転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第57話 村人転生者、もの作りに勤しむ (2)

「左腕に刻まれし円環の刻印、それはかつてこの世の全てを手にせんとした邪神の封印。右腕に刻まれしクロスの刻印、それは世界の全てを否定し儚く消えた堕天使の涙。

世界の命運は少年の決断に委ねられた。

マルか、バツか。

ニューヨークへ、行きたいか~!罰ゲームは怖くないか~!

アメリカ横断、ウルトラ!」

 

「ねぇケビン君、そろそろ先に進んでもいい?後さっき“◯ビ、俺たちはいつまでも仲間だ”とか言ってバツの印が入った右腕の(こぶし)を突き上げていたけど、◯ビってダレ?」

 

「あ、いや、何かそのテンションが上がってしまってですね。後◯ビって言うのはお話しの中に出てきた砂漠の国の王女様です。まったくの架空のお話しですんで、実在しませんよ?ですんでそんな光を失った目でこちらを見詰めないで頂けませんでしょうか。物凄く怖いです」

 

「そうですか、物語の登場人物ですか。そうですよね、辺境の村のケビン君が女の子と知り合う機会なんて早々ありませんものね。マルガス村にもスルベ村にもゴルド村にもそんな女の子はいませんでしたからね。

もしかしたらヨーク村の女の子かとも思いましたけど、ケビン君はヨーク村はあまり好きではない様でしたしそれはないでしょう。そうですか、架空のお話しですか」

 

何この残念エルフ、超恐いんですけど。ハイライトを失った目でこちらを見詰めるんだもん、この歳で漏らすかと思ったわ。

でも仕方がないやん、右腕に×印だよ?男の子ならテンションマックスよ?何で包帯が無いかな~、本当に悔やまれます。いつものカバンなら常備してたのに、タイミング~!!

 

さて、一頻(ひとしき)り遊んだところで実験に移りたいと思います。両方の手に呪いの印をつけて貰ったのは比較実験をするためですね。やる事は単純、持ち込んだライトウォーターインクの布(黒)とハチミツインクの布(薄いはちみつ色)をそれぞれの腕に巻いて呪いの変化を見ましょうって奴です。

元々この呪い自体一晩寝れば勝手に解術されちゃう弱い呪いですからね、色が薄くなったりすれば御の字なんですが。

 

 

“ズズズズズズッ”

あ~、偽癒し草の煮出し茶が旨い。そろそろ新芽を詰んで来て新茶でも作ろうかな~。基本天日に干すだけだし、最近天気もいいから一週間くらいで出来るかもな~。

えっと、実験の結果ですか?それがですね~。

 

「消えちゃったわね」

「消えちゃいましたね~。まだ三十分くらいしか経ってなかったんだけどな~、おっかしいな~、予想なら二時間くらいで薄くなるくらいのはずだったのにな~。

と言うかこれで呪いと闇魔法の関係性はほぼ確定って事でいいんじゃないでしょうか。どう考えても光属性魔力による中和作用ですよね、解術って言うよりも勝手に解けちゃったって感じですし。

でもやっぱり効果に違いはありましたね、こちらの黒い布の方はまだ薄っすらバツ印が残ってますよ。お守り代わりに使うなら逆にこちらの方がいいのかな」

 

「そうね、後は素材の関係になるのかしら。所でケビン君、よく蜂蜜なんて持ってたわよね、蜂蜜なんてそれこそお貴族様の贅沢品って呼ばれているのよ?」

 

「あ、これですか?こないだ皆で行ったご神木様ってあるじゃないですか、あそこに行くとでっかい蜜蜂の魔物が持って来てくれるんですよ。お礼にローポーション入りの芋汁を上げてるんでお互い様の関係なんですけどね。ってどうしました?なんかアナさんって最近よく固まりますよね」

 

「誰のせいですか、誰の!と言うか森のデカい蜜蜂ってもしかしてジャイアントフォレストビーじゃないでしょうね、その蜜は王侯貴族をも唸らせると言われてる超高級品の!」

 

「えっと、よく分からないです。でっかい蜜蜂としか。大体キャタピラーくらいのサイズですかね、いや、もう少し大きいかな?でもそんなもんですねって何ワナワナ震えてるんです?」

 

「金貨百五十枚」

 

「ん?何の話しですか?」

 

「手の平サイズの小瓶に入ったジャイアントフォレストビーの蜂蜜の値段ですよ!しかも最低価格です、この布を作るのにどれくらいの蜂蜜を使ったんですか!」

 

