転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第551話 魔王、降臨(演劇と模擬戦) (2)

“ガヤガヤガヤガヤ”

人々の喧騒がそこまで広くはない食堂の中に広がる。

 

「「「かんぱ~い」」」

“““ガチャン”””

各テーブルごとで繰り返される何度目かの祝杯。皆が喜色を浮かべ、木製ジョッキのエールを飲み干す。

 

「プハ~、旨い!流石マルセル村の匠、エール作製班の作るエールは旨いな~。目出度い子供らの門出にピッタリの酒だ。

マルコ爺さん、いただいてるよ。旨い酒をありがとうな」

ジョッキを掲げ声を掛けるトーマスに同じくジョッキを掲げ応える村の老人。皆が笑顔で楽し気に会話に花を咲かせる。

 

「しかしな~、あのジェイクが王都の学園に入ることになるとはな~。

王都で冒険者をしていた頃は考えもしなかったよ。

しかも勇者だろう?本当に世の中何が起こるのかなんて分かんねえもんだよな~。

ヘンリーの所のジミーが武者修行に行くって言って暗黒大陸に渡ったって聞かされた時も驚いたけどよ。

 

俺はよ、ジェイクの奴はいずれ名の知れた冒険者になるとは思っていたんだ。それこそヘンリーやボビー師匠のような金級・白金級冒険者になることだって決して夢じゃない、それだけの才能と努力をあの子は示し続けてくれた。

でも勇者って、しかもエミリーちゃんが聖女だろう?そんでボビー師匠の所のフィリーちゃんとディアさんが賢者に聖騎士、お前ん所のジミーが剣天っていったか?

完全に勇者物語の勇者パーティーじゃねえか。

あの子ら一体何と戦いに行くんだ?」

 

エールは人を饒舌にする。これまで村人の混乱を避けるために息子が授かった職業を<剣豪>と偽っていたトーマスは、晴れて堂々と<勇者>である事を話せるようになり、これまでの欲求を解放するかのように言葉を並べる。

 

「フッ、そうだな。勇者物語じゃ最終的に魔王と対決とかいった話になるが、実際問題世界に仇なす魔王なんてものは早々現れないしな。

ジミーの話では暗黒大陸には魔国という国がありその国王が魔王と名乗っているらしいが、それはあくまで国を治めるための方策だろう?

いくらそう名乗っているからといって他所の国に乗り込んで殺戮を行う様な者にはなって欲しくないもんだ。

だがケビンの話では過去にはそうした権力者の思惑で魔王に仕立てられた者たちが多くいるとか。ジェイク君やジミー、エミリーちゃん達がそういうものに振り回されない様な芯のある冒険者になってくれることを祈らずにはいられんよ」

 

向かいの席に座るヘンリーは、古くからの友人の息子であるジェイクや自身の子であるジミーが、大人たちの思惑に翻弄されない様になって欲しいと願わずにはいられない。

 

「いや、その辺は大丈夫じゃないでしょうか。私もこれまで多くの冒険者や騎士を見て来ましたが、あれ程に強くそして考え方も確りとした若者は早々いませんでしたよ。

これはボビー師匠やヘンリーさん、トーマスさんの日頃からの教えの賜物でしょう。

それにあれ程の戦いを繰り広げる事が出来る者たちです、相当な困難でも自分たちで跳ね返してしまうのではないでしょうか」

 

同じテーブルに座るグルゴが摘みに手を伸ばしながら言葉を繋ぐ。

三人の男達は互いに目を合わせ、昼間村門前の闘技場で行われた舞台「勇者ジェイクの冒険 ~魔王と封印されし聖獣~」の公演内容を思い出すのであった。

 

――――――――――

 

「ディア、正面多重結界を展開。ジェイク、エミリー、ジミーは霊亀を取り囲み各自攻撃、目標は尻尾並びに噛み付きによる攻撃を主体とする亀型魔獣です。その速度は大福ドラゴンヒドラよりも上と考えてください。

魔法攻撃入ります、<ストーンランス×50>」

“ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴン”

 

激しい轟音と共にストーンランスの猛攻が霊亀を襲う。的確な指示と一切の躊躇のない魔法攻撃、守護霊獣とまで呼ばれた高位魔獣にも決して怯む事のないフィリーの采配に、勇者パーティーの面々が一斉に動き始める。

 

「ボビー流杖術、<刺突一閃>!!」

エミリーの渾身の一撃が霊亀の右後ろ脚を襲う。その一撃は込められたスキル<剛腕無双><鎧袖一触><絶対貫通>の相乗効果により、絶対の破壊力を伴って霊亀に打ち込まれる。

 

「<挑発>“やいこの鈍亀の大将、悔しかったら掛かって来いや~!!”

