転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第562話 闇属性魔導士、旅立つ

冬の終わり、それは別れの季節。ある者は職人として、ある者は騎士として、ある者は商人として、それぞれが新たな道を見付けこれまで学び培ってきた知識や技術と共に学園という揺り籠を巣立っていく。

それはグロリア辺境伯領という小さな枠組みに止まらず広くオーランド王国全体の安寧に繋がるかもしれない若き力の旅立ち。

グロリア辺境伯領領都学園学園長マルセリオ・サルバドールは、学園長執務室の窓辺から楽し気に笑い合う生徒たちの姿を眺め、優し気に目を細める。

 

「しかしあの子たちが卒業とは、近年まれにみる逸材であっただけにホッとするやら寂しく思うやら。

先生方も大変であったであろうて、これまでようあの子たちを導いてくれたの」

振り向き目を向けた先には、今年卒業を迎える三学年を担当していた教師陣。学園長は教師たちの労を労うように声を掛ける。

 

「そうですね、やはり学園最強との呼び声が高いベティー・スワイプとローズの二人が卒業するのは感慨深いものがありますね。

我々武術教官は二学年時の二人にすでに手も足も出なかった。だが彼女たちは我々を見下すことなく真摯に授業を受け続けてくれた。

これは簡単な様に見えて中々できる事ではありません。多感な時期の生徒たちがその力に溺れる事なく研鑽を続けることがどれほど難しいか。自身の若い頃を思い出し恥ずかしく思ってしまいましたよ。

二人は卒業後グロリア辺境伯領騎士団へ入団するとか。これからの二人の活躍は、あとに続く後輩たちの良い目標となることでしょう」

 

「私はバーナード・ヘルマンが印象に残りました。入学当初は貴族風を吹かせた典型的な貴族子息といった振る舞いでしたが、この三年間ですっかり落ち着きを見せたと言うか、周囲を引っ張るリーダーとしての振る舞いを身に付けた。

これは本人の努力もあるのでしょうが、側近のハリー・ファンの存在が大きかったのかと。

今や学園で“ツッコミのハリー”の名を知らない者はいないでしょう。それ程の者が配下として自身を支えている。その事実は自然バーナードを成長させる助けとなった。

これは学園という機関が良い方向に作用した結果であり、教師として喜ばしい結果でしょう」

 

「「「「ですが忘れてはならないのは」」」」

 

教師たちの脳裏に蘇る廃棄ダンジョンスタンピードの光景、辺り一面を埋め尽くすゴブリン、ホブゴブリン、オークの群れ。

この場を押し止めなければ領都に大きな被害が出る、だが殺気溢れる魔物の群れに完全に畏縮する学園生徒たち。

 

領都学園の生徒たちは選ばれた者たちである。授けの儀で有用な職業を得た者であり、生まれの家柄が良いものであり、学園に通う学費を支払える財力を持った家の者であり。

そうした者たちが高度な知識と技術を持つ教師陣の教えを受け日々研鑽を行って来た。それは全くの訓練というだけでなく、学園人工ダンジョンでの実戦経験も積んでいる。

そんなエリートたちではあったが彼らは守られていた、育てられていた、世間の悪意から切り離された学園という揺り籠で。彼らは知らない、悪意と殺意にまみれた絶望的な戦場というものを。

 

教師陣たちは思った、最悪生徒の半分は犠牲になるだろうと。既に生徒の安全を確保するなどといった甘えた状況ではなかった。ダンジョンスタンピード制圧に失敗すれば領都が滅ぶ、状況はそこまで切迫したものであったのだった。

 

「アレン・ロナウド、ケイト・フロンティア、両名ともその実力は王都中央学園に推薦するに十分な者たちですからね。

多重詠唱なんてものじゃない、短縮詠唱による魔法の多重行使、そんなこと学園の魔法教諭である我々どころか王宮魔導士でも難しいのではないでしょうか。

以前金級冒険者の魔法使いや白金級冒険者の中にはそうした魔法行使をする者がいるという話を聞いた事がありますが、彼らはそうした強者の上澄みに匹敵する力をさも当然の様に使って見せました。

あの衝撃は我々もそうですが、あの光景を目撃した全学園生徒の記憶に焼き付いて消える事が無いでしょう」

 

時代の変革、その隙間に不意に現れる強い力を持つものたち。そうした者たちは得てしてその力に溺れ自身の理想を他者に押し付けるか、欲望のままに他者を傷付けるか。

 

「しかしアレン君はこの三年ですっかり苦労人の風格を身に付けましたよね。一学年の頃は周囲に女生徒を侍らす嫌味な奴と男子生徒から嫌われていましたが、今では男子生徒からの人気の方が高いとか。女生徒を侍らしているのではなく振り回されているといった印象の方が強いですから。

主に振り回しているのはケイトさんなんですが」

 

「あ~、ケイトはよく授業を抜け出しては食堂で早飯してたからな~。居眠りの常連でありながらそれを悟らせない技術は一級品と言ってもいいでしょう。“干し肉の魔導士”、“撲殺姫”、ケイトは何かと話題の中心でしたから。

しかしあれほどの実力を隠していたとは、彼女は一体この先どういった人生を歩むのでしょうな」

そう言いどこか笑顔を見せる教師陣。その脳裏にはどこに行こうとも無自覚に周りを振り回しながら活躍するケイトの姿が映っているのだろう。

 

「うむ、言わなかったかの?ケイト・フロンティアはこの秋に郷里の青年ケビン・ワイルドウッド男爵と結婚しケイト・ワイルドウッド夫人となっておるぞい。

話題のホーンラビット伯爵家騎士団に所属されておる御方であったか、ケビン殿を支える良き妻になると話しておったよ」

 

学園長の言葉に勿体ないといった気持になる教師陣たち。あれほどの実力者が辺境に埋もれてしまう、貴族の家の事情とはいえ仕方が無いと考えるにはケイトの見せた光は眩し過ぎた。

だがそんな教師たちの中でただ一人、魔法講師ダリル・ヒュンゲルだけはケイトの幸せを心から祝福していた。

 

“強過ぎる力は人を孤独にし、不幸の連鎖を呼ぶ。あの時見せたケイトさんの力、あれは人々の心を狂わせるに十分なものであった。

ケイトさんがそうしたものに晒される事のない生活を手に入れたのなら、それに勝る喜びはありません”

ダリルは一人の教師として、学園ダンジョンを管理する者として、学園生徒たちが大きく翼を広げ羽ばたいていく事に目を細めるのだった。

 

―――――――――

 

柔らかい日の光が窓辺から差し込む。ゆっくりと戻る意識、温かいお布団様に包まれる幸せ、この微睡に永遠に包まれていたい。

 

“ドンドンドンドン”

だがそんな幸せを壊す悪魔が部屋の扉を叩く。

 

「ケイト、朝よ、早く起きなさい!!」

「む、ベティー、声が大きい。ここは騎士団の宿舎じゃない、腹から声を出すのはまだ早い。

そして私はキャタピラーとしての使命を果たすべくお布団様に包まれる。グ~~~~」

 

“朝の微睡、それは至福の時間。世界の平和を壊すような悪魔の言葉に、私は決して屈しない”

ケイトは強い意志の下お布団様を頭に被せ、再びの微睡を「今日は卒業式なのよ、寮母さんが折角卒業記念に胸の成長にいい特別メニューを」“ガバッ”

 

「おはようベティー、早く食堂に向かう。朝食が私たちを待っている」

「あなたね、それが私が起こしに来るまで布団に(くる)まっていた人の言うセリフ?

お母さんが言ってたけど、男の人は朝の微睡の中妻が料理を作る包丁の音を聞くと幸せな気持ちになるらしいわよ?

朝寝坊のケイトじゃ決してできない「ベティー、ワイルドウッド男爵家に就職する。そして私を起こす係を」ど阿呆~~!!

私はグロリア辺境伯家の騎士になるの!!なんでケイトの目覚まし係をやらないといけないのよ。

手を組んで目をウルウルさせても駄目!!ケイトは人妻になったんだから精々旦那に捨てられない様に頑張って起きなさい!!」

 

学園女子寮の朝のお約束、こんな光景も今日で終わり。卒業すればそれぞれが自分たちの道に進んで行く。

 

「ケイト、あなたと過ごした毎日は世話をしたり振り回されたりした記憶しかないけど、それなりに楽しかったわよ。

ケイトの旦那様、私には計り知れない人物だったけど、ケビンさんと幸せにね」

親友との別れ、ベティーは相変わらず何を考えているのか分かり難い変わり者の友に、自分なりの感謝の言葉を向ける。

 

「ん、私はケビンの妻、ケイト・ワイルドウッド夫人。ケビンと一緒に幸せになるのは決定事項。

私の方こそベティーと一緒にいれてよかった。私が領都学園で無事三年間を過ごす事が出来たのは全てベティーのお陰、本当にありがとう。

何か困った事があったらいつでも訪ねて来るといい、ベティーは私の親友、力の限り手を貸す事を誓う」

そう言い腰のマジックポーチから角無しホーンラビット燻製肉を取り出し、そっと握らせるケイト。

 

「だ~か~ら~、それを止めなさい、それを!!何でも干し肉で解決しようとするんじゃない、それが通用するのは学園生徒の内だけだから、世間じゃ変な人扱いされるだけだから!

まぁこの燻製肉はありがたく貰っておくけどってそうじゃないわよ、朝食に呼びに来たの、急がないと食事の時間が無くなるわよ」

「それは大変、寮母さんの豊胸メニューが私を待っている。その実力はこの三年間で十分味わわせていただいた、最後の豊胸メニューに対する期待は(とど)まることを知らない」

 

そう言い足早に食堂に向かうケイトに、“この子は初めて会った時から変わらない”と笑みを浮かべるベティー。

長い様で短かった三年間、ベティーはケイトとの出会いは生涯忘れる事がないだろうと思いながら、変わり者な友人の背中を追い掛けるのだった。

 

――――――――

 

「卒業生諸君、君たちはこの三年間で大きく成長した。これは単に卒業する君たちに向けた祝いの言葉ではない、純然たる事実である。

その証拠に諸君はグルセリアで起きたダンジョンスタンピードを周辺被害を出すことなく沈静化せしめた。これは学園の歴史に残る誇るべき成果である。

学園で身に付けた力を十二分に発揮し事態を終息に導いた事は、臨席されておられるグロリア辺境伯様からも感謝のお言葉をいただいておる。

諸君らの世代は長い領都学園の歴史の中でも特に優秀であったといえるであろう。君たちがこの先大きく羽ばたいて行く事をここグルセリアの地から祈らせてもらおう。

卒業、おめでとう」

““““パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ””””

 

学園長の挨拶に大きな拍手が起きる。

校庭に並ぶ卒業生たち、その様子を見詰める在校生たち、彼らの姿を見守る卒業生父兄たち。皆が誇らしげに今日という日を迎えていた。

 

「ケイト、学園卒業おめでとう。素晴らしい卒業式だったよ。この後はグロリア辺境伯様主催の卒業記念パーティーがあるんだろう?私たちの事は気にせず存分に楽しんできなさい」

「ん、お父さんありがとう。ケビン、一緒に行く」

 

「イヤイヤイヤ、無理だからね?俺卒業生じゃないからね?

ザルバさんと一緒にどこかで時間を潰してるから、最後までゆっくり楽しんできなさい」

「ん、その点は確認済み。父兄であれば参加可能。ケビンは私の夫、その資格は十分にある」

そう言いどや顔を決めるケイトさん。クッ、ケイトさん、学園生活ですっかり強くなられて。

 

「ケビン君、すまないがケイトの事を頼めるかな?私はモルガン商会に顔を出さないといけないからね、パーティーが終了する頃には戻って来るよ」

そう言いこの場を後にするザルバさん。俺は右腕をガッツリ確保されたまま、ケイトに連れられパーティー会場である講堂へと向かうのでした。

 

「ケイト遅い、どこにいってたのよ。あっ、ケビンさん。お久しぶりです」

声を掛けて来たのはケイトの友人ベティーさん。他にもマルセル村に修行に来たローズさんとアレン君、それと織絹さんが集まっていました。

 

「やぁ、皆さんお久しぶりで。えっと、ミッキーちゃんはどうしたの?姿が見えないようだけど」

「あぁ、ミッキーなら婚約者のハリー君と一緒に両家のご両親の顔合わせに立ち会ってるよ。ミッキーは卒業と同時にヘルマン子爵領に向かうからね、ご両親とは中々会えなくなるだろうし、実質的な嫁入りの挨拶みたいなものなのかな」

 

「なんですと、ミッキーちゃんはハリー師匠の所に嫁入りですと!?これは是非お祝いの品をお送りせねば。

嫁入りと言えば子宝、ここは一つオークキングを探して妊娠促進薬を」

「「「それは止めてあげよう、新婚期間を味わうのも大切だと思うし」」」

何故かアレン君たちからストップが掛かってしまいました。まぁそうですよね、ハリー師匠はお若いですしお薬に頼る必要はありませんでしたね。それでは定番でありますがキラービー蜂蜜でもお渡しする事にしましょう。

ハリー師匠にはヘルマン子爵領でツッコミ文化を開花させていただきたいものです。

 

「ところで婚約破棄騒ぎはいつ起きるの?学園の卒業式の定番って言えば婚約破棄って聞いてるんだけど」

「「「イヤイヤイヤ、そんな事ないからね?卒業記念パーティーで婚約破棄なんて、主催者であるグロリア辺境伯様に喧嘩を売るのと同じだから、本人たちばかりか一族揃って処罰されちゃうから」

ですよね~。あぁよかった、領都学園には変なお花畑思想は蔓延してなかったみたいで。

学園の卒業式で婚約破棄をされた当時のパトリシアの憔悴しきった姿を思い出し、あの様な馬鹿らしい不幸を起こすような生徒がいない事に自然笑みを浮かべる俺氏。

アレン君たちはそんな俺の様子に不思議そうに首を傾げるも、様々な思い出話に花を咲かせるのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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