転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第533話 転生勇者、収穫祭を楽しむ

マルセル村の中心、健康広場。そこには多くの村人たちが集まり、秋の収穫祭の準備に走り回っていた。

 

「根っ子野菜とビッグワーム干し肉の煮込みを持って来たんだけど、何処に置いたらいいんだい?」

「頼まれてた木製コップ持って来たぞ」

 

テーブルは事前にケビンお兄ちゃんが土属性魔法で作ってくれているので大丈夫、椅子は各自の持ち込み、料理も各家庭で大鍋で作った物を持ち寄っている。

何とも田舎の農村と言った牧歌的な光景に、自然と頬が緩む。

 

「おいジェイク、何ほのぼのとした雰囲気を醸し出してるんだ?暇ならお前も準備を手伝うか?

もっとも今あの女衆の戦場に余計な手を出したら物理的に吹き飛ばされるけどな」

そう言い肩を竦めるトーマスお父さんに俺は乾いた笑いを浮かべ言葉を返す。

 

「いや、なんか平和だなと思って。俺がもっと小さかった頃はこんな盛大なお祭りなんてなかったし、マルセル村も変わったなって。

俺、春から王都に行く事になってるし、この牧歌的な光景を目に焼き付けておこうかなって」

 

「あぁ、そうだな、確かにマルセル村は変わったよな。

以前ジェイクには話した事があったと思うが、昔のマルセル村はそれは酷いものだったらしい。冬場になれば寒さと飢えで毎年のように死者が出る、そんな状況を何とかしてくれたのがドレイク村長だった。

俺とマリア、ミランダが王都からマルセル村にやって来た時は大分状況が改善されてはいたんだがな、それでも食糧事情は厳しいものがあった。

今思えば幼い頃のジェイクに腹いっぱい飯を食わせてやれてなかったんだよな。当時はあの食事が当たり前になっていたから、そんな事にも気が付かなかった。

ケビンがビッグワームの肉質改善を行って村の食糧事情が変わったからか、ジェイクやエミリーちゃんがすっかり大きくなって、本当にケビンの奴には感謝しかない。

 

確かに今日のマルセル村の発展はドレイク村長の働き掛けが大きいが、その原動力となってるのは常にケビンのとんでも発明だからな。ケビンがいなかったら俺もお前たちも今みたいな生活は出来なかっただろうし、今頃どうなってたんだか。

 

ケビンと共に礼拝堂で女神様に結婚の報告を行っているケイトちゃんやアナさんもそうだ。

ケイトちゃんなんか最初見た時はいつ死んでもおかしくないってくらいにやせ細ってたし、ザルバさんも身も心も疲れ切ってるって感じだった。

アナさん達なんかはマルガス村とスルベ村の間に粗末な小屋を建てて、よそ者同士で身を寄せ合って暮らしていたって言うしな。

 

でもな、ジェイク、辺境の村でのよそ者の扱いなんていうのは何処もそんなもんだ、ザルバさんやケイトちゃん、アナさん達が特別って訳じゃない。

彼らはケビンとドレイク村長に救われた、それは間違いない事なんだ」

 

トーマスお父さんはそう言うと、俺の隣で秋祭りの準備をしている村の皆を見詰める。

 

「ジェイク、お前は本当に立派になったよ。その強さも心根も、俺の事なんか()うの昔に追い抜いちまった。

父親としては嬉しくもあり、寂しくもありってところだがな。

お前なら大丈夫、授かった職業なんか関係なく立派な冒険者になれる、それこそボビー師匠のような白金級冒険者も夢じゃないだろうな。

いつかジェイクが話していた世界を股に掛ける冒険者、様々な冒険を繰り広げる英雄譚。

王都に行っても頑張れよ?ジェイクの土産話を楽しみにしているからな」

 

そう言い俺の胸にドンと拳を当てるトーマスお父さん。俺は嬉しくなり同じ様に拳を打ちつける。

 

「“グホッ”、ジェイク、力入り過ぎ。お父さん一般人だから、エミリーちゃんチャレンジを経験してなかったらヤバかったから。

ジェイクは学園に入る前に手加減の練習をしておいた方がいいぞ?最近ヘンリーやボビー師匠、白雲や大福と模擬戦ばっかりしているせいか、気が付かないうちに力が強くなってるからな?本気で気を付けろよ?」

 

トーマスお父さんはそう言うと「うちの息子ヤベー」と言いながらマルセル村エール作製チームの手伝いに向かうのでした。

・・・いかん、いつの間にか俺も常識から外れちゃってる!?

