転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第545話 辺境の理不尽、理不尽に振る舞う

“コトッ”

テーブルに置かれたティーカップが音を立てる。

自身の全てを語り終えたヒュンゲルは、どこか遠くを見詰めながらこれまでの人生を振り返る。

若かりし頃理想に燃えていた自分、躓き、挫折し、“栄光の王国”の活動に傾倒して行った。総統閣下に憧れ、心酔し、総統閣下の御為(おんため)に自身の全てを捧げようと決意した。

 

グロリア辺境伯領に来たのは組織の指示であった。領都学園の魔法講師の傍らタスマニア・グロリア卿の推し進める人工ダンジョン計画に手を貸し、組織の技術を提供する事で貢献して行った。

彼らは気付く事もないだろう、この人工ダンジョン計画自体組織の工作により巧みに誘導されたものだったという事を。中心人物として全体の指揮を執っていた魔導士が、巧みに誘導され計画を修正させられていたという事を。

 

“あの魔導士の実力では作製できるダンジョンは四つ、生成に十年掛かる所が八年に縮まる程度が精々でしたからね”

ヒュンゲルの工作は功を奏し、ダンジョン計画は彼の思惑通り急ピッチで進められていった。

 

“学園での講師生活は悪くなかったですね。案外私は若者にものを教えるというのが好きだったのかもしれません”

仮初の身分、それでもヒュンゲルにとって教師という生活は充実した穏やかなものであった。

 

「うん、面白い。君の話、凄く面白いよ。

でもそうか、そうなると僕は君にとって(かたき)になるのかもしれないね。

君が聞かせてくれた“栄光の王国”という組織と“総統閣下”という人物、そして“ハイヒューマン計画”というものに少し心当たりがあるんだ。

 

大森林深層部、深い森に囲まれたその場所、ぽっかりと開けた土地に城が建ち、周囲を三つ首のレッサードラゴンが警戒する。

地下には様々な魔物を使った実験が行われる施設があり、おそらく作り出したキメラ同士を戦わせていただろう空間拡張が施された闘技場があった。

 

一体でも都市を壊滅させるようなキメラが何十体も使役されていて、多くの幹部級の者たちは自身に何らかの改造を施していた。

 

総統と呼ばれた者は途轍もない力を秘めた人物だった。膨大な魔力を持ちながら周囲の者から魔力や生命力を吸い取る事も出来る。細切れにされすり潰されようとも再生が可能な肉体、更に言えば皮膚の欠片でもあればそこから再生し無限に増殖する悪夢のような存在、それが総統であった。

“我は一体何を、何故世界などを求めて・・・”

消えゆく瞬間の総統の脳裏に宿った思い、総統が本当に欲しかったものは一体何だったんだろうね」

 

“スーーーーッ”

口に付けたティーカップをテーブルに降ろし、ナニカは言葉を続ける。

 

「さっきの舞台で君が生み出したもの、君自身の人型と総統閣下。あれはダンジョンコアの力で作り出したものと考えていいのかい?」

「・・・そうですね、ダンジョンコアは取り込んだものを作り出す事が出来る。人工ダンジョン計画でオークやマッドボアを生み出す際に使ったのがこの手法です。

その応用として総統閣下をダンジョンコア自体と融合させ新たな存在として蘇生しようとした。ですが生み出されたのはまるで魂の抜けた意思無き存在、空虚な瞳を宿した“何か”でした。

 

私はその“何か”に取り込まれ結果としてダンジョンコアに登録された生成物の一つとなった。第七階層で作り出した“総統閣下”は形あるものとしてのダンジョン生成物となります」

 

「なるほどね、本当に凄いものだわ。おそらく魔力で繋がった存在なのかな?ある程度操ることも可能といった感じなんだろうね、さっきの舞台でも様子を見ながら調整していたみたいだし、あの触手を使った全体攻撃を行えば生徒さん達ももっと苦戦したはずだしね。

 

それで君はどうしたいんだい?色々と面白い話も聞かせてもらったし、出来る限り望みを叶えてあげるよ?

出来ることと出来ない事はあるけどね、でも大抵の願いは叶えられるんじゃないかな?創意工夫は得意なんだ」

 

そう言いどうぞとばかりに返答を促すナニカ。

ヒュンゲルは思う、総統閣下は敗れるべくして敗れたのだと。あらゆる魔法、あらゆる魔術、あらゆる魔導式に精通し、人類の生物としての限界も、魂の限界すらも超えたその先へ辿り着いた絶対の頂点。総統閣下は全人類を統べる絶対者であった。

 

だがそれはあくまで人類という枠組みの中での話。

人は神には敵わない。かつて神の怒りを買い滅ぼされた国家があった。天を覆い尽くさんばかりの天使の軍団、神聖魔法による猛攻は大地を焼きすべてを灰燼に帰した。

“愚者の夢”、地上にある生物の頂点たる絶対者、ドラゴンの怒りを買いどれ程の国がドラゴンブレスの餌食となった事か。

 

ナニカは言った、「大抵の願いは叶えられる」と。おそらくそれは事実なのだろう。目の前の存在はそんな人智を超えた“ナニカ”であるのだから。

 

「あっ、もしかして信じられないとか?そうだな、だったらその一端をお見せしましょう。

例えばそうだな、さっき君が作った総統閣下、ソレの倒し方を見せるってのでどうかな?

さっきの生徒さんたちはとんでもない魔法を使って全てを消滅させてたけど、アレってもっと簡単に倒す方法があるんだよね~」

 

そう言い“総統閣下”を作り出す事を要求するナニカ。ヒュンゲルは一体何を言っているのかと訝しむも、言われた通りに“総統閣下”を出現させる。

 

「えっと、まずおさらいなんだけど、総統閣下が行う<再生>や<増殖>、アレって要は魔法現象なんだよ。切れ端や肉塊からでも触手を伸ばし自身を構築する、魔力が足りなければ触手が周囲の魔力をかき集めていくらでも再生する。

でも必要な条件は一つ、だから幾つかの対処法が考えられるんだよ」

 

“スーーーーッ”

引き抜かれたのは腰に差していた赤黒い鞘のロングソード。一見なんの変哲もない数打ちの品。

 

「これは適性があればだれでも出来る方法かな。“闇喰らい”、出番だ」

“ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ”

 

瞬間剣身が赤黒く染まり、脈打つ血管が全体を覆い出す。溢れる気配は深い怨念、世界を呪い殺さんばかりの殺気が空間を埋め尽くす。

 

“スパスパンッ”

振るわれた呪い、胸から上、胴体、下半身と三分割にされた“総統閣下”は切り口を濃厚な闇の呪いに覆われ、そのまま床に崩れ倒れ伏す。

 

「まぁこういった強力な呪具によって傷口から再生できない様にするって方法が一つ。“闇喰らい”、ご苦労様。

世の中には結構この手の呪具が転がってるからね、例えばこんなのとか?」

ナニカは呪われたロングソードを鞘に戻すと、虚空から二振りの剣を取り出した。

 

“ジュワジュワジュワジュワ”

一振りは周囲の空間を侵食し全てのものを腐敗させる破滅のショートソード。一振りはこの世の全ての怨念を集約した呪詛の塊のようなサーベル。

二振りの魔剣は空間を侵食し互いに反発し合い、世界に崩壊を齎さんとする。

 

「“お前らうるさいぞ、少し黙れ。・・・潰すか?”」

“ギシッ”

世界が軋む。途端先程まで部屋を覆い尽くしていた破滅の気配は霧散し、寧ろ清浄な空気が室内に満たされる。

 

「ハハハハ、いや~、ごめんね~。こいつらちょっとやんちゃでさ~、後でよ~く言い聞かせておくから、許してくれる?」

““カタカタカタカタカタカタカタカタ””

激しく振動する二振りの剣、ヒュンゲルはナニカに対しただ頷くだけの人形と化す。

 

「そう?なら良かったよ。本当にごめんね、こいつらは仕舞っちゃうね。

・・・光属性魔力液一週間だからな(ボソッ)」

““!?ガクガクガクガク””

 

怯える様にして虚空に消える魔剣、このナニカには決して逆らってはいけない。その場で姿勢を正したヒュンゲルは、己の魂に強く刻み付けるのだった。

 

「いや、本当にごめんごめん。まぁこんな感じでってあいつら総統閣下を半分食っていきやがったな。マジでお仕置きが必要だな、憶えてやがれ。

えっとなんだっけ?そうそう、総統閣下の倒し方だったよね。

こうした呪具による倒し方がまず一つ、もう一つは総統閣下から魔力を完全に吸い取るか総統閣下の周囲から魔力を消し去る方法だね。

魔力を吸い取るやり方は総統閣下自身がやってるしね、やり方は一緒。

魔力枯渇空間はダンジョンのトラップにもそうしたものがあったはずだから、君も出来るんじゃない?」

 

“ズワッ”

ナニカから漆黒の魔力が“総統閣下”の胸から上と胴体に伸びる、するとドンドン干からびて行きやがてミイラの様になる“総統閣下”。

 

「総統閣下自体魔力現象の塊みたいな存在だから、この手の攻撃には弱いと思うよ?

