転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第550話 魔王、降臨(演劇と模擬戦)

時は流れる。

人生は出会いと別れ、幼かった子供たちも成長しやがて巣立ちの時を迎える。

これは必然、これは摂理、別れを惜しみその旅立ちを盛大に見送ることもまた、親の務めであり権利。

 

“ガヤガヤガヤガヤ”

「マッシュの棒揚げはいかがっすか~。ホーンラビット肉の串焼き、マッドボアの照り焼きはいかがっすか~」

「エールはいかがですか~、一杯銅貨十枚で~す」

 

「ルインちゃ~ん、こっちにエール四杯!!」

「は~い、今行きま~す」

 

マルセル村の村門前に作られた闘技場、そこはマルセル村を訪れた観光客(挑戦者)の為の遊技場。今そこに多くのマルセル村住民が詰め掛け、舞台の始まりを今か今かと待ち望んでいた。

 

「コアさん、調子の方はどうよ?一時的とはいえ闘技場全体をダンジョン化したんだから、不具合とか負担とか感じる様ならすぐに言ってくれる?」

“ポワンポワンポワン”

 

「ならいいんだけど。ダンマスも悪いね、こっちのお遊びに付き合って貰っちゃって。料理は運ばせるから今日は楽しんで行ってよ。

それと例の脱出システムの方よろしくね。一応全員に身代わり人形は持たせてあるけど、余波でやられちゃったら目も当てられないしね。

大福と違ってその辺の調整は苦手だろうし、万が一に備えるのは大事だしね。

折角の旅立ち、あの子達には全力で楽しんでもらわないとね」

“ギャウギャウギャウ”

 

闘技場の一角、全体を見渡せる場所にある特別観覧席で“舞台スタッフ”に言葉を掛ける男性。彼は広がる観客席を見下ろし、配下の使用人たちがマルセル村の村人たちを相手に軽食販売に励んでいる姿に笑みを浮かべる。

“舞台公演を見ながらエール片手にポテトを摘まむ。これが娯楽って奴だよね”

観客席にいる村人たちの笑顔は、今回の舞台の成功を確信させるに余りあるものであった。

 

“ブーーーーーーーーーーー”

新たに闘技場に備え付けられた音声拡張の魔道具から音が響く。

エールを片手におしゃべりに興じていた村人たちは、口を噤み闘技場へと目を向ける。

 

『これは遥か昔、いや、遥か未来のお話か。

とある時代に現れたとある人物。彼は思った、なぜ人は好きに生きてはいけないのかと。彼は思った、なぜ人は人を虐げるのかと。

彼は旅に出た、放浪し、様々な国へ赴き、様々な人々に出会った。

心優しい人々に出会った、愉快な者たちに出会った。

全てを奪おうと画策する者と出会った、人を人とは思わぬ者たちとも出会った。

多くの出来事に巻き込まれ、多くの歴史的な事件をつぶさに見続けた。

 

そして彼は、一つの結論に辿り着いた』

 

音声拡張の魔道具から流れる語り部の声。

闘技場の中央、そこには一人の旅装束の男性が立っていた。あまりに自然に佇む男性、だが誰しもが彼がそこに立っていた事に気が付く事が出来なかった、それ程に自然でありながら忽然と姿を現した者。

 

「これが世界、これが人間。

人というものは様々な者たちがいた。普人族、エルフ族、ドワーフ族、鬼人族、獣人族、龍人族。

彼らは皆様々な特徴を持つ民族であった。

だがその中にも心優しい者、排他的なもの、人の為に尽くす者、人を人とは思わぬ者、様々な者たちが存在した。

 

姿かたちは変われども人の本質は変わらない。やさしさも狡猾さも、深き愛情も残虐で強欲な面も、全てが人の本質でありそれらを内包した矛盾だらけな生き物こそが人というもの。

醜くも愛すべき者たち、悩み、苦しみ、足掻き、それでも前を向き歩む者たちに幸いあれ。挫折し、その場に立ち尽くし、前が見えぬ者に光あれ。

 

人よ、愛すべき者たちよ。私は問う、皆の魂の輝きを。

魅せてくれ、その美しい生き様を」

 

““タッタッタッタッタッ””

「ついに見つけたぞ、全ての元凶、諸悪の根源!!」

「オーランド王国周辺各国を陰で操り人々を不幸のどん底に叩き落した狂人め、我々“王家の剣”から逃れられると思ったか!!」

 

““シュチャッ””

腰の鞘より引き抜かれたロングソード、二人の騎士が男性に向かい殺気を放つ。

 

「ふむ、この私に辿り着くとは、君たちは中々に優秀だ。

どうだ、我が配下に加わらないか?給料は月給制で金貨二十枚、危険手当は別途支給するが」

「「何を言うか、我々の誇りを馬鹿にするな!!」」

 

「育児手当として子供一人当たり金貨二枚も付けよう」

「「ウグッ、そ、そんな事で我々を懐柔できるだなどと」」

 

「年に十日、育児休暇を付けよう」

「「わ、我々は・・・」」

 

だらりと下がる剣先、心の迷いがその矛先を鈍らせる。

 

