転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第547話 転生勇者、王都に行く準備をする

季節は巡る。秋の収穫祭も終わり、ホーンラビット牧場やラクーンさんの面影の残る建物、聖者の行進の軌跡の見学にマルセル村を訪れる観光客はすっかり数を減らし、フィヨルド山脈からの吹き下ろしの風も冷たくなって来た。

冬の訪れ、今年もまたマルセル村に修羅の季節がやって来た。

 

「この飲んだくれ爺、小麦は食料に使うって言ってるだろうが!!クッキーやパン、蒼雲さんが教えてくれた麺料理にも小麦を使うって言うのに何考えてるんだい、少しは村の発展を考えないか道楽者が!!」

“ドカドカドカドカドカドカ”

 

「喧しい若作り婆、エールは命の泉、飲むパンだろうが!!大体クッキーやパン、新しい麺料理って言ったってマルセル村で消費する量なんざたかが知れてるだろうが。

村で消費する分のエールを自分たちの手で作って何が悪い、ご領主であるホーンラビット伯爵閣下も地場産業の発展には賛成して下さってるだろうが!!」

“ドガドガドガドガドガ”

 

「このど阿呆、アンタらは作り出したエールを全部自分たちで飲んじまうじゃないかい、全く地場産業の発展に繋がってないじゃないかい!!」

「お前は“地産地消”って言葉を知らないのか?地元で作られたものを自分たちで消費する、大変すばらしい試みじゃないか。

それにちゃんと金は払ってるぞ?収穫祭や春祭りのときはホーンラビット伯爵家で買い取って下さっている。エール作製班は確りと利益を上げているんだぞ?」

 

「働いた分の賃金を飲み代につぎ込んでおいてなにえばってる、この盆暗が~~!!」

「干し肉加工場の賃金を甘味と美容商品につぎ込んでいる奴に言われたくないわ、若作り婆~~!!」

 

“バシバシドガドガドガドガドガドガ”

 

村の外れ、ボビー師匠の訓練場には今日も村人たちの元気な声が木霊する。農閑期に入り畑の後始末や道具の整備、薪作りや家の修繕といった細々とした仕事を終えた村人たちは、日頃のストレス発散と体力作りを兼ねて訓練用のヨシ棒を手に身体を動かす。

冬季期間によく身体を動かす事で農作業で縮こまったり偏ったりした肉体を回復させ、バランスの良い状態で来年の作付けに備える。これは医療の乏しい辺境の農村では必要な健康習慣なのだ。

 

「「今日こそ絶対分からせてやる!!」」

“ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ”

 

・・・健康習慣なのだ。

例えそれが地を駆け、宙を飛び、対戦相手を遥か後方に吹き飛ばす程の打撃を放つほどのものであろうとも、あくまで健康を目的としたレクリエーションの一環であって、“グワァ~~~~”・・・辺境の農村には今日も穏やかな時間だけが流れるのであった。

 

“フゥ~~、スーーーーーッ、スーーーーーッ”

ゆっくりと、だが淀みなく木刀を振るう若者たち。その顔は皆真剣で、そしてその額には冬の季節だというのにジワリと汗がにじみ出る。

 

“フゥ~~、スーーーーーッ、スーーーーーッ”

そんな彼らの様子を見守る老人は、その頬を緩め満足そうに頷く。

 

「ジミー、ジェイク、エミリー、フィリー、ディア、皆真剣に剣に向き合っているようじゃの」

「「「「「ありがとうございます、ボビー師匠」」」」」

 

「ジミーよ、お主もそうじゃが皆の仕上がりはどうじゃ?」

「はい、やはり無意識のうちに行われていた力の制御がかなり甘くなっていた様です。意識すれば針孔に糸を通す様な繊細な作業であってもこなす事が出来ますが、日常の何気ない瞬間に問題が生じる可能性があったようです。

それこそ子供の頃にエミリーが木刀を折りまくって落ち込んでいた時の気持ちがよく分かりますよ」

 

ジミーはそう言うと、訓練場の脇に積んである葦の茎の山から一本引き抜き手に握る。

 

“ビュンッ、ビュンッ”

葦の枝は風切り音を立て振り抜かれるも、まったく折れる気配を見せない。マルセル村の村人たちであれば皆習得している<魔力纏い>、魔力を葦の茎に流す事で折れずに丈夫にする技術。

 

“ヒュンッ、ヒュンッ”

そのまま振るわれた葦の茎、だが今度は魔力を纏わせない全くの技術による振り。繊細な身体操作、力の加減、そうした肉体そのものの運用法によってもたらされる絶技。

 

「戦闘の場であればこうした身体運用も続ける事が出来ますが、こと日常となるとどうしても油断が。以前ボビー師匠が仰っていた身体強化系スキルに目覚めた者の苦悩というものを自覚させられたと言いますか、これはこれでよい訓練になってるんですが」

 

そう言い苦笑いを浮かべるジミーと同様に乾いた笑いを浮かべる若者たち。

マルセル村の者たちは強くなった。<魔力纏い>を覚え<覇気>を身に付け、厳しい環境にも人々の害悪からも身を守る術を手に入れた。

老人や大人たちは辛い農作業や魔の森の間引き、魔の森での木の切り出しなどこれまで負担となっていた作業を難なくこなせるようになり、快適な日常生活を手に入れた。

既に身体が出来上がり切ってしまっていた大人たちはそれでよかった。

 

だが村の若者たちは違う。成長し大人の身体に育っていく過程で身に付けたそれらの力は、肉体を強靭なものとし戦闘に適した身体に作り変えた。

筋力然り、精神力然り、打たれ強さも切り替えの早さも、既に一流の戦士と言っても構わない領域に達した若者たち。

そんな彼らが何気に肩を叩いたり反射的に手を払ったりしたらどうだろう?

常に肉体に薄い魔力の膜を纏い身を守っている(虫や植物の棘から)マルセル村の大人たちなら大した問題はないだろう、だがそうした技術のない王都の者たちであったら。

 

一般の生活に溶け込み問題なく過ごす。ドラゴンにあやとりをしろと言わんばかりのこの作業は、若者たちの新たな目標となったのである。

 

「うむ、お主らにとっては大変な事であろう。フィリーとディアはそれでも修行年数が浅い故そこまでの困難でもないであろうが、ジミーとジェイクはの。エミリーの様に<手加減>のスキルが目覚めればよいのじゃが、こればかりは訓練によるしかない。

冒険者は基本そうした事は気にせんかったからの、弱いものが悪いが冒険者の考えじゃで、儂は力になれそうもないかの」

そう言い申し訳なさそうな表情になるボビー師匠。

 

「おっ、頑張ってるね~、感心感心」

そんな彼らに声を掛けた一人の青年。マルセル村のお兄ちゃん改め、マルセル村の理不尽、ケビンなのであった。

 

「何じゃケビン、お主も所帯を持って少しは剣術に身を入れる気になったのかの?だったら儂自ら・・・」

「だ~、やめい、直ぐ戦いたがるんじゃない、この戦闘狂爺が。

今日はジミーに用があって来たの、それとなんか手加減のことで悩んでるって聞いたから俺なりの提案をね」

 

そう言うケビンの周りにはピョコピョコ飛び跳ねる可愛らしい数体のホーンラビット。肩と頭の上にはプルプルと身を震わせる三匹のスライム。

 

「大体こんな状態の俺を見てなんで剣術の訓練に来たと思うかな?

スライムにホーンラビットを引き連れてるんだよ、どう見てもおかしいよね?」

「「「「「「ごめん、全く違和感を感じなかった。ケビンお兄ちゃんがおかしいのはいつもの事だし」」」」」」

 

「皆酷くない!?俺、泣いちゃうよ?」

ガックリと膝から崩れ落ちるケビンに、慰めの言葉が思い浮かばない面々。

 

「もういいです、そういう事にしておいてください。それで手加減の訓練だね、方法は簡単、こちらの癒し隊の皆さんを抱っこして戯れてください。癒し隊の皆さんから合格をいただければ問題ないでしょう。

他にもスライムと戯れるという手もあります。スライムは御存じのように最弱の最下層魔物です。大人が踏み潰せば死んじゃいます。

ミッシェルちゃんくらいのお子様に叩かれたくらいじゃ問題ありませんが、ジミーたちくらいの体格の若者に乱暴に扱われればすぐにお亡くなりになっちゃいますからね。

 

まぁ愛情を注ぐペットに対して乱暴を働く者はいませんし、生活全般でそうした心持でいれば滅多なことは起きませんっての。

こういうのは本当に慣れですからね、見た目オーガな父ヘンリーが小柄なメアリーお母様と上手く生活できてるくらいなんだよ?そこまで心配しなくても大丈夫だから。

皆は急激に力を付けたから慣れが必要ってだけだから。

それじゃ癒し隊の皆さん、ご協力、お願いします」

“““““キュキュキュキューーー!!”””””

 

ケビンの号令にバッと身を起こし敬礼するホーンラビットたち。訓練の積まれた優秀なホーンラビットたちに呆れた顔になるも、彼らの醸し出す愛らしい仕草に表情を緩める若者たち。

 

「そうだ、さっき俺に用があるって言ってたけど、一体何の用があったの?」

ジミーはホーンラビットを抱っこし首元をモフモフさせながら言葉を向ける。自然で年相応な柔らかな笑みを浮かべるジミーの姿に、““グホッ、ジミー君の癒し系王子様の笑み、これは大変貴重、どこかに絵師の方はいませんか~~~!!””と叫び出したいのをグッと堪えるフィリーとディア。

 

「そうそう、悪いんだけどシルバリアンを出してくれる?

なんかジミーの所のスライミー達が自分達もジミーの役に立ちたいって言って俺に相談に来てさ。ちょっと思い付いた事があるんで実験してみようと思って」

そう言い収納の腕輪から何かを取り出すケビン。

 

「ケビンお兄ちゃん、それは?」

「ん?木製の骨格人形。ほら、アンデッド魔物にスケルトンってのがいるじゃん?あれって骨なのによく動くんだよね。

ただのスケルトンはそれこそ最弱と言ってもいいくらいに弱いらしいんだけど、スケルトンソルジャーとかスケルトンナイトとかになると相当に強くなるってヘンリーお父さんが言ってたのを思い出してね。

それじゃスライミー達、練習した通りにやってみて」

 

“““プルプルプルプル”””

“ボトッ、ボトッ、ボトッ”

ケビンの声にプルプルと身を震わせてから地面に落ちるスライムたち。スライムたちはそのままモゾモゾと動くと、まるで木製骨格人形を取り込むかのように周りに張り付くのでした。

 

「よし、それじゃ立ってみようか」

“ゴソッ、ゴソゴソゴソ”

 

手を突きゆっくりと身体を起こす木製骨格人形、その動きに唯々驚きの顔になる一同。

 

「まだ訓練を始めたばかりだからね、立って歩いてといった簡単な動きしか出来ないんだけど、それでもスライムとしては十分凄い成果だと思うんだよね。

それでここからが本題。やぁシルバリアン、久し振り」

“お久し振りです、ケビン殿”

 

そこにいたのは全身甲冑を着た何者か。ジミーの指に嵌められた従魔の指輪から現れたことで魔物の一種だという事は分かるものの、流暢な会話を行う魔物に驚きの表情を見せる若者軍団とボビー師匠。

 

「ふむ、そ奴はリビングアーマーの魔物じゃの。以前ダンジョンで出会った事があるわい。しかし会話を行うリビングアーマーなど初めて聞いたぞい」

「まぁ特殊な個体なんでしょうね。ブー太郎や御神木様もそうですが、特殊個体の中には人と会話をする者も結構いますんで、珍しくはありますがそれ程不思議といったものでもないかと。

世の中にはしゃべる剣なんてものもありますし」

 

「あぁ、勇者物語に出てくる聖剣の事かの?

確か聖剣に認められた勇者にしか扱う事が出来ないとか。どこぞの王家に代々受け継がれているとか、隠された聖域にひっそりと眠っているとかなんとか。

剣の勇者も見つける事は叶わなんだという事ではなかったかの?」

「まぁそうですね。他にも魔剣なんてものもありますし探せばそれっぽいものもあるのかと。

すまん、シルバリアン、話が逸れた。

それでお前に試して欲しい事があってな、以前シルバリアンは中身があるのとないのとでは強さが変わると言ってただろう?そこの木製骨格人形を操るスライミー達を取り込む事で動きに変化があるのか試して欲しいんだよ。

それでお前が強くなれるんならジミーの訓練相手にもなれるし、心強い仲間にもなれるだろう?」

 

“!?”

ケビンの言葉に驚くシルバリアン。これまでスライムを取り込む事などした事もないし、考えたことも無かった。

 

“分かりました。どうなるのか分かりませんが何事も挑戦という事ですな”

了承の意を示すシルバリアンにワクワクを隠せないと言った表情になるケビン。

 

「よし、スライミー達、シルバリアンの身体に触れるんだ。あとはシルバリアンが身体を動かしてくれるからその動きを覚えるように。

何度も繰り返して行けば次第に滑らかな動きも出来るようになるはず、頑張れ!」

最後は精神論に走るケビンではあったが、スライミー達は身をプルプルと震わせてから全身甲冑であるシルバリアンに近付いて行く。

 

“ピカー”

スライミー達がシルバリアンに触れた瞬間、木製骨格人形を操るスライミー達とシルバリアンが淡く光り、スライミー達の身体にシルバリアンが装着される。

 

“ガチャガチャガチャ”

自身の身体を動かしその操作性を確めるシルバリアン。

 

“ふむ、悪くはないですな。身体がある事で芯が定まり安定した動きを取る事が出来る。重心が生まれたことで力強い攻撃が行えるようになった事がいい。

更に言えば肉体がスライムである事で可動域に殆ど制限がない、かと言って力なく崩れる事もない。これは木製骨格人形という支えがあってはじめて実現できた性能でしょう。

まだスライムも私も動き自体に慣れていない為ぎこちなさはありますが、癖がない分すべての技に順応できる。

ケビン殿、ジミー殿、暫しのお時間をいただきたい。このシルバリアン、必ずやスライムとの一体化を実現して見せましょう”

 

そう言い力強く頷くシルバリアン。

そんなシルバリアンの態度に満足気に頷くケビンとジミー。

その様子をホーンラビットを撫でながら眺めていたジェイクは、‟うん、いつもの奴だね、知ってた”とどこか遠い目をしながら現実逃避に走るのでした。




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