転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第546話 闇属性魔導士、日常を取り戻す

グロリア辺境伯領で起こった人工ダンジョンにおける同時多発的なスタンピードの発生から一週間が経過した。

 

「ご報告いたします。この度スタンピードを引き起こしました第一から第五の各人工ダンジョンからの魔物流出は完全に停止、第一・第二・第三騎士団並びに白金級冒険者シンディー・マルセル、金級冒険者パーティー“黄金の羊”、“蒼天の矢尻”により各ダンジョンの魔物の発生が通常状態に戻っていることが確認されました」

 

グロリア辺境伯家居城大会議室に安堵のため息が漏れる。人工ダンジョンによる経済の活性化計画は現当主タスマニア・フォン・グロリア辺境伯が主導したグロリア辺境伯領における新経済政策であり、その成功の是非はグロリア辺境伯領のみならず北部貴族連合に多大な影響を与える大問題であったからである。

 

「また領都グルセリアの廃棄ダンジョンにおけるスタンピードですが、領都学園の迅速な行動により周辺被害を出す事なく魔物を抑え込む事に成功。現在ダンジョン内の調査が行われていますが、各人工ダンジョン同様事態は終息したものと思われます」

報告者の言葉に会議の長であるタスマニア・フォン・グロリア辺境伯は大きく頷きを見せる。

 

「報告ご苦労、皆も聞いた通りだ。此度のダンジョンにおける魔物暴走は一応の終息を見たものと考えてよいだろう。引き続き状態の観察は必要であるが、緊急の事態は去った。

後は原因の究明と再発の防止である。この人工ダンジョン計画はグロリア辺境伯領の主軸となり得る経済政策である。

ホーンラビット伯爵が齎したビッグワーム農法により領内の食糧事情は大幅に改善したものの、この地が産業に乏しい地域である事に変わりはない。

グロリア辺境伯領の発展は北部貴族連合の発展に、延いてはオーランド王国西部地域全体の発展に繋がるものと心得よ。

 

それと此度の人工ダンジョンのスタンピードに呼応する様に起きた学園ダンジョンの異変についてはどうなっておるか」

 

「ハッ、ご報告申し上げます。

一時大きな爆発を起こした学園ダンジョンですが、どうやら大規模な階層変動が起きた模様であります。

各人工ダンジョン並び廃棄ダンジョンのスタンピードを受け、学園ダンジョンのダンジョンコアルームに派遣されていた管理者の魔法講師ダリル・ヒュンゲル氏がこの階層変動に巻き込まれる形で行方不明となっておりましたが、階層変動の終了に伴い第一階層から姿を現したとの報告が入っております。

ダリル氏によれば気が付いた時には第一階層にいたとのこと、これは以前ゴブリンダンジョンで見られた現象に非常に近しいもので、これまで学園ダンジョンにおいてみる事の出来なかった事象である事からダンジョン内の構造が大幅に変化したものと考えるのが妥当と思われます」

 

報告者の話にタスマニア卿は腕を組み暫し瞑目する。

 

「相分かった。学園には暫くダンジョンの使用を中止する事を通達、冒険者ギルドに依頼しダンジョン内の詳しい調査を行わせるように。

場合によっては使用制限を設ける必要があるやもしれん、担当部署を作り学園と協議の上生徒の安全を考慮して判断せよ。

ここにスタンピードの終息を宣言する。各人ご苦労であった」

「「「「ハッ、ありがたきお言葉。グロリア辺境伯家に栄光あれ」」」」

 

こうしてグロリア辺境伯領における人工ダンジョンの()()は終息を迎えた。本来災害であるスタンピードを一人の死者も出す事なく安全に終わらせたグロリア辺境伯の手腕は多くの領民に安心と自信を与え、人々はこの事故の解決に尽力した第一・第二・第三騎士団、“守護者シンディー”・“黄金の羊”・“蒼天の矢尻”といった高位冒険者、そして未来の英雄である領都学園生徒達を褒め称え、街は連日のお祭りムードに包まれるのであった。

 

――――――――

 

「ケイト~~~~!!話は聞いたわ、あなたまた無駄に実力を晒したんですってね!!」

領都学園に平和が戻った。領都グルセリアに存在する廃棄ダンジョンで起きた大規模スタンピードは、領都学園生徒達の尽力により完全に押し止める事に成功した。

発生当初こそ次々とダンジョン洞窟から現れる魔物に手を焼いたものの、その勢いは次第に衰え、各学年混合の班を作ることで交代制で事に当たる事が出来たのである。

この事は戦闘における立ち回りやそれぞれの役割分担を学ぶよい機会となり、多少ケガ人を出したものの、実戦の場における実地訓練は普段のダンジョン探索では得る事の出来ない貴重な体験として生徒たちにとっての財産となった。

 

「ん、ベティーおかえり。

騎士団でのご活躍、おめでとうございます。お話は武術指導教官から伺いました。流石は我が学園の誇りと大変喜んでおられました。

そんなベティーには角無しホーンラビット干し肉の燻製ピリ辛味を進呈。

新しく開発されました漬けダレに一晩漬けこんだ角無しホーンラビット干し肉を時間を掛けじっくり燻した逸品、是非ご賞味ください」

 

「へ~、新作か~。これは楽しみ。

モグモグモグ、うん、旨味が凝縮されている。ホーンラビットの本来の持ち味も活かしつつ漬けダレによるピリ辛の味付けが飽きを来させない絶妙な風味となってって違~~~~う!!

そうじゃないでしょうよ、ケイトが廃棄ダンジョンでとんでもない魔法を披露したっていう話でしょうが~~!!」

 

肩で息をしながら盛大なノリツッコミを行うベティーの姿に、“うむ、流石はベティー、ハリー師匠の教えが活かされた良いツッコミ。ベティーの三年間の学園生活は決して無駄ではなかった”と感慨深げに頷くケイト。

ケイトはそんなベティーの成長に、収納の腕輪から新たに“畑のお肉味比べ・お徳用詰め合わせ袋”を取り出しそっと手渡すのだった。

 

「えっ、こんなに貰っちゃっていいの?ありがとう、すごくうれしい。

ビッグワーム干し肉がないと口が寂しいって言うか、騎士団のスタンピード制圧作戦に参加してた時の唯一の不満がそこだったのよねって誤魔化すな~!もっと欲しいのかなってそうじゃないから、ケイトの話だから、干し肉を出そうとしない!私はお肉を欲しがる我が儘少女か!!」

 

「素晴らしい。私はベティーと友人になれて本当によかったと思う。

ありがとうベティー、是非騎士団に入ってもそのツッコミ力を活かして頑張ってください。

それと魔法は中級魔法の<ダークランス>と<ダークブレード>を撃っただけ、何の問題もない」

そう言いどうだとばかりに胸を反らすケイト。

 

「そうね、確かに中級魔法の<ダークランス>と<ダークブレード>だったと聞いているわ。でもなんで一回の詠唱で無数の中級魔法を撃てるのよ、しかも短縮詠唱って」

「ん、短縮詠唱はアレンも出来る、そこまで難しくはない。数は必要だったから?スタンピードは数の暴力、数には数で対抗する、これは定石」

ケイトの反論に「だからその数を短縮詠唱で出せる事が問題なんじゃない」とこめかみを揉むベティー。

 

「あなた前から王都の学園に行きたくないとか言ってなかった?大きな力は多くの悪意を引き寄せるとか言って実力を隠してたのは知ってるけど、いくら緊急事態だったからって大勢の前で披露しちゃってよかったの?」

それは友人であるからこその心配、そんなベティーのやさしさに胸の奥が温かくなるケイト。ケイトはそっと“畑のお肉味比べ・お徳用詰め合わせ袋”を取り出し「って違うからね?ビッグワーム干し肉が欲しくて言ってる訳じゃないからね?でもそのお気持ちはありがたく」・・・なんやかんや言って好意を素直に受け取るベティーはいい友人であると改めて思うケイトなのであった。

 

「うむ、ベティーの心配は尤も。先生たちからも驚きの声と王都中央学園への推薦の話はあった」

「それじゃ・・・」

 

「でも断った。理由は簡単、私は人妻、王都中央学園に行く理由がない。

それにここグロリア辺境伯領は自治領、授けの儀の際に上級職を授かったのならまだしも領都学園生徒であれば無理に編入させることは出来ない。大体三年生の卒業間近の生徒を編入させる意味が分からない。

 

アレンも同じような理由で断ってた。アレンは卒業後実家の伝手で行商人の修行に入るらしい。修行が終わったら大陸東方の国、創国にシルクの買い付けに行くと言っていた」

 

人妻となったケイト、ツッコミ師匠と婚約しヘルマン子爵領に向かう事になったミッキー、商人の道を進むアレン、グロリア辺境伯家騎士団に入団するローズと自分。それぞれが自身の道を見つけ進み始める。

ベティーは学園生徒という時間が終わり、学園ダンジョン攻略パーティーの皆がバラバラになってしまう事に、どこか寂しさを感じ口を噤む。

 

「あぁ、ベティーさんにケイトさん、ここにいらしたんですか。学園長がお呼びです、何でも現在調査が行われている学園ダンジョンの事についてだとか。

今すぐではないですが、一通りの調査が終わり次第学園生徒による使用試験を行いたいと仰っておられました。

詳しい事は学園長執務室でお伺いください」

「あっ、ヒュンゲル先生、わざわざありがとうございます。ケイト、学園長執務室ですって、直ぐに行くわよ」

 

声を掛けてきた学園講師に礼を言い急ぎ学園長室に向かおうとするベティー。ケイトはそんなベティーに「先生と少し話があるからベティーは先に行く」と告げると、学園魔法講師ダリル・ヒュンゲルに目を向けるのであった。

 

「・・・ヒュンゲル先生、()()だったんですね」

「えぇ、心配してくれてありがとう。ダンジョンの()()に巻き込まれた時はどうなる事かと思ったけどね、何とか無事に帰って来る事が出来たよ」

 

「それでヒュンゲル先生は()()()どうするつもりですか?」

「そうだね、折角拾った命だ、後はのんびり学園の魔法講師の職を全うするつもりだよ。

分相応、身の丈に合った生活というのも悪くない。私は一度すべてを失った身だからね、あとは与えられた時を気ままに過ごそうかと思っているよ」

 

ヒュンゲルの全てをやり切ったといった表情に、“あぁ、この人は既に新しい道を歩き出したんだな”と心の変化を読み取るケイト。

 

「そうそう、これは私に生きる道を示して下さった御方からケイトさんとアレン君にと預かったものなんだが」

そう言いヒュンゲルが取り出したもの、それは黒っぽい材木で作られた短杖と木札。

 

「アレン君にはこの短杖を、ブラックウッドで作った品と言っていたかな。ケイトさんにはこの木札を、これがどういった物かは分からないけど、渡してくれればいいと言っていたんだ。

材質は短杖と同じブラックウッドだね、でもこれといった魔法効果もなさそうだし、これは一体どういう品なんだか」

 

ヒュンゲルは「忘れずに学園長執務室に行くように」と一言加えると、その場から離れて行った。

 

「フフフ、本当に心配性な旦那様」

ケイトは木札を大切に制服のポケットにしまうと、足取りも軽く学園長執務室へと向かうのであった。

 

――――――――

 

“クツクツクツクツクツクツ”

竈に掛けられた鉄鍋が音を立てる。マッシュとキャロル、オニールのぶつ切りがマッドボアのもも肉と一緒に湯の中で楽し気に踊る。

味付けは甘木汁とエルフの里で購入した溜まり醤油、お客さん相手に料理を出すとなると使う調味料の使用量も馬鹿にならないと心配になるも、いざとなったら“上”で買って来てもらえばいいかと一旦考えを放棄する調理人。

小皿に菜箸でマッシュを取り分け、箸を刺して火の通り具合を確認し、確り火が通っている事が分ると口に入れて味見する。

 

「うん、確り味が染みてる。酒とみりんが無いからどうかと思ったけど、これはこれでありかな?今度は魔国で手に入れたシュガールを使ってみよう、またちょっと違った味わいになって美味しいかもしれないしね」

調理人は煮物の出来に満足気に頷くと、竈の火を散らしてから鍋に蓋を乗せる。

 

厨房を出るとそこは木製のカウンターテーブルが用意されたこじんまりとしたホール。棚には幾つかの酒瓶が並べられ、きれいに磨かれたグラスが用意されている。

調理人は村酒場のホールには似つかわしくない見事な造りの女神様像の前に跪くと、両手を組み真摯に祈りを捧げる。

 

「あなた様、居酒屋ケビン、オープンです」

 

“ガチャッ”

“遅い、いつも言ってるでしょうが、何かやったらすぐに連絡しなさいって。“報告・連絡・相談”は社会人の基本って言ってたのはケビンでしょうが。あなたも結婚したんだから少しは落ち着きを持ちなさい、落ち着きを”

 

扉を開いて飛び込んできた絶世の美女に、行き成り説教をかまされてしまいました。どうも、南の島の調理人、ケビン・ワイルドウッドです。

いや、心当たりはあるんですけど、あれは俺のせいじゃないっすよね?

何故か理不尽に怒られてるんですけど?

俺は取り敢えずお客さんにカウンターの席を勧め、お料理をお出しする為に厨房へと戻るのでした。

 

“コトッ、コトッ、コトッ”

「根っ子野菜とマッドボアの煮込み、マッドボアのショウガ焼き、それとごはんですね。

まぁお仕事でお疲れでしょうから、先ずは腹ごしらえという事で。

いま味噌のスープを用意いたしますので」

 

俺の言葉に嬉しそうに箸を伸ばす天上人。あなた様、いつの間にか箸の使い方をマスターなさっておられました。あれって結構難しいのに器用におかずを摘まんでおられます。

何でも本部長様に“ご飯はスプーンではなくお箸です”と言われお箸をプレゼントされたのだとか。上司のありがたい無茶振り、流石天上のOL(総合職)、日頃の苦労がしのばれます。

 

“ふぅ~、人心地付いたわ。やっぱり仕事が立て込んでると駄目ね、怒りっぽくなっていけないわ。

本当に居酒屋ケビンが定期営業していないのが悔やまれるわね、まぁケビンにも生活があるし文句を言うのもおかしいんだけど。

それで話って言うのはグロリア辺境伯領で起きたダンジョンスタンピードの一件ね。

放浪の大聖女に言われてアーカイブを確認したんだけど、ケイトちゃんの歌唱魔法、威力がとんでもないわね。いくら魔法が本人の想像力が大切とは言え神話の再現って、しかもあの獄炎、軽く神聖魔法の領域に手を伸ばしてたわよ?

まぁその分使用の難しいものになってたけど、今後の成長が凄く楽しみな逸材ね。

 

それで本題はその後、あなた、例の組織の生き残りを配下にしちゃったでしょう。ダンジョンコアと融合しちゃったって言うよく分からない状態の。

これまで人がダンジョンマスターになったって例は結構あるけど、人とダンジョンコアが融合したっていうのは初めてなのよ。そうした研究が行われていたことはあったんだけど、いずれも上手くは行かなかったみたいでね。

いずれ担当部署から担当官が観察に行くと思うから、その時は協力してあげて頂戴”

 

呆れた表情でそう告げるあなた様、まぁこっちとしては別に否やはないんで素直に返事をしておきましょう。

 

「畏まりました、その時はご連絡ください、ヒュンゲルさんにも時間を取ってもらう事にしますので。それとこちらはヒュンゲルさんが所有していたハイヒューマン計画とキメラ関連の資料ですね。ヒュンゲルさんはそれこそ先程あなた様が仰っていたダンジョンコアと人との融合の研究をしていた人だったみたいです。

 

本来はダンジョンコアを使って総統閣下の復活を行うはずだったんですけど、総統閣下は俺が<浄炎>で成仏させちゃいましたんで魂のない抜け殻として肉体だけが再生されたみたいでして、そこにヒュンゲルさんが取り込まれて今のような状態になったって訳です。

ヒュンゲルさんには言ってませんけど、彼が作り出す“総統閣下”はある意味ダンジョンコア人間を量産できる危ない技術なんですよ。

ダンジョンコアだから寿命がどれ程か見当も付かない、疑似的な不死、自立して移動可能なダンジョンコアってちょっと怖いかもしれないですね」

 

俺の言葉に顔を引き攣らせるあなた様。俺はそんなあなた様に光属性マシマシマシマシカクテル(甘太郎の甘木汁バージョン)をそっと差し出すのでした。

 

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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