「そんな奴の口車に乗っちゃいけない、オーランド王国の誇りを忘れないで!!」

「「勇者様!!」」

 

騎士たちの誇りを救ったもの、それは一人の青年の呼び掛け。そこに現れたのは使命に燃える若き英雄たち。

 

「ほう、これはこれは。

そちらの見目麗しい御令嬢はホーンラビット伯爵家次女、“拳の聖女”エミリー・ホーンラビット嬢。その御隣は“下町の剣聖”剣鬼ボビーの愛弟子、“傾国の剣天”ジミー・ドラゴンロード。

他にも大賢者シルビア・マリーゴールドの再来、“先見の賢者”フィリー・ソード。“辺境の守護神”鬼神ヘンリーに認められし者、“堅守する聖騎士”ディア・ソード。

そして人類の希望、絶対防壁、“不屈なる勇者”ジェイク・クロー。

 

私も随分と高く評価していただいた様ですね、時代の英雄と評される勇者パーティーの皆さんがお越しいただけるとは」

 

「騎士さんたちは下がって。アイツの相手は俺たちが務めます。

“囁く者”、オーランド王国並び周辺各国から最重要危険人物として指定されている稀代の扇動者。

俺たちが来たからにはもうお前の好きにはさせない、大人しく投降しろ!!」

 

勇者ジェイクが鋭い眼差しを向け、目の前の男に投降を促す。だが“囁く者”と呼ばれた男は楽しげに笑いながら言葉を返す。

 

「クックックックッ、アッハッハッハッ。素晴らしい、それでこそ勇者。

権力者に踊らされし憐れな道化、物事を知らず、ただ真っ直ぐに。

いいでしょう、あなた方のその純真さに敬意を称し、私も真の姿を見せましょう」

 

“ブゥワッ”

突如“囁く者”の身体から溢れる膨大な闇属性魔力、その力の奔流に驚き後退る勇者パーティー。

“囁く者”を包み込んだ膨大な闇属性魔力は、その者を力ある存在に作り変える。

 

「この姿になるのは久方ぶりであるな。勇者よ、褒めてやろう」

 

金の刺繍を施された漆黒のローブ、深紅のマントを靡かせた絶対的存在。その者はサッと前髪を掻き上げると鋭い眼光で勇者パーティーを見据える。

 

「特別だ、この名を忘れるな。我が名は“カオス”、人類に変革を齎す者」

“バサッ”

翻されたマント、掲げられた右手の人差し指が天を指す。

 

「人は我の事を、“魔王”、と言う」

“““バッ”””

突如現れる三人の人物、一人は扇情的でありながら動きを重視した戦闘衣装を身に纏った褐色のエルフ、一人は蠱惑的な身体の線が分かる全身鎧を装着した女性騎士、一人は鎧姿に面頬(めんぼう)を付けた美形の偉丈夫。

その者たちは皆一様に強者の気配を漂わせながら、魔王カオスの背後に控える。

勇者パーティーは新たな敵の出現に、警戒を強くする。

 

「そう怯えるな、勇者よ。我は直接人に危害など与えはしない。

我が齎すは“試練”、我が何のためにこの地へやって来たと思う?」

 

「なに、貴様は一体何をしようというんだ!!」

勇者の声が緊張の高まる戦場に響く。魔王はそんな勇者に、愉快そうに笑みを向ける。

 

「かつてこの地を守る守護獣がいた。その者は魔物蔓延るこの世界で必死に生きようとする人々を助け、この地に平穏を齎した。

だが人々の欲はそんな恩などいとも容易く放り投げる。守護獣は人の罠に嵌められ、強力な呪いに縛られ、凶暴な魔獣として封印されるに至った。

その者は思った、人とは一体何であるのかと。その者は問う、人の本質を、人の在り様を」

“ズゴゴゴゴゴゴ”

 

それは門、突如地面より出現した巨大な漆黒の扉。

 

「開け、封印の扉よ。今ここに其の戒めを解き放ち、聖獣“霊亀”を解放せん」

魔王カオスは袖口より一本の金色の鍵を取り出すと、それをおもむろに漆黒の扉へと突き刺した。

 

“ガチャリ”

何かが開かれた音が静まり返った戦場に響く。

「いでよ、人の欲に飲み込まれし守護獣よ、扉よ開け、<ホーム>」

 

“ガッバァ~~~~~”

ゆっくりと開かれる二枚の扉、開かれた先には陽光に照らされた風に(なび)く草原と小山が一つ。

 

“ゴソッ”

強大な気配が動く。

 

“ズズズズッ、ドンッ、ズズズズッ、ドンッ、ズズズズッ、ドンッ”

大気が震える、大地を揺るがすような衝撃音が、目の前の戦場を恐怖に染める。

 

“我を再び世界に呼び出すか、人族よ”

それは怒り、それは悲しみ、それは諦め、それは苦しみ。

嘗て守護聖獣として人族より崇められて来た。共に歩み共に悩み共に戦って来た愛すべき者たちの裏切り、欲望のままに貶められ、厄災として追いやられた自身。

人とは、己とは。繰り返される問い掛け、答えを求め彷徨う自分。

 

「聖獣“霊亀”よ、人族に寄り添い、人族を愛し、そして裏切られた嘗ての守護者よ。

我は求めない、我は問わない。生きるもよし、死ぬも良し、己が心のままに己が求めるままに。

我は鑑賞者、ただ見続ける者。霊亀の求める答えが見つかる事を願う」

 

それは静かに、朗々と唄われる祝福、人を愛し人を憎悪する存在の復活を祝う歌。

 

“えっ、ちょっと待ってケビンお兄ちゃん!!こんなの聞いてないんですけど!?

大福三つ首ドラゴンヒドラにだって苦戦してるんですけど!?

目の前の魔獣からそれ以上の威圧を感じるんですけど!!”

思わず大声で叫び出したいのを今は演劇中とグッと堪える勇者ジェイク。エミリー、フィリー、ディアの三人が“ケビンお兄ちゃんがケビンした~~!!”と盛大に顔を引き攣らせる中、ジミーは一人獰猛な笑みを浮かべ、巨大な魔獣に呼び掛ける。

 

「我が名はジミー、ジミー・ドラゴンロード。勇者パーティーの剣士にして求道者なり。

封印から目覚めし嘗ての聖獣よ、お前は世界に何を望む!!」

 

“我が望みは問い掛け。生きる事とは何か、人とは何か。得心に至るまで問い続けるのみ。

我は問う、人よ、生きる事とは何か、人とは何か”

 

「ならば答えよう。生きるとは戦う事、己が信念を持ち抗う事。

人とはその生き様、剣に生き、剣に死するは我が本懐」

 

“ならばその言葉、体現して見せよ。我は霊亀、嘗て守護獣と呼ばれたもの”

 

““ブゥオォォォォォォォォォ””

高まる互いの闘気、ジミーの覇気と霊亀の獣気がぶつかり合い、空間が軋みを上げる。

 

“ピンポンパンポン”

『剣天ジミーと荒ぶる聖獣“霊亀”は、互いの存在を賭け激しく魂をぶつけ合わせます。

これより勇者パーティーと大型魔獣“霊亀”との戦いが始まります。尚この戦いは安全性を考慮し、致命傷を受けた者はその場より退場となります。

突然舞台より演者が姿を消す事がありますが、それは安全対策の一環ですのでご安心ください。

では引き続き勇者パーティーと霊亀との戦いをお楽しみください』

 

「「「「「うぉ~~~~、勇者パーティー頑張れ~!!デッカイ亀なんか吹き飛ばせ~~~!!」」」」」

「「「「「エミリーお嬢様~~、無敵の拳でぶん殴っちゃってください!!」」」」」

 

「フィリー、ディア、日頃の成果を見せるのじゃ。お前たちなら出来る!!」

「ジミーお兄ちゃんがんばって~。霊亀~、後でデッカイ背中に乗せるのだ~!!」

 

安全が考慮されてるとの放送に途端元気に応援を始める観客たち。目の前の巨大魔獣の登場に圧倒されるも、これが舞台劇の一幕だと思い出し取り敢えず楽しむ事にしたマルセル村の村人たち。

観客席でこの地の領主ドレイク・ホーンラビット伯爵が執事ザルバに聖茶とクッキーの用意を頼むも、それこそマルセル村では日常と言ってもいい事柄なのであった。

 

「ジェイク、エミリー、フィリー、ディア。俺たちはこれからマルセル村を旅立つ。これまでみたいに誰かが守ってくれるなんて事はない、これからは自分たちで戦い守って行かなければならない。

世界は広い、困難も脅威も、俺たちの想像を簡単に凌駕する。その時動けなくなるなんて愚行を犯さない為にも、ケビンお兄ちゃんの理不尽(魔王の試練)は乗り越えないとな」

 

「アハハハ、これ以上の脅威がゴロゴロ、暗黒大陸を見て来たジミーが言うんだったらそうなんだろうな~。

世界って怖いわ~、大福ドラゴン三つ首ヒドラがやり過ぎじゃないって、意味解んないわ~」

「そうだね。正直私もケビンお兄ちゃんはやり過ぎだと思ってたけど、目の前にこれ程の存在を用意されちゃうと反論に困るよね。

パトリシアお姉ちゃんは“王都学園は人間関係以外大した事ない”って言ってたけど、何が起きても対応できる心構えが必要って事だよね」

 

「これがジミー君が見てきた世界、この世の真実。ジミー君の隣に立つのならこれくらい乗り越えられなくてどうするって事なんですね」

「あっ、フィリーはそんなに気負わなくてもいいから。ここはこのディアお姉ちゃんに任せておいて?それとジミー君の事もね」

 

それぞれが手に持つ得物を構え霊亀を見据える。

 

“うむ、流石はジミー殿の戦友、皆良い目をしている。

では嘗ての約束を今こそ果たそう”

 

「「「「「‟いざ、勝負」」」」」”

「「「「「うぉ~~~~~~~~!!」」」」」

戦いの火蓋は切られた。力と力、技と技、己の魂と信念を燃やし、強者の宴が開催されるのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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