トーマスお父さん、気付かせてくれてありがとう。俺はジミーやエミリーたちと一緒に、“常識的な力の使い方”の訓練をする決心をするのでした。

 

 

村の大人たちによる収穫祭の準備が終わり、収穫祭会場である健康広場のテーブルには沢山の美味しそうな料理が並べられている。健康広場の隣の食堂からは未だ細々としたお皿が運ばれているみたいだけど、あれはデザートか何かなのかな?

 

何やらざわめきが聞こえて来るのでそちらに目を向ければ、余所行きの服装をしたエミリーの姿が。礼拝堂での結婚の報告が終わったのだろう、新郎新婦の家族たちが歩いてくる姿が見えた。

でもなんだろう、なんか雰囲気が変と言うか、どこか上の空と言うか、またケビンお兄ちゃんがケビンお兄ちゃんしたとでもいうのだろうか?

イヤイヤ、流石に勇者病<仮性>重症患者のケビンお兄ちゃんでも礼拝堂の式の最中にやらかさないでしょう、やらかさないよね?それくらいの常識はあるよね、自重って言葉知ってる?

 

「お帰りエミリー、礼拝堂での結婚式はどうだった?なんかパトリシアお嬢様のドレスが素敵だって言ってたけど」

「・・・あぁ、うん。ジェイク君おはよう。なんかね、うん、凄かったな~」

 

・・・ケビンお兄ちゃん自重して!?えっ、エミリーが壊れちゃってるんですけど?ホーンラビット伯爵閣下をはじめとした皆様方、大丈夫でいらっしゃいますか?

元気なのはエッガードに跨ったミッシェルちゃんと、その隣でダンゴムシキングのぬいぐるみに跨ったロバート君だけなんですけど!?

 

“ガタガタガタガタ”

新郎新婦のご家族様方が健康広場に到着しそれぞれがテーブル席に着いた頃、タイミングを見計らうかのように石畳の村道を三台の馬車がやって来ました。

先頭の馬車の御者席には何故か白いスーツ衣装を着たケビンお兄ちゃんが座り、手綱を握っています。

あれ?何で新郎が御者をしてるの?そういう演出なの?後ろの二台に至っては御者すらいないんだけど?

まぁケビンお兄ちゃんの所の馬は目茶苦茶頭がいいから、御者がいなくても平気なんですけどね。

 

健康広場の前で止まった馬車、広場には今日の秋の収穫祭の為に一本の石畳の通路が用意されています。

御者台からサッと降りるケビンお兄ちゃん。そして一緒に御者台から降りた褐色肌のエルフ耳を持つ美しいメイドが馬車の脇に立ち、扉を開き車内の花嫁に下車を促しってちょっと待って!?

はっ?エルフ耳?えっ、それってコスプレとかじゃなくって?

イヤイヤイヤ、そう言えばついこないだ賢者ユージーンと一緒にエルフの女性が来てたけども、ケビンお兄ちゃんと一緒に世界樹に旅立って、帰って来てからは地味顔の女剣士になってなかったっけ?

もしかしてエルフの里からお持ち帰りしちゃったの?それって大丈夫?

 

馬車の中から姿を現したのは、白を基調とした美しいドレスを纏ったパトリシアお嬢様。凛とした面立ち、嘗て社交界の華と謳われたその令嬢は、お母上様であらせられるデイマリア奥様に似た力強い瞳を前方に向け、ケビンお兄ちゃんに手を取られながら一歩一歩石畳の道を進まれます。

でもなんだろう、どことなく決意の籠った様な、疲れたような。

礼拝堂での結婚式で、何か思うところでもあったんでしょうか?

