「すみませ~ん、店主のポーラ・キムーラさんはいらっしゃいますでしょうか?」
王都の片隅、ぬいぐるみの聖地、ぬいぐるみ工房モフモフマミー。
その店舗の扉を開け元気よく声を掛ける男、どうも、辺境の田舎者ケビン・ワイルドウッドです。
と言うかこの店に来る時はビーン・ネイチャーマンの変装をするんじゃなかったのか?いや~、俺も最初はそう思ってたんですけどね、昨日学園にお伺いした時学園長から色々とお話を聞きまして、王都中央学園の教師って結構目立つらしいんですよね。
やっぱり高貴なる御方たちに学問を教えるって立場になるとそれなりの品位と言いますか、歩いて学園に来たって言っただけで微妙な顔をされちゃうって言うね。
そう言う教諭がいない事もないんだけど、大概は武術教諭だったりと肉体労働担当の方だったりするとか。学術的な話をする教師陣は大抵いい所のお宅の方々なので基本馬車、学園の帰りに酒場によって飲み食いとかは控えてくださいと笑顔で注意されてしまいました。
学園教師が怪しい所をぶらぶらするなって事ですね、分かります。
って事でビーン・ネイチャーマンは学園専用に。じゃあケビン・ワイルドウッド男爵が所用を済ませればいいかって言えばそれも難しい。ワイルドウッド男爵様、結構やらかしてますからね。王都でウロウロしてたら有象無象がわらわらと。
さてどうしましょうって事になったんですが、よくよく考えれば別に男爵って名乗らなければよくね?って事に気が付きましてね。
だって俺っちただの田舎もんよ?高貴なご身分の方が庶民の振りをすればそりゃバレるけど、俺の場合は逆。田舎者が貴族の演技をしてるだけなんだから、普段通りにすればいいんじゃね?
いや~、盲点盲点。何のための最強装備、何のための魔力操作術、路傍の石計画は今日の為にあったのですよ。
って事で目立たないローブを羽織って普段着でやって来たって訳でございます。
「はい、私がポーラ・キムーラですが、どちら様でしょうか?」
「はい、ワイルドウッド男爵様の所の使いでケビンって言います。今日は秋に注文したホーンラビットのぬいぐるみの受け取りと、以前注文したグラスウルフ、ラクーンのぬいぐるみの追加注文ですね。
商品の受け取りはマジックバッグがありますんで、奥で検品させてもらってもいいですか?」
俺の言葉にどこかで見たようなと言った顔をするポーラさん。そりゃそうですよね、俺っち全然雰囲気違うし。漏れる魔力は庶民のそれ、ばっちり揺らぎまくってますし?
威厳ゼロ、威圧感ゼロ、商売相手としては不安になることこの上なし。王都の商人って皆海千山千の戦う男だからな~。
「ではこちらになります」
従業員のお姉さん方が次々に運んで来るぬいぐるみを順次検品。相変わらずの素晴らしい作りに感嘆のため息しか出ません。
「確かに。今回も素晴らしい出来でした。ワイルドウッド男爵様もお喜びになると思います。
それと資金の方は大丈夫でしょうか?開発費用が足りないようでしたら仰っていただければお出しする様にと申し付かってるんですが?」
「いえ、それには及びません。これまでも寧ろ多過ぎな程いただいておりますので、余剰分をいつお返ししたらよいのかと考えていたところですので」
「あ、それは大丈夫です、どうせすぐに別のぬいぐるみを注文するので、ワイルドウッド男爵家注文用の資金として計上しておいてください。
今回は先程も言いましたがグラスウルフとラクーンの小と中を百体ずつ大を十体ずつでお願いします。
どうしても大は出が悪いので少し減らさせてもらいました。
後はケモ耳尻尾のセットですね、ウルフ種ラクーン種を各四十。それとラビット種、これは角無しで結構ですのでこちらも四十セットお願いします。
マルセル村は角無しホーンラビットの飼育が盛んなんですよ。ですので角無しのラビット種も受け入れられているんです」
俺の言葉にその姿を想像したのかもぞもぞと悶えるポーラさん。流石可愛いの第一人者、分かっていらっしゃる。
「よろしければ秋にでもマルセル村に行ってみますか?収穫期が終わる頃なら村も落ち着いてますんで、歓迎させて頂きますよ?
実はポーラ・キムーラさんには作って貰いたいぬいぐるみが沢山あるんですよ。マルセル村には多くの従魔がいるものですから、それらを基にぬいぐるみをですね」
「是非、是非お願いします!!」
俺の手をガシッと掴んで離さないポーラさん。目が血走ってますよ、超恐いんですけど。
「ハハハ、そうですね、では詳しい話はまた秋に注文の品を受け取りに来た時にでも。
それで今回のお支払ですが」
「はい、先程も言いましたがすでにお預かりしている資金が十分ございますのでそちらから決済させていただければと。既に型紙も出来上がっているぬいぐるみになりますので、然程お時間も掛からず制作できますので。
それとラビット種のケモ耳尻尾ですがそちらも作製に関してはさほど難しくはないかと。
お引き渡しの日を楽しみにしております」
そう言い深々と頭を下げるポーラさんと従業員さん達。マルセル村観光が余程楽しみなんでしょう、健康広場の旧ホーンラビット伯爵邸にお泊りいただけるよう今から手配しておきますか。
俺は序でに新作のぬいぐるみが出てないか物色してから、モフモフマミーを後にするのでした。
今回の新作はワタリガニみたいなカニと甲羅にヤシの木が生えたウミガメ。島ウミガメとか言うカメの魔物で、島だと思って上陸したら亀だったって伝説が残ってるんだそうです。
流石異世界、スケールが違う。無論購入させて頂きました。
―――――――
王都には各ギルドのギルド本部が設置され、オーランド王国国内のみならず各国のギルドとも連携し様々な業務を行っている。その中でも大きなギルドとして挙げられるのが商業ギルド、鍛冶師ギルド、薬師ギルド、冒険者ギルドであろう。
中でも冒険者ギルドはオーランド王国内で発生する魔物災害にいち早く対応する為、国内の各都市にギルド支部を置き各領地の冒険者を統括する、国内安定に欠かす事の出来ない組織と言われている。
重厚な造りの巨大建築物、そう評するに値する威厳ある建物、それが王都冒険者ギルド本部である。それは金級冒険者、白金級冒険者という力ある者たちを従えるに相応しい外観であり、冒険者ギルドの在り方を如実に表すかの様な造りとなっていた。
「いらっしゃいませ、王都冒険者ギルド本部へようこそ。本日はどの様なご用件でしょうか」
この大きなギルド本部は幾つかの部署に分かれており、冒険者の統括業務や各ギルド支部との連絡業務など他のギルド支部には見られない様な部署も存在する。そしてそれは受付も同じであり、依頼人専用窓口や冒険者専用窓口など、各業務によって専用窓口が分かれているのである。
「はい、実は王都の下水道に棲むスライムの事でご相談がありまして」
そんな巨大組織である冒険者ギルドに冒険者でもないのに顔を出した俺氏。それには深くて浅い事情があるのでございます。
「申し遅れました、私は調薬師のケビンと申します。こちらが薬師ギルドのギルドカードです。
ご存じかは知りませんが、先頃出版された本に「スライム使いの手記」というものがありまして、そこに“下水道などに生息するスライムには消臭剤の原料になるスライム液を作る能力がある”という記載があるんですよ。
その実験の為に下水道のスライムを確保したいのですが、薬師ギルドに相談したところ下水道のスライムの処理は冒険者ギルドの委託に一本化されているので、やたらな事は出来ないと言われまして。
それでこちらにご相談に伺った次第なんですよ」
要は大量のスライムを確保したかった俺氏、王都の下水道にはスライムが溢れるほど発生していて処分に困っている、だったら貰って来ればいいんじゃね?って事でスライム処理を統括している冒険者ギルドに来たって訳でございます。
そんでこちらの窓口は王都冒険者ギルド本部ならではの何でも相談窓口なんですね。王都は人が多いですからね、変わり者やクレーマーなどが沢山いるんでございます。要は俺みたいな奴ですね。
「そうですね、一番簡単な方法はお客様が冒険者登録をしていただきスライム駆除の依頼を受けていただく事なんですが「勘弁してください、そんな事をしたら他の冒険者の方々に絡まれてすぐにスラム行きになっちゃいます」・・・はぁ、否定できないのが辛いところですが、冒険者にはそう言った側面も少なからずありますからね。
下水道のスライム処理もあまり積極的に行う方がおらず、新人冒険者の日銭稼ぎの依頼となってるんですよ。
こうした依頼は街中依頼という事で仮登録中の見習い冒険者でも受ける事が出来るのですが、「本当に勘弁してください」・・・まぁ薬師ギルド所属の方ですし、身分は確りしていますので依頼を受けることは可能です。
冒険者ギルドの依頼でもその内容によっては冒険者以外の方に仕事をお願いすると言った事もしていますので、下水道のスライム駆除でしたら特に問題はないかと。
ですがやはりその実力と言いますか、仕事内容は確認させていただかなければいけませんので、一度冒険者ギルド職員立会いの下依頼を熟していただく必要がありますがよろしいでしょうか?」
「はい、それは特に問題なく。私としては好きなだけスライムを確保できるのであれば何の問題もありませんので」
よし、スライムGET!!
いや~、助かった助かった。実は自己領域の島、スライムが一匹もいないんですよ。あの広大な南の島でですよ。
そうなるとどうなるのか、元気のいい草がわんさかとですね。植物の力は半端ないって事が身に染みて分かると言いますか。
今後ボアやホーンラビットといった食用魔物を放流する事を考えれば、今のうちに環境改善魔物であるスライムとビッグワームの投入は必須な訳でございます。
ビッグワームに関していえばビッグワームプールのビッグワームたちを適当にばら撒いて行く事で対処して行こうかと。アイツら餌があればバカスカ増えますからね。
ただそれだと島のジャングル化は防げないんでスライム投入は急務、王都の下水道スライムは最適って訳です。
大福に分裂してもらえばいいんじゃないのか?
そんなヤバいもの増やしてどうするんだ!!誰も近付けない禁断の島になっちゃうじゃないか、空間ごと消去されちゃうじゃないか!!
スライムは普通でいいんです、普通がいいんです。環境を支える最下層魔物たち、島の環境をよろしくお願いします。
「それでは当ギルドから職員をお付けいたしますが、本日はお時間がございますでしょうか?」
「はい、そちらの都合がよろしいんでしたら是非。
いや~、助かります。下水道のスライムなんて言ったら王都のような大都市でないと滅多に出会えませんから。
捕まえたスライムはちゃんとこちらで引き取りますのでご安心ください」
そう言い深々と礼をする俺氏、冒険者ギルドにはあまり関わり合いになりたくないんだけど、背に腹は代えられないって言うね。だって欲しいものが目の前にあるんだもん、これは仕方がないよね。
仮にやらかしても俺っちギルド資格剥奪されてますし?いざとなったら男爵の身分を出せば済みますし?
うん、逃げ道は完璧ですな。
まぁ他に冒険者ギルドに用はないので、たまに来てスライムを回収させていただくって事で。お互いWin-Winの関係ですな。
俺は事が上手く進んだことに、満足気な笑みを浮かべるのでした。
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「はぁ?調薬師がスライム処理をするから見に行けって、なんだそりゃ?」
王都冒険者ギルド本部総務部依頼人対応係未処理依頼担当官のメイジは、総合受付の何でも相談窓口からの連絡に眉を顰める。
何でも相談窓口は厄介な依頼人やよく分からないことを言う冒険者を相手にする、総合受付の盾役の様な窓口だ。その為問題解決のために様々な部署に依頼を回す権限を持っている。
「はい、冒険者ギルド規約上街中依頼に関しては、専門職でなくとも外部協力を願う事は可能となっています。
下水道のスライム駆除は以前から行政官より処理が遅いと指摘されている業務ですので、ギルドとしてはやってくれるのなら誰でも構わないというのが本音です。
近頃は先の戦争の影響で冒険者が大幅に減った結果、冬場でも街中依頼の達成率が悪くなっています。逆に言えば冒険者が好んで汚れ仕事を選ぶ必要がなくなった。そんな中で自らスライム駆除をしようというのですから逃すには惜しい人材です。
本人は頑なに冒険者になることを嫌がっていますので、ギルドの戦力になる事はありませんが、この際我が儘は言ってられないんです。
ですが実際の仕事ぶりは見る必要性があります。
メイジさん、これはそちらの部署にも関係してくる案件です。どうぞよろしくお願いします」
何でも相談窓口からのお達しに一切反論できなかった俺は、渋々ながらもその変わり者と一緒に下水道に向かう事となったのだった。
まぁ実際下水道のスライム駆除依頼は滞っていたし、近々俺自身が向かう事になっていたというのも大きいのだが。
しかし薬師ギルドの人間がスライム駆除って、こいつらはスキルでポーション作ってれば普通に生活出来るだろうに、世の中には変わった奴もいるもんだ。
「はじめまして、私は調薬師のケビンと言います。本日は私の無茶なお願いに応えて下さって、ありがとうございます」
「あぁ、俺は未処理依頼担当官のメイジという。今日はよろしく頼む」
待っていたのは一見どこにでもいるような普通の青年、戦闘向きには見えないがこれと言って変わっているようにも見えない。
場所は王都西区の下水道入り口、スライムたちが不要物を食べている為か臭いはそこまで酷くはないが、それでも臭い事には変わりがない。若い冒険者たちはこの臭いと“下水道の仕事のような汚れ仕事は弱い奴の仕事”という偏った考えからスライム駆除の仕事を受けようとはしない。
実際根気さえあればだれでも出来る仕事ではあるんだが、その分依頼料も低いんだよな~。
「おぉ~、沢山いますね。これって何匹か残しておいた方がいいんですか?」
「いや、指定範囲のスライムは全て駆除することが望ましい。だから必要数を確保したら後は只管潰して行って貰わないといけない。
欲しい分が手に入ったから終わりでは冒険者ギルドとしては困るんでな、そうした事も含めて俺が監視に付かせてもらっている」
中途半端な仕事をしてオサラバってのが一番困る。その尻拭いをするのは俺なんだからな!!
「分かりました、今回の指定範囲は下水道入り口から一キロメート先の分岐点があるところまでですね」
“ブワッ”
調薬師が立ち止まりジッと下水道の奥を見詰めている。何か集中している様なので口を挟まずその様子を見守る。
下水道の奥は暗く、ランタンの明りが薄ぼんやりと周囲を照らし・・・なんか暗くないか?周りが真っ暗なんだが?
「はい、終わりました。今日はどうもありがとうございました」
「イヤイヤイヤ、あんた何もしてないじゃん。って言うかボーっと立ってただけじゃん!!」
俺の言葉にキョトンと首をかしげる調薬師。
「えっと、スライムは全て回収させてもらいましたよ?何体かビッグラットらしき魔物がいたんでそれは仕留めておきましたけど、これはどうします?」
そう言い調薬師が指差す場所には、山と積まれたビッグラットの死骸。
「はぁ?いや、はぁ?一体どうやって」
「それは秘密です。冒険者は手の内を隠すんでしょう?もっとも私は冒険者じゃありませんけどね」
そう言いどうだとばかりに胸を張る調薬師。その後共に下水道の中を確認するも、指定範囲にはビッグラットはおろかスライム一匹見つける事が出来なかった。
・・・これなんて報告したらいいんだよ。
どうだと言わんばかりにドヤ顔を向ける調薬師を横目に、俺は一人頭を抱える羽目になったのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora