転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第555話 転生勇者、冒険者登録を行う

いよいよ王都中央学園に向かう為マルセル村を旅立った俺たち、エルセルの街に到着して直ぐに向かったのは、冒険者ギルドエルセル支部であった。

冒険者ギルドは大きな街には必ずと言っていい程支部を持ち、魔物災害から人々を守るこの世界になくてはならない組織である。

子供の頃はただ単に冒険者に仕事を斡旋するだけの組織とか思っていたけど、依頼人である住民と冒険者の間に起こるトラブルを調整したり、事前に依頼の難易度を調査したりとその仕事は多岐に渡るらしい。

ケビンお兄ちゃんは便利屋と傭兵が合わさったような組織とか言っていたけど、冒険者が人々の助けになってる事には変わりがないと思うんだけど。

 

「それじゃこれから二階受付で従魔登録手続きを行う。纏まって俺の後に続いてくれ」

 

冒険者ギルドに来た目的は二つ、一つは俺たちが連れている従魔の従魔登録を行う事。

従魔はいくら大人しくとも魔物である事には変わらず、従魔登録を行わなければ街の中に入れてはいけない事になっている。俺たちは皆ケビンお兄ちゃんからダンジョン産の従魔の指輪を貰っているので、その中に収納してしまえば問題ないといえば問題ないんだけど、それだと無断で従魔を連れ込んだことになり、何か事が起こった場合面倒な事になりかねない。

これからの王都での学園生活の事を考えれば、早めに従魔登録を行う事は必須事項とも言えるのである。

そしてもう一つの用件というのは・・・。

 

“カツン、カツン、カツン”

冒険者ギルドの受付ホールに現れた見るからに貴族といった雰囲気を漂わせた集団。騎士風の男性三名を先頭にメイドと貴族子女と思しき女性が二名、その場に居合わせた冒険者たちは一体何事が起きたのかと視線を向けるも、遠巻きに眺めるだけで誰一人近付こうとはしない。

 

「御免、私はホーンラビット伯爵家騎士グルゴ・ナイト男爵という。ギルド長との面会を頼みたいのだがお取次ぎ願えないだろうか?」

“ザワザワザワザワ”

 

グルゴ・ナイト男爵と名乗った騎士の言葉にざわつく冒険者ギルド受付ホール。それは相手が男爵位を持つ貴族だったからではない、問題はその所属先、ホーンラビット伯爵家の騎士であった事。

辺境の蛮族、決して怒らせてはいけないオーランド王国の最凶。数々の冒険者たちの挑戦をその実力で退け、恐怖の象徴でもある大森林を我が庭のように闊歩する狂人の集団。

嘗てこの冒険者ギルドエルセル支部を借金奴隷のたまり場に変えた逸話は、この場にいる多くの冒険者たちの記憶に決して消える事のないトラウマとして刻まれているのだった。

 

「は、はい。直ちに確認して参りますので、その場で少々お待ちください!!」

慌てて席を立ち転がる様にギルド長執務室に向かったギルド受付職員の態度は、ここエルセル支部において如何にホーンラビット伯爵家騎士団の者が恐れられているかという証左でもあった。

 

「お待たせいたしました、ギルド長がお会いするそうです。どうぞこちらにお出で下さい」

然して時も置かず舞い戻った受付職員の案内によりギルド建物奥へと向かう一行、その様子を見詰めていた冒険者たちは、自分たちに累が及ばなかったことにホッと胸を撫で下ろすのであった。

 

「ようこそ、冒険者ギルドエルセル支部へ。本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか?」

冒険者ギルドの受付嬢に案内されて向かった先、ギルド長執務室で待っていた男性は、会社の中間管理職といった雰囲気を漂わせたいかにも苦労人といった感じの方でした。

 

人生二度目の冒険者ギルド、現実世界の冒険者ギルドである以上ゲームや小説の中の様なものではないとはいえ、どこか期待してしまうのが男の子というもの。

だって冒険者ギルドですよ?冒険ファンタジーRPGの基本、ラノベの定番ですよ!?

やさしい美人受付嬢に渋めの解体職員、筋骨隆々の山賊みたいなギルド長を期待してしまった俺は悪くないと思います。

 

ホーンラビット伯爵家の名前にビビる受付嬢、登録しに来た従魔を見て遠い目をする解体所受付職員、マルセル村から次々に送られる借金冒険者の対応に気苦労の絶えないギルド長。

何とも言えないこれじゃない感、今もギルド長が物凄くビビられている雰囲気がヒシヒシとですね。

 

「あぁ、ギルド長、お忙しい所お時間をお取りして申し訳ない。

実はこの度我がホーンラビット伯爵家のご令嬢であるエミリーお嬢様が王都中央学園に入学されることになってな、また我がホーンラビット伯爵領から目出たくも上級職を授かった若者が三名共に入学する事となったのだよ。

そこで王都に向かう前に彼らの従魔登録と冒険者登録をしようと思って立ち寄らせてもらったのだ。

 

ただ彼らは王都中央学園に選ばれるような職業を授かった身、下手に受付ホールで手続きを取る訳にも行かずこうしてギルド長に面会を求めたと言う訳だ。

こちらの一方的な理由による面会故迷惑を掛けて申し訳ないが、何とぞ理解していただきたい」

 

そう言い軽く会釈をするグルゴさん、それに対しギルド長は「ハハハ、そう言う事でしたら致し方がありませんな」と疲れた笑顔を向け応じられています。

 

・・・これが貴族と平民との関係性、例え貴族の横暴であろうとも平民はそれを無下にすることは出来ない。しかもここエルセルの冒険者ギルドはホーンラビット伯爵家に対し冒険者が迷惑を掛けまくっているという負い目がある。

ギルド長さん、今この瞬間にも胃がキリキリと悲鳴を上げてるんだろうな~。

俺は大人の社会の厳しさを垣間見、“管理職って大変だな~”と思わざるを得ないのでした。

 

「それでまずはこちらが今回従魔登録を行う従魔たちの審査証明書類となる。手続きをお願いしたい」

グルゴさんが差し出した書類にざっと目を通したギルド長。途中「コッコ?コッコってあのテレンザ侯爵領にいるっていうあのコッコ?」とか「はぁ?スライム?」とか言う呟きが聞こえてきますが気にしてはいけません。

いいんです、スライムはとっても便利なんです。しかも黒蜜はヤバいんです、嘗められてる方が都合がいいんです。

 

「あの、このリビングアーマーというのはダンジョンなどで見る事の出来るアンデッド魔物のリビングアーマーという事で間違いないですよね」

「そうだな、その認識で間違いない。ジミー、ギルド長にシルバリアンを紹介してくれ」

 

グルゴさんに言われ一歩前に出た全身甲冑姿のジミー。ヘルムを外しているため怪しむ人はいないですが、冒険者ギルド以外で出会えば不自然極まりない格好と言わざるを得ません。

因みに今のジミーは眼鏡装備をしていません。ではなぜ周囲が混乱に見舞われないのかと言えば、髪の毛を後ろで束ねている組み紐に秘密があります。

この組み紐、ケビンお兄ちゃんが謎技術を駆使して作り上げた「目立たなくなる組み紐」というとんでも魔道具で、この組み紐を身に付けていると周囲からあまり注目されなくなります。

その性能はケイトさんが領都学園で実証済み、多少のやり過ぎもケイトだからの一言で済まされているとの事です。

 

そんな凄い物があるんなら俺にもくださいとお願いしたところ、「ジェイク君は勇者様だから無理、その職業がある限り注目は避けられないし注目されなければ逆に不自然に映っちゃって結局この魔道具がバレちゃうから渡せません。

それ程にこの魔道具はある意味危険な代物なの」と言って断られてしまいました。(グスン)

 

ケビンお兄ちゃんにはこれまでもいろんなものを貰っているので文句を言う方が筋違いなんですけどね、「勇者には社会勉強が必要です」とか言って厳しいんだもん。

でも旅立ちの前に「学園での普段使い用に」と言って大森林中層の材木で作った木刀をそれぞれに配っていたのはどうなんだろうか?

大森林の素材って貴重品なんですよね?これってそこそこヤバい品じゃないんでしょうか?