 

ケビンお兄ちゃんはパトリシアお嬢様を収穫祭会場に用意された一段上がったテーブル席へと案内すると、次の花嫁を迎えに戻って行きます。

うん、複数のお嫁さんがいると大変だね。ハーレム、駄目、絶対だね。(ブルブル)

 

“ガチャッ”

褐色エルフメイドさんによって再び馬車の扉が開かれる。

“フワッ”

爽やかな秋風が吹き抜ける。その風のいたずらに、美しい金糸が柔らかく靡く。可愛らしくも大人びた目元、艶めいた唇、白を基調としたシックなドレスが彼女の美しさを引き立てる。

 

・・・えっ、誰?あんな女の人、マルセル村にいたっけ?ケイトさんとアナさんは?ケビンお兄ちゃん、浮気した?

 

「トーマスお父さん、あの女の人って誰?俺見た事ないんだけど」

「・・・えっ、あっ、何か言ったか?って言うかケビンってあの人と一緒になったのか?結婚式から帰って来たって事はそういう事だよな?

すまん、意味が分からん」

 

混乱するトーマスお父さん。普段だったらトーマスお父さんが女の人に見とれていたなんて事になったらマリアお母さんの鉄拳が炸裂したんだけど、今回はマリアお母さんも一緒になって呆然としていたからお咎めなしの様です。

そして謎の女性はケビンお兄ちゃんに介添えされて花嫁の席に。とても嬉しそうな朗らかな笑みを浮かべている様子から、ケビンお兄ちゃんとの深い関係が窺えます。

 

“カチャッ”

馬車の扉が開かれます。褐色エルフメイドの介添えで降り立ったその人は、ボディーラインの強調された純白のマーメードドレスを身に纏い、柔らかい笑みを浮かべケビンお兄ちゃんの下へ向かいます。

白い肌、煌めく銀糸が風に揺れ、髪の合間からのぞく大きなエルフ耳を強調します。ってまたエルフ様?マジで何をやってるのケビンお兄ちゃん、これって国際問題にならないの?

エルフと言えば勇者物語にも登場する隠れ住む森の民じゃなかったっけ?その容姿の美しさから王侯貴族や権力者から狙われ続けているとかなんとか。マルセル村にエルフが二人もいるなんて噂が広まったら悪い考えを持つ連中がマルセル村に攻め込んで来たりしない?大丈夫なの?

 

・・・大丈夫でした。マルセル村が狙われてるのは前からでした。

夜の清掃活動だったっけ?マルセル村を襲う野盗は容赦なく皆殺しが鉄則。マルセル村一帯は既にホーンラビット伯爵閣下の領地だから、盗賊の裁定はご領主であるホーンラビット伯爵閣下の御心次第。更に言えば閉門時間を過ぎたマルセル村への侵入は理由の如何(いかん)にかかわらず極刑。

うん、結構デンジャーな村でした。

昼間の訪問者は門番が管理しているし、正門以外からの侵入はケビンお兄ちゃんの所の従業員(魔物)が感知して対処してるし。

 

・・・マルセル村って要塞じゃん、攻めようがないじゃん。

“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”って言葉を前世の歴史の教科書で見たことがあったけど、ケビンお兄ちゃんの場合“魔物は城、魔物は石垣、魔物は堀、情けは無用、仇は敵なり”だよね。

線引きが目茶苦茶はっきりしてるもん。

まぁボビー師匠の所に大賢者シルビアさんと賢者イザベルさんが住んでるくらいだし、エルフの住民が増えても今更なのかな?

 

「あ~、うん。皆さん、本日はマルセル村の秋の収穫祭に集まってくれてどうもありがとう。今年もマルセル村の小麦や野菜は豊作でありました。

質の良い野菜はグロリア辺境伯領領都でも大変評判で、未だその人気が衰える事はありません。

皆さんもご存じのように現在グロリア辺境伯領においてビッグワーム農法の普及が急速に進められています。いずれは私達マルセル村の作物に匹敵するような、それ以上の農産品を作り出す村々が出る事でしょう。

しかしそれは何ら脅威でもなんでもない、グロリア辺境伯領のみならず、オーランド王国全体の農作物生産量が向上すればそれだけ多くの人々が飢えから解放され、いずれは春の挨拶から“生き残れて良かった”という言葉が無くなる日が来るでしょう。

