転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第557話 転生勇者、ミルガルへと向かう 

冬の養蜂場の庭先でスライムたちが遊ぶ。

 

“ガタガタガタガタ”

それはリハビリで使われる歩行補助具のような、赤ちゃん用のベビーウォーカーのような。

 

「直立状態でのスライムの歩行、その最も難しい点は倒れず姿勢を維持したまま前へと進む事。スライムは元が軟体であるため形状を維持し続けることが難しい、これがまず一点。

もう一つがその状態を維持しつつ倒れずに動くという事。

皆も赤ちゃんの姿を想像してみて欲しい、赤ちゃんは初めハイハイから始まり掴まり立ちを覚え、尻もちを搗きながらも二足歩行を覚えて行く。

この人が何気に行う二足歩行だが、姿勢的に非常に不安定であり軟体であるスライムにとっては困難極まりない。

 

そこで私はまずスライムたちに二足で歩くとはどういうものかを体感させる為に、この様な補助具を作り訓練を行っていたのだよ」

 

補助具の真ん中には人型体型を取ったジニー師匠のスライムたちが入っており、補助具を支えに少しずつ前へと進んでいる姿を見せるのでした。

 

これ物凄くない?ジニー師匠って何者?この補助具にしたって、ポーションでは治り切らないケガで歩行が困難になった人や足腰が弱ったお年寄りの補助具として立派に使えるよね?

この世界にはハイポーションみたいなとんでも魔法薬があるから前世みたいにケガで半身不随になって動けないなんて人も少ないように思うかも知れないけど、それはあくまでお金持ちの話、平民にはそんなお金がなくて家で寝たきりなんてざらにいる。と言うかそんな大ケガだったら普通に死ぬ。

ハイポーションを買おうと思えば金貨が必要だし、一般的な寒村の村人は金貨なんて一生掛かってもお目に出来ないなんて当たり前だ。(調薬師ミランダさん情報)

 

でもこの補助具だったら?村の大工でも作れる?

前世のものに比べれば稚拙ではあるだろうけど、必要とする人は多いと思う。

 

「フォレス、ウッド、ビー、皆さんにご挨拶を」

ジニー師匠の言葉にこちらに歩行器を押しながら近付いて来た人型のスライムが立ち止まり、ぺこりと頭を下げる。その姿は透明な女性のよう。

 

「この形状はウチの婆さんの若い頃の格好だな。ウチは男兄弟で花が無くてな、早く嫁の来手があればいいんだがこればかりは縁だからな。

婆さんの手伝いをしてくれる娘の代わりになってくれればとの思いからこの形状になった訳だ。

最初は不気味がっていた婆さんも次第に慣れたみたいで、今じゃすっかりスライムたちと仲良くしておるよ。椅子に座った姿は人に見えなくも無いからな」

 

ジニー師匠は「よし、よくやったぞ」とスライムたちを褒めながら分離するように指示を出す。するとスライムたちは人型を崩し三体のスライムに変化する。

次にジニー師匠はスライムたちに「三つ首変化」と指示を出す。すると三体のスライムたちは再び合体し、とある見覚えのある魔物の姿へと身を転じる。

 

「「「「「あっ、大福三つ首ヒドラ」」」」」

「うむ、その通りだ。これは去年ケビン君が見せてくれた大福君の変身した姿をまねたものだな。大福君はこの子たちの目標であったからな、それぞれの首を三体が担当しつつ前足と後ろ足を連携させて前へと進む。簡単そうに見えて複雑な連携を必要とする技でな、習得するのに苦労したものだよ」

ジニー師匠の言葉に応える様に首をクネクネ動かし口をパクパクさせる小振りの三つ首ヒドラ。ついこないだまでボコボコにされていた相手だけありその詳細まで知っている俺たちから見ても、そのクオリティーの高さには感嘆の声しか出ない。

 

「そして本命は先程ジミー君より受け取った木製スケルトン人形であるが。フォレス、ウッド、ビー、この木製スケルトン人形を身体の中に取り込むんだ。形状は人型、支えが出来る分いままでよりも動きやすくなるはずだ、先ずは試してみてくれ」

その言葉に再び三体へと別れたスライムたちは、モゾモゾと動き木製骨格人形に張り付いて行きます。

 

“グイッ、ムクリ”

木製骨格人形を取り込み上体を起こしたジニー師匠のスライムたち。

 

“ゴソッ、トタッ、トタッ、トタッ”

スライムたちはゆっくりと立ち上がると、ふらつきながらも少しずつ前へと足を踏み出します。

 

“ドタッ”

「おっと、大丈夫か?だがよくやった、見事な歩行であったぞ?

しばらくは支えが必要であろうが直ぐに歩けるようになるやもしれん。フォレス、ウッド、ビー、本当によくやった」

そう言い目を細めスケルトンスライムに抱き付くジニー師匠、俺たちはそんな二人?に拍手を送ります。

 

「ジニー師匠、大変良いものを見させていただきました。兄ケビンによればいくらスケルトン人形を取り込んだからと言って直ぐに動けるようになる事はないとの話でしたが、フォレス、ウッド、ビーの三体は使い熟して見せた。これは(ひとえ)にこれまでのジニー師匠とスライムたちの努力の賜物でしょう。

私とスライミーもより一層精進したいと思います。

それと兄よりの伝言です、「スライム合体の変身騎士、楽しみにしています」との事でした。

いずれまたお伺いいたします、その時までお元気で」

 

俺たちはジニー師匠に礼をすると、いつまでも手を振ってくれるジニー師匠とスライムたちに別れを告げ、養蜂場を後にするのでした。

 

「ジェイク君、凄い人っているんだね。ケビンお兄ちゃんは別格としても自力でスライムの二足歩行にあそこまで近づくなんて。

なんか私も頑張らないとって気持ちになっちゃった」

「そうだよな、俺、パトリシア様から王都の学園の様子を窺った時、「王都学園の授業で皆さんが学ぶべき事柄はほとんどありません」って言われてどうしようかと思ったけど、それってのは一般的な授業をそのまま受けた場合ってだけの話であって、どんな場合でも学びってのはあるんだよな。

ジニー師匠はその事を身を以って証明してくれたと思う。スライムマスタージニー師匠、「スライム使いの手記」は学園図書館にも置いてあるらしいし、王都学園に入ったらすぐに借りて読んでみる事にするよ。

何でもケビンお兄ちゃんが寄贈したんだって、王都であぶく銭が入ったとかなんとか言ってたかな?

ケビンお兄ちゃん、一体何をしたんだろうね?」

 

王都学園での三年間、俺たちはどう過ごすべきなのか。ジニー師匠と別れ宿屋に帰った俺たちは、部屋に集まってああでもないこうでもないと今後の事について話し合うのでした。

グルゴさんとギースさんはそんな俺たちの姿を見守りながら、「青春ですね」「あぁ、若いという事はいいもんだな」とどこかおじさんのような事を仰っておられました。

 

――――――――

 

「ご主人、大変世話になった。ではエミリーお嬢様、出発いたします」

“ハッ、ガタガタガタガタ”

 

グルゴさんの掛け声と共に動き出した馬車、その周りを俺たちの騎馬が囲むように進んで行きます。

今日の目的地はミルガル、移動距離としては短めなのでお昼過ぎには到着する予定です。

 

「そう言えば去年授けの儀で領都に向かう時にオークの森を通過したんだけどさ、ブー太郎と同じ風に蔦で縛られたキャタピラー状態のオークがいてさ」

先頭を行く俺とジミーは周囲の警戒を行いつつ、馬を進めます。とは言ってもマルセル村の馬は皆頭がいいから、こっちが何もしなくても勝手に目的地まで進んでくれるんですけどね。

オートパイロットと自動警戒機能付き、何か異変があれば立ち止まって危険を知らせてくれる優れもの。前世の車もこれくらい優秀だったら事故が減ったかもしれないんですけどね、あの世界の人々は皆忙しなかったからな~、今更あの世界に帰ってもあの時間感覚にはついて行けない。

でも王都ってあんな感じで忙しないのかな?・・・うん、どう考えても俺には宮仕えは無理ですね、やっぱり冒険者一択、世界が僕らを待っているって奴ですね。

 

「へ~、そんな事があったんだ。それでブー太郎と一緒に消えたオークって今はどうしてるんだ?」

「なんでも御神木様のところで石造りの家を建ててるんだってさ。ブー太郎曰くそのオークは石工をやってたらしいんだよね。

文明的な生活をするオーク、将来そう言う魔物とも戦わないといけない事があるのかと思うと、今の内から心構えと言うか自分の中の芯の部分や覚悟を意識しておいた方がいいのかなって」

 

「まぁそうだな、魔物が全て敵って考えるのは危険だし、文明的だからって分かり合えるって考えるのも危険だろうな。

この世がそんなに単純なら人の世界で戦争や犯罪なんてものが起こるはずもないしな。

学園の授業では魔物学なんてものもあるらしいから、そう言ったものを受講したりベテラン冒険者の話なんかを聞いたりするのもいいのかもな」

 

冬の寒さは厳しく街道を進む旅人の姿はまばら、そんな中俺たちは魔力纏いで寒さを防ぎ快適な旅を続けている。

寒くとも穏やかな気候、よく晴れた澄み切った空にはビッグクローが悠然と翼を広げている。

 

「なぁジミー、魔力纏いが出来る俺たちにとっては冬の旅の方が逆に快適なんじゃないのか?人の流れが少ないし、必然的に盗賊も少なくなるし」

「そうだな、後でグルゴさんに提案しておくのもいいかもな、冬場はマルセル村から商品を売りに行ったらどうかって」

 

グロリア辺境伯領ではビッグワーム農法やビッグワーム飼育のお陰で冬場に農産物や食肉を手に入れ易くなったとはいえ、都心部で品薄になることは免れない。これは普通に商機なのでは?

 

いつまでも続く冬の街道、俺とジミーはそんなとりとめもない会話を続けながら次の目的地であるミルガルを目指すのであった。

 

「次、ご身分と目的をお教えください」

ミルガルの街門貴族専用通用門、一般の通用門が入街審査で少なくない人数の列が出来ているのに対しこちらはとってもスムーズ。平民だったなら“貴族特権て奴かよ、ケッ”とか思ったんだろうけど、利用する側としてはとっても便利。要するに某夢の国のファストパス、有料だろうが何だろうが時間は有限、Time is moneyなのです。

 

「何かこの貴族通用門って言うのもすっかり慣れたよな。最初の頃は口上を言うのもどぎまぎしたけど」

「そうなのか?ジェイクは凄いな。俺は今回の旅が初使用だからな、未だにどこかなれなくてモヤモヤした気分になるよ。

ケビンお兄ちゃんは貴族が貴族専用通用門を使うのは権利と言うより区別だって言ってたんだけどな。下手に平民と一緒に門に並ばれて問題を起こすくらいならとっとと通過してくれた方がましとかなんとか。

本当にケビンお兄ちゃんの考え方って独特だよな、理に適ってるのがまた質が悪いというかなんと言うか」

 

ジミーとそんな事を話しながら、俺たちはミルガルの貴族御用達高級宿に向かい馬車を進めるのでした。

これもケビンお兄ちゃん曰く区別、貴族が下手に庶民派ぶって一般の宿に泊まられたら宿も宿のお客さんも迷惑との事らしい。という訳で“ブラックウルフの尻尾亭”での宿泊は当面お預け、あそこの料理美味しかったんだけどな、凄い残念です。

 

「いらっしゃいませ。旅の宿“精霊の祝福”へようこそ」

広い受付ホール、以前泊まった領都の“小鳥の巣箱亭”ほどじゃないけど流石お貴族様御用達と言った立派な旅館です。

 

「我々はホーンラビット伯爵家の者である、一晩の宿を頼みたい。人数は大人七名だ」

「畏まりました。特別室のご用意がございますので、そちらへご案内いたします」

こうした宿は大概高位貴族専用の特別室を用意しているのだとか、伯爵家と言えば侯爵家に次ぐ地位であり宿としては当然敬意を払わなければなりません。

まぁその分宿泊費もお高くなってしまうんですけどね、貴族とは見栄の商売、こうしたところでケチな事をしては評判に関わります。一般の宿屋に泊まれないのは、こうした貴族ならではの慣習もあるんですが。

 

「こちらのお部屋になります、それでは皆様ごゆるりとおくつろぎください」

一礼の後部屋を下がる宿屋の従業員さん。何か用事がある時は部屋備え付けの鈴を鳴らすと控えの従業員がやって来るのだそうです。

この鈴、実は魔道具で鳴らすと対になっているもう一つの鈴が音を出すんだとか。魔道具って本当に便利です。

 

「それでは今日はこの宿で休む事とする。それと一つ、この後時間があるだろうがミルガルの冒険者ギルドには絶対に行かない事。

これはホーンラビット伯爵閣下からもきつく申し付かっている。

理由はミルガル支部のギルド長が曲者でな、活きの良さそうな冒険者を見つけては言葉巧みに模擬戦を嗾けたりするとの事だ。そこで目を付けられたりすると後々面倒事に巻き込まれるとか、授けの儀の後ケビンがそれに巻き込まれてな、冒険者ギルドからの追放処分を喰らったらしい。

ケビンは冒険者でもなんでもないのでむしろ関わり合いにならなくて済んだと喜んでいたらしいが、冒険者ギルドではその事で結構な騒ぎになったんだとか。ホーンラビット伯爵閣下の所にも冒険者ギルドから何かと接触があって面倒だったと言っていたよ。

 

お前たちはただでさえ希少職だ、何があるのか分からん。冒険者ギルドは王都学園に入るまで我慢する事、いいな」

 

まるで俺たちの心を見透かしたかのようなグルゴさんの牽制、こうして僕たちはこの余った時間を旅館の直ぐ側にある教会に旅の安全を女神様にお祈りする事で過ごす事になったのでした。(ガックリ)




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