俺がそう質問したところ、「御神木様の枝製の木刀の方がもっとヤバい」と返された時は乾いた笑いしか浮かびませんでしたが。

 

「えっと、そちらの騎士が一体・・・」

「はい、私が着込んでいるこの甲冑がリビングアーマーのシルバリアンになります。シルバリアン、“脱着”」

 

ジミーの掛け声に光を発し分離するシルバリアン。シルバリアンはジミーの隣に並ぶとガチャリと音を立て右腕を胸の辺りに当て、ギルド長に騎士の礼をします。

シルバリアン、念話で会話が出来るんですけどね、それをやると面倒な騒ぎになるだろうって事で、ワザとガチャガチャ音を立てて普通のリビングアーマーのフリをしているって訳です。

でも解体所受付職員さんの態度を見るとそもそもリビングアーマーって段階でアウトみたいなんですけど?

まぁエルセルの冒険者ギルドはその程度の事では(多分に忖度が働いて)騒がないでいてくれる有り難いギルドなので、無問題って事で。

 

「そ、そうですか。それは大変珍しい魔物をテイム出来たのですね、ハハハハハハ」

ギルド長、めっちゃ顔を引き攣らせて笑っておられます。グルゴさん、胃薬を持っているようなら分けて差し上げて。

 

「それと彼らの見習い冒険者登録を頼みたい。王都の学園では見習い冒険者として下積みの仕事を体験したいというのが彼らの望みでな、私も彼らが王都社会の実情を知るには丁度良いと考えている。

だが下手に上級職の者が見習い冒険者登録をすると有象無象が寄って来るのも事実、彼らの情報はあまり知られる訳には行かないが王都で手続きを行えば秘匿することは難しいからな」

そう言い俺たちのギルド提出用鑑定書を差し出すグルゴさん。

ギルド長は鑑定書を受け取りざっと目を通すと・・・惜しい方を亡くしたようでございます。

 

「エミリー、ギルド長に<ヒール>を掛けてあげてくれる?」

「うん、それは構わないんだけど、ギルド長さん、色々気苦労が溜まっているみたいだしおそらく慢性的に胃を痛められてると思うの。だから<ヒール>くらいじゃあまり効かないんじゃないのかな?

“偉大なる女神よ、その御業を我が手に、パーフェクトヒール”

“大いなる神よ、その慈悲を持って彼の者を癒せ、リフレッシュ”」

 

“パーーーッ”

エミリーの光属性魔法の詠唱により眩い光に包まれるギルド長。

その光が収まった時、驚きに目を見開きながらも目の下の隈が消え肌艶が良くなったギルド長が姿を現すのでした。

 

「これは・・・身体が羽が生えたかのように軽い。慢性的な耳鳴りや頭の重さも嘘のようになくなっている。

聖女様、あぁ聖女様、心の底からの感謝を」

そう言い跪いて感謝の祈りを捧げるギルド長・・・ギルド長、そんなに辛かったのね。

崩壊した冒険者ギルド立て直しの為にエルセルにやって来て三年、一度解体された冒険者ギルドエルセル支部を一から作り直し、行政機関と密に協力して一歩一歩。漸く形になってきたところでアルバート子爵家に集まる馬鹿な冒険者たちに頭を悩ませ、犯罪者冒険者たちの助命の為に奔走し、それが終わったと思えば今度は増え続ける借金冒険者の対処に心を痛め(胃)、本当に、本当に辛かったと思います。

その全てから解放された様なギルド長の姿は涙なしには見れません。

 

「聖女様、勇者様、賢者様、剣天様、皆様の見習い冒険者手続きは確かに承りました。直ぐにご用意いたしますので少々この場でお待ちください。

機密保持の為私自らが手続きを行いますので」

そう言い悟りを開いたかのような穏やかな顔でギルド長執務室を後にするギルド長。

 

「冒険者ギルドのギルド長って大変な仕事なんだね」

「うん、私もここまで態度が変わるとちょっと怖いかな。グルゴさん、マルセル村に帰ったらドレイクお父さんに言ってお母さんの胃薬を贈ってもらえる様に手配して貰えますか?」

 

「あぁ、そうだな。あれはちょっと見るに堪えないな。ホーンラビット伯爵閣下に相談してみる事にするよ」

グロリア辺境伯領一平和な街エルセル、その下支えをする冒険者ギルドギルド長の苦悩が少しでも軽減するよう祈らざるを得ないマルセル村一同なのでありました。




本日一話目です。
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