「う~ん、小瓶二つ分くらいですかね~。今回は実験だったんでそれ程インクは作ってないんですよね~ってもしかして・・・」

 

「あまり広めない方がいいでしょうね。ジャイアントフォレストビーの蜂蜜目当てに荒くれ者が押し寄せないとも限りませんから。あの蜂蜜にはそれだけの価値があるんですよ」

マジかよ、なんか厄ネタばかりじゃん。美味しい蜂蜜ってだけなのに、いっその事大森林で見つけて来たって事に・・・駄目だ、そうなると俺が相当の実力者って事にされちゃう、面倒事が余計に増えるだけじゃん。

 

「こちらのライトウォーターインクの方なら技術的な難しさは有れどやれない事も無いんじゃないでしょうか。例えば光属性特化の人間、教会関係者とか。

あ、もしかして・・・。すみません、ケビン君。そのライトウォーターって今ここで出せますか?」

 

ん?問題ないけど?

俺はアナさんに促されるまま竈脇に干してある椀を持って来て、そこにライトウォーターを注ぐのでした。

ってどうしました?何か気が付いた事でもありましたか?

 

「アハハハハ、そうだったんですね、教会の秘密がこんな所で分かるなんて、本当にケビン君はびっくり箱の様な人ですね」

何やら笑い出し興奮するアナさん、一体何があったのやら。

 

「ケビン君はよく勇者物語の事を話されますが、その中に聖水と言うものが出て来た事はありませんでしたか?」

 

「う~ん、確か打ち捨てられた墓場を根城にするゴースト系魔物と戦うお話しの中で聖女様が取り出して使ってたような」

 

「そうです。魔除けや厄払い、簡単な呪術の解除にも使われます。先ほどの痣の呪いにも勿論有効です。その聖水がこれです」

アナさんがそう言い差し出したもの、それは俺が渡したばかりのライトウォーターの入った椀。つまり・・・。

 

「そうです、聖水の正体、それは光属性魔力が込められた魔力水だったって事です。無論作り方はケビン君のそれとは異なるでしょうけど、効果はほぼ同じなんじゃないでしょうか。やりましたね、ケビン君、これで言い訳が立ちます。

聖水を使って作った聖なる布、呪いが解除されても不思議はないんじゃないですか?」

 

アナさん、あなたは天才か?

これは実際試作してみないと分からないけど、おそらくは想定通りのものが出来るはず。この村でしか作れないモノではなく教会勢力が作れるものならば、話しの持って行き方次第ではグロリア辺境伯家の大きな追い風になるかもしれない。結果総合監督官様やドレイク村長代理の評価も鰻登り、全員を巻き込めば、マルセル村も安泰、完璧じゃないですか。

 

寄らば大樹の何とやら、後ろ盾って大事ですからね。ドレイク村長代理にはぜひ頑張っていただきたい。

でもそうか、蜂蜜もヤバヤバ案件だったのか~。言われてみればここって大森林のすぐ脇、魔境って呼ばれても不思議じゃない立地なんだよな~。秘密の宝庫アナさんですら嫌遠した最果てマルセル村、世間の認識では超危険地帯。

危険地帯、大森林、魔物。

 

「ねぇアナさん、一般に手に入る蜂蜜ってどんな種類があるのか知ってます?」

 

「う~ん、私もそこまで詳しくはないけど、昆虫のミツバチ、フォレストビー、キラービー、ジャイアントフォレストビー辺りが有名かしら。キラービーやジャイアントフォレストビーは魔力豊富な大森林や魔の森と呼ばれる様な場所にしかいないと言われているわ。でもその分魔力が豊富で旨さが段違いと言われているの。貴族でもめったに手に出来ない代物ね。昆虫のミツバチやフォレストビーは地方によっては養蜂家と呼ばれる人たちが飼育していると聞いた事があるわ」

 

なるほど、誤魔化すならその辺ですかね~。今度森に探しに行かないと。

新たなる産業、養蜂。

自らの保身の為に次から次へと問題を拡大させるケビン少年、人はそれを迷走と呼ぶ。

 

 

―――――――――――――――――

 

「<ブロック>、よし、完成。ケイト、お疲れ様でした」

 

「ん♪」

マルセル村の新住民、ボイルさん、ジョンさん、ギースさん達三人の住宅が完成した。とは言っても所謂長屋、キッチンリビング兼用の部屋と寝室が一つあるだけの簡単な造り、素人のお子様にこれ以上を求められても困ります。

その代わり畑の小屋同様の三層構造の壁を採用しているので断熱効果はバッチリ、お隣さんの音もそれほど気にならない造りにはなっています。

 

屋根は木製板に防水代わりに泥を塗って<ブロック>、それを梁に並べて固定隙間に泥を塗ってブロックを掛けて基礎は完成。その上に薄い板状のレンガを並べて瓦の代わりにし、接着はブロック魔法で粘土を固定化させてって形で仕上げました。

こんなの黄色と緑がいなかったら絶対無理、建材確保の段階で数カ月掛りますっての、ドレイク村長代理無茶ぶり過ぎだわ~。

 

因みに家具一式はマルコお爺さんの担当、俺に“助けて~”って目をされてもこっちも一杯一杯なの、魔道具の実験ばかりやってるから仕事が溜まっちゃったんでしょうが。俺のせい?俺だって住宅建設任されてたけど同時進行で終わらせたよ?それはそれ、これはこれでしょうが、自業自得です、頑張りなさい。

 

まぁ最悪ベッドさえあれば問題ないしね、共同用にどうぞと井戸の脇にブロックの魔法でテーブルを一脚作っておきました。

井戸はどうしたのか?わたくし、穴掘り職人ケビンでしてよ?一人で掘り切りましたとも、って言うかこんな作業一人で出来る人間他にいないから、魔力纏い様様だから。

穴を掘る、魔力の腕で土を外に排出、その土を使って緑と黄色がレンガを作製、掘り上がった井戸をレンガで固定化して終了。そこまで深くない段階で水が出てくれて助かったのなんの、この辺は人が少ないから一軒に一つ井戸が有るんですよね、他の井戸はどうやって掘ったんだろう、めっちゃ重労働ですよ、これ。

まぁそんなこんなでこの村初の共同住宅が出来たって訳です。

 

「ケビン君、本当にありがとう。凄く立派な家じゃないか、最高だよ」

そう言い俺の手を握るボイルさん。あの新婚夫婦との共同生活はそんなに辛かったの?

 

「「「甘々な雰囲気が漂いまくっているんだよ、蜂蜜漬けよりも甘いんだよ。」」」

 

「うっ、それはきつそう。って言うか三人とも蜂蜜漬け食べた事あるんだ、お金持ちだったんですね」

 

「ハハハハ、嫁とその親戚にみんな奪われた上に命迄狙われたけどね。」

「俺は信じていた同僚に罪を(なす)り付けられた挙句そいつと嫁が不倫してた。」

「へ~、二人とも既婚者だったんだ、俺は婚約者を奪われて家から追い出された挙句暗殺され懸けただけだな。暗殺ギルドって目茶苦茶強い上にしつこいしつこい、参ったよ。」

「「「アハハハハハ」」」

 

笑えね~、やっぱこんな辺境に逃げて来るだけあって、重い重い。うちの村の訳アリもそうだけど、大概命からがらって言うね。やっぱり都会は怖いわ、村暮らし最高。

バレない様にこっそり贅沢して生きて行こう。

 

「皆さんの家の家具はマルコお爺さんが作製中ですんで、しばらくお待ちください。何とか藁ベッドだけは間に合いましたんで。シーツはキャタピラーの攻撃糸製ですから丈夫ですよ」

 

「「「なにそれ、凄い高級品なんですけど」」」

「全部村の木札払いですから、頑張って村に返済してくださいね?」

 

「「「わ、分かりました」」」

何故か顔の青くなる三人。大丈夫ですって、どうせ他に行く当てなんてないんですから、開き直って気長に返せばいいんですよ。

隣にいるギースさんの肩をポンと叩き、悪い笑みを浮かべるケビン少年なのでした。

 

 

「おっと忘れる所だった、ケイト、これ頑張って手伝ってくれたから追加報酬」

それは薄いはちみつ色をしたスカーフとローポーションの瓶。

 

「今日からそのスカーフを首に巻いておいて、それと寝る前に必ずローポーションを飲む事。追加のローポーションは後日持って行くから。ザルバさんにも俺から貰ったって伝えておいて」

 

「ん。」

さてと、これでOK。後は結果を御覧(ごろう)じろってね。

早速首にスカーフを巻き緑と黄色に見せびらかして嬉しそうにはしゃぐケイト君。その姿を見て“あっしらも欲しいです”って顔をするデカミミズ二匹。

そんな彼らを微笑ましい顔で見詰める大人三人。今日もマルセル村はのんびりと時間が過ぎて行くのでした。




本日一話目です。
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