「うむ、エミリー嬢も学園に向かう歳となったか。月日の過ぎるは早いものであるな。ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下は御壮健であらせられるかな?
あの御方の事だ、お生まれになったお子様の成長に日々相好を崩されておるのであろうが」
「はい、ストール監察官様におかれましては御機嫌麗しく。隣領ホーンラビット伯爵家の娘としてお慶び申し上げます。
義父ドレイク・ホーンラビット伯爵も一度ゆっくりお伺いしたいと申しておりました。その際には弟のロバート、バーミリオン、妹のマリアンヌも連れて伺いたいとの事でした。
義父ホーンラビット伯爵は本当に家族に愛情を注いでくれる方ですので私も日々感謝しております。
これからもホーンラビット伯爵家との良好なお付き合いの程よろしくお願いします」
冒険者ギルドエルセル支部での従魔登録と見習い冒険者登録を終えた俺たちは、先触れとして離れていたギースさんと合流の後、エルセルの監督官屋敷へと向かったのでした。
監督官のストール・ポイゾン様は昔からマルセル村の監察官としてドレイク村長と深い交流を持っていた御方で、エルセルの監督官として就任された後も何かと気を配ってくださる御方であると事前情報として聞いています。(ケビンお兄ちゃん情報)
「うむ、農業重要地区入りを果たした四箇村の事を含め、こちらとしてもホーンラビット伯爵家とは友好な関係を築いていきたいと常々考えておる。これからもより親密な関係性をお願いしたいものであるな。
だがそうした事よりも今はエミリー嬢の目出度い旅立ちである。今宵は我が家と思ってゆるりと過ごしていただきたい。簡単ではあるが歓迎の宴も用意しているのでな」
「はい、ポイゾン監督官様の温かいお心遣いに感謝を。お言葉に甘えまして英気を養わせて頂きたく存じます」
エミリーとストール監督官様のお貴族様然としたやり取り。
・・・エミリースゲー。エミリーってば俺と同じ辺境の村人だったのに本物のお貴族様のお嬢様みたいじゃん。パトリシア様って言う生粋のお嬢様に指導を受けたとはいえ、ここ迄スムーズなお貴族様会話が行えるとは。こちらの事情を全て承知しているストール監督官様や元伯爵家の騎士隊長をしていらしたグルゴさんが、感心したように優しい眼差しを向けておられるんですけど。
俺もエミリーお嬢様と呼んだ方がいいんだろうか、今や名実共に伯爵家のお嬢様な訳だし。
俺たちはそんなエミリーの大活躍の後、それぞれの部屋に案内され休憩を取る事になったのでした。
「フ~、ジミーお疲れ。やっぱりこういった偉い人の御屋敷に来ると緊張するね。去年一昨年とオーランド王国周辺も色々とあったからこれでもだいぶ慣れて来てはいるんだけどさ、やっぱりお貴族様ってご身分が違うって言うか住む世界が違うって言うか」
「あぁ、そう言われるとそうだな。俺は暗黒大陸でいろんな場所を回ったんだが、あそこは良くも悪くも強さが全てと言った場所だったから教養だの作法だのと言った事に然程うるさくなかったんだよ。
最低限相手を立てる、傍若無人な振る舞いはしないといった程度の事が出来れば十分といった感じだったな。要はマルセル村での生活の延長でどうとでもなったんだ。
流石にオーランド王国の貴族社会でそれは通用しないだろうが、俺たちの目指すものは世界を股に掛けた冒険者、貴族社会では最低限失礼のない程度の事が出来れば十分と言ったところなんじゃないのか?
こう言っては悪いが所詮冒険者は無頼の人間の集まりだからな、強さが全て、文句があれば実力を示せだったか?
揉め事は当人同士で模擬戦を行って解決しろっていうのが基本姿勢らしいからな。力のない奴は幾ら正しくとも泣きを見る、冒険者を続けるのも簡単じゃないって話だったか。
いくらお貴族様でもそんな輩に礼儀作法を求めやしないってな、最低限必要な作法はボビー師匠やヘンリーお父さんが教えてくれたんじゃないのか?」
ジミーの言葉に「それはそうだけどさ」と力なく応える俺。頭では分かっているけど、基本小市民の俺じゃそこまで堂々とした態度は取れないっての。
「まぁケビンお兄ちゃん程の事は出来なくても普通に振る舞ってればいいんじゃないのか?エミリーは立場上必要だったから覚えただけで、俺やジェイクは所詮下級貴族の子弟だしな。
それよりも悪いがスライミーの鑑定をお願い出来ないか?」
「下級貴族の子弟はジミーだけだっての。俺は準貴族、正確には貴族ですらないんだからさ。
それでスライミーの鑑定だったよな、こいつら本当に一匹になっちゃってるのな。それじゃ、<鑑定>」
<鑑定>
名前:スライミー
年齢:二歳
種族:合体スライム
スキル
触腕操作 身体操作 合体 分裂
魔法適性
なし
「おぉ、スライミー進化してるわ。なんか<合体スライム>って種族になってるみたい。それでスキルが<触腕操作>と<身体操作>と<合体>と<分裂>、魔法適性はないみたい。
要するに動けるスライム?大福ほど特殊って訳じゃないけど、十分凄いスライムだと思うぞ」
俺の言葉に「凄いなスライミー」と言ってスライミーを持ち上げるジミー。スライミーは何処か誇らしげにプルプルと震えています。
“ピョンピョンピョンピョン♪”
“僕も僕も~♪”って黒蜜も鑑定するの?なんか嫌な予感しかしないんだよな~。出来ればあまり見たくないな~。
俺、基本黒蜜に戦闘を期待してないって言うか、出来れば大人しくしていてくれると助かるって言うか。
“プルプルプルプル”
うわ~、何その期待に満ちた態度、やめて、俺そう言う健気な感じに弱いんだよ~。
「・・・<鑑定>」
<鑑定>
名前:黒蜜
年齢:零歳
種族:ハングリースライム
スキル
魔力支配 空間感知 粘体自在 学習進化 環境適応 金剛柔体 食いしん坊 空間胃袋
魔法適性
全属性
称号
勇者の従者
「・・・俺より強いじゃん。もう勇者要らないじゃん」
「どうしたジェイク、黒蜜の<鑑定>をしたんだろう?」
「あぁ、<ハングリースライム>って種族だった。それでスキルが<魔力支配><空間感知><粘体自在><学習進化><環境適応><金剛柔体><食いしん坊><空間胃袋>。
魔法適性が<全属性>、称号に<勇者の従者>ってのが付いてた」
「・・・それって普通にヤバくないか?」
「人には絶対言えない奴だな。勝手に鑑定されちゃうのは仕方がないとしても、基本的に黙っておくって事で」
“ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”
「“こんな事も出来るよ~”ってどうした黒蜜!?」
俺が思わず素っ頓狂な声を出したのは無理からぬ事、グニョリと身体を歪めた黒蜜が一振りのロングソードに姿を変えたからである。
“振って振って~”と楽し気な思いを飛ばす黒蜜に、ロングソードを拾い上げ軽く振ってみる。
“シュンッ、シュンッ”
「これ凄く良い、確りと重さはあるのに手に馴染むって言うか、しっくりくる」
“グニョ~ン”
“後はこんなの~”という思いが届くや否や形を変えた黒蜜は、普段身体の汚れを取る時の様に俺の全身に張り付くと瞬時にその姿を鎧風のものに変え、“変身はロマン~♪”とばかりに喜びの思いを伝えて来るのでした。
「なぁジェイク、黒蜜優秀過ぎないか?と言うか大福みたいに“黒騎士”にもなれるだろう、それ」
「多分“プルプルプル”・・・なれるってさ。でもジミーみたいに変身するのがいいんだと。スライミーがスケルトン合体をしてシルバリアンに変身するのを見た時からずっと羨ましかったんだってさ。
さっきから“変身最高!!”とか言って興奮しまくってるの。やっぱり大福から分裂しただけあってケビンお兄ちゃんの<仮性心>を確り引き継いでるみたい」
俺は“そういえばミッシェルちゃんは霊亀の上にエッガードごと乗って機動要塞エッガイヤーとかやってたな”と思いながら、マルセル村の魔物はどこかおかしいと遠い目をせざるを得ないのでした。
――――――――
「ポイゾン監督官様、大変お世話になりました」
「うむ、王都の生活は慣れぬ事も多く初めのうちは苦労するやもしれんが、学園生活を楽しんで欲しい。道中気を付けて行かれよ」
翌日エルセル監督官屋敷を旅立った俺たちは、街を抜けオークの森手前のラッセル村に馬車を進めるのでした。
ラッセル村は授けの儀の際に養蜂家のお宅を訪ねた場所、今回はケビンお兄ちゃんたっての頼みで、ある品を届ける事になっています。
途中前回立ち寄った村の食堂に寄り昼食を食べ、日が傾く前にはラッセル村に到着。馬車と馬を宿屋に止めてから、みんな揃って養蜂家のジニーさんを訪ねる事にしました。
「ごめんください、こちら養蜂家のジニーさんのお宅でよろしいでしょうか?」
ジミーが大きな声で家の人に呼び掛けます。
「はい、どちら様でしょうか?」
返事をして玄関扉を開けた瞬間身を固める壮年の男性。あの人は確かジョージさんって言ったかな?爽やかな味の蜂蜜を分けてくれたのをよく覚えています。
「はじめまして、私たちはホーンラビット伯爵家の者です。この度王都の学園に向かう事になりまして、その途中で立ち寄らせて頂きました。
こちらには以前領主ホーンラビット伯爵閣下も立ち寄らせて頂き大変貴重なバージンハニーを味わわせていただいたとか、その節は大変お世話になりました」
ジミーの言葉に合わせ深々と礼をする俺たち。本来貴族が家名を名乗って平民に頭を下げる事などあり得ない事なんだけど、相手に対し深い敬意を示す場合は良しとされているらしい。
ホーンラビット伯爵閣下やエミリーはこちらの蜂蜜をとても気に入ってるからね、ホーンラビット伯爵家としても是非懇意にしたいとのお達しでこういったご挨拶をする事になりました。
本心としてはケビンお兄ちゃんを止める事の出来る人材は貴重って事らしいんだけどね。
「えっ、あっ、はい。父ジニーは家に居りますので直ぐに呼んでまいります。今しばらくお待ちください」
“ドタドタドタ”
慌てたように家の中に戻って行くジョージさん。奥の部屋から「親父、大変だ、お貴族様がお見えになられて、親父に用があるって。以前ウチの蜂蜜を食べたって言ってるんだよ、早く来てくれ、俺じゃどうにもならねえんだよ!!」という声が聞こえてきます。
・・・うん、なんか騒がしくしてすみません。
「お待たせいたしました、私がジニーでございます。何やら我が家の蜂蜜をいたく気に入っていただけたとか、大変恐縮でございます」
ジョージさんに促され玄関先に現れたジニーさん。お休み中の所本当に申し訳ありません。更に言えば用件は蜂蜜とは全く関係ないんです。
「ジニーさん、お久し振りです。マルセル村のジェイクです。去年授けの儀の時にこちらのエミリーお嬢様と共にお邪魔させて頂きました。
その節は大変お世話になり、ホーンラビット伯爵閣下より良く礼を伝える様にと申し付かっておりました」
俺とエミリーが前に出て言葉を掛けると、一瞬何の事だか分からないといった表情になるも、「あぁ、あの時の」と思い出して下さった様でした。
「そうですか、あの時の御方がホーンラビット伯爵様だったのですね。これはこれは気付かぬ事とは言え大変失礼をいたしました。数々の無礼な振る舞い、深くお詫びいたします」
「いえ、謝罪は結構です。義父ドレイク・ホーンラビット伯爵もここでの一時は大変有意義であったと申しておりました。
今はフォレストビーたちも休眠期であるはず、その様な時にお邪魔させていただいたのは蜂蜜とは別の用があったからなのです」
エミリーがザ・お嬢様と言った風な口調でジニーさんに言葉を掛けます。エミリーさん、役者だわ~、役に入り込んでるわ~。
「エミリーお嬢様、ここからは私が。
はじめまして、私の名はジミー・ドラゴンロード。ジニー師匠には兄ケビンが大変お世話になっております。
この度お邪魔させていただいたのは兄ケビンよりジニー師匠にお渡しして欲しいと頼まれた品がありまして、こちらの木製人形なんですが」
ジミーはそう言うと一体の木製骨格標本を収納の腕輪から取り出し、地面に横たえるのでした。
「これは一体・・・」
「はい、見ての通りの木で作ったスケルトン人形になります。これはスライムの合体の練習用にと兄が作った品になります。
使い方はこの様になります。<オープン:スライミー>」
ジミーの掛け声と共に手に嵌めた収納の指輪から光が発せられ、それと共に姿を現したスケルトン合体スライムのスライミー。その光景に呆然と固まるジニーさん。
「スライミー、こちらのジニー師匠にご挨拶を」
ジミーに言われ胸に手を当て上体を曲げるスライミー、そんなスライミーに「はじめまして、私はジニーと言う、どうぞよろしく」と言葉を返すジニーさん。
「スライミー、分離して」
“プルプルプル、ボタボタ、ガシャン”
スライミーが分離し三体のスライムになると、その場に崩れる木製骨格標本。スライミー達はノソノソといった動きでジミーの足下に集まります。
「ご覧の様にこのスライムたちは木製骨格標本を頼りにして人型を取る事に成功しました。スライムには人のような骨が無い為体型を維持する事は難しい、ならばこちらで用意してあげればいいというのが兄ケビンの発想だったようです。
ジニー師匠は三体のスライムを合体させることでスライムではあり得ない戦闘行為を行わせることに成功しているとか、いずれは三体合体によるスライム騎士も完成させると思います。
ですがスライムにその動きを学習させるのは難しく時間が掛かる。
そこでこの木製骨格標本を使う事でその学習時間を短縮させようというのが兄の試みです。
ご覧の様に私のスライムたちも兄の指導で人型の動きを行う事が出来るようになりました。ジニー師匠であればより効率的により滑らかな動きを実現出来るだろうというのが兄の言葉です。
「スライム使いの手記」、私も読ませて頂きました。大変すばらしい本でした。スライムを従魔とする者として、心より尊敬しております。
この木製骨格標本がジニー師匠のお力になるのでしたら、これに勝る喜びはありません。どうぞお納めください」
そう言い深々と頭を下げるジミー。俺も黒蜜の契約者として同じく頭を下げます。
ジニーさんはジミーの手をガシリと掴むと、「ありがとう、本当にありがとう」と身を震わせながら言葉を返してくれるのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora