転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第554話 転生勇者、冒険者ギルドに向かう

“ガラガラガラガラ”

枯草の草原に伸びる石畳の街道を、軽快なリズムを刻みながら馬車が走る。

 

“““パッカパッカパッカパッカパッカパッカパッカ”””

その周囲を守る様に前に二頭、後ろに一頭の陣形で騎馬が並走する。

季節は冬、魔物は休眠期であるというものの警戒を怠らずに気を配る騎士たちの姿は、馬車の中の人物が高貴な身分であるという事を言外に周囲に知らしめる。

 

「しかしジミーが確りと乗馬の技術を身に付けているとは思わなかったよ。俺やエミリーはダイソン公国とオーランド王国の戦争を終結させるための作戦に参加する為に訓練したんだけど、ジミーは暗黒大陸で馬に乗る機会があったのか?」

先頭を走る馬の馬上から、騎士の一人ジェイクが隣を走る騎馬のジミーに声を掛ける。

 

「いや、暗黒大陸での移動はもっぱら太郎の背中の上だったよ。あそこは只管広いからな、強敵と対戦したくともその場所に辿り着くまでが大変なんだ。単純に距離が離れているって話なんだが、これが割と深刻でな。

だから暗黒大陸では騎獣というものが発展しているんだ。

エイジアン大陸のようないわゆる馬は見なかったな、少なくとも魔馬、もしくは馬型の魔物だな。他にも魔狼車といって、ウルフ種の魔獣に馬車を引かせたり、ワイバーンやグリフォンに乗って空を移動したりとかが一般的だったな。

魔国の首都にはそうした飛行系魔物専用の発着場が完備されていたし、魔王軍には空軍という飛行系魔物を中心とした航空部隊も作られていたぞ?

正直魔王軍が軍事進攻を開始したらオーランド王国でもまずいんじゃないのか?上空からマジックバッグに仕舞った大量の岩でも落されたらいくら精強な軍隊であってもひとたまりもないと思うぞ?」

 

“ブフッ”

巧みに馬を操るジミーに何気ない話題を振ったジェイクは、思いがけない返答に盛大に噴き出してしまう。

暗黒大陸からやって来る魔王軍による大侵攻、前世のゲームの知識ではストーリー上の一大イベントであったそれも、いざ現実のものとして考えると顔を青ざめざるを得ない。

 

「あぁ、悪いジェイク、なんか不安にさせる様なことを言って。

これは魔国にはそう言う戦力があるってだけの話で、今すぐ戦争になるとかそう言う話じゃないから安心しろ。

これはヘンリーお父さんにも言ってないんだが、魔国で結構深刻な内戦騒動があってな。現国王の魔王が四天王の内の三将軍によって洗脳されたとかなんとか、俺が世話になっていた剣将のゼノビアさんも大けがを負ったらしい。

俺はシルバリアンに乗っ取られていて意識が無かったから詳しくは知らないんだが、ケビンお兄ちゃんがケビンお兄ちゃんして騒動を収めたとか言っていたよ」

 

「はぁ!?ごめんジミー、情報が多過ぎて処理しきれない。

シルバリアンってジミーの従魔じゃなかったのか?なんでジミーが乗っ取られるって話になるんだ?」

親友の話の突拍子のなさにこめかみを揉むジェイク。

 

「う~ん、俺も詳しい事はよく分からないんだが、なんでも魔都総合武術大会の優勝者をシルバリアンが取り込んで新しい剣将として手駒に加えようとしていたらしい。

剣将は魔王軍騎士兵団を率いる将軍だからな、当然実力者でないといけない。その点魔都総合武術大会の優勝者という肩書があれば、統制も取り易い。

シルバリアン自体依り代となる肉体を完全に乗っ取りその人物を自在に操る特殊なリビングアーマーだからな、戦力強化としても申し分なかったんだろうさ。

 

魔国乗っ取りを企む三将軍にとっては、邪魔な存在であるゼノビアさんを排し強力な手駒を手に入れる事ができる。優秀な依り代を手に入れたいシルバリアンと三将軍との利害は一致していたって訳だな。

まぁその全てがケビンお兄ちゃんされちゃったんだけどな。

そう言う訳で今の魔国は国内の立て直しが大変で他国への侵攻どころの話じゃないって事らしい。

これは全部ケビンお兄ちゃんからの受け売りだからどこからどこまで信じていいのかって話だけど、シルバリアンが俺の従魔になっているって事を考えると、多分本当の事だと思うぞ?

 

シルバリアン、目茶苦茶強いからな。スライミーと合体したシルバリアン、模擬戦でヘンリーお父さんやボビー師匠相手に互角以上に戦ってたしな。

あとで話を聞いたら“身体を慣らすための調整相手としてはちょうどいい”とか言ってたからな」

 

ジミーの言葉にシルバリアンの模擬戦の様子を思い出し、乾いた笑いを浮かべるジェイク。

 

「そう言えばスライミー達の名前って決めたのか?今までは三体揃ってスライミーって呼んでたんだろう?」

「あぁ、それなんだけどな。ケビンお兄ちゃんがスライミー達とも意思の疎通を取り易くしておいた方がいいって言うんで、シルバリアンの模擬戦が終わった後従魔契約をしたんだ。

そうしたらスライミーが一体のスライミーになっちゃってな?俺もよく分からないんだが、三体で一体のスライミーって事らしい」

 

「はぁ?何だそれ」

「いや、だから俺も分からないんだって。悪いけど今夜にでもスライミーの事を鑑定してみてくれるか?」

 

ジミーの頼みに「それは構わないけど、従魔登録の時はどうするんだ?」と返すジェイク。

そんな親友の心配を「まぁなる様になるさ」と軽く返すジミーの姿に、“やっぱりジミーはケビンお兄ちゃんの弟だわ、ドラゴンロード男爵家恐るべし”と心の中で戦慄するジェイクなのであった。

 

 

「次の方、身分と目的をお願いします」

ホーンラビット伯爵領からグロリア辺境伯領に入って最初の街エルセル、これ迄であれば途中野営を挟まなければ辿り着く事の出来なかった行程も、貴族用馬車での移動と街道の整備により日が沈む随分と前には到着できるようになっていた。

 

「我々はホーンラビット伯爵家騎士団の者である。この度ホーンラビット伯爵家ご令嬢の王都学園入学にともない、王都に向かう事となった。エルセルにはその途中寄らせてもらった。

監督官殿には後程先触れを出す予定である」

騎士ジェイクの流れるような口上、以前であれば初々しくも自信なさ気だった騎士としての振る舞いも、この一年で確りと板に付いて来た様であった。

 

「それはおめでとうございます。王都までの道中、お気を付けてお向かい下さい」

エルセルの街門貴族専用門でのやり取りを終え無事に入街を果たしたホーンラビット伯爵家一行は、そのまま真っ直ぐエルセル監督官屋敷には向かわず、若者たちが従える従魔の従魔登録の為冒険者ギルドエルセル支部へと足を向けるのであった。

 

冒険者ギルドエルセル支部、嘗ては首から金額の書かれたプレートを下げる奇抜な格好をした冒険者で溢れていたこの場所も、ゴルド村との間の街道整備工事の完了に伴い本来の冒険者ギルドの様相を見せるようになっていた。

冒険者は季節商売と言われる様にその時々の気候に影響されやすい。暖かい地域であればそこまでの影響はないものの、寒風吹きすさぶ冬のグロリア辺境伯領は魔物や動物が休眠期に入り魔物との戦闘を主な仕事とする冒険者の収入は激減する。

その為多額の借金を抱えたプレート冒険者たちは仕事を求め各地に散って行ってしまっていたのであった。

 

「それじゃ俺は監督官屋敷に先触れに行ってきます。グルゴさん、みんなの事をお願いします」

護衛兼監督役として王都に向かう旅に同行しているギースが、同じく護衛兼監督役をしているグルゴに言葉を掛ける。

 

「わかった、先触れの方よろしく頼む。そこまで時間が掛かる事は無いと思うが、知らせが終わり次第こちらに戻るようにしてくれ」

 

「分かりました、それじゃ」との言葉を残し、騎乗しその場を離れるギース。

 

「さて、それでは我々も従魔登録審査を済ませよう」

マルセル村の若者たちはグルゴの言葉に従い、従魔登録の為に冒険者ギルド建物脇にある解体受付へと向かうのだった。

 

「すまん、誰かいないか?」

「はいよ、いらっしゃい。えっと皆様方は一体どのようなご用件でしょうか?」

掛けられた声に姿を見せた解体所職員は、いかにも貴族といった風の集団の訪れに緊張を見せる。

 

「うむ、忙しい所をすまないが、従魔登録の為の審査をお願いしたい」

グルゴの言葉に事態を把握し、ホッと肩の力を抜く解体所受付職員。

 

「それじゃ従魔となる魔物を見せて欲しいんですが、どなたが登録されるのでしょうか?」

「はい、まずは私からお願いします。私の名前はフィリー・ソード、従魔はこちらの狐とこのコッコです」

 

そう言い一歩前に出た少女の足下には膝ほどの大きさの狐とあまりこの辺では見かけない鳥の魔物。

 

「この子はプリン、テレンザ侯爵領の山岳部に生息する鷹の目コッコという鳥型魔獣です。この通り比較的温厚で飼育しやすい魔獣なんですよ。

こっちの子はリック、流石に種族までは分かりませんが、私に懐いてくれている狐さんです。

私はテイマースキルを持っていないのでこの子たちのステータスは分からないんです」

そう言い二体の魔獣を撫でるフィリーの姿に、どこかほっこりとした気持ちになる解体所受付職員。

 

「うん、目視検査は問題ない。それではその二体に何か命令してみてくれるかい?」

「はい、リック、プリン、お座り」

““トコトコ、チョコン””

 

「伏せ」

““バサッ””

 

「飛び跳ねて」

““ピョン、ピョン、ピョン””

 

「こんな感じでいかがでしょうか?」

「うん、問題ない。従魔審査は合格だ、従魔との間にとても良い関係が築けているようだね」

 

「はい、ありがとうございます。リック、プリン、よかったね、合格だって」

抱き合って喜ぶ美少女と魔獣たち。何とも言えない平和な空気に表情の緩む解体受付職員。

 

「次は私ですね。私はディア・ソード、従魔は先程のフィリー同様狐とコッコです。エディー、バスター、ご挨拶を」

凛とした雰囲気のメイドの言葉に従い前へ出てきた二体の従魔。

 

「エディー、バスター、組み手を行いなさい。始め!」

““バッ””

ディアの言葉に、互いに距離を取り油断なく見詰め合う両者。

 

“バッ”

飛びつき噛み付きを行おうとするエディーの攻撃をサッと身を躱す事で避けるバスター。瞬時に飛び上がり鉤爪を向けるも、サッと尻尾を回したエディーにより横からの打撃を喰らってしまう。

 

「そこまで、勝者、エディー。両者、向かい合って、礼」

“クワックワ”

“キャウン”

 

「こんな感じですがいかがでしょうか?」

ディアからの声掛けにハッと我に返る解体所受付職員。見れば先程まで戦っていた二体の魔獣がメイドの脇に整列しこちらに顔を向けている。

 

「大変よく訓練されていると思います。それでこちらの狐の種族は・・・」

「申し訳ありません。私も先程のフィリー同様テイマースキルを持ち合わせていないもので種族までは。

ですが主従の関係は出来上がっているものと自負しております」

そう言い足下の従魔に優しい目を向けるメイド。

 

「分かりました、従魔審査は合格です。審査証明を発行しますので二階受付で従魔鑑札の手続きを行ってください」

「あの、すみません。俺たちも従魔登録をお願いしたいんですが」

 

ディアに言葉を掛け書類作成を行おうとしていた解体所受付職員に慌てて声を掛けたのはジェイクであった。

 

「えっと、あなた方も従魔を?」

「あっ、はい。このスライムなんですが、スライムも一応は魔物ですんで、従魔登録が必要かと思いまして」

 

「はぁ?スライムですか?」

スライムの従魔登録と聞き思わず呆れ声を出す解体所受付職員。それもそのはず、従魔登録は無料ではなく一体に付き銀貨一枚の費用が掛かる。スライムなどという最下層魔物に対しそこまでの金額を出して従魔登録をしようなどというもの好きは、これまで見た事も聞いた事もなかったからであった。

 

「あ、俺の名前はジェイク・クロー、ホーンラビット伯爵家の騎士をしています。それで従魔はこのスライムです。名前は黒蜜、見た目黒くて半透明な感じが話に聞いた黒蜜って食べ物によく似てるかと思って名づけました。

行商人の話では王都に行けば手に入るんじゃないのかって事だったんで、ちょっと楽しみにしてるんですよね。

黒蜜、職員さんにご挨拶」

ジェイクの言葉に身をプルプル震わせてから身体をニュッと伸ばし、ぺこりと頭を下げる仕草をする黒蜜。その姿に口を開けたままポカンとする解体所受付職員。

 

「次は俺を頼む。俺はジミー・ドラゴンロード、ドラゴンロード男爵家の嫡子になる。このスライムはスライミー、取り立て特別な事が出来るという事はないんだが生活の面で非常に便利な相棒でな。

そうだな、その汚れた前掛けを貸してみてくれないか?」

ジミーの言葉に何を言っているのか分からないといった様子ながらも、前掛けを差し出す解体所受付職員。

 

「スライミー、頼んだ」

“プルプルプルプルプルプル”

ジミーの言葉に応える様に身を震わせたスライムは、渡された前掛けを身体の中に取り込むとそのまましばらくプルプルと震え続けるのでした。

 

「うん、こんなものでどうかな?」

待つこと暫し、ジミーがスライムから取り出して見せたもの、それはまるで新品同様に汚れの落ちた一枚の前掛け。

 

「あ、あぁ、これは見事なものだ。従魔審査は合格です。

審査証明を発行しますので、二階受付で従魔鑑札の手続きを行って「待ってくれ、もう一体いるんだ」・・・えっとどちらに?」

いい加減驚き過ぎて疲れていた解体所受付職員ではあったが、貴族の身内とあっては無下にも出来ない。

 

「ずっとここにいるぞ?」

そう言いジミーが指し示す先には、全身甲冑を身に纏った騎士の姿。

 

「リビングアーマーといったかな?わざわざ持ち歩かなくてもいい便利な鎧だ。シルバリアン、挨拶を」

“ガチャガチャ”

右手を胸に当て騎士の礼をする全身甲冑の姿に、きょとんとする解体所受付職員。

 

「あぁ、そうは言われても見た目ただの甲冑騎士だからな。シルバリアン、装着する」

シルバリアンと呼ばれる甲冑に手を触れるジミー、するとジミーと甲冑が淡く光り、次の瞬間ジミーの立っていた位置に甲冑姿の騎士が現れる。

 

“カチャッ”

「これで分かって貰えたかな?では審査を頼む」

ヘルムを脱ぎ爽やかに言葉を掛けるジミーに、“疲れた、もう帰りたい”という本音をグッと堪え作り笑いを返す解体所受付職員なのでありました。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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