朝の柔らかい日差しが窓辺から差し込む。遠くから聞こえるのは波の音、寄せては返す白波が微睡む意識をやさしく揺する。
直ぐ傍に感じるぬくもり、自身が一人ではないという安心感と愛する人と共にいるという幸福感が胸の奥から広がって来る。
「フフッ、かわいい♪」
多くの偉業を成し遂げながらもその功績を誇ろうとせず一介の村人たらんとする偉人、趣味全開で周囲の人々を混乱の渦に叩き込むマルセル村の理不尽。
「寝顔はこんなに可愛いのに、本当に不思議な旦那様」
指先で柔らかそうなほっぺをツンツンと
「ハンバーグと肉団子の違いが分からない~ムニャムニャ」
どんな夢を見ているのか、何やら寝言を呟く姿も愛らしい。
パトリシアは愛しのケビンに寄り添うように抱き着きながら、今の幸せをかみしめるのだった。
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「おはようございますご主人様。・・・昨夜はお楽しみでしたね」
「やめて、朝からその挨拶は結構きついのよ?って言うかなんで十六夜がそのセリフを知ってるし。ハーレム物の恋愛小説に出てきた宿屋の主人のセリフなの?それって客商売としてどうなのよ!?」
起き抜けから使用人によるダイレクトな下ネタに特大のダメージを受ける俺氏。どうも、新婚三日目の朝を迎えた男、ケビン・ワイルドウッドです。
あまりにも有名な宿屋のお決まりを喰らってみて初めて分かる、これって相当に恥ずかしいわ。これで「ふむ、素晴らしい一夜であったよ」とか返せるようになったら“大人”って事なんだろうか。
チョイ悪親父への道は修羅の道でございました。
ん?新婚初夜で三人同時に相手をしたんじゃないのか?
するかボケ!!どこの性欲魔人だ、そんなの成人指定のエロ漫画か官能小説の世界の話だからな!!
俺っち一般人だから、恋愛初心者だから、今の状況すら意味分からんって感じだから。
それぞれの奥様方に誠心誠意対応させていただきましたです、はい。
はぁ?順番を教えろ?
まぁお付き合いの深さ順と言いますかなんと言いますか。
初日アナさん、二日目ケイト、三日目パトさんって感じですかね。
嫁さんたちから不平不満は出なかったのかって?その辺はパトさんが調整してたみたいです。「妻同士の調整も私の役割ですので」とかなんとか、本当に出来た奥さんです。
でまぁそんな感じで
「はぁ、一体どこなんですかここは!?城?城ですよね?グロリア辺境伯家の城と比べても
衝撃の結婚式&収穫祭でのお披露目を終え初めての朝を迎えたパトさん(新婚初夜なのに一人寝の目覚め)が盛大なツッコミをですね。
・・・本当に良く出来た奥さん(ツッコミ担当)です。
俺が素直に「大森林深層で拾って来た!!」ってドヤ顔で応えたら思いっきりハリセンで引っ叩かれました。
「誰だー!!勇者一行(剣の勇者パトリシア・森の賢者アナスタシア・闇魔導士ケイト)に聖剣(ハリセン)を与えたのは~!!」
「ご主人様、奥様方の精神衛生上必要な措置でございます」
月影たち使用人一同に慇懃に礼をされながらそう答えられては返す言葉もございません、普段からご迷惑をお掛けしております。
因みに聖剣(ハリセン)は月影と残月と賢者師弟と御神木様と紬と蒼雲さんの合同作品。
何そのドリームチーム、君たちハリセンにどれだけ情熱つぎ込んでるの!?
フムフム、素材となる紙繊維を紬の糸繊維と御神木様の樹木繊維から作り出したと。硬過ぎず柔らか過ぎない塩梅が難しかったと。そこに蒼雲さんと月影と残月と賢者師弟が符術と呪術と魔術と魔法知識その他のあらゆる技術をぶち込んで俺の魂に直接衝撃が届く様に改良したと。どんな障壁があろうともスキル<絶対防御>ですら貫通すると。
・・・それって凄くね?って言うか俺ってどんだけ化け物だと思われてるの?ねぇねぇそこ、みんなして顔を逸らすの止めない?俺だって傷付いちゃうよ?
まぁそんな訳で我が家の奥様方は対理不尽殲滅兵器(ハリセン)を手に入れた訳でございます。
あっ、すみません、後で俺にもください。ロマン武器最高!!
で、パトさんがヒートアップする中何故かケイトがドヤ顔してるし。“ケビンなら当然”って何ですかその謎の信頼感、ちょっと怖いんですけど。
アナさんはどうしたのか?うん、身体の方は初めてだった割にはさほど支障もなく大丈夫だったみたいなんですけどね(恐らく女神様の祝福が関係していると思われ)、精神の方が・・・乙女化しちゃいまして。恥ずかしくてお布団様から出れないってですね。
と言う訳で初日はお部屋でお休み。その間の世話は月影にお願いし、俺は城の案内と城周辺の案内をですね。
「・・・ケビン、ここってどこですの?」(ジト目)
「う~ん、簡単に言えば島かな?そんでもってこの城が男の夢“秘密基地”です」(ドヤ顔)
両のこめかみに中指を当てグリグリするパトさん。
お~、戦ってる戦ってる、自身の中の常識との乖離が甚だしいですものね。でも安心してください、その反応は正常な証拠、うちの使用人全員から同様のリアクションをいただいておりますから、一人海に向かって「王都の盆暗貴族どもざまぁー!!」とか叫んでいるケイトさんがおかしいだけですから。
「百歩譲ってここが島だとしましょう。って言うか私たちマルセル村にいましたよね?昨日村の礼拝堂で結婚の報告を女神様像にお祈りして、何故か女神様からお言葉をいただいて・・・お言葉をいただいてってあれは何だったんですか!!
ケビンの演出ですか?演出ですよね?そうだと言って!!」
パトさんが遂に懇願を。ツッコミだけじゃなくボケもかますパトリシア、パーフェクトです。
「残念ながらあれはマジ物の奇跡です。おそらくですが女神様の名で祝福が与えられているものかと。
<詳細人物鑑定>を行える鑑定士に診てもらえればはっきりするとは思いますが、正直お勧めできません。教会関係者から奇跡の体現者として祭り上げられちゃいますから。
まぁ悪いもんじゃないし気にしなくてもいいんじゃないんですか?」
「うわ~ん、ケビンのいじめっ子~!!馬鹿~、理不尽~、ケビーン!!」
あ~あ、遂にパトさん壊れちゃった。ケイトの隣に行って海に向かって叫んでるし。ケイトなんか腕組みしてうんうん頷いてるし。
お前はどこの監督だ。右足を半歩前に出して口の脇に両手を添えてって何の指導をしてるんだ、何の。
「ところでケビン。このでっかい川は何?向こう岸が見えない」
「あぁ、普通はそう思うよな。おそらくパトリシアも初めて見ると思うけど、これは“海”って奴だな。
バルカン帝国やもっと南の方の国に行けば見る事が出来るものだな。北の方にもあるとは思うけど、如何せん北に向かった人間の話なんか聞いた事が無いからな~、正直分からん。
そんでさっきパトリシアが聞いていたここはどこって話に戻るけど、うちの屋敷の部屋に置いてあった扉の先の空間だな。どこか遠くの島に来たって訳じゃなく、この島を含めた周囲一帯が一つの箱庭世界になってるって奴だな。
ダンジョンで言うところのフィールド型階層って考えてくれれば一番分かり易いかな?この海の先を只管進んで行けば行き止まりになっているはずだ、行った事が無いからどんな感じになっているのかは分からないけど」
俺の言葉にフムフムと頷くケイト。これ絶対分かってない奴ですね、「つまりはいつもの奴ってこと?」ってケイトさん、その解釈は酷くね?
