転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第55話 村人転生者、呪いについて学ぶ (4)

“コトッ”

手に魔力を纏わせ火傷しない様に土鍋をどけた後、土瓶を取り出し水を注ぎ入れ、中に乾燥した偽癒し草を放り込んで火に掛ける。熱せられた土瓶からは湯気が立ち昇り、暫くの後それを持ち上げて湯呑に注ぐ。しっかりと煮出しされたお茶は、野草茶特有の独特の香りを漂わせる。

 

“ズズズズズズッ”

良く息を吹き掛けてから口に含んだそれは、口腔をサッパリとした風味で包み込み、食後の胃をスッキリとした気分にしてくれる。もうそろそろ偽癒し草も春の新芽が出る頃、出来れば天ぷらで頂きたいが脂が無いんだよな~。

“今考えれば随分贅沢な話だよな”と昔を懐かしむケビン少年、彼の言う昔とは世界すらも越えた遥か彼方の記憶の事ではあるのだが。

 

“コトッ、コトッ”

共にいろりを囲む二人の人物にも同じようにお茶を注ぐ。彼らは煮出し茶から漂う清廉な香りに自然な動作で手を伸ばし、ゆっくり口を付けると一息付いてから言葉を発した。

 

「「先に進みましょう」」

どうやらいったん棚上げしたらしい、賢明な判断である。

 

「じゃあ続けます。呪いと言うものに闇属性魔力が深く関わっているとして、その効果の幅が広すぎると思われるかもしれませんがそこは一旦横に置いておきましょう。

おそらくですが呪いは複合魔法の一種、魔物が使う“状態異常”は闇属性魔力の性質に関わるものが多いけど、石化みたいに土属性も関わっていそうなものもあるし、人族はその辺から呪いを発展させていったものと思われます。

ですが基本となるものは闇属性魔力、であるならば光属性の解術魔法が呪いに有効なのも頷けます。光属性と闇属性は対になるものですからね、性質が真逆なんですよ。互いに補完し合っていると言ってもいい、これは良い悪いの話しではなく、そう言うものだと考えてください。

 

これはヘンリーお父さんに聞いたんですが、状態異常を起こす魔物の討伐にはヒーラー職の参加は必須だそうです。各種ポーションによる回復も可能ですがそれぞれの症状に合わせてポーションを用意すると量が大変な事になってしまう。それよりもヒーラーを一人連れて行くだけで安全性は段違い、“祈り”なんて言う範囲型の癒し系スキルって言うのもあるそうで、状態異常から身体の負傷までなんでも効くって言うんですからスキルとは凄いものです。

 

でも変だとは思いません?ポーションであればその症状に合わせた処方が必要なのに、スキルだったらどんな状態異常でもありだなんて。それこそ“魔法”って言われちゃえばそれまでですけど、状態異常を起こしてる根幹が魔法であれば、しかも闇魔法での固定化や停滞が関係しているのなら説明が付いちゃうんですよ。

 

ここからが本題になるんですが、それじゃあなぜポーションビッグワームは呪いに効くのかって事です。これは完全に類推、そうなんじゃないかなってくらいの想像になります。ですので仮説として聞いて下さい。

ヒールもそうですが回復系と言われる魔法は一般的に光属性のものと言われています。中には例外や違う属性での回復もありますが、ここでは大きくそう言うものが主体であるくらいに捉えてください。

で、ポーションですが癒し草を原材料にした魔法薬になります。主原料は癒し草に魔力水、そしてスキルです。無茶苦茶でしょ?これだけであれだけの効果のある薬になるんですから。

でもこれってスキルが無くても作れるんです、あまり知られてませんけどね。領都や王都の薬師ギルドに行けばレシピが公開されている筈ですよ?何で知ってるのかって?このレシピを開発したのが僕だからですが何か?

