転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第539話 闇属性魔導士、学園での生活を謳歌する

ケイトがマルセル村から学園へ戻り最後の学園生活を送る様になってから二週間が経過した。当初男爵令嬢であるケイト・フロンティア嬢が学園を休み帰省し、ケイト・ワイルドウッド男爵夫人として復学した事で騒然とした雰囲気に包まれた領都学園ではあったが、それは嫉妬や羨望と言うよりも“あのケイトが!?”といったものが大半であった。

 

基本的に覇気が薄く常にボーっとしている地味な女子生徒、声を掛けると畑のお肉をくれるマルセル村の広報担当者、ハリー師匠の鋭いツッコミを引き出すボケ担当のお笑い芸人。

学園におけるケイトの印象は地味だけど記憶に残る女子生徒といったものであり、女性としての魅力とは全くかけ離れた存在だったからであった。

 

「ねぇねぇケイト、ケイトの旦那様って一体どんな人なの?」

「ん、ホーンラビット伯爵家のゴタゴタに乗じて一代で平民から男爵にまで上り詰めたやり手。私は勝ち組」

 

「それでそれで?そんな野心家の人だったら夜の方も・・・」

「旦那様はそれはそれは・・・ここから先は有料情報となります。畑のお肉他、角無しホーンラビット干し肉、可愛いラクーンのぬいぐるみなど各種取り揃えてございます」

 

「「「あ~ん、ケイトの商売上手~。ラクーンのぬいぐるみを頂戴!!」」」

昔から女性が三人揃えば(かしま)しいと言われている。思春期の女子生徒にとって、友人の新婚話ほど気になるものはないのだろう。

 

“ポンッ”

「えっ、何で俺肩を叩かれたの?って言うかなんでみんなそんな慈愛の籠った目で俺の事を見るの?

“相方が嫁に行ってしまって気落ちしてるんだろう?”って違うからね?

ケイトの旦那はマルセル村在住のケイトの恋人だから、前に学園にも来た事ある人だから、蜂蜜きな粉飴をくれた人だから。

“無理すんなよ、いい出会いもあるさ”って無理なんかしてないからね?

俺ちゃんと婚約者いるし、互いの両親に挨拶もしたし」

 

「「「「え~~~~~~!!ちょっとハリー、その辺詳しく話せ!!って言うかお前だけ抜け駆けしやがってふざけるな!!」」」」

何故かケイトの事で一方的に慰められたと思いきや責め立てられる羽目になるハリー・ファン。その後学園の掲示板に「速報!!“ツッコミのハリー”ことハリー・ファン氏(15)が婚約、お相手は一般女性(平民)との事!!」という号外が張られ学園中の話題を総なめにするのだが、その事を今のハリーは知る由もないのであった。

 

―――――――

 

「でもケイトが結婚ね~、まぁなんやかんや言って今やオーランド王国で知らない者はいないホーンラビット伯爵家に仕える男爵家の御令嬢だし?このご時世貴族家同士の婚姻外交がさかんだし?

少しでもホーンラビット伯爵家にお近付きになりたいって連中がケイトの周りに群がって来てもおかしくなかったしね。

ケイトも昔からケビンさんのお嫁さんになるって言ってたし、夢が叶ってよかったんじゃない?」

 

学園には様々な施設がある。その中の一つ魔法訓練場に集まり魔法訓練を行うダンジョン攻略パーティーの仲間たちは、自分たちに先立ち他家に嫁いだケイトに祝福の言葉を送る。

 

「ん、私がケビンの嫁になるのは運命。不確定要素を取り除いた私に死角はない」

胸を張りドヤ顔をするケイトに、呆れた視線を送るパーティーメンバーたち。

 

「私よりもミッキーの方が凄い。よくぞハリー師匠を落とした。私はミッキーを尊敬する。私たちはずっと友達、つまりズッ友!!」

「そうよ、なんでミッキーが“ツッコミのハリー”と一緒になってるのよ!

