転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第569話 ホーンラビット飼育員、招待を受ける

「ゲイル、ブローの両名は屋敷左側、ナイン、ヨーレンは右側、ウルド、ビッツ、コールは裏手に回れ。誰一人として屋敷から逃がすな!!

残りは正面から乗り込む、抵抗する者は切り捨てても構わん、一気に制圧する!!」

「「「「ハッ」」」」

 

訓練された無駄のない動き、常に戦う事、殺す事を前提とした暴力集団の牙は、自身のエゴを対象者に強要する。

“貴族とは品のいい盗賊である”、とある聖職者の言葉が事実であると分からせられる凶行。

力ある者たちは時としてその(やいば)を振り回し、己の思いを形に変える。力とは正義、力ある自身は支配者であり絶対者。

彼らは知らない、知ろうともしない。その行いがそっくりそのまま自身に返って来る事があるという事を、そのルールを教えてしまったのが他でもない自分自身だという事を。

 

屋敷門を開け屋敷内に侵入した騎士らしき集団、彼らが正に自分たちに課せられた使命を果たさんと行動を開始しようとした時、その声は不意に横合いから掛けられた。

 

「失礼いたします。私は当屋敷の執事を務めておりますジェームスと申します。

何やら大勢様でお越しの様ですが、当屋敷に一体どのような御用でお越しになられたのかお伺いしてもよろしいでしょうか?」

それは執事服に身を包んだ壮年の男性、やや髪に白いものが混じり始めたといったその容貌は、長年執事としてこの屋敷に勤めて来たのだろう落ち着きと風格を窺わせる。

 

「貴様、いつからそこに。まぁいい、この屋敷にグルゴビッチ・エスティニオスという罪人がいるはずだ、そいつを引き渡していただこう。

抵抗するというのなら容赦はしない」

そう言い腰のロングソードを引き抜き執事の喉元に突き付ける騎士、その身から発せられる殺気は、その言葉が口先だけのものではないという事を肌で感じさせるには十分なものであった。

だが執事の男はそんな騎士の態度など意に介さず、淡々と言葉を返す。

 

「大変申し訳ありません。当屋敷にはお問い合わせのグルゴビッチ・エスティニオスなる人物は御逗留いただいてはおりません。

どうやら何かの間違いがあったご様子、どうぞ剣を鞘に納めお引き取りをお願いいたします」

そう言い慇懃に礼をする執事に、苛立ちを隠そうともしない騎士。

 

「ふん、まぁいい。グルゴビッチがいるかいないかなど屋敷内を捜索すればすぐにでも分かること。総員、直ちに配置につけ!!

これより屋敷内の一斉捜索を行う。

蜘蛛の子一匹逃がすな、抵抗する者は切っても構わん、我々が本気であることを分からせるのだ。

執事、貴様も殺されたくなかったらそこで大人しく「“そうやってあなた方はまた私から主人を奪っていくのですね”」!?」

 

“ブワ~~~”

まだ春になりきらないという寒さ残る季節、だというのに突如吹き込んだ生暖かい風。その肌にねっとりとへばりつくような感覚に、何故かゾクゾクとした身震いを憶え、肌がゾワリと粟立つのを感じる。

 

「“あれは月の無い夜でした。突如現れた予期せぬ来客、一方的に、圧倒的な暴力で全てが奪われた。愛嬌のある陽気なメイド、不愛想だが仕事に誠実な庭番、明るく朗らかな奥様、いつも笑顔で使用人である私共を和ませてくれたお嬢様方、聡明で人にやさしく自身に厳しい、敬愛すべき旦那様”」

“ブワッ”

執事の身体から溢れるおどろおどろしい気配に、騎士たちは一斉に剣を引き抜く。震える身体、冷たい汗が背中を濡らす。“こいつは一体何なんだ!?”、そんな疑問が心の中を埋め尽くす。

 

「“あの時私はなにも出来なかった、聞こえる悲鳴、動かない身体、腹から流れる止まることのない真っ赤な液体。何故私はこんなところで倒れている、何故私はこんなにも無力なのだ、後悔の思いだけが心を埋め尽くす”」

