転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第549話 辺境の魔物たち、のんびり暮らす

そこは一見どこにでもあるような平凡な民家であった。

田舎の農村に行けば普通に見かける様な取り立てて変わったところも無い普通の平屋。

 

「メアリーお母さん、ロバートの家に遊びに行ってきま~す」

「気を付けて行くんですよ、エッガードちゃん、ミッシェルの事をお願いね」

 

元気な子供の声、母子の楽し気な会話。玄関の扉が開き、家の中から可愛らしい女の子が現れる。

そんなどこにでもあるような平凡な光景。

何故か女の子が巨大な卵に跨っているという事など、この牧歌的で平和な光景の中では些事であろう。

 

「エッガード、発進!!」

その巨大な卵は女の子の掛け声に反応し大人の腰の高さほどにまで浮き上がると、そのままプカプカと家の脇の納屋にまで飛んでいく。

 

「開け、幻魔の扉よ。今ここに我が(しもべ)を召喚せん。

“聖獣招来”、いでよ、霊亀!!」

両手を天に掲げ、高らかに宣言する女の子。その呼び掛けに応えるかのように納屋の両開きの扉がゆっくりと開き、巨大な何かがのそりとその姿を現す。

 

それは亀、体高が大人の腰の高さもあろうという大きな亀がムクリと首を伸ばし、女の子の前に現れたのであった。

 

「エッガード、合体!!」

“ゴゾゴゾゴゾ♪、プカプカプカプカ”

女の子の号令の下、浮き上がり亀の甲羅の上に乗る巨大卵。

 

「完成、機動要塞エッガイヤー。進め、目標はホーンラビット伯爵城!!」

“ガァ~~~~~~~!!”

“ノソノソノソノソ”

 

動き出した機動要塞エッガイヤー、その歩みはゆっくりなれど、巨大要塞は確実にホーンラビット伯爵の牙城に向け侵攻を開始するのだった!!

 

「・・・ねぇケビンお兄ちゃん。朝からこんなところで何をやってるの?」

「ん?おうジミー、おはよう。

いやなに、ミッシェルちゃんの新たな移動手段が面白いって聞いて見に来てた。

流石は我が妹、分かっていらっしゃる。機動要塞エッガイヤー、温かくなったら護衛にフォレストビーでも付ける?攻撃力皆無だけど。周囲に四体くらい飛ばしたら絵になると思うんだよね」

 

そう言い妹の成長ぶり(仮性心)に満足げに頷く俺氏。どうも、辺境の穀潰し、ケビン・ワイルドウッドです。

いや~、最強生物の所から巨大亀さんを引き取って実家にお届けしたんですけどね、ただ小屋を建てて後はよろしくってのも無責任かと思って気にしてはいたんですよ。

父ヘンリーと母メアリーには最初こそまた変な魔物を連れて来てって呆れた顔をされたんですけど、今回は俺無実ですからね?

この亀はジミーが暗黒大陸から連れて来た魔物で、マルセル村に適応できるようにうちで預かっていたって言ったら何故か納得してくれました。

どうも私《わたくし》、マルセル村ではドッグトレーナーならぬモンスタートレーナーだと思われているようです。

 

まぁうちには魔物がごろごろいますし?<魔物の雇用主>って言う変わったスキルのお陰で大量の魔物を雇用(使役は出来ていません。あくまで雇用、扱い次第で離反されます)してますし、契約外魔物も沢山いますからね。

例えば癒し隊の二期生・三期生、ラビット戦隊なんかは契約外魔物になります。コッコたちもそうだよな、あれは飼育対象だし、紬の所の精霊たちは紬繋がりって事で関係してるとしても糸玉作りをしているキャタピラーたちは完全に飼育です。

 

「あぁ、霊亀の様子を見に来たんだ。最初こそみんな驚いたみたいだけど、今じゃすっかり慣れたみたいだね。

元々霊亀は鬼人族の里で霊獣として祀られていた魔物だからね、人には慣れてるし案外人と関わる事も嫌いじゃないみたいだね。

ミッシェルと遊んで貰っている事も楽しんでいるみたい、さっきもノリノリで咆哮を上げてたしね」

そう言い何とも言えない表情を浮かべるジミー。ジミーとしては再戦を望む強敵って感じだった魔物が今やお子様の遊び相手兼保護者、そりゃ微妙な気持ちにもなるというものです。

 

「まぁいいんじゃない?ジミーも王都に霊亀を連れて行くって訳にもいかないだろうし、かと言って従魔の指輪に閉じ込めたままってのもかわいそうだろう?

