転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

541 / 861
第541話 闇属性魔導士、蠢く思惑に迫る

“ジュ~~~~~~”

金属で出来た脚付きの箱にくべられた薪、ほぼ<ファイヤー>と変わらない程の火力の<プチファイヤ―>により着火されたそこに金網を乗せ、ビッグワーム干し肉(ノーマルタイプ)を並べて行く。

収納の腕輪から折り畳み式の椅子を取り出し腰を下ろすと、木の枝で薪を突きながら火力を調整して行く。野外での食事は火加減が難しい、火力が強ければすぐに黒焦げになってしまうし、弱すぎれば時間が掛かる。

魔物蔓延るこの世界で安全地帯でもない野外においてダラダラと食事の支度をするなど自殺行為に等しく、その様な余裕のない冒険者たちは干し肉や堅パンといった携帯食を水で流し込むのが常となるのである。

 

「ん、こっちの干し肉はいい感じに育った。小皿を寄越すがいい」

調理人の女子生徒は丁度良い焼き加減となったビッグワーム干し肉をトングで掴み、対面の男子生徒の小皿に盛り付ける。

 

「・・・ケイトってこういう事本当に器用だよね。生活力があると言うかなんと言うか、その何事にも動じない胆力は是非見習いたいと思うよ」

男子生徒は受け取った焼き立ての“ビッグワーム干し肉”を口に運ぶと、「熱、旨い」と感想を口にする。

 

「ふむ、野外料理は女の嗜み。でも私は人妻、アレンの想いには応えられない」

「ウッ、そうなんだ、そうなんだよね。この美味しい干し肉も全てはケビン君の為にって違うから、俺にはそんなつもりなんてこれっぽっちもないから!!

 

・・・やっぱりハリー君って凄いね。なんか切れ味が違うって言うか、俺にはケイトの言う“ノリツッコミ”って奴は難しいみたい」

 

「うむ、確かにアレンはまだまだ。でもアレンは旅の行商人になる身、初対面の人とも仲良くなるための技術は必要不可欠。掴みは重要」

“ジュ~~~~~~”

金網から立ち昇る食欲を刺激する香り、女子生徒は十分に育ったビッグワーム干し肉をそれぞれの小皿に盛り付けると、フォークで突き刺し口に運ぶ。

 

「ってお前らこんなところで何をやっているんだ!!さっきから旨そうな干し肉の焼ける匂いで他の生徒の集中力が乱れまくってるじゃないか!!

前列、羨ましそうな視線を向けてるんじゃない、前を見ないか!!

敵魔獣、数は十五、魔法弾の詠唱を始めろ。よく引き付けるんだ、今だ、放て!!」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガーーーーン”

 

集団から撃ち出される各種攻撃魔法、その猛攻に次々と魔石に姿を変える魔獣たち。

ここは戦場、ダンジョンから溢れ出した魔獣の群れと人とが命を賭けてぶつかり合う決戦の地。

 

“ジュ~~~~~~”

「今度のは角無しホーンラビット干し肉、その旨さはモルガン商会の売り上げ記録を毎月塗り替える程のもの。

アレン、肉が欲しいか、ならばボケてみよ。見事なボケを見せたその暁には栄光の角無しホーンラビット干し肉を味わう事が出来るであろう。なに、失敗しても安心するがいい、その時はこの私が然もおいしそうに味わって・・・」

「やめて~~~、酷いよ、そんなの俺耐えられないよ。父さんにだって食事抜きにされた事もないのに!!」

 

そう言い両手を組み瞳をウルウルさせるアレン。ケイトはそんなアレンに「ぐぬぬ、こ奴、中々できる」と焼き立てのビッグワーム干し肉を進呈する。

 

「だ~か~ら~、これも授業の一環だから、おしゃべりしててもいいから食事は止めろ~~~!!」

額に青筋を浮かべ注意する魔法指導教諭に、しぶしぶ野外調理器具セットを収納の腕輪に仕舞うケイト。

 

「ケイト、ここが何処だか分かっているのか。ダンジョンスタンピードが起きている最中の最前線なんだぞ?

アレンもアレンだ、ケイトを引き止め注意すべきお前まで一緒になって一体何をやってるんだ」

 

そう、ここは領都グルセリアの中心部から外れた嘗てゴブリンダンジョンと呼ばれていた廃棄ダンジョンの前、ダンジョン洞窟から湧き出る魔物を抑え込むため領都中央学園から集められた学園生徒たちが力を合わせ戦う戦場であった。

 

―――――――

 

それはケイトたちがクラスメートと談笑している時に突如齎された急報、始まる緊急全校集会、知らされる廃棄ダンジョンにおけるスタンピードの予兆、その発生は最早時間の問題であった。

 

「領都学園生徒諸君、君たちはこれまで多くの物事を学び日々研鑽を積んできた、それは何故か。

この魔物蔓延る世界で女神様がお与えくださった職業やスキル、それは人類の希望であり生きる手段である。だがその力も使いこなす事が出来なければ宝の持ち腐れというものである。

君たちはそれぞれが素晴らしい力の持ち主である。その力は民を救い、ここグロリア辺境伯領のみならずオーランド王国を救う力ともなるであろう。

 

時は来た、今こそこれまでの研鑽の成果を見せる時。一学年生徒は己の持てる力の全てをぶつけよ。二学年生徒はそんな後輩を助けつつ戦場の流れを読み、迫り来る魔獣を殲滅せよ。三学年生徒は全てを俯瞰で観察し状況を理解し最小限の力で最大限の成果を発揮せよ。

この戦いは長期戦が予想されるがスタンピードは初戦が最も重要となる。魔獣共を街に向かわせるな、領都グルセリアの命運は我々の双肩に掛かっていると自覚し事に当たるのじゃ!!」

 

「「「「「オォーーーーーーーーー!!」」」」」

若者たちは奮い立つ。これまでの研鑽は何の為であったのか、自分たちは領都を守る英雄となるのだと。

 

だが彼らは直ぐに現実と直面する事となる。隊列をなして向かった先、廃棄ダンジョン洞窟前は既に無数の魔獣で埋め尽くされていたからである。

ゴブリン、ホブゴブリン、マッドボア、オーク、より大きなあれはオークジェネラルか。その数は数百、最早数えるのも馬鹿らしい。

その全ての魔獣たちが激しい殺気を募らせ参集する学園生徒たちに向け殺到した。

 

領都学園の生徒たちは選ばれた精鋭である。その才能を認められ学園に入学した者、貴族という血筋から学園入りを決めた者、将来有望な者との(よしみ)を求め学園生徒となった者。

その理由は様々なれど優秀な指導者の下時間を掛け研鑽を積み、学園ダンジョンにおいて経験を積んできた彼らが弱者であるという事はあり得ない。

 

だが、実戦の場、戦場では強者であろうとも容易く命を落とす。

大量の魔獣から浴びせられる怒涛の殺気は経験の浅い若者たちを一瞬にして畏縮させ、その力を封じ込める。

将来を嘱望される精鋭たちはただの木偶へと姿を変え、死の洗礼は容赦なく学園生徒たちを飲み込むはずであった。

 

「<ダークランス×100><ダークブレード×100>」

「シルク、手を貸してくれ。<ファイヤーランス×100>」

“ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、ドッゴーーーーーーーーン”

 

撃ち出される魔法攻撃、炸裂し、切り裂き、目の前の全てが蹂躙され、巨大な爆炎の中に飲み込まれていく。

学園生徒が、教師たちが、グロリア辺境伯領の領兵たちが見守る中、厄災は更なる力の洪水により一瞬にして飲み込まれてしまうのだった。

 

―――――――――

 

「私たちは頑張った。結果休憩時間(無期限)を手に入れた。

私は悪くない」

「どうどう、ケイト、落ち着いて。えっと、何かすみません。ちょっとお腹が空いてしまったものですから。

これからは気を付けます、本当に申し訳ありませんでした」

 

魔法指導教諭に向かい胸を張るケイトとそんなケイトに代わり頭を下げるアレン。魔法指導教諭はアレンとケイトに「頼むから大人しくしていてくれ!」と告げると、自身の持ち場に戻って行くのだった。

 

そう、ケイトとアレンはやり過ぎてしまったのだ。

今回のスタンピード制圧において学園側としては二つの思惑があった。一つは学園生徒にスタンピードという実戦の場を経験させることでその成長を促すというもの。実戦に勝る経験はないと言われる様に、いくら研鑽を積もうとも安全性の確保された訓練と実戦とでは経験の重さに雲泥の差が生まれるは必定。

学園生徒が魔物の殺気に当てられ足がすくむ事は織り込み済みの事象であった。

 

もう一つは学園生徒たちに自身の力を自覚させる事。

魔法とは武器であり凶器、その危険性を自覚せず無暗に振るう事は、断じて許されない行為。

逆に自身の力に溺れ尊大な態度を取っている者にとって実戦の場は己の脆弱さを身を以て知る機会ともなりうる。

この世界は人に厳しい、何も知らず世に出て短命で終わる者など掃いて捨てる程いるのが現実であるのだ。

 