最後はまぁ魔法やスキルかな?<クリーン>の魔法を高次元で極めれば消滅魔法の様に使う事も出来るし、浄化系スキルでも似たような事が出来る。僕の場合は<浄炎>って言うこの世の汚れを焼き払い魂を来世に送るって言うスキルがあるからね、それでお終い。<浄炎>」

 

“ブワッ”

白色の炎が最後に残った下半身を焼く。灼熱の炎でも焼く事の出来ない筈のソレは、まるで炙られた紙のように灰となって姿を消して行くのだった。

 

「ね、どうとでもなるでしょう?だから君が恐れている様な君自身の暴走が起きたとしても何という事も無いから安心して欲しいかな?」

それは心の内を見透かしたような言葉。総統閣下の為に捧げた命、ならば総統閣下の蘇生を試み結果失敗し命を落とした事に後悔はない。

だが今の自身はどうだ、ダリル・ヒュンゲルでも総統閣下でもない不安定な自分、総統閣下の力が暴走し学園生徒達を傷付ける事にでもなれば自身が正気でいられるというのか。

 

「・・・私は再び教鞭を振るいたい。ダンジョンコアとなってしまった自身がダンジョンから出られるのかは分からない。ダンジョンスタンピードの魔物よろしく数日で消え失せてしまうかもしれない。

でも私は、我が儘が許されるというのなら、一人の教師としてこの命を終わらせたい」

それはこれ迄の全てを失ったダリル・ヒュンゲルに残った最後の願い。自身がすでに人ではない事など百も承知している、それでもまたあの教壇に立ちたいという切なる思い。

 

「・・・いいね、いいんじゃないかな?僕はそういう人の思いは大好きだよ。人はやっぱり心意気だよね、その存在がどうとかじゃない、胸に宿る思いに真っ直ぐに。

君はいい教師になれると思うよ、仮初じゃなく本物のね。

 

でもそうなるとこのダンジョンの現状をどうにかしないといけないよね。

<業務連絡:ダンジョンコア:ダンジョンマスター>

“急にごめんね、ちょっと頼みたい事があってさ。悪いんだけど二人ともこっちに来てくれる?”

<召喚術:ダンジョンコア:ダンジョンマスター>」

 

突然床に広がる六芒星を円で囲んだ魔法陣、光り輝くその中心からせり出すように現れたのは一体のゴブリン。

 

「ダンマス、突然ごめんね。ちょっと訳あってさ、ダンジョンコアが必要になっちゃったんだよね。

ここのダンジョンコア、人為的にいじられちゃった結果人と融合しちゃいました。だもんで代わりが必要になっちゃって」

“ギャウギャウギャギャ”

“ポワンポワンポワン”

 

「そう?どうもありがとう。そうしたらそこの台座の上に作ってくれる?そう、そこに元々置かれてたから。

“コロンッ”

ありがとう、用が済んだら改めてお礼に行くから。<送還:ダンジョンコア:ダンジョンマスター>」

再び魔法陣が現れたかと思うと、ゴブリンはその中に吸い込まれる様に姿を消すのだった。

 

「やぁ、新しいダンジョンコア。先ずはこのダンジョンを掌握してくれるかい?全七階層、相当傷んでるからこの際作り替えちゃっていいから。

そうだな、ついでだから階層数を増やしちゃおうか?全十階層くらいで。

九階層目にボス部屋を作って、十階層目はダミーコアの部屋って事で。

それとこのダンジョンは学園生徒向けの鍛錬ダンジョンだから基本ダンジョンマスターは置かない方針で頼めるかな?詳しい運営については担当の人間がやって来るから。

今のところこちらのダリル・ヒュンゲルさんが担当者だから作り変えるダンジョンの構造についてはヒュンゲルさんから話を聞いてくれる?専門家だから結構詳しいと思うよ?

それで暫くは改装工事期間って事でダンジョン自体を封鎖しちゃってくれる?出来上がってから開放って事で。学園への報告は改装が終わり次第ヒュンゲルさんにしてもらう形で構わないんじゃないかな?階層変動に巻き込まれたとかなんとかって事にしちゃえばバレないバレない」

 

“ポワンポワン”と発光し了承の意を示すダンジョンコアに、「それじゃとりあえず二百年分くらいの魔力を注いどくね~」と言って手を翳し濃厚な魔力を注ぐナニカ。

ヒュンゲルはあまりの状況の変化について行けず、ただ茫然と佇む。

 

「そうそう、今のヒュンゲルさんはダンジョンと切れた状態だから、下手に魔法を使うと倒れちゃうから気を付けてね?

それでヒュンゲルさんが教師を続けるにはダンジョン以外の魔力供給源が必要になるんだけど、当面は取り敢えず僕が賄っておくから。いずれ何か考えておくけど今はそれで我慢してくれる?<長期雇用契約:ダリル・ヒュンゲル>」

“ポワッ”

両者の間に繋がる何か、それは魔力供給の行われる確かな絆。

 

「これで魔法を使っても倒れる事はなくなったから。ダンジョンから出ても平気、今まで通りに生活出来るはずだよ?

それと悪いんだけど“ハイヒューマン計画”関連の資料があったら全部提出してくれる?キメラもそうだけど、その関係の技術はちょっと危険でね、見つけ次第回収して欲しいって頼まれてるんだよね」

そう言い肩を竦めるナニカ。だがヒュンゲルにとってもはや“栄光の王国”時代の事は過去の事象となっていた。

 

“この先いつまで生きれるのかは分からない、だが悔いのない様毎日を精一杯生きよう”

ヒュンゲルは学園教師という新たな目的の為、平凡で穏やかな日常を過ごす事を硬く心に誓うのであった。

 




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