転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第542話 闇属性魔導士、人の妄執と対峙する

“ガチャッ”

開かれた扉、室内には幾つもの棚が設置され、様々な商品が並べられている。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

響く靴音、扉を開き入ってきた人物はそれらの商品には目もくれず、真っすぐに奥のカウンターに向かい歩を進める。

 

「親父さ~ん、いますか~?ケビンで~す。注文していた鞘を受け取りに来ました~」

 

どうも、辺境の雇われ男爵、ケビン・ワイルドウッドです。ここはグロリア辺境伯領領都グルセリアの職人街にある武器装具工房ヘンドリック武具店、今日は頼んでいた“闇喰らい”の鞘を受け取りにですね。

“闇喰らい”さん、元々ボロボロのロングソードだっただけあって装具がかなり古くてですね。剣身は魔力をぶち込む事で勝手に修復されたんですけど、流石に鞘は。封印の術式が施された鞘だったようで趣はあったんですけど、如何せん扱いが悪かったみたいでかなりガタが来てたんですよね。

このところ“闇喰らい”も確り働いてくれたってのもあって、ご褒美に鞘を新調しようって事になった訳でございます。

 

「おう、坊主、出来てるぞ。しかし相変わらずお前の好みは渋いな。ブラックウッド自体が黒色の素材だからな、赤銅色というよりより黒に近い仕上がりになっちまったが、これはこれで味があると思うぞ?金具装飾には黒鉄を使った、坊主は派手なのは好まないだろうからな。

通常状態の“闇喰らい”であれば地味な剣と渋い鞘といったくらいにしか見られないんじゃないのか?それとこの剣帯はおまけだ、オーク革の通常品だが色合いがちょうどいいと思ってな」

 

そう言い親父さんが箱から取り出した鞘と剣帯を手に取りじっくりと眺める。確かに渋めの赤黒と言うか茶色に近い赤を黒っぽくした色と言うか。我ながら渋い趣味だと思う。

剣帯はダークブラウン、うん、悪くない取り合わせ。これには仮性心もニッコリです。

 

俺は収納の腕輪から“闇喰らい”を取り出して鞘から引き抜くと、新しい鞘に納めるのでした。

 

“ブォ”

鞘に納められた瞬間全体から赤黒い闇のオーラを発する“闇喰らい”。“闇喰らい”さん、テンションアゲアゲのご様子、親父さんがドン引きなさっておられます。

 

「“闇喰らい”、嬉しいのは分かるけど色々溢れちゃってるから、ちょっと落ち着きなさい。それに親父さんの迷惑になるから」

俺の言葉にスッと怪しい気配を引っ込める“闇喰らい”。鞘の素材がブラックウッドなだけあって魔力の通りもよく、“闇喰らい”としては圧迫感もなく伸び伸びとした状態なんでしょう。

以前の鞘は封印が目的の品ですからね、そりゃテンションも上がるというもの、黒鴉も親父さんの作った鞘は絶賛してたもんな~。魔剣(妖刀)に認められし名工、その腕は伊達ではありません。

 

「親父さん、素晴らしい品をありがとう。それであと二振りほどヤバそうなブツが「ちょっと待て、うん、その仕事の話はまた今度って事にしよう」・・・そう?

まぁそうだね、別に急ぐ事でもないし鞘の素材選定も終わってないしね。いずれお願いするかもしれないけどその時はよろしくお願いします。

それでお代の方なんだけど」

「あぁ、それなんだが坊主の持ち込んだブラックウッドの残りを買い取らせてもらってその中からって事で構わないか?

ちょっとこないだうちに来た職人仲間にブラックウッドを見られちまってな、どうにか譲ってもらえるよう交渉してくれないかって頼まれちまってよ」

 

そう言い申し訳ないと頭を下げる親父さん。ブー太郎ハウスにも使われている大森林中層の丈夫な材木、なんか王都商業ギルドでも結構な金額が付いたんだよな~。

まぁ親父さんにはいつもお世話になっていますし、こちらとしても別に否やはございません。

俺が了承の意を示すと「いや、助かるわ。アイツとは長い付き合いだから断るに断れなくてよ」とほっと胸を撫で下ろす親父さんに、“何だったら収納の腕輪にまだ入ってますよ”とは流石に言えない俺氏。

 

「そうそう、ちょっと気になってたんですけど、領都で何かありました?街の雰囲気が落ち着かないと言うか騒々しいと言うか」

「あぁ、それか。何でも昨日グロリア辺境伯様が推し進めていた人工ダンジョンでスタンピードが起きてな、それも五か所全部が魔物暴走を起こしたってんでちょっとした騒ぎになってるんだよ。

だがスタンピードを起こしたって言っても所詮二階層しかない人工ダンジョンだしな、規模もたかが知れてる。

グロリア辺境伯様の素早い判断で、第一第二第三騎士団並びに白金級冒険者“守護者シンディー”様をはじめとした高位冒険者に緊急依頼が発令されて事態は既に収まってるんだけどな。

ケガ人こそ出たものの死者は一人も出ていないって言うんだから、本当にちょっとした事故といった感じなんだろうな」

 

へ~、それってあれだよね、タスマニア閣下の肝いりで行われていた大事業、リフテリア魔法王国から来た魔導士が主体となってゴブリンダンジョンのダンジョンコアを使って頑張ってたって奴。

あれ遂に完成したんだ。って言うか俺がダンジョンコアとダンマスを避難させて代わりのコアを設置してから二年半くらいしか経ってないよね?

それでスタンピードを起こすぐらいにまで成長させたって、凄いなリフテリア魔法王国の魔導士。大聖堂にあった時刻自動調整機能付きの大型振り子時計もリフテリア魔法王国産って言ってたし、バルカン帝国と言いリフテリア魔法王国と言い、技術力の差が甚だしいです。

 

「!?あっ、親父さん、ごめん、急用を思い出した。鞘の支払いとブラックウッドの買取りに関しては親父さんにお任せします。次に領都に来た時にでも寄らせてもらいますんで、そう言う事で」

俺は親父さんに断りを入れると、急ぎヘンドリック武具店を後にするのでした。

 

「それでブラッキー、ケイトたちは学園ダンジョンに向かってるんだね?了解、これは見逃せませんぞ!!

また何かあったら<業務連絡>で知らせてくれる?よろしく~♪」

俺は親父さんから貰った剣帯を装備、暗めの赤銅色の鞘に納まった“闇喰らい”を帯剣すると気配を消して領都学園の学園ダンジョンへと急ぐのでした。

 

――――――――

 

「ん、やっぱりすごい事になってる」

 

五か所の人工ダンジョンで起きたスタンピードはグロリア辺境伯家第一第二第三騎士団並びに領都グルセリア所属の高位冒険者たちの手により無事終息へと向かった。

ただし今回のダンジョンスタンピードは人工ダンジョンにおいて起きた言わば事故であり、ダンジョンコアを破壊して終了という訳には行かない。スタンピード制圧に向かった人員はそのままダンジョンから溢れる魔物の制御を行う事となり、ダンジョン内の魔力バランスが整い魔物の湧き出しが収まるのを待つこととなったのである。

 

だが正確な意味では人工ダンジョンは五か所ではない。人工ダンジョンの基となったダンジョンコアを採掘したダンジョン、領都グルセリアに存在した全四階層のゴブリンダンジョンと呼ばれていた廃棄ダンジョンも、ダンジョンコアの種となるダンジョンコアの欠片が設置され、ダンジョンとしての育成が行われていたのである。

 

領都における主要戦力が全て出払ってしまっている現状、第六人工ダンジョンと呼ぶべき廃棄ダンジョンで発生したダンジョンスタンピードは、領都グルセリアに多大な被害を及ぼすと思われた。だがそれは次代を築く英雄の卵である領都学園生徒たちの手により制圧され、教師陣の指導の下学園生徒たちにより制御管理される事となったのである。

 

領都グルセリア周辺で起きた未曾有のダンジョン災害はグロリア辺境伯領の人々の手により早急且つ安全に管理下に置かれ、ただの事故として処理される事となったのである。

 

だがその事故に人の悪意が介在していたとしたらどうであろうか。人々がダンジョンスタンピードを制圧し、ダンジョンの外に溢れたダンジョン魔物を全て討伐をすることまでが織り込み済みであり、その事こそが目的であったとしたら。

 

領都グルセリアの上空に現れた六本の光の筋、それは魔力操作に熟達し目に魔力を込め見上げなければ見る事が出来ない特別な光。

 

「うわ~、ケイトの言う通りだったよ。これって全部学園の人工ダンジョンの中に取り込まれてるんだよね?もしかして大量に魔物が発生しちゃってるとか?これって大丈夫なの?」

 

その全ての光が集まる場所、領都学園の人工ダンジョンは集まる魔力を取り込み淡い光を発生させる。

 

「分からない、でも行くしかない。このまま放置したら何が起こるのか分からない。

これは間違いなく何者かが意図的に行っている現象。目的があり結果がある以上、碌な事が起こらないのは確定的」

 

ケイトの言葉に表情を引き締めるアレンと織絹。

 

「行こう、ケイト、ブラッキー。シルク、織絹、力を貸してくれるかい?」

長杖を持つケイトがコクリと頷く。ケイトの脇に控えた大型のシャドーウルフが“ガルル”と唸りを上げる。

メイド姿の織絹が腰のロングソードを叩き「どこまでもお供致します」と応え、美しい白い体毛に緑色の蔦の文様を彩った大型の狐が“キャウン♪”と楽し気に鳴き声を発する。

 

若者たちは向かう、未知の困難に向けて。その胸に宿る信念の下に。

 

 

「か~、堪らん。そして勇者は仲間と共にダンジョンに向かうのであった~!!

これぞ青春、ビデオ撮影を出来ない事がここまで悔やまれるとは。皆さんの勇姿、この胸にしかと刻ませていただきます!!」

 

何かの呟きが空間に溶ける。

妖しく光る領都学園人工ダンジョンの入り口、そこは全ての人々を地獄に引きずり込む厄災の門。複雑に絡み合う人々の思惑、ダンジョンはその全てを糧とし不気味に変容しようとしているのであった。




本日二話目です。
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