転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第548話 転生勇者、王都に行く準備をする (2)

空の高い所を雲が流れる。

“ドカドカドカドカ、ブンッ、ドカドカドカドカ”

 

澄んだ冷たい空気が肌をキュッと引き締める。

“カンカンカンカン、シュッ、ブンッ、カンカンカンカン”

 

膝の上にはモフモフとした小動物、やさしく背中を撫でると“キュキュキュ”と鳴き声を上げ、気持ち良さ気に目を細める。

“ダンダンッ、バッ、ドカドカドカ”

 

「ジェイク君、偶にはこうやってゆっくりとした時間を過ごすのもいいかもね」

「そうだな。俺たちは少し気負い過ぎていたのかもしれないな。

所詮辺境の田舎者、王都で上手く立ち回ろうだとか世界に羽ばたく冒険者だとか、そんなものはあくまで結果論だもんな。

俺たちの目標は何か功績を残して有名になりたいとか取り立てられて高い地位に就きたいとかじゃない、見た事のない風景をこの目で見たい、様々な土地でその土地ならではの美味しいものが食べたい。簡単に言えばこの世界を楽しみたいってだけなんだから。

もっと自由に、気ままにのんびりと。確かに力は必要かもしれないけど、それも楽しみの一つってだけだしな。

 

“キュキュキュ~♪”

ん?ここが気持ちいいのか?ほれほれほれ、お前は可愛いな~」

 

ゆっくりと流れる時間、心穏やかな人々、この辺境の地マルセル村に生まれてよかったと心の底から思う。

 

「糞ババァー!!」「糞ジジィー!!」

「「吹っ飛べ分からず屋~~~!!」」

 

「ワハハハハハ、滾る、滾るぞ!!シルバリアン、もっとじゃ、もっと行くぞい!!」

 

“ドガドガドガドガドガドガドガドガ”

 

透き通るような青い空、人々の営みを見下ろすかの様に数羽のビッグクローが草原に向かい飛んでいく。

 

「「「「平和だね~~」」」」

俺とエミリー、フィリーとディアは、ボビー師匠の訓練場の端で腰を下ろしホーンラビット(癒し隊)をモフリながら、目の前で繰り広げられる光景に改めて“マルセル村ってやっぱりどこかおかしい”という思いを強くするのでした。

 

「ボビー師匠、シルバリアン、そこまでです。

シルバリアンは一度装着を解除してくれる?ちょっとスライミーたちの状態を確認したいんで。

いってもスライミー達はまだそこまで強いスライムじゃないからね、いくらシルバリアンの動きについて行けると言っても耐久性が急激に上がるってもんじゃない。

その辺の冒険者をシルバリアンが取り込んだとして、戦闘終了後中身の冒険者が無事ですむって訳じゃないだろう?

焦りは禁物、シルバリアンもその辺は気を付けて欲しい」

 

“ふむ、ケビン殿の言わんとする事はよく分かる。要はスライムたちの成長にともない出来る範囲、全力で動ける時間や力の制限が解放されて行くといった事だな”

 

「その通り、これまでも取り込んだ人物によって出来る事の範囲が違ったように、スライミー達を一から育てるくらいのつもりで訓練を行って欲しい。

当面はマルセル村の暇人相手に模擬戦でもやっておいてくれ。それとこのマジックバッグに濃い目の魔力水をしまっておいたから定期的にスライミー達に飲ませてやってくれ。

要は人間がやってる訓練と似たような感じだな」

 

“相分かった。ケビン殿、何から何まで感謝する”

 

さっきまでボビー師匠と激しい模擬戦を行っていた全身甲冑の魔物、リビングアーマーのシルバリアンがケビンお兄ちゃんと何か今後の事について話し合いをしている。

ケビンお兄ちゃんって、前世でたまに見ていたモンスターをGETしながら旅をする某国民的アニメに出て来るジムトレーナーって人達みたい。

そのうちモンスターバトルとかするのかな?“大福、<火炎放射>だ!!”とかやるのかな?

・・・言ったらやりそうだな、うん、黙っておこう。

 

でもあのシルバリアンって魔物、どこかで見た事があるような?

なんかものすごく大事な事の様に思うんだけど、思い出せない。シルバリアンって名前も聞いた事があるようなないような?

俺まだ十代なんだけどな~、色々と濃い人生を歩んでるからな~。(遠い目)

 

シルバリアンを脱着したスケルトンスライム(木製骨格標本)のスライミー達は三体に分離し、ケビンお兄ちゃんが用意した魔力水の入った盥桶にズルズルと入って行きます。

スライミー達って本当にただのスライムなのね、確かジミーが暗黒大陸で修行していた時に身体の汚れを取るのに使っていたって言ってたやつだよな。身体の汗や油、服の汚れもキレイにしてくれてとっても助かっていたって言ってたけど、そんなに凄いんだろうか?