 

「クッ、貴様、我々に一体何を。構わん、まずはこ奴を切り捨てよ。これが貴様らの答え、最早遠慮は要らん、屋敷の者全てを始末するのだ。

これは執事、お前が選んだ結末だ。あの世で主人とやらに詫びるがいい」

「「「ヤァーー!!」」」

“グサグサグサッ、グホッ、ドバッ”

 

突き刺さるロングソード、執事は口からどす黒い血を吐き出し、身体をくの字に折り曲げる。

 

「“私はまた・・・あぁ、恨めしい、この無力な自身が、この理不尽で不条理な世の中が、恨めしくて仕方が無い・・・”」

騎士たちが執事の腹部に突き刺さるロングソードを引き抜くと、執事はその傷口から大量の血を噴き出し、膝から崩れ落ちる様に座り込む。

溢れ出た赤黒い液体は大地を染め、周囲一帯に広がって行く。

 

「フン、低俗な下民が、我らに逆らうからこういうことになるのだ。行くぞ!?クッ、何だ、足が動かん、どうなっている!?」

騎士たちはその時になって初めて自分たちの置かれた状況に気が付く。移動しようと足を動かそうにも、まるで地面に縫い付けられたかのように一切の身動きが出来ないという事に。そしてそんな自分たちの足下に、執事の身体から溢れ出たどす黒い血がどんどん広がっていっているという事に。

 

“憎い、憎い、憎い、憎い”

声のした方に首を向ければ白シャツにオーバーオールといったいかにも下男といった服装の偉丈夫。だがその首筋からはドクドクと血が溢れ、白いシャツは赤い液体に染められて行く。

“シャキッ、シャキッ”

両手に持つ刈込バサミを動かす音が、やけに大きく聞こえて来る。

 

“痛い、痛い、もう嫌、止めて、助けて、助けてよ”

ビリビリに破かれたメイド服の女性が、頭からダラダラと血を流し、ふらふらと揺れながら近寄って来る。

 

「ヒーーーッ、騎士長、血が、血が~~~~!!」

突然一人の騎士が叫び声を上げる。それは顔、それは腕、足元のどす黒い血の海から浮かび上がる苦しみもだえる亡者の叫び。

その腕が騎士たちの身体にしがみ付き、ズブズブとその肉体を地面に引きずり込もうとする。

 

「クッ、一体何なんだここは!?やめろ、離れんか!!私を誰だと思っている、我々はマルドーラ伯爵家王都屋敷所属の騎士隊であるぞ!!我々に逆らう事はマルドーラ伯爵家の、ひいてはオーランド王国王家に逆らう事であるぞ!!

我々にこの様な無礼を働いて只で済むと「“ならば、どうするというのだ?”」!?」

 

そこに立っていたのは黒い外套を羽織りフードを目深に被った人物、そしてその手には一振りのサーベルが握られており。

“グオッ”

“怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい”

 

襲い来る憎悪や怒り、悲しみや苦悩、あらゆる負の感情を煮詰めたようなとてつもない力の奔流が全身に絡みつき、身も心も引き裂いて行く。

 

“ズブズブズブズブ”

“あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・”

騎士たちはまともに声を発する事も出来ず、その身を小刻みに震わせ血の海に引きずり込まれていく。その瞳は虚空を見詰め、うつろに空を見上げる。

 

“トプンッ”

彼らの身が完全に地面に沈んだ時、そこにはただ静寂に染まる緑の庭園が広がっているだけなのであった。

 

 

「はい皆さんお疲れ~。ジェームス、最高、いい導入でした。ドーバン怖過ぎ、でもそれがいい。ジャキジャキ刈込バサミを鳴らす大男、夢に出そう。

伊織、君は女優になれる。今すぐ王都劇場の舞台に立てる、なんかもう色々想像しちゃってお客様騒然だから。

そして何と言っても締めの呪われたサーベル先生、素晴らしい。あの狂いそうで狂いきれないぎりぎりの脅し具合、一人一人に合わせた細やかな力の調整、やれば出来るじゃないですか~。

そんなあなたには闇属性魔力液を混ぜ合わせた植物油を進呈、後で確りお手入れしてあげよう」

 

黒衣の者はそう言い手に持つサーベルを収納の腕輪に仕舞うと、屋敷の中から自分たちの様子を(うかが)う二つの人影に言葉を向ける。

 

「グルゴさん、ギースさん、お待たせしました。まぁこんな感じで脅しておけばいいんじゃないかと。

あ、安心してください、先程の騎士たちは魔力枯渇状態にして影空間に放り込んでありますんで。皆さん怪我一つなく生きてますから」

「「イヤイヤイヤ、やり過ぎだから、怖過ぎるから、精神的に死んじゃってたからね?むしろ廃人にしちゃってたから、生きる屍作ってどうするの?

オーガなの?デビルなの?あ、ごめん、魔王カオス様だったね」」

 

「ダ~~~~!!あれは舞台の役名だから、月影の要望だから!!」

美しい庭園にケビンの叫びがこだまする。

 

“バサバサバサバサ”

“スッ”

飛来した何か、横に差し出された右手に留まったのは一羽のビッグクロー。

 

「ふむ、なるほど。どうやら人寄せがありそうだね。それじゃそのまま周囲の監視を頼む、皆にもそのように」

“バサッ、バサバサバサバサッ”

 

再び翼を広げ大空に飛んでいくビッグクロー、ケビンはその光景をしばらく黙って見続けると、踵を返し屋敷建物に向かい歩き出す。

 

「グルゴさん、それじゃ最後の仕上げと行きましょうか。どうやらこの後あちらのお屋敷でも人寄せの集まりがあるようですしね」

ケビンはそう言うと、いたずら好きの子供のようにニヤリと笑みを浮かべるのでした。

 

―――――――――

 

「マルドーラ伯爵夫人、本日はこのような素晴らしい夜会にご招待いただき感謝いたします」

「リーデリング子爵、ようこそお出でくださいました。奥様もご壮健の様でなによりですわ」

 

「マルドーラ伯爵夫人様、先だっては入手困難である聖水布のスカーフをいただきまして誠にありがとうございます。

マルドーラ伯爵夫人様のお顔の広さは私共東部貴族夫人の憧れ、社交界の華といつも噂させていただいているのですよ」

「フフフ、その様な事はありませんわ、リーデリング子爵夫人も今宵は存分に楽しんでいらしてくださいね」

 

ダイソン公国との大規模な戦争が終結してしばらく、新たな後継者が決まり落ち着きを取り戻し始めた王都社交界は、刷新された顔ぶれの下活発な交流がおこなわれるようになっていた。

これまで貴族社会の中心であった大物貴族たちの消失は、社交界で力の無かった者たちに発言の機会を与えた。

混乱はすなわち新たな秩序の始まり、これから作り出される秩序の中心は自分たちである。

ある者は希望を胸に、ある者は野心を隠そうともせず。皆がそれぞれの思いを胸に夜会という名の戦場に身を投じるのであった。

 

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

王都の石畳の道を、靴音を鳴らし現れた者たち。

 

「止まれ、ここはマルドーラ伯爵家王都屋敷である。貴殿らは何者だ、夜会の招待客ではあるまい。

足を止め引き返すならよし、さもなくばこの場で捕縛する。返答は如何に!!」

マルドーラ伯爵家王都屋敷門前では、門兵が槍を構え声を荒げる。

 

「ほう、これは異なことを。貴様らが我らを呼んだからこうして足を運んだのだがな。

まぁよい、邪魔をするのなら押し通るのみ」

“ブワッ”

 

「「あっ、あっ、あっ」」

立ち昇る圧倒的な覇気にその場に膝を突く門兵、呼吸は荒く、意識が遠くなる。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

へたり込む門兵たちの間を通り抜け、屋敷門を抜ける男たち。静まりかえったマルドーラ伯爵家王都屋敷門前には、石畳を叩く靴音だけが響き渡るのであった。




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