無論教師陣によるフォローは行う予定ではあった、だが実際の状況は彼らの想定を大きく凌駕し、下手をすれば学園生徒の半数以上が亡くなるかもしれない絶体絶命の状況であった。

そんな状況をたった二人の生徒がいともたやすく覆した。

学園における最強パーティーと呼ばれる学園ダンジョン攻略パーティーのメンバー、アレンとケイトであった。

 

「「「「「えっ、え~~~~~~~!!」」」」」

学園生徒はおろか教師陣、廃棄ダンジョンに派遣された兵士たちの全てが驚愕の表情を浮かべる中、ドヤ顔を見せるケイトとポリポリと頭を掻くアレン。

爆炎のおさまった戦場に動くものはなく、地面に転がる魔石と瓦礫と化したダンジョン監視小屋だけが残される。

 

こうしてケイトとアレンは華々しい成果を上げつつも初戦戦力外通告(威力が強過ぎる為)を申し渡される事となったのであった。

 

“ガウッ”

そんな二人の下に一匹の魔獣が姿を現した。

 

「ん、ブラッキー、周辺の確認ご苦労様」

 

“キャウン”

「アレン様、只今戻りました」

続いて現れたのは真っ白な体毛に緑色の蔦のような文様を刻んだ大きな狐とメイド姿の者。

 

「シルク、織絹、ありがとう。それでダンジョン周辺に広がった魔獣の状況はどうだったの?」

「はい、基本的にスタンピード時の魔物は一か所に纏まる性質がありますので、アレン様とケイト様の魔法攻撃により第一波は完全に防ぐ事が出来たものと思われます。

それでも中には変わり者と言いますかハグレ者がいるようで数体の魔獣を討伐する事となりましたが、現在は問題ないものかと」

 

「ん、ブラッキーも周辺に散った魔獣は全て討伐されてると言っている。あとはダンジョン洞窟から溢れる魔獣をチマチマ倒すだけ。もはや私の出番は終わった」

ダンジョン外へ溢れた魔獣は何も集団でスタンピードを起こすものばかりではない。学園教師陣は気が付いていなかった様であったが、暇を持て余していたケイトが自身の影に忍ばせていたブラッキーと戯れようとした際にブラッキーの気配察知がその事をいち早く感知、現場を離れる訳に行かないケイトとアレンに代わり(教師陣による監視の目が厳しかった)、ブラッキーとシルクと織絹がその対処に当たっていたのである。

 

「でも本当に良かったよ、ダンジョンのスタンピードって聞いた時にはどうなることかと思ったけど、この様子なら学園の生徒たちだけでもどうにかなりそうだし」

そう言いアレンが見詰める先には今も魔法指導教諭の合図の下ダンジョンから溢れる魔獣に魔法攻撃を行う学園生徒の姿。

 

「戦士系の生徒と交代制で対処しているから魔力枯渇の心配もない。ダンジョンの魔物暴走は完全に制御下に置かれたとみていい。

それよりも気になることがある」

そう言い上空を見詰めるケイトに首を傾げるアレン。

 

「昨日から変だとは思っていた、ここに来てそれがはっきりとした。ダンジョンから溢れ出した魔物が討伐されるたびに周囲に広がる余剰魔力によって濃厚になった周辺魔力が一点に向けて集まっている。

アレンも目に魔力を集中すれば分かる」

そう言いある方向を指差すケイト、アレンは言われた様に目に魔力を集めその方角に目を向ける。

それは空に浮かぶ六本の光の筋、その全てが領都学園に向け降り注いでいる。

 

「これは一体・・・」

「おそらく学園のダンジョンに向かっている。昨日から感じていた違和感の正体はこれだった。学園から離れる事ではっきりと見える様になった。

学園ダンジョンの中で何かが起きている。でもこれを教師に言っても理解出来ない、繊細な魔力操作に熟達していないとあの光は見えない。現に誰もこの事に気が付いていない」

 

ケイトはそう言い周囲を見渡す。そこにはダンジョンスタンピード対策に奔走する学園生徒と各教師陣の姿。

 

「これって俺たちで対処しないと駄目って事だよね」

「ん、お邪魔虫は黙って姿を消すのが肝要。“私は小リス、無害な小リス、幹の洞に籠って冬眠する”」

 

気配を消し廃棄ダンジョンを後にするケイトとアレン。だがその事に気が付く者は誰一人としていなかったのであった。

 




本日一話目です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。