が儀式でやってるそれっぽい演出じゃなくて、マジ物の奴ですよね!!”

 

“あっ、ケビン、ごめん。なんかケビンが結婚式を礼拝堂でやるって話が掲示板で騒がれちゃって、私たちも補助神様方がノリでお嫁さんたちにちょっかいを出さない様に見張ってたんだけど、そうしたら女神様がそれなら私が祝福を与えましょうとか言い出しちゃって。

人族にあまり干渉するのはよくないって言ったんだけどケビンには世話になったから特別ですとか言ってきかなくってさ~。

これでも色々と抵抗したのよ?でも私みたいな下っ端じゃどうにもならなくって。

祝福の内容としては病気やケガをしにくくなるってだけだから、生活に支障が出る様なものでもないから安心して。

あと女神様の残渣だけど、流石は創造神と言うか間接的な干渉でも確り残っちゃってるみたいだからいつもの様に吸い取っちゃってくれる?今そっちの時間軸を遅らせるから”

 

あなた様がそう伝えた途端ピタリと止まる喧噪、あらゆるものが動きを止める。そんな中、ケビンは驚愕の表情で固まる者や膝を突き祈りを捧げる者の姿を冷静な感情で眺める。

 

「ヤバいよな~、これ絶対後から何か言われるよな~。

・・・よし、何も分からないって事にしておこう。女神様の奇跡万歳って事で。

黒鴉、仕事だ。周囲一帯に残る神気を全部吸い取っちゃって。何もかも全部いってくれちゃっていいから、よろしくお願いしま~す」

 

突然の女神様の奇跡、予想しうる天界からの干渉の中ではましな方であった事に胸を撫で下ろしつつ、今後の対応に頭を悩ませるケビンなのでありました。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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