ボビー流剣術、<獣王破撃>!!」

スキル<挑発>により攻撃対象を誘導された霊亀の首がジェイクに迫る。

だが予めその動きを予測していたジェイクは、カウンター気味に霊亀の頭を上方へと吹き飛ばす。その一振りは“切る”ことを主体としたボビー流剣術の中では珍しい叩き付ける事を目的とした剣技、迫りくる魔獣をその勢いを利用し吹き飛ばす実戦技。

 

「“我が心、ここにあらず。我が身体すでに無。故に空。

我は剣、我が目指す頂は理不尽の彼方”

霊亀よ、これが俺の仲間だ、存分に味わえ。

<龍王一閃“鬼切り”>」

“バシュン”

 

ジミーが駆ける。瞬時に右前足に接敵したジミーはその大樹のような太い足を切り裂き走り抜ける。

 

“グギャーーーーーーーーーーー!!”

“ズシャ~~~~~ン”

 

「「「「「うぉ~~~~~~~~!!」」」」」

若者たちの猛攻に観客席から歓声が上がる。一瞬の出来事、されど繰り出された技の数々。改めて村の若者たちの強さを見せ付けられ興奮するマルセル村の村人たち。

 

“なるほど、口だけではないという事か”

“ブワ~~~ッ”

光が霊亀を包む。その光が消えた時、霊亀は何事もなかったかの様にその身を起こす。

 

“我が名は霊亀、嘗て守護霊獣と呼ばれしもの。

多くの者を守るには力が必要である。襲い来る敵を(ほふ)る力然り、敵の攻撃を耐える力然り、受けた傷を癒す力然り。

 

ならば受けてみよ、我が力の奔流を”

 

“ズボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ”

突如地面から伸びる無数の岩、先の尖った鋭い槍の如き岩の範囲攻撃に堪らず宙へと逃れるジェイクたち。

 

“ガンッ”

「大地よ応えよ、<キャッスルウォール>」

ディアが盾を地面に当て聖騎士の職業スキルを唱える。それと共に大地より現れる巨大な城壁、岩の槍はその城壁に阻まれそれ以上先に進めない。

 

“ビュビュビュビュビュッ”

それは刹那の出来事であった。空気を切り裂く霊亀の尻尾による攻撃、“パリーン”と甲高い何かが割れる音が戦場に響く。

 

「エミリーーーーーー!!」

そこには驚きの表情を浮かべながら光の粒子となって崩れ去って行くエミリーの姿が。

 

“ほう、我が全力の尾撃を見切るか、流石はジミー殿。

そしてお仲間も中々に素晴らしい。だが無傷とは行かぬ様ではあったか”

 

「エミリー、そんな、俺は彼女を・・・」

“ブォッ”

膨大な魔力と覇気がジェイクの身体から吹き上がる。

 

「<覇魔混合><堅牢堅固><不撓不屈>、霊亀よ、お前は強い。今の俺ではその足元にも及ばないかもしれない。

だがお前の魂に刻んでやろう、我が名はジェイク、ジェイク・クロー。

今代の勇者にしてお前に敗北を齎す者の名だ!!」

 

“バッ、シュタンシュタンシュタンッ”

ジェイクが駆ける、中空に足場を作り稲妻の如き速さで霊亀に迫る。

 

“ビシュビシュビシュビシュビシュビシュビシュビシュ”

だがそんなあからさまな接近を許す程霊亀は甘くない。まるで無数の尻尾があるのかと錯覚する様な絶え間ない尻尾による打撃、それはただ空気を切り裂くだけではなく魔力を伴い無数の斬撃を生み出す。

 

“ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

その威力は凄まじく、周囲の地面に生えた岩の槍はおろかディアが聖騎士の職業スキルで作り出した<キャッスルウォール>でさえも、瞬時に瓦礫へと姿を変える。

 

「ジェイク、一瞬ですが霊亀の動きを止めます。その隙に尻尾を!!

“大いなる神よ創造の女神よ、光の戒めとなりて彼の者を拘束せん、光輪縛鎖”」

“ズババババババババババババババババ、ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ”

突如大地より伸びた幾重もの光の鎖が、霊亀の全身に絡み付きその動きを封じる。

 

「豪炎剣“絶断”!!」

“ゴオゥゥゥ”

噴き出す業火、白炎に燃え盛るジェイクの斬撃が霊亀の拘束された尻尾に迫る。

 

“ズバンッ”

宙を舞う巨大な尻尾、だがジェイクは油断する事なく霊亀の反撃に備え構えを取る。

 

「霊亀よ、これが仲間の力。人は弱い、一人一人の力などたかが知れている。だがその力を縒り合わせる事で格上であるお前にも届き得る。

人は愚かだ、人は同じ過ちを繰り返す。だが互いに助け合い前へと進む事も出来る。

そうした矛盾の塊、それが人であり嘗てお前が守ろうとした種族だ」

 

ジミーの言葉に瞑目し嘗ての住処を思い出す霊亀。長く住み暮らしていた悠久の森、訪れた鬼人族と名乗る者たち、共に過ごし見守り続けた彼らの暮らし。

“巫女の一族、あの者たちの生き残りは今どうしているのだろうか”

心をよぎる嘗ての友の姿、幼かったあの娘も自身が呪いに侵されている間に随分と立派になっていた。願わくば幸せになって欲しいと切に思う。

 

“ジミー殿、人とはかくも逞しく愛おしいものであったのだな。

だがジミー殿は己の強さを求めてはいなかったか?強敵を求め暗黒大陸を彷徨い尋ねていたと言っていたはずだが・・・”

 

「ハハハハ、まぁそれはそれ、男であれば誰しも頂を目指したいもの。

目指すべき、打ち倒すべき目標には中々に届かないんだがな」

そう言いクスリと笑うジミーに、“あぁ、あの兄上がいたか。ジミー殿は大変であるな”と目を細める霊亀。

 

“では我もその討ち倒す目標であらねばならんな。天に向かい剣を振るうよりも立ち木に向かい打ち続けた方が得られるものも多かろう。

精々丈夫な立ち木として立ちはだかり続けようぞ”

 

“ミシミシミシミシ、バリーーーン”

音を立て砕け散る光の鎖、霊亀は勢いもそのままにジミーに向かい突進して行く。

 

「<明鏡止水><鎧袖一触>、龍王一閃“神殺し”!!」

ジミーは己の全てを一振りに乗せる。あの不思議な空間で経験した永遠とも思える闘いの記憶、その全ては魂に刻まれジミーの剣技を次の次元へと引き上げる。

 

“ザシュンッ”

“グガッ、ブシュー、ズドーーーン”

首筋から血を噴き出しその場に崩れる霊亀。

 

「流石霊亀、まだ俺では届かなかったか」

“パリーーーン”

何かが砕ける音が戦場に響く。それと共に光りの粒子となって消えていくジミー。

 

「ジミーーーーーーーーーー!!」

「「ジミーく~~~~~ん!!」」

悲痛な叫びが戦場に木霊する。戦いの終結は、大切な仲間の消失と共に訪れたのであった。

 

“パンッ、パンッ、パンッ、パンッ”

静まり返った戦場に打ち鳴らされる拍手。

 

「素晴らしい、これぞ戦い、これぞ人々の力。ともに助け合い苦難を乗り越える、何と高潔で美しい光景か。

失われた仲間の為にも立ち止まらず前へ進もう、力を合わせ悪を打ち砕こう。

勇者の戦い、しかと堪能させてもらったぞ」

 

「魔王カオス、お前は何故こんな事を!!お前のせいでエミリーは、ジミーは!!」

現れた者、それはこの事態を引き起こした張本人、魔王カオス。

ジェイクは声を荒げ魔王カオスに言葉をぶつける。

 

「これは異なことを言う。勇者ジェイクよ、貴様はこの地に戦う為に来たのであろう?

戦いとは命の奪い合い、奪う者がいれば奪われる者がいる。そこには善も悪も無く、ただ純然たる死が存在するのみ。

 

勇者よ、よく考えよ。悩み、苦しみ、己が道を見つけよ。

失敗も挫折も、後悔も裏切りも、人生とはかくも厳しくかくも残酷なものだ。

だが人は助け合い愛し合う、協力し共に困難を乗り越えるのもまた人の一面。

 

試練は終わった、勇者ジェイクは見事試練を乗り越えた」

 

“バザッ”

翻るマント、魔王カオスの右手が天に向け掲げられる。

 

「勇者ジェイクに祝福を、勇者パーティーに賞賛を。

仲間とともに再び前へ進むがいい」

“パーーーーーーッ”

天空より伸びる二本の光、その光が収まった時、そこには消えたはずのエミリーとジミーの姿が。

 

“バッ”

踵を返し配下と共にその場を離れる魔王カオス。

 

「勇者よ、考える事を止めるな、弱者の奴隷となり下がるな。

己が主人となり、己の人生を突き進め。

世界は広い、羽ばたけ若者たちよ!!」

 

『去り行く魔王、勇者パーティーはそんな魔王の後ろ姿をただ黙って見送る事しか出来ないのであった。

 

ご観覧の皆様方、長らくのお付き合い誠にありがとうございました。

只今を持ちまして、舞台「勇者ジェイクの冒険 ~魔王と封印されし聖獣~」を終演とさせていただきます。

本日は誠にありがとうございました』

 

“パチ、パチ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”

音声拡張の魔道具から流れるアナウンス、眼前の戦いに魅入られ物語に入り込んでいた観客たちは、舞台の終わりを知り我に返ったかのように拍手を打ち鳴らす。

そんな拍手と歓声に、闘技場の演者であるジェイク・エミリー・ジミー・フィリー・ディアたちマルセル村若者軍団も、自分たちがいるのはマルセル村の闘技場であり自分たちは演劇の舞台に立っているという事を思い出す。

闘技場の中央にはいつのまにか魔王役のケビンが配下の役の月影・残月・ブー太郎と共に立ち並び、観客席に向かい手を振りお辞儀をしている。

 

「ジェイク、お疲れ」

声を掛けて来たジミーに苦笑いで返すジェイク。

 

「なんか凄かったね。あの大きな亀、霊亀って言ったっけ?アレってジミーの所にいるミッシェルちゃんの乗り物だよね」

「あぁ、暗黒大陸で知り合ってな。色々あって再戦の約束をしてたんだ。結果は相打ちになっちまったけどな、スゲー悔しい」

 

そう言いジミーの向ける視線の先にはワイルドウッド男爵家の使用人に霊薬を与えられ、身体の発光と共に復活する霊亀の姿。

霊亀はその巨大な体躯を見る見るうちに小さく縮め、おなじみの騎乗用魔物に姿を変える。

 

「ケビンお兄ちゃんの最後の言葉は、これから王都に向けて旅立つ俺たち全員に向けられたものだったんだろうな。

俺たちは確かに強くなったのかもしれないけど、その分様々な人間が集まって来る。利用しようとする奴、取り込もうとする奴、縋る奴、泣きつく奴だっているだろう。

このマルセル村では決して学ぶ事の出来ない人の社会というものを学ぶ場所、それが王都学園。

俺は弱い、ジミーこれからもよろしく頼む」

そう言いジミーの肩をポンと叩くジェイク。

 

「あぁ、こっちこそよろしく頼む。俺はどうやら“傾国”らしいからな。これからは“地味なジミー”で過ごさせてもらうよ」

ジミーは収納の腕輪から太い黒縁の眼鏡を取り出すと、スッと顔に装着する。

すると、途端その溢れんばかりの存在感が消失し、背の高い地味な青年が姿を現す。

 

「あ~、それずるくない!?ジミーが存在感隠したら俺が目立つじゃん!!えっ、フィリーとディアも地味装備?なんだこの眼鏡集団!?」

突如現れた眼鏡三人衆にこめかみを揉むジェイク。

広がる笑い、マルセル村の若者たちは多くの村人たちに見守られ、旅立ちの時を迎えようとしているのであった。




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