俺も王都の学園に入る前にスライムの準備をした方がいいのかな?

スライムを連れた勇者、うん、俺にぴったりかもしれない。あとで大福に紹介して貰おう。

 

「そうだ、ジミーにもう一つ話があったんだわ」

ケビンお兄ちゃんはスライミー達の状態を観察していた盥桶から何かを思い出したといった感じに顔を上げ、シルバリアンと模擬戦の検討会を行っていたジミーに声を掛けるのでした。

 

「なに、ケビンお兄ちゃん」

「例の亀さんの修行が終わったって連絡が入ってさ、配達がてら後で引き取りに行こうと思って。

家の脇に簡易的な小屋を建てる事になると思うから、父ヘンリーとメアリーお母様に話を通しておいてくれる?」

 

ケビンお兄ちゃんの言葉に獰猛に唇を引き上げるジミー。

えっ、亀って何の話?スゲー嫌な予感しかしないんですけど!?

 

「分かった、ヘンリーお父さんとメアリーお母さんには俺の方から言っておくよ。小屋作りはお願いしてもいい?俺ってそういうの苦手だからさ」

ジミーの返事に手を振って“了解~”と応えるケビンお兄ちゃん。

・・・亀の修行をお願いする配達先?

うん、これ以上考えてはいけない。俺の中の危機察知能力が全力で告げて来る、“お前にはまだ早い”と。

 

オーランド王国の最果てマルセル村、これはそんな片田舎で行われるちょっとした日常。

・・・俺、王都でちゃんとやって行けるんだろうか。

俺はマルセル村とは比べ物にならない程人も物も多い王都に向かう事に一抹の不安を覚えつつ、俺の膝をテシテシと叩き“ナデナデに集中する!!”と文句を言うホーンラビットを再び撫で始めるのでした。

 

――――――――

 

「ちわ~す、酒屋のケビンで~す」

広い洞窟の中に俺の声が響く。スキル<大声>はこうした呼び掛けの際にその本領を発揮する。

 

“うむ、ケビンよ、いつも悪いの。こちらから取りに出向ければいいのだがそれも迷惑になるのであったか、中々に人の世も難しい”

頭に直接響く高位存在からの返答、その相手はまるで初めからその場所にいたかのように、唐突にその存在を露にする。

 

“相変わらず気配を消すのが上手な高位存在だ事”

俺は何度会っても慣れない圧倒的な存在感にビビりつつ、“最強生物がマルセル村に来たらシャレにならないからマジでやめて”と心の底から願わざるを得ないのでした。

 

「お気遣いありがとうございます。今日はその事も含めて少しお話があったんですが、まずは霊亀のことですね。

<業務連絡>では修行が終了したという話だったんですが」

 

“うむ、あ奴の修行は無事に終了したぞ?

取り敢えず人の集落で生活する分には支障のない程度の大きさを保つことが出来る様になっておる。

丁度こちらに来たようだの”

 

そう言い目の前の巨大な高位存在が背後に首を向ける。するとそこにはノソノソとこちらに向かい歩を進める大人の腰の高さくらいの体高を持つ大きな陸ガメの姿。

 

“ケビン殿、久しいの。何やら最後にケビン殿と会ったのが随分と昔のように思えてならん。

突然暗闇の影空間に落とされこの場所に連れて来られて幾星霜、自分がいかに矮小で取るに足らぬ存在であるのかを分からされる日々であったよ”

そう言い何処か遠くを見詰め、“自分にはこの大きさくらいが相応しいのやもしれん”と何やら呟かれる霊亀さん。

 

うん、分かる分かる。隔絶した絶対存在が直ぐ傍に居続けるのってきついもんね。

でもそうか~、ドラゴンの塒はこの巨大亀さんを以ってしても厳しい環境だったのか~。ここってある種の魔力だまりだもんね、幾ら魔力大好きな魔物って言っても、この場所に(とど)まり続けるのは避けたいよね。あのガーディンさんですら“呼ばれて向かうのはいいけど、あの洞窟で暮らすのは勘弁して”って言ってたくらいだもんな~。

 

俺は霊亀の苦労を思い、“お疲れ様でした”と頭を下げます。

ん?その厳しい環境に亀さんを放り込んだのはお前じゃないのか?

まぁそうなんですけどね、でもこればかりは専門家に教わるしか無かった訳ですし、なんでも縮小化の魔法は魔物専用らしくて人族では習得出来ないとかなんとか。

俺じゃ教える事も出来ませんしね。

 

<魔物の雇用主>経由で習得してるんじゃないのか?

・・・絶対に使わないからいいの、スキルにも反映されてなかったし!ステータスさんが無理って判断したんじゃないの?俺って大福みたいに分裂できないし。

種族的に出来る事と出来ない事、スキルも万能じゃないって事です。(安堵)

 

「どうもありがとうございました。霊亀は大きいですからね、どうしようかと思っていたんですよ。これくらいの大きさであれば少し変わったロックタートルで通りますから。

それじゃ霊亀、ジミーの所に送って行くからまた影に潜ってくれるか?」

そう言い霊亀の足元に影を伸ばし影空間に移動してもらいます。

霊亀さん、何故そこでそんな全てを諦めたような顔をする。“所詮我は矮小な存在”ってどうした霊亀、何かがぼっきりと折れちゃってるぞ!?

 

俺は“これ大丈夫かな?ジミーが落胆しないといいんだけど”と思いつつ、もう一つの要件を済ますため最強生物に言葉を掛けるのでした。

 

―――――――――

 

“カランッ”

グラスの中の氷が軽快な音を立てる。

カウンターテーブルに座る女性は摘みに出された果物を口に放り込むと、カウンターの向こうでグラスを磨くマスターに“お代わり”と告げてグラスを差し出す。

 

「あなた様、あまり飲み過ぎはよくないですよ?明日も仕事なんでしょう?」

マスターは心配げに声を掛けるも、言われた通りグラスに光属性魔力マシマシ蜂蜜カクテル(キラービーバージョン)を注ぎ入れる。

 

“大丈夫よ、これくらい序の口序の口、べつに甕を抱えながら飲んでる訳じゃないんだし、平気平気。

それに明日はお休みでした~。大分天界の状態も落ち着いたしね、一通りの実態調査が終わってこれから本格的な人事異動なり処分が決定するんだろうけど、下っ端である私たち中級天使以下の者のやれる事はここまで。あとは上の決定に従うだけって感じ。

 

これで漸く私も本来のプロジェクトの方に戻れるわよ、ケビンが提唱した随時回収型闇属性魔力回収装置の試験運用、少なくとも十年以内に始められそうね。

最初は比較的闇属性魔力の発生の多い都市部を中心に教会関係者に配る予定ね。ケビンも知っての通り教会関係者って上に行けば行くほどどろどろとした権力争いに明け暮れてるから。

高位貴族家との接点も多いし確りと闇属性魔力を回収してくれると思うわよ?

 

腕輪の特典として簡単な自動障壁発生と解毒、あと副次的効果で使用者は呪いに掛からないってのがあるわね。

テスターには長生きして貰わないといけないしね、闇属性魔力が大量に発生している様な場所なら身の危険も多いでしょうし?

呪いに関しては闇属性魔力を使った技術だから、仮に掛けられてもすぐに吸い取っちゃうんで問題ないし。

ケビンの腕輪は試作品だからその辺任意発動だったみたいだけど、新型に交換する?完成したら持って来ましょうか?”

 

天界の出来るOL(総合職)あなた様、本来の仕事に戻れるのが余程嬉しいようです。自身が主導で進めていたプロジェクトが形になろうとしているところでの会社の不祥事発覚。

そりゃまぁ複雑な心境だったことでしょう。

 

俺は小皿に盛り付けた赤魚のカルパッチョをお出しし、軽く礼をしてから言葉を返します。

 

「お心遣いありがとうございます。ですがこの“魔力の腕輪”はこれまで様々な困難を共に乗り越えて来てくれた言わば戦友、収納の腕輪同様今後も大切に使っていきたいと思います。

まぁ格好を付けた言い回しになりましたが、要は愛着があるって事ですかね」

そう言い右腕の腕輪をやさしく撫でる。心なしか“魔力の腕輪”も嬉しそうにしているように思えるのは気のせいだろうか?

 

“まぁケビンがそれでいいって言うのなら別に無理強いはしないんだけどね。

それよりもちょっと気になっていた事があったのよ。あの壁の大きな扉って何?前はなかったわよね?”

そう言いあなた様が顔を向けた先、そこには壁に備え付けられた二枚の扉。一枚はあなた様がこの居酒屋に訪れる際に使われるもの、では残りの一枚は?

あなた様が訝し気にその大きな扉に目を向けた時、まるで申し合わせたかのようにガチャリと扉が開かれるのでした。

 

“ほう、ここがケビンが作った酒場というものか。人族はこうした場所で料理を食べ酒を酌み交わす。

中々どうして、“マロニエの”が人の文化に傾倒するのも分からなくもないのう。

ケビン、今日は馳走になるぞ”

そう言い扉から現れたお方、そう、我らがフィヨルド山脈の支配者、最強生物様なのでありました。

 

“なっ、あっ、なっ・・・ケビーーーーーーン!!

あなた少しは自重しなさーーーーーーい!!”

驚きに大声(思念)を上げる天上人、その脳内破壊攻撃にやられ、俺がカウンターで頭を抱えのたうち回った事は言うまでもありません。(涙目)




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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