聞けば霊亀自身はさほど戦闘狂って訳でもないみたいだし、のんびり暮らせればそれでいいって言ってたしな。

マルセル村自体が発展して魔物たちの居場所がなくなって来たら御神木様のところに行けばいいだけだし、あそこならどんな魔物ものんびり暮らせるよ」

俺の言葉にどこか安心した様なホッとした顔になるジミー。実際霊亀の扱いって難しいんだよな~。ホーンラビット伯爵閣下に霊亀を紹介したら、「ケビン君、またかね?」って言われちゃったもんな~。

だって霊亀、念話で挨拶するんだもん、そりゃ驚くよね。

 

でもごめんなさい、コイツ実は巨大生物なんです。いずれ村の皆様にもご紹介いたします。

その際には聖茶と抹茶クッキー、蜂蜜のお湯割りとメイプルクッキーも用意しておこう。心労で倒れられちゃったら大変ですからね。

 

「それよりもスライミー達の様子はどうだい?大分人型の動きにも慣れた様子かい?」

合体スライムのスライミー、三体それぞれに名前は付けていないとの事なので敢えてスライミー達と呼んでいますが、ジミーの為に役に立ちたいと自分たちから申し出る健気なスライムたちです。

そこで俺が提案したのがリビングアーマーの中の人になるって事。以前霊亀にズタボロにされたシルバリアンが中の人がいないので弱体化していると言っていた事を思い出しての提案だったんですけどね、なんか上手いこと行ったみたいでよかったです。

 

「うん、シルバリアンの中に入って身体を動かしている影響か、動き自体は取れる様になったみたい。ただまだ武術的な動きは難しいみたいで、簡単な素振りは出来るけど打ち合いとかはまだまだって感じかな?

今はメアリーお母さんの家事の手伝いをしているよ。ミッシェルの世話は何かと手が掛かるからね、結構助かってるって言ってたよ。見た目はあれだけど」

 

ですよね~、だってスライミー、木製骨格人形を取り込んでる不定形生物だもん。夜中に会ったら思わず悲鳴を上げても不思議じゃない見た目だもんな~。

 

「でもこの従魔の指輪も不思議だよね。スライミーがシルバリアンを装着したまま収納できるってのは大発見だけど、中で脱着できないんだもん。

それにスライミーが木製骨格人形に張り付いている状態だと一体として判断されるってのはありがたいけど、中に入ってから分離できない。中に入ってから合体することは出来るけど、その場合は一体として換算されない。

三体しか収納出来ないって言う制限が魔物の状態に影響されるっていう事が分かっただけでも収穫だったよね」

 

テイマーの様に従魔を連れて歩く事になるジミーにとって従魔の指輪の事を詳しく知ることはとっても重要、だってスライミーとシルバリアンを合わせたら四体の従魔って事になっちゃいますからね。従魔を引き連れていたら宿屋に泊まるどころか買い物すら出来ないって街があるのが現状ですからね。

テイマーが不遇職扱いされるのが、今の世の中なんでございます。

 

「そうだ、王都に行く前にシルバリアンとスライミー達の従魔登録をしておいた方がいいぞ。シルバリアンならパッと見全身甲冑の騎士だけど、いつ騒ぎになるのかなんて分からないからな。

下手に王都の冒険者ギルドで登録しようとしたら大騒ぎになるだろうけど、エルセルの街ならホーンラビット伯爵家の関係者に手を出す馬鹿はいないから簡単に済ませられるぞ?

フィリーちゃんとディアさんも鷹の目コッコを連れて行くんなら従魔登録をするように言っておいてな。鷹の目コッコは王都じゃ珍しい魔物だから絡まれるかもしれないしな」

 

「分かったよ、ケビンお兄ちゃん。今日にでも二人に話しておく」

この冬が明ける前には、ジミーたちは王都に旅立つ。出来る準備、足りない事はまだまだあるだろうけど、気が付いた事をコツコツと熟す。

俺はそんな弟たちに“頑張れよ”と心の中でエールを送るのでした。

 

―――――――

 

「大福先生~、ちょっとよろしいでしょうか~?」

マルセル村の外れ、池の畔で大きな声で呼び掛けを行う青年が一人。

 

“ザバ~~~ッ、プルプルプル”

そんな青年の呼び掛けに応えるように、池の中から一体の大き目なスライムが姿を現すのだった。

その普通のスライムの倍はありそうな大きさのスライムは、身体をピョンピョン跳ねさせながら青年ジェイクの下へ近づいて行く。

 

「いや~、大福先生、お休み中のところすみません、ちょっと大福先生にお願いがありまして。

今度俺たち王都に行く事になったんですけど、ジミーに暗黒大陸での生活の話を聞いて、スライムを連れて行こうと思いまして。

ジミーはスライミー達三体のスライムを連れているんですけど、服や体の汚れを取って貰ったりとかなり助かっていたって話だったんですよ。

光属性系魔法の<クリーン>を使えば清潔感は保てるんでしょうけど、スライムに包まれて汚れを取ってもらうと身体の疲れも癒されるんだとか。ジミーとスライミー達の姿を見てたら俺もスライムの仲間が欲しいなって思ったんですよ。

それで大福先生に良さ気な個体がいれば紹介してもらえないかと思ってお伺いしたんですけど、どなたか人に使役されてもいいってスライムはいませんかね?」

 

ジェイクの話を聞きしばらく考える大福。ジェイクの話からするとジェイクたちマルセル村の若者たちは村を離れて“王都”とやらに旅立つらしい。

“・・・なんか面白そう♪”

大福は身体をポヨンポヨン跳ねさせ分かったとばかりに了承の意を示す。

 

「あっ、よろしいんですか?それでどの個体がお勧めなんでしょうか?」

ジェイクは水辺の周辺でのんびりと日向ぼっこをするスライムや草を食むスライム、水面をプカプカと浮いてるスライムたちに目を向ける。

 

“ブルブルブルブル、ムニュ~ン”

「えっ、はぁ~!?」

 

““ポヨンポヨンポヨンポヨン♪””

それは二体に分裂し楽し気にはね飛ぶ漆黒のスライム。いや、よく見れば一方のスライムは色こそ黒いものの透明度のある一般的なスライムに近しい個体。

それは懐かしい記憶、子供の頃幼い自分たちに完膚なきまでの敗北を与え続けてきたライバルの姿。

 

“ポヨンポヨンポヨン、シュルルルル、ピョンピョンピョンピョン”

その透明度のある黒いスライムはジェイクの前にやって来ると見る見るうちに身体を小さくし、手のひらサイズのスライムになってゴム毬のようにジェイクの周りを飛び跳ねるのでした。

 

「えっと、それじゃこの分裂したスライムを連れて行っていいって事なんですかね?」

“ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”

 

ジェイクの言葉に楽し気に跳ねて返事をする大福。ジェイクは両手で掬うようにして持ち上げたスライムをしげしげと眺めながら“こいつ絶対強いよな~”と引き攣った笑みを浮かべる。

 

“ポワーン”

すると掌の上で淡く光るスライム、スライムから伝わってきた思いは“名前を付けて~”というもの。

 

「う~ん、名前か~。黒いしな~。・・・黒蜜、黒蜜、うん、いいんじゃないかな?

よし、お前の名前は黒蜜だ」

“プルプルプルプル♪”

 

掌の上で嬉し気に身を震わせる黒蜜、黒蜜との間に確かな繋がりのようなものが出来たのを感じるジェイク。これはいつかエミリーが言っていたケルちゃんとの間に感じる繋がり?

 

「えっと、黒蜜、もしかして黒蜜がテイムされちゃったとか?

ケビンお兄ちゃんはテイマーじゃなくとも魔物が受け入れればテイムは出来るって言ってたけど」

“プルプルプルプル”

身を振るわせ“そうだよ~、これからよろしくね~”という感情を向ける黒蜜。

そんな二人の様子に満足げにポヨンポヨンと跳ねる大福。

 

「大福先生、どうもありがとうございました。黒蜜の事は大切にしますんで」

大福に礼の言葉を向けるジェイクと、その左肩の上で触手を伸ばしてブンブンと振り回す黒蜜。

 

大福はポヨンポヨンと跳ね、“いってらっしゃい♪”とばかりに黒蜜を見送るのでした。

 

――――――――

 

「はぁ!?大福、ジェイク君に分体を渡したの?それって大丈夫な奴だよね?」

<業務連絡>で大福から“ジェイク君に分体をあげた”との報告を受け驚きの声を上げた俺。

だって大福の分体よ?大福ドラゴンになっちゃう激ヤバスライムよ?そんなのが増えちゃったって、ドレイク村長じゃなくても胃の辺りがシクシクしちゃう案件よ?

大福先生曰く、“王都に旅立つ遊び相手がどんな生活を送って行くのか、面白そうだったから”との事。どうやら大福先生の分体は所謂眷属のようなものらしく、眷属が見聞きした事は直接大福も感じ取れるとの事。やってる事は世界樹のアマネ様がエルフを使って行っている情報収集と似たようなものとの事でした。

分体の力も進化前の水辺でジェイク君たちと遊んでいた頃のものくらいとの事、でもそれって大福チャレンジ水ヒドラに挑戦をやってた頃の大福って事だよね?本体でヒドラも作れてたよね?実は村役場と同じくらいの大きさだったって奴だよね?

・・・十分脅威じゃん。

 

俺は暫く考え込んだのち、“まぁ死に難くなったって事ならいいか。ジェイク君、後は任せた!!”と問題を当事者に丸投げする事にするのでした。




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