まぁそんな感じで二人の納得?を得て秘密基地での初日は過ぎたのでございます。
そんで二日目はお布団様の中でいつまでもキャタピラーになろうとするケイトを叩き起こして朝食を取り、マルセル村の魔の森にですね。
描写が無さ過ぎる?喧しい、話せるかそんなもん。
まぁやたら積極的だったとだけ言っておこう。なんでも領都学園の図書室には貴族令嬢向けのこうした指南書が置かれているんだとか、書籍名が「円満な家庭を築く為の貴族令嬢としての作法」となっているので男子生徒は誰もこの事実を知らないとの事。
一歩進んだ性教育、貴族社会では切実って事なんですね。
「えっと、ここって確か御神木様のある魔の森でしたよね」
森に案内する俺に声を掛けるパトさん(新婚二日目なのに一人寝の目覚め)に、「はい、これから御神木様の下に向かいます」と答える俺氏。
マルセル村の守護神御神木様、精霊信仰じゃないですが、結婚のご挨拶をするのは当然です。
魔の森には危険が一杯、当然の様にホーンラビットやマッドボアなんかが生息しますが、そうした魔物たちは前を進むブラックウルフのフリをした太郎とシャドーウルフのブラッキーが対処。対処と言っても気配を落とさないで先頭を進んでもらうだけなんですけどね。
この二頭は魔の森の魔物たちにとっては脅威以外の何物でもありませんから、皆様脱兎のごとく逃げ出して下さるのでございます。
木々の生い茂る魔の森の中、突如姿を現すポッカリと開けた広場。その真ん中には樹齢何百年?と言いたくなるような立派な樹木が佇んでいます。
その姿に「アレが御神木様・・・」と言葉を漏らすパトリシア。
俺はそんな彼女に優しく微笑み掛けてから、目の前の大樹に言葉を向けます。
「オイッス、神代様、ご無沙汰」
俺の呼び掛けに枝葉をワサワサと揺らし嬉しげに返事を寄越す“神代様”。
「御神木様から聞いてるとは思うけど、俺結婚してさ。こっちの三人が俺の嫁さん。
アナスタシアとケイトとパトリシア。こっちに来ることがあるかもしれないけど、その時はよろしくね」
“ワサワサワサワサワサワサ”
俺の紹介に枝葉を揺らし応える神代様。
俺はそんな神代様に手を振ると、「それじゃ先に進むよ」と言って森の奥へと向かっていくのでした。
「えっ?今の場所が“御神木様”のいる場所ではないのですか?ドレイクお義父様にはそうお伺いしていたのですけど」
戸惑いの表情を見せながら声を掛けて来るパトさん。マルセル村では“魔の森を進んだ先、大森林との境界線を守る様に佇む老木”と呼ばれてますからね。
「あぁ、今の大樹は“神代様”ですね。パトさんも知っての通り、御神木様はヨークシャー森林国の大儀式に紬と共に姿を現した神聖樹、元は魔の森の最奥にひっそりと佇むトレントだったんですけどね、進化しちゃいまして」
“ブワッ”
何かを通過したと思った瞬間周囲の気配が変わる。清浄な澄んだ空気、その場にいるだけで身も心も癒されるようなそんな感覚。
「これは御神木様の結界領域に入った証拠ですね。所謂“聖域”といった場所になります。ここは御神木様の許可を受けた者しか入る事が出来ない、神代様は言わば受付といったところでしょうか。
あぁ、見えてきましたね、あれが御神木様です」
森が切れ周囲が広い広場の様になった土地、その中心にどっしりと根を張る見上げるほど大きな樹木。先程の神代様の倍ほどに太い幹、高さは五割増しはあるだろうか。
だがその最も大きな違いといえば・・・。
「「「なんて神々しいの・・・」」」
神聖樹、その名に相応しい聖なる大樹。溢れ出る神気にその場に跪き祈りを捧げる嫁さんズ。
「ケビン、よく来たな。それに皆さんも。確か花嫁衣裳といったか?収穫祭でのドレス姿はそれは美しいものだと思ったよ、皆さんによく似合っていた。
ケビンとの結婚、本当におめでとう」
そう声を掛けて来た一人の偉丈夫。
「御神木様、わざわざ出迎えてくれてありがとうございます。
ブー太郎たちはどうしました?俺が来ることは<業務連絡>で伝えてあるんですけど」
「あぁ、なにかケビンたちの歓迎会を開くと言って、皆してダンジョンに食材の調達に行ったぞ?
ケビンたちが神代の所に到着した事は伝えておいたから、そろそろ戻って来るとは思うんだが」
“ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン”
それは巨大な白い骨、山のような巨体で地面を揺らし尻尾らしき白骨をブンブン振る姿は、来客者に駆け寄る子犬の様。
「シャロン、止まれ!!生肉を持って行ってもケビンさんたちは食べれないから、捕まえた獲物を自慢しに行くんじゃない!!
お前は初めての狩りを親に報告するグラスウルフの子供か~!!」
巨体は急には止まれない、跪き祈りを捧げていた嫁さんズが小さな悲鳴を上げる中、俺は複数の触腕を展開し、シャロンをやさしく受け止める。
「よう、シャロン、いつも元気だな~。今日は俺の嫁さんを連れて来たんだ、これから何度も顔を見せる事になると思うからよろしくな?」
“グギャ~~~~”
大きく口を開け嬉しそうに咆哮を上げるシャロン、当然の様にその口から零れ落ちる巨大な肉の塊。
俺は頭上から落下してくる巨大な肉塊を障壁で受け止めつつ、“シャロンって骨のくせに咆哮が上げれる様になったのな、って言うか吠えて肉を落とすってイソップ物語かよ!!”と心の中でツッコミを入れざるを得ないのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora