魔道具作製用のインクの基本的な材料は、魔力水と墨とスライム溶液。マルコお爺さんの下で行った実験により魔力水とスライム溶液だけではスキル“魔道具作製”を行う事が出来ないと言う事は既に分かっている。まったく“着定”しなかったのだ。
また、一度着定を行った糸はそれ自体が一本の回路として固定化されており、折り重ねても一つの回路として認識されず魔法が発動しない事も分かった。更に言えばその糸で刺繍を行った所に上書きする形で“着定”を行っても、新たに一つの回路として認識されない事も判明している。
ただし魔力導線としては大変優秀で、一本の糸でもほぼロスなく魔力を伝達出来る事が分かったのは大きい。今後に様々な可能性を残した新素材として期待出来るだろう。そしてもう一つ。
「“大いなる神よ、その御技を我が手に、魔道具作製”、ほれケビン、出来たぞ」
ベネットお婆さんの所で縫ってもらった刺繍の入った布で作った額当て。付与された魔法効果は衝撃吸収、布地の下には額に合わせて曲線状に削った木片が入っている。
俺はそれをおでこに縛り付け軽く叩く。うん、振動が来る。次に魔力を意識してから軽く叩く。
・・・全く振動が来ない。そのまま木刀でコツコツ叩くが、何されてるのか分からないくらいに何も感じない。これって凄くね?
「どうやら成功した様だな。しかしインクを染み込ませよく乾かした攻撃糸で刺繍をしてから着定を行えば、魔道具として発動するとはな。これはある意味革新的技術だぞ?
これ迄難しいとされてきた布地への複雑な魔方陣も、刺繍であれば可能となる。それこそ鎧よりも丈夫な服が作れるかもしれない。やりたい事が増えまくりじゃないか」
そう、魔道具用のインクで染めた糸で刺繍を行ってから着定させれば、それは魔方陣として機能する事が分かったのだ。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるマルコお爺さんは、既に幾つか新しいプランでも思い付いているのだろう。
俺はそんなマルコお爺さんに新たなる試みの話を打ち明ける。
「ほう、光属性の布を作りたいと言うことか。攻撃糸に魔道具用のインクを着定させた様に、光属性インクの様なものを作って染め上げられないかと言うことだな?」
用意したものは攻撃糸で作ったハンカチ程の大きさの布数枚、攻撃糸、収縮糸、それとインク代わりにと用意した液体数点。
まず光属性魔力を染み込ませたインクと言うものがよく分からない。そこで通常のインク作製手順の魔力水に光属性魔力を込めると言う荒業、もとい複合生活魔法を行い“ライトウォーター”と呼ぶべき液体を作製、それを使いインクを調合してみた。
次にミランダさんに素材について相談したところ、“蜂蜜は光属性魔力の効果が高い”と教えていただけたので、インク作製時の墨の代用として蜂蜜を使ったハチミツインクを用意。
最後に先程のハチミツ液の魔力水をライトウォーターで作製したライトハチミツインクを作製、この三点で実験してみることに。
方法は簡単、用意した布と糸を先程の液体に浸けてマルコお爺さんに着定して貰うだけ。果たして実験の結果は。
「着定したな・・・」
驚くべき事に、全てのインクが着定に成功してしまった。つまりこれらの液体は全て魔道具作製用のインクとして有効と言う事になる。
だが問題はこれらが光属性魔力を有した布であるかどうか。でもこれってどうやって確かめたらいいんだろうか?
「そうだ、これらのインクでプチライトの魔方陣を描いてみて、発動させてみれば分かるんじゃないか?元々光属性性質を持つインクなら光り方が強くなると言った魔法効果の変化が起きてもおかしくない」
「なるほど、属性特化型の魔法使いの原理ですね」
一属性に特化した魔法使いは複数の属性持ちよりもその特化した属性において高い魔法効果を発現するって奴。一属性特化のエミリーちゃん、ますます光属性魔法に磨きが掛かってるらしいからな~。あの子は一体どこまで行く気なんだろうか。
早速マルコお爺さんは木板にプチライトの魔方陣を書き込み着定を行います。ライトウォーターインクはサラサラっと描けたようですが、ハチミツインクは色が薄いので描きにくいとの事。
そして実験、まずはライトウォーターインクのプチライト魔方陣ですが、
「「お~、結構明るい」」
当社比二倍強の明るさ、これって光の魔道具作製に使えません?魔方陣の耐久性の確認が必要なんでまだまだ実験は必要ですが、中々良い幸先です。
次にハチミツインクのものですが、
「「マジ!?これってライトじゃね?」」
明るさがプチのレベルじゃ無いです。完全にライトの魔法のそれです。えっと、俺そんなに魔力込めて無いよね?木板も焼き付いてないし、これって革命じゃん、凄くない!?
最後はライトハチミツインクですが、
「「ギャー!眩しいわ!」」
サーチライト並みの明かり、在りし日の車のフロントライトより眩しいなんてあり得ないから、これのどこがプチライトなんだよ、目が眩むわ!!
「マルコお爺さん、これって封印案件ですかね?」
「だろうな、これは世の中に出せん。夜間行動の拡大、夜戦や奇襲がやりたい放題、貴族にバレたら命が幾つあっても足らないな」
「ですよね~」
こうしてまた、ケビン少年の“まどうのしょ”に新たな知識が書き加えられるのでありました。(T T)
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うん、参ったね。厄介事の解決のために奔走していたら新たな厄介事が生まれるって言うね。取り敢えずヤバいブツは封印、畑の小屋(エルフの家)の物置へGO。
カバンの中に仕舞わないのか?わてくしのカバンは“疑似”マジックバッグでしてよ?光属性の素材を収納しちゃったら収納効果が切れるかもしれないじゃないですか。ブロックの魔法で容れ物を作ってその中に入れておけば大丈夫みたいなんだけど(容器に入れたライトハチミツインクは問題なかった)、そんなの邪魔じゃないですか。スペースは有限なのよ?
畑の小屋はいいのか?あそこは今更だしね~、バレたらそれまで?逆に秘密を知った者はしゃべれないと思うよ?ヤバすぎて。
だってね~、外骨格ビッグワームはウロウロしてるし、緑と黄色の畑では癒し草がワサワサ言ってるし、ポーションビッグワーム(大福のおやつ)はうじゃうじゃいるし?
エルフ族のハイエルフ女性はいるし、伯爵家の元嫡男現令嬢はいるし?
今更効果マシマシ光属性インクで染めた布が加わったくらいなんでもないでしょう。
で、問題はこの光属性インクで染め上げた布がどれほどの効果があるのかって事なんだけど、検証のしようが無いんだよな~。
「って事でアナえも~ん、チョイと協力してくださいな?」
「なんじゃそのアナえもんとやらは、何か非常に馬鹿にした言い回しに聞こえるのは私の気のせいだけではあるまいて」
「そんなこと無いよ?“アナえもん”って言い方は伝説の救世主、困り事を知恵と魔道具で次々と解決した青の勇者様からとった由緒正しいあだ名だよ?
僕が尊敬してやまない人物の一人、平素は(押し入れに)隠れ住みいざとなればその英知で子供たちを教え導く英雄だよ?」
「おぉ、何じゃその英傑の隠者は、そうかい、ケビン君には私がそんな隠れた英雄に見えるのかい。仕方がないの~、何があったか話してみなさい。」
・・・このエルフチョロ過ぎ、凄く心配です。
「えっとね、こんな物を作ってみたんだけど、その効果を試したくってね、チョイと呪いの知識を借りたかったんだよね」
俺はそう言いながら普通のカバンからライトウォーターインクで染めた布とハチミツインクで染めた布を取り出し、アナお婆さんに手渡します。
その二つの布をしげしげと眺めるアナお婆さん。
「それって光属性魔力を付与した布だから呪いの効果を打ち消す効果が望めると思うんだよね、ただその度合いが分からなくって。
こんな時に闇属性の魔物でもいれば、簡単な状態異常を掛ける闇属性の魔物ってどんなのがいるんだろう。確か廃墟に住み着くレイスって魔物がいるって聞いた事が有るよな、要はお化けなんだけどあいつらをレジスト出来れば完璧じゃね?呪いの弱体化効果も望めるはずってどうしたのアナお婆さん、さっきから動きが無いんだけど?」
「なぁケビン君や、いま光属性魔力を付与したって言わなんだかな?魔方陣によって光属性魔法の効果を発揮するとかではなく、この布自体に光属性が備わっている、そう言う事なのかな?」
「ん?お婆さんなんか口調が元に戻ってない?声のしゃがれが無くなってるんだけど?その見た目でその声って違和感凄いから止めた方がいいよ?出来れば元のしゃがれ声に戻して頂けると助かります」
「出来る訳無いじゃないですか!一時的な魔法効果の付与じゃなく属性の付与?そんなのこれまで見た事も聞いた事もありませんよ、技術革新どころか革命ですよ、この布で作った服を着ていれば呪いの心配も無いって事じゃないですか、そんなものエルフ族どころか王侯貴族がこぞって欲しがる夢の一品ですよ。何でそんなものがこの短期間に作れるんですか、ケビン君がここで呪いの話しを聞いてからまだ四日しか経ってないんですよ、有り得ないでしょう!!」
「そ、そう言われてもですね~、まだ実験段階ですし?その黒い布の方はおそらくそこまで効果は持続しないと思いますよ?素材の選定が不十分ですから。
それと薄はちみつ色の方は未知数、そこまでは持たないと思うけど正直分からない。なんと言っても初の品ですからね。
それにどこまで呪いを弾くのか、また呪いの効果を薄くするのかなんて全く分からないんですから、まだ興奮するのは早いですっての。
取り敢えず光属性魔力の定着には成功したって段階なんですから」
「そ、そうですよね、ごめんなさい、私ったら。この前から衝撃が色々あり過ぎて少し過敏になっていた様です。流石のケビン君でも何でもかんでも成功するはずはないですものね」
「そうですよ、俺なんてずっと失敗の連続ですっての。この布に行き着いたのだって多くの失敗があればこそなんですから。
そんな物語の勇者様じゃあるまいし何でもかんでも上手くは行きませんよ。あのお話しだっておそらく多くの失敗の中の成功の部分だけを抜き出しているんだと思いますよ、その方が読んでいる子供たちはワクワクしますから」
「そうですよね、それで呪いの検証でしたっけ。どんなものがいいかしら。それこそ身体に害はないけど結果が分かり易いものと言えば、そうだ、痣の出来る呪いに致しましょう。
これは女性たちの間で行われる嫌がらせの様な呪いですね。簡単な呪具で遠方からも掛けられるので一時期貴族間で流行した事があったんですよ。でもその効果は一時的で一晩で無くなってしまうんですけどね。場所や形の指定も出来るんです」
そう言うとアナさんは紙とインクを用意してそこに人の形の絵を描きました。そしてその人型に指先から血を一滴、俺から髪の毛を一本抜き血のシミの上に乗せたら人型の左腕の所にインクで丸を書きました。
「“我願う、この者の身に災いが降り掛からん事を。その刻印をここに記さん”」
アナさんは呪いの呪文を唱えると紙を折りたたみ、そのまま囲炉裏の火へとくべました。
“ブオッ”
大きな炎を上げ瞬時に燃える呪いの紙、何気に呪いの現場を見るのって初めてかも。
すげ~、これが呪いか~。勇者病<仮性>患者の心が疼きまくるんですけど、左手に包帯を巻いて“封印されし邪神の力が”って言いたい。
そんな事を思いながら自分の左腕を見れば・・・。
「おぉ~、邪神の刻印が!!先ほどまでツルツルだった我が左腕に綺麗な黒い円が刻まれているではないですか、テンション上がる~!!」
天に腕《かいな》を掲げ、“ウオオオ”とかやってる俺に困惑顔のアナさん。いや、古の呪術師アナスタシア・エルファンドラ!!
「えっと、思っていた反応と違うんだけど。普通は呪いの効果に恐れおののき術者に対して嫌悪の感情を向けると思うんだけれど、何でそんなキラキラした瞳でこちらを見るのかしら?ボロボロの包帯が欲しいと言われてもそんなものはありませんよ?」
「怪しい闇属性の気配を漂わせながら紡がれし呪いの言葉、そして自らの左腕に出現した黒い呪いの刻印。何でここでボロボロの包帯が無いんだ~!!」
勇者病仮性心が天元突破してしまい、当初の目的をすっかり忘れて盛大に落ち込むケビン少年なのでありました。
本日二話目です。