あなた一年の頃からヘルマン子爵家の私兵団に誘われて困ってたじゃない。と言うか親友の私にも内緒で一人抜け駆けって酷くない!?」

 

「えっ、いや、だってその、ローズはベティーと一緒にグロリア辺境伯家騎士団の入団試験に向けて頑張ってたし、なんか大変な所を邪魔しちゃ悪いかなって。

ケイトとアレンには相談したんだよ?二人ともハリー君のことは信頼出来るって言ってくれたし、ハリー君はヘルマン子爵家の仕事も決まってるって言ってたからいいかなって」

女性は結婚に対してリアリストである。憧れはある、ロマンもある、だがいざとなれば経済力や家庭力といった実生活での安定を求める者が女性なのだ。

 

ヘルマン子爵家次男バーナード・ヘルマンの側近衆の一人として多くの生徒を勧誘したハリー・ファンは、その実績を当主であるヘルマン子爵に高く評価された。ハリー自身が三年間の学園生活を通じ多くの生徒との間に関係を結び、広い人脈を構築した事も大きかった。

これはハリーがただバーナードの威光を笠に着るだけの者ではなく、バーナードを支えヘルマン子爵家に貢献する者であると判断された結果であった。

 

子爵家次男であるバーナードは次期当主と言う訳ではない。だが子爵家を内政面で支え次期当主である兄の力となることを期待された者であることは間違いない。ハリーの役割はバーナードの側近として彼に付き従い共にヘルマン子爵家を支えることにあるのだ。

 

「“オーランド王国は近年非常に危うい状態にある。ここグロリア辺境伯家も自治領として独立し北部貴族連合の盟主としてオーランド王国での生き残りに奔走しているのが現状だ。

ヘルマン子爵家はグロリア辺境伯家の寄り子として、北部貴族連合の一員としてこの難局を乗り越えなければならない。

バーナード様はこの時代の荒波と戦うご当主様や兄上様の支えになろうと日々奔走されているんだ。

俺はそんなバーナード様を支えともに歩む事の出来る男になりたい。

こんな俺だけど、一緒にバーナード様を支えてくれないか?”って言われた時胸がキュンと締め付けられちゃって。

その日からハリー君を見るたびにドキドキしちゃって。

それにハリー君って私の事をよく見てくれるって言うか、ちょっとした変化にも気付いてくれるし、気にしてくれるし。

それにね」

 

ミッキーの言葉を聞きながらパーティーメンバーたちは思った。

“それってヘルマン子爵家に勧誘されただけなんじゃないの?”と。

“よく見てくれる、気にしてくれるって言うけど、それって常に勧誘しようと隙を窺ってただけなんじゃ・・・”

 

「それでね、私の方から交際を申し出て、そうしたらハリー君が凄い驚いた様子で真剣に考えてくれて。

私の両親にも挨拶してくれたし、ハリー君の両親にも私を紹介してくれて」

 

「・・・ローズ、ハリーが誠実な男でよかったわね」

「まったくだ。私も幼馴染ながらミッキーがここまでチョロかっただなんて思いもしなかったわ」

 

「二人とも、ハリー君はちゃんとした人物だから、勧誘だってヘルマン子爵家の人間として当然の仕事をしてただけだから」

「ハリー師匠は素晴らしい男、私のボケを全て拾ったうえで膨らませてくれる真のツッコミ師。ツッコミに不可能はない、きっとミッキーの天然ボケにも素晴らしいツッコミを入れてくれるに違いない。それはなによりも幸せという事」

 

ミッキーのあまりのお花畑ぶりに呆れるベティーと額に手を当てるローズ。そんな二人に対しハリーを擁護するアレンと斜め上の崇拝ぶりを見せるケイト。

三年間の学園生活でただの嫌味な貴族の腰ぎんちゃくを稀代のツッコミ師に開花させたケイトは、自身もまたボケとしてツッコミ師ハリーに引き上げられてきたことを感じていたのだ。

 

「でもベティーも貴族令嬢、いずれは政略結婚が待っているはず。今のグロリア辺境伯家の現状からして、周辺貴族との結束は必要不可欠。そうなれば近しい年齢の独身男性の下に嫁ぐことになる可能性は大きい。

・・・いよ、バーナード様の奥様。ミッキーの事をよろしく」

「はぁ!?何を言ってるのよケイト、なんで私があのバーナードの所に嫁がないといけないのよ、ちょっと本当に勘弁してよね。私はグロリア辺境伯家騎士団に入るんだから~~!!」

 

女性は三人揃えば(かしま)しいと言われている。(二回目)

アレンは「あの~、そろそろ練習を再開しませんか~」と小さく声を掛けながら、女性の中に男性一人という肩身の狭さをしみじみと感じるのであった。

 

――――――――

 

そこはレンガ作りの通路を進んだ先にある頑丈な扉に守られた一室。扉には“関係者以外の立ち入りを禁ずる”の警告文が下げられており、めったなことでは人が近寄らない様に通路には魔道具による偽装工作が施されている。

 

“ガチャッ、ギィーーーーー”

そんな厳重な措置が施された扉が音を立て開かれる。部屋の中には魔道具による明かりが置かれ、部屋の最奥の台座では光輝く球体が妖しい明滅を繰り返す。

 

「フッフッフッフッ、どうやらあの御方の小指はうまく融合したようですね。全ての事態を想定し布石を置く、そこに自身の敗北すらも計算にいれる慎重さは尊敬に値します」

それは部屋に入って来た者の、呟き。その者の計画は着実に一つの成果を見せつつあったのである。

 

「新たに作られた人工ダンジョンは六つ、その全てが暴走すればグロリア辺境伯領は大混乱に陥るだろう。だがそれは全て布石、目的はその魔力暴走で発生する膨大な余剰魔力。

総統閣下、今しばらくのご辛抱を。全ての準備は整いました、復活の時は間もなくでございます」

 

そう語る者の瞳は、自身の言葉に酔いしれるかのように妖しい光を帯びる。グロリア辺境伯領に怪しい何者かの手が伸びる。

混乱の時は刻一刻と迫っているのであった。

 

――――――――

 

グロリア辺境伯家居城グロリア辺境伯執務室、執務机の席で大きく伸びをした当主タスマニア・フォン・グロリアは、ペンを置き側近にお茶の準備を頼む。その知らせはそんな穏やかな午後に不意に齎されることとなった。

 

「失礼します、グロリア辺境伯閣下に緊急の連絡が入っております」

飛び込んできた者は領内の情報収集を任せている部署の事務官であった。

 

「報告を聞こう」

「ハッ、ノーザリアからの通信です。ノーザリア第一人工ダンジョンに魔物暴走の兆候あり、大至急騎士団の出動を要請するとの事であります。

また同様の連絡が第二第三第四第五の各人工ダンジョンからも届いております」

 

「なっ、それは一体どういう事だ!?それぞれの人工ダンジョンはダンジョンとはいえその規模は比較的小さなものだ。領都にあったゴブリンダンジョンとさほど変わらぬ規模でしかなかったはずだ。

報告では小規模ながらもオークやワイルドシープといった有用なドロップアイテムを落とす魔物の湧くダンジョンに成長させることに成功したとあったはず、それがなぜ魔物暴走などという話に繋がるのだ!?」

席を立ちあがり声を荒げるタスマニア。人工ダンジョン計画は多くの資金を投じて行われたグロリア辺境伯領を支える中核事業となるものであった。十五年で採算ベースに乗せ、三十年で黒字に転ずるという試算も立てられており、長い時間を掛け準備が行われたタスマニア主導の大事業であったのである。

 

「第一第二第三ダンジョンにはそれぞれ第一第二第三騎士団を向かわせろ、早期鎮圧を目指し全力で事に当たらせろ。

第四第五ダンジョンに関しては冒険者ギルドに要請する。白金級冒険者シンディー・マルセルに直接依頼に向かえ、領主からの直接依頼であると言って構わん。

急げ、事は今後のグロリア辺境伯領の経済を左右する大事である。急ぎ事態を終息させ原因の究明を行うのだ。

この問題の解決を最優先事項とする、至急関係者を大会議室に召集せよ。皆の者、急ぎ取り掛かれ!!」

「「「「「ハッ、タスマニア閣下の御心のままに」」」」」

 

事態は動き出す。闇に蠢く思惑、グロリア辺境伯領は新たな混沌に飲み込まれようとしているのであった。

 




本日一話目です。
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