 

私たちは多くを望みません、美味しいご飯が食べれて飢えや冬の寒さに怯える事無くのんびりと暮らす事が出来ればそれでいい。

ホーンラビット伯爵領はそうした土地であり続ける事でしょう。

領地の急速な発展は確かに経済を活性化させ財政的に豊かになれるかもしれない、だが私たちはそんなものを望んでこの土地で頑張って来たのではない。

ただ楽しく、笑顔溢れる毎日を。

 

本日嬉しい事にホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵が、三人の女性との永遠の誓いを女神様に報告致しました。

 

皆さん、カップをお取りください。

新たな家庭を築く若い四人の前途を祝して、乾杯!!」

 

「「「「「かんぱ~い!!」」」」」

打ちつけられるカップ、ドレイク村長の音頭の下、秋の収穫祭が始まった。というかドレイク村長って凄い、この状況を無理やり秋の収穫祭に持って行ったんですけど?

流石は一代で伯爵様にまで上り詰めた伝説の人物、人心掌握術がえげつないです。

 

「と言うかケビンよ、そちらのお嬢さん方は何処(どこ)何方(どなた)なのじゃ。お主、ケイトちゃんとアナさんはどうしたのじゃ!」

声を上げたのはボビー師匠、流石は元白金級冒険者にして剣鬼と呼ばれる男、その胆力の強さ、そこに痺れる憧れる。

 

だが敵も然る者、ケビンお兄ちゃんはそんなボビー師匠の問い掛けにキョトンとした顔をして言葉を返します。

 

「えっと、ケイトとアナさんならいますけど?」

「はぁ?何を言っとるのじゃ、二人の姿など何処にも・・・」

 

「だからケイトとアナさん」

ケビンお兄ちゃんはそう言い二人の人物を紹介します。

 

「マルセル村の皆様、ご無沙汰しております、ザルバ・フロンティアの娘、ケイトです。

今後とも夫ケビン共々よろしくお願いします」

それは天上の調べ、鼓膜を揺する心地よい声音(こわね)に、心の濁りが洗われる。

 

「マルセル村の皆様、私はアナスタシア、本日よりアナスタシア・エルファンドラ・ワイルドウッドとなりました。

ご覧の様に私の種族はエルフ、ですので皆様には常に偽りの姿を見せてまいりました。本日は大変目出度い祝いの席となりますので本来の姿となりましたが、これからもマルセル村の“アナさん”としてのお付き合いをお願いいたしたく存じます」

 

多くの権力者が求めて止まないエルフの姫は、優しく微笑むとゆっくりと頭を下げる。

 

「よし、ケビン、お主がパトリシアお嬢様とケイトちゃん、アナさんをしっかり守って行けるか儂らが見定めてやろう。木刀を持て!!」

「「「「「俺たちが確り見定めてやる、って言うか上手い事やりやがって、こっちに来いや!!」」」」」

 

「ダ~、本音駄々洩れだから、って言うか父ヘンリーとジミーもなに満面の笑みで戦いに加わろうとしてるの?馬鹿なの?

今日俺結婚式迎えたばかりよ?

って事でケイトさん、やっちゃってください!!」

 

ケビンお兄ちゃんの言葉に席を立ちあがったケイトさんはニコリと微笑むと、その艶めいた唇をそっと開くのでした。

 

「“眠れよい子よ~ 母の胸に~

広い大地と 森に囲まれた この安らぎの土地に~

女神様に見守られ 心温かい人々に囲まれて~

マルセル村の子よ~ 穏やかに眠れ~♪”」

 

それは天使の歌声、心に染みる女神様の祝福。

心乱れ荒ぶっていた男衆はその場にしゃがみ込み、そんな男衆たちに呆れた表情を向けていた女衆は涙を流し、子供たちは気持ち良さげにすやすやと寝息を立てる。

 

・・・って言うか何これ、ケイトさん凄過ぎるんですけど。

俺はそんな混沌とした収穫祭の会場で幸せな気持ちに包まれながら、“音楽が世界を救うって本当なのかもしれない”とどこか的外れな事を考えるのでした。 




本日一話目です。
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