転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第571話 王都屋敷の主、王都の偉い人とお話しする

辺境の大地に広がる枯草の草原、季節の訪れはそんな寂し気な風景に小さな変化を齎す。

 

「お母さん、あった」

「本当ね、ランディー、よく見付けたわね。それじゃこの癒し草の若芽を摘まんで籠に入れてくれる?

お家に持って帰って蒸し餅を作りましょうね」

 

「おかーたん、僕も見つけた」

「あら、ポールも?二人とも凄いわね。それじゃ一杯集めて、お父さんに美味しい蒸し餅をご馳走してあげましょうね」

 

「「はーい、僕頑張る!!」」

春の訪れ、それは植物の変化から。枯草の草原に芽吹いた小さな緑は、辺境の村人たちにささやかなご馳走を運んでくれる。

そんな和やかな母子の下に近付く一人の男性。

 

「ただいま、ガブリエラ。ランディー、ポール、お母さんの言う事を聞いていい子にしていたか?」

「グルゴ、お帰りなさい。王都までの護衛任務、お疲れ様でした」

 

「「お父さん(おとーたん)、お帰りなさい。僕たちいい子にしてたよ」」

「そうか、それで今は癒し草の若芽摘みの手伝いをしていたのかな?お母さんのお手伝いまでして、偉いぞ、二人共」

グルゴはそう言うと子供たち二人を抱き締めて髪の毛をくしゃくしゃと撫でまわす。そんな父親に目を細め嬉しそうに甘えるランディーとポール。

 

「そうそう、二人には王都でお土産を買って来たんだ。ぬいぐるみ工房モフモフマミーというところで購入したドラゴンