転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第564話 闇属性魔導士、旅立つ (3)

卒業記念パーティーで突如起きた男女の別れ話、大きな事件に発展するかもしれなかった騒動は、領都学園の人気者“ツッコミ師匠”ハリー・ファンと領都学園の干し肉業者“だみ声のソウルシンガー”ケイト・ワイルドウッドによって無事収束するに至った。

 

「流石ハリー師匠、素晴らしい手腕でございました。

それとミッキー嬢との御婚約、誠におめでとうございます。こちらはマルセル村の森で摂れた蜂蜜でございます。ハリー師匠のご家族の分、ミッキー嬢のご家族の分、それとお二人の分でございます。

心ばかりの祝いの品、是非お受け取りを」

俺は事態を収めたばかりのハリー師匠の所へ近寄り、笑顔で蜂蜜入りの小壺を差し出すのでした。

 

「ゲッ、ケイトの想い人。とそれはそうと先だっては大変すばらしいクッキーをいただき誠にありがとうございました。

無学故あの時は分かりませんでしたが、ヨークシャー森林国産の甘木汁とは高位貴族家でもめったに口に出来ぬ高級品であるとか。その様な素晴らしい甘味を使ったクッキーであるとは露知らず、碌に礼の言葉も申し上げる事が出来なかった事、心より謝罪いたします。

大変繊細で心に染みる甘さ、まるでワイルドウッド男爵閣下の優しい御心の様だと、クラスの者一同感激したものでございます。

 

また本日は私ハリー・ファンとミッキーの婚約の祝いの品をいただき、何と感謝の言葉をお伝えすればよいものか。この喜び、生涯忘れる事はないでしょう。

両家の家族を代表し感謝の言葉を述べさせていただきます」

 

そう言い三個の小壺を抱えたまま深々と礼をするハリー師匠。

本当にホーンラビット伯爵家に来てくれないかな~、騎士爵だったらすぐになれるよ?俺が猛烈に推薦しちゃうよ?

でもハリー師匠は忠義の人だからな~、バーナード様が本当に羨ましい。

 

「うん、流石は学園で相方を務めてくれた天才ツッコミ師、貴族としての挨拶も完璧。ホーンラビット伯爵家に奉公してくれなかった事が残念で仕方がない。

ハリー師匠には是非ホーンラビット伯爵家で辣腕を振るって欲しかった、ツッコミとして」

「これはこれはワイルドウッド男爵夫人様、多大なる評価をいただきハリー・ファン、身に余る光栄でございます。

ですが私は既にバーナード・ヘルマン様を主と仰ぐことを決めております。ホーンラビット伯爵家にお誘い下さったことは誠に嬉しいのですが、これからはヘルマン子爵家で存分にツッコミをって違うからね?俺は別にツッコミ師としてヘルマン子爵家にお仕えするんじゃないから、バーナード様の側近としてお仕えするんだからね?

そこのボケ男爵夫妻、なに二人して“またまた~、実はツッコミ要員として雇われてるんでしょ?知ってる知ってる”って顔をするんじゃない!!そのニマニマした表情は止めろ~~~~!!」

 

「「「「おぉ~~~~~、流石はツッコミ師匠、卒業記念パーティーを締めるに相応しい素晴らしいノリツッコミ、そこに痺れる憧れる」」」」

「ダ~~~、お前ら息が合い過ぎだ~~。ってかツッコミ師匠は止めろ~!!」

 

““““パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ””””

会場に響く割れんばかりの拍手。父兄の方々からは「あれが娘に聞いたツッコミ師の話術、噂にたがわず素晴らしいものであるな。ヘルマン子爵は良い家臣を持たれた」といったお言葉が漏れ聞こえます。

ハリー師匠はガックリと項垂れるも、抱えた小壺を落とさない様に両家のご両親の下に向かわれるのでした。

因みに中身はキラービー蜂蜜、このケビン、自重しました。

 

 

「ベティー、ケイト、ローズ、ミッキー、三年間本当にありがとう。学園ダンジョン攻略パーティーとしてだけじゃなく、この三年間の学園生活が充実したものになったのは全てみんなのお陰です。

今日でお別れになるのは寂しいけど、みんなの事は絶対に忘れない。みんなも元気で」

楽しかった卒業記念パーティーも終わり、卒業生たちは仲間との最後の別れを惜しむ。学園という環境で培った友情、それは忘れえぬ思い出として彼らの中で生き続ける。

 

「こっちこそ、アレンには世話になったわ。それと織絹さん、覇気の指導、本当にありがとうございました。

私たちはケイトみたいに器用に覚えられなかったけど、どうにかものにする事が出来ました。私とローズはグロリア辺境伯家騎士団に入団します。厳しい訓練で有名な所だけど、織絹さんのつけてくれた訓練を思い出し、頑張りたいと思います」

ベティーの言葉に若干顔を引き攣らせるパーティーメンバーたち。それ程に織絹の特訓は容赦のないものであった。だがそれは彼らに確かな自信を与える裏付けともなっていた。

 

「ローズ、みんな、三年間本当にありがとう。私、凄く抜けたところがあってみんなには迷惑ばかり掛けちゃったけど、これからはハリー君を支えられるように頑張るね」

「「「「イヤイヤイヤ、ミッキーはあまり頑張り過ぎない方がいいから、絶対空回りするから」」」」

容赦ない仲間からのツッコミに「そんな~」と呻るミッキー。そんな彼女の様子に、仲間たちの大きな笑い声が周囲に響く。

 

「ん、みんなありがとう。この領都学園で過ごした日々は悪くなかった。

みんなからは多くの事を教わった。ベティーにはツッコミ担当としてワイルドウッド男爵家に来て欲しかったけど断られてしまった。とっても残念」

「イヤイヤイヤ、何でツッコミ担当で雇われると思ったの?って言うか友人をツッコミにしようとしない、だから干し肉を差し出そうとするな~~!!」

ベティーとケイトのいつものやり取りに思わず吹き出す面々。

 

「ケビン」

ケイトが背後にいるケビンに声を掛ける。するとケイトの謂わんとする事を理解しているかのように、ケビンが周囲から注目されなくなる結界を展開する。

ケイトはおもむろに手首の組み紐を外し、スルリと髪を束ねていた組み紐をほどく。途端どこか地味だったケイトの雰囲気が変化する。

何かが変わった訳ではない、しかし何故か注目せずにはいられない。

 

「みんなには黙っていたけど、今の姿は私の一面の一つ。私にはもう一つの姿がある」

“シュワ~~~~~”

ケイトの言葉に反応するかのように、くすんだ茶髪のストレートヘアが毛先にウェーブの掛かった煌めく金色の髪へ、一重で細目の目元は二重のパッチリとした瞳に、幸の薄い細唇は艶めいたぷっくりとした唇へと変化する。

 

「「「・・・・・」」」

ベティーとローズとミッキーはそのあまりの変わりように驚き身を固め、アレンは学園ダンジョンでの出来事を思い出しブルリと身を震わせる。

 

「これがもう一つの私の姿、昔の名前は忘れちゃったけど、私も色々あってね。小さい頃に王都から命からがら逃げだして来たの。

餓死寸前の状態だったところを現在のホーンラビット伯爵閣下と夫のケビンに救われて生き残る事が出来た。あの時は声も出せず骨と皮だけの本当に酷い姿だったらしいわ。

私がまともにものを考えられる様になったのは助けてもらってから半年くらい経った頃からかな?その辺の記憶はあいまいなんだけどね。

 

でもその頃から徐々に体力も付いて容姿も変わって来て、このままだとまた不幸に晒される。そんな時ケビンが私に地味な姿になる術を与えてくれた。

こうしてまともに言葉がしゃべれるようになったのも、皆と一緒に学園生活をおくれるようになったのも全てケビンのお陰。心の底から感謝しているわ。

 

学園でみんなと過ごした日々は私に人と共に生きる素晴らしさを教えてくれた、世間というものを教えてくれた、世界の素晴らしさを教えてくれた。みんなと一緒じゃなかったら私は今のように笑って過ごせるようにはならなかったと思う。

 

ありがとう。みんなはそれぞれの道を行く、私もケビンと一緒に人生を歩んで行く。でもみんなとの友情は決して色褪せる事はないわ。

何かあったらいつでもマルセル村に来てね、私はマルセル村でみんなが訪ねて来てくれる日を楽しみにしているから。

特にベティーはツッコミ担当騎士としてワイルドウッド男爵家に仕えてくれる日を」

「って何でそこでそれを言うのよ、折角いい話で感動してたのに全て台無しじゃない!!ケビンさんと言いケイトと言いボケないといられない病気にでも罹ってるのか~~~!!」

 

「「ベティー、ワイルドウッド男爵家はいつでもお待ちしております。ツッコミ騎士第一号、期待しています!!」」

「夫婦そろってそれを止めろ、このボケ男爵夫妻~~~!!」

“スパンスパーーーン”

振り抜かれたハリセン、ワイルドウッド男爵夫妻は思う、“これで思い残すことは何もない”と。

 

別れ、それは新たなる旅立ち。若者たちはそれぞれの思いを胸に、グロリア辺境伯領領都学園を巣立っていくのであった。

 

――――――――

 

「ケイト、お友達とのおしゃべりは十分楽しめたかい?」

領都学園の校舎建物を出ると、多くの父兄が卒業生たちを出迎えていた。

 

「うん、お父さん、今までありがとう。一杯心配掛けちゃったけど、無事学園を卒業する事が出来ました」

ケイトは父親であるザルバの胸に飛び込むと、これ迄の感謝の想いを口にする。

 

「そうか、領都学園はケイトにとって思い出深い場所になったんだね。

私は一度ケイトの心を殺してしまったダメな父親だ。でもケイトはそんな私の事を父親として慕ってくれる。

私はね、ずっとケイトに謝りたかったんだよ。ケイト、辛い思いをさせてごめんよ。そして幸せになってくれてありがとう」

ザルバの言葉に、胸に顔を押し付け首を横に振るケイト。

 

「ううん、私、分かってるから。お父さんがずっと私の事を大切に思っていてくれた事、必死になって私の命を守ろうとしてくれていた事。

ずっとずっと感じていたんだよ?