 

話しは戻ります。ではなぜ光魔法であるヒールとポーションが同等の効果を示すのか、これまでは薬師に寄るスキル効果だと思われていたかもしれませんが、その点はスキルなしの僕でも作れると証明してしまったのであり得ません。では何が原因か、考えられるのは癒し草には集めた魔力を光属性の癒し効果に変える力があると言うものです。

この効果は何も神が人の為に用意したものと言うよりも癒し草の植物特性なんじゃないのかと考えています。

 

だって考えてみてください、癒し草ってあれだけ葉を採られてるのに数週間で回復してるんですよ?魔力豊富な土地だったら二週間もあれば元通り、おかしくないですか?

アイツら絶対治癒効果を使ってるはずなんですよ、自己ヒールって奴ですよ。つまり癒し草の可能性は欠損部位の再生迄あるって事なんですよ、絶対実験しませんが。土台植物と動物じゃ基本が違いますからね、植物は癒し草に限らず再生する物も多いですし。

 

じゃあこの癒し草を濃縮したらどうなるのか、普通なら出来損ないのポーション擬きになるだけなんですけどね、これはビッグワームの種族特性なんでしょうね、いい感じに身体に取り込んじゃったって訳です。

でもただ癒し草を与えたからってポーションビッグワームにはなりませんから安心してください、そこには更なる工夫がありますから。

で、先ほどのポーションビッグワームはもう何世代にも渡ってそんな環境にある訳なんですよ、当然癒し草との馴染みも凄く良い、結果高純度のポーションと変わらない光属性魔力の効果がマシマシになった癒し生物になっちゃった訳です。

体力回復効果や傷の修復効果に加えて光属性魔力マシマシ、呪いの闇属性魔力を完全に払拭してしまっても不思議じゃないんですよ。

 

あ、でもそうか、その手があるか。何もすぐさま解術しなくても弱らせるだけでもいいのか、あくまで呪いが傷口の回復阻害であれば治ってしまったものには作用しない、だったらケイトの今の状態にも説明が付く、あとはポーションなりローポーションで気長に回復?いや、古傷だったらダメじゃん。

まてよ、片言でもしゃべれるんなら阻害だけ取り除けば訓練次第で行けないか?だったらローポーションとスタミナポーションで十分じゃね?あとは光属性の魔道具作成、いや、光属性のスカーフやチョーカーでも巻いとけばよくね?

うん、いけるかもしれない。これなら時間は掛るけど言い訳出来るじゃん。村の子供が起こした奇跡、心温まる物語、あとはそれをドレイク村長代理経由でグロリア辺境伯様宛に報告して貰って、物を提出すれば完璧?

よし、何とかなった~!!

 

いや~、アナスタシアさんお騒がせしちゃってどうもどうも、何とかなりそうですわ。

呪いのお話し凄く為になりました、お陰でどうにか誤魔化せそうです。本当に一時はどうなるかと思ったけど人間一人で悩んじゃダメですね、ご相談させていただいたおかげで糸口が見つかりましたよ。

ただまだ仮説の段階なんで、またご相談させてください。それじゃ僕は帰りますね、ガルさんもお大事に~」

 

俺は先行きの見えない問題に光明が差した事に浮かれルンルン気分で家へと戻って行くのでした。後に残された者達の事などまったく考えずに。

 

 

――――――――――――――

 

嵐の様であった。

ケビン君が小屋を去った後に最初に思った事は、驚きでも感動でもない、解放されたことに対する安堵であった。

 

「とんでもない少年ですね、ケビン君は」

隣でボソッと呟くグルゴビッチ、それもそうでしょう、私だって同じ事を思ったのだから。

グルゴビッチやガブリエルの抱え込んでいた秘密も大概ではありましたが、ケビン君の抱える秘密はそれこそ規模が違う。世界を巻き込んでの大戦争が起こってもおかしくない秘密って一体何なのよ~、普通はここで胃が痛くなったり頭が痛くなるのに先程頂いたポーションビッグワームの炙り焼きのお陰で一切痛みが起こらないって言うね、治療効果が凄過ぎます。癒されているのに理不尽さを感じるって何なのでしょう。

 

それにあの魔法と魔力に対する理解と考察、独自の視点での理論でありまだ粗があるとは言え、我々エルフ族の魔術解釈の更に上を行ってませんか?

何でただの村の子供である筈のケビン君にあそこまでの考察が出来るのですか、おかしいでしょう。姿を偽った長年生き続ける賢者と言われた方がまだ理解出来ます。あれで授けの儀の前って、職業を授かったら一体どうなってしまうのですか、恐怖しか感じないのですが?

 

隣ではグルゴビッチが左手の手の甲を眺めている。そこには昔負った古傷があったはず。今ではツルンとした瑞々しい手を眺めボツリと呟く。

 

「ここにあった傷は、先ほど話したオークキング討伐の際に負ったものだったんですよ。本当にギリギリの戦いでした、多くの仲間が帰らぬ者となった。すでに回復薬も底を付き、お守り代わりに持ち合わせたローポーションをぶちまけて急場をしのいだ。その為傷口は固定化されハイポーションを飲まないと治らないと言われてました。

私はあの時の戦いを、失った仲間たちの事を忘れない様にと敢えてこの傷を残していたんです。でもそんなものは私の独りよがりの戯言だったんですね。

傷が無くなって初めて分かるこの爽快感、身体中が生まれ変わったみたいなんですよ。本当に守りたいものがあるのなら、真の騎士であるのなら、拘るべきは主の命、主の幸福、それ以外はただの些事なんです。私は真の騎士たり得ていなかった様です」

“もっとも今はただのグルゴなんですけどね”

そう言い自嘲気味に笑うグルゴ。

 

私自身そうだ、襲われて、仲間たちから引き離されて、逃げて隠れて、これまでの人生は何だったのかと思わずにはいられない。でもそんな事はケビン君の前では些事でしかない。彼の与えた衝撃は、私の、私たちの人生観を音を立てて突き崩してしまう程のものだった。しかも物理的に。

 

太ももから消えた呪いの矢による古傷、長い年月で積もり積もった見えない場所の疲れと綻び、その全てがすっかり癒され生まれ変わってしまった新しい自分。

私たちはグルゴビッチ・エスティニオスでもガブリエル・マルドーラでもアナスタシア・エルファンドラでもない、マルセル村の村人、グルゴとガブリエラとアナ婆さん。

私達は今日、本当の意味でマルセル村の住民になったのだ。

 

「・・・でも私だけお婆さんって酷くないですか?ガブリエラは明日から女性になるのでしょ?先ほど見ていたけどお肌もすっかり艶々になって凄く女性っぽいって言うか綺麗って言うか、一番生まれ変わったのってガブリエラじゃない?

何で私だけお婆さん・・・」

 

「いや、それは仕方がないかと、だってエルフですから。流石にその扮装を止めるのは村全体の危険に繋がりますから。耳だけ隠せばなんて止めてくださいね、御婆さまの美しさは村に諍いを招きますので」

 

「う~、みんなしてズルいです、私だって自由に動き回りたいのに~!!」

美味しいものの喜びを知ってしまった。

解放される事の喜びを知ってしまった。

自由の喜びを知ってしまった。

受け入れられることの喜びを知ってしまった。

 

“ケビン君、この責任は取って貰いますからね”

マルセル村の村人アナスタシア・エルファンドラは、自分にたくさんのものを与えてくれたケビン少年の事を思い出し、妖しげな笑みを浮かべるのでした。

 

その頃件のケビン少年と言えば。

「やっぱり候補は攻撃糸になるのかな?でも今回はどれだけ魔力を保持できるかだろ?だったら両方試してみて。光属性系の素材って何がある?ミランダさんに聞いてみよう」

新しい考察の事で頭が一杯で、残された者の事などすっかり忘れているのでした。

 




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