お父さん、私を育ててくれてありがとう。わたし、お父さんの娘に生まれて良かった」

娘からの心からの感謝の言葉、ザルバの頬に一筋の涙がこぼれる。

これまでの人生を全肯定された様な喜びと感動が、胸の奥を締め付ける。

 

“パチンッ”

打ち鳴らされたフィンガースナップ、ザルバは自身の周りに結界が張られたことを察知する。

 

「ザルバさん、ケイト、そろそろ行きましょうか。実は二人を案内したい場所があるんですよ」

掛けられたのは共にその場にいたケビンの声。

 

「それじゃちょっと移動しますね」

ケビンがそう言うや黒い影に沈んで行く自分たち。

そこは黒の世界、遥か上空に見える星の様な煌めきは、影から入り込んだ地上世界の日の光。

 

「ザルバ様、ケイト奥様、ケイト奥様のご卒業おめでとうございます」

そんな黒の空間にポツンと佇む一軒の館、その前に立つメイド月影は、二人の訪れを歓迎し深く頭を下げる。

 

「あぁ、月影さんどうもありがとう。ところでケビン君は私たちを一体どこへ連れて行ってくれようとしているのかな?」

口を衝くザルバの言葉、月影はそんなザルバの疑問にニコリと微笑みで応えるだけなのであった。

 

日の光が空を茜色に染める。流れる雲はオレンジ色に輝き、長い影が大地に伸びる。

 

「ケビン君、ここは・・・」

街の喧騒から離れた物静かなそこにはいくつもの石碑が立ち並び、まるで時の流れから切り離されたかのような、非日常的な空間を作り上げている。 

 

「ガルム男爵家は代々王宮騎士団に所属する騎士の家系であった。今代当主ザルバドール・ガルムは王宮第二騎士団に所属、大隊長として部下からの信頼も厚く、将来を嘱望されていた。

妻アマンダとザルバドールとの出会いは学園生時代、学園でも評判の美しい方だったとか、周囲からの嫉妬は相当なものであったと聞いています。

奥様はその容姿とは裏腹に勝気な性格だったとか、一度こうと決めたことは貫き通す、ケイトの意志の強さはもしかしたら奥様に似たのかもしれませんね」

 

ザルバは口を閉じたまま静かに涙する。ここは代々ガルム男爵家に受け継がれてきた墓所、亡き妻アマンダの眠る場所。

 

「ケイト、ここはね、君のお母さんアマンダさんが眠るお墓なんだ。

本当はすぐにでも結婚の報告に連れて来たかったんだけど、あの時はまだ学園の生徒だっただろう?どうせなら学園を卒業した姿を見せてあげたくてね」

ケビンの言葉に黙って墓石を見詰めるケイト。

ケビンは収納の腕輪から花束を取り出すと、ケイトに手渡す。ケイトは受け取った花束を墓石の前に供えると、右手を胸に当て静かに目を瞑り祈りを捧げる。

 

「アマンダ、私達の娘は立派な大人になる事が出来たよ。ケビン君という素晴らしい伴侶とも巡り合えた、私は大した力にもなれない駄目な父親だったけど、君との約束を果たす事が出来たよ。

アマンダ、ケイトは君に似て美しい娘に成長したんだ。歌がとってもうまくてね、本当に自慢の娘なんだ」

 

ザルバは墓石に向け語り掛ける。これまで胸の内に秘め決して表に出せなかった想いが、熱い雫となって頬を流れ続ける。

 

“フワッ”

不意に優しい風が頬を撫でる。その風に揺られ、夕日に照らされたケイトの金糸がキラキラと煌めく。

 

「“お~お~きなのっぽの大鐘楼 教皇様の~鐘楼~

百年いつも~動い~ていた ご自慢の鐘楼さ~

教皇様が生まれた年に 建てら~れた鐘楼さ~

今は もう 動かない その鐘~楼~”」

 

夕暮れの墓地に響く天使の歌声。誰もいない、誰も聞いていないその歌声は、ケイトの想いを乗せ王都の空に溶けて行く。

茜色の空を飛ぶビッグクローは、夕闇迫る王都を眼下に、自身の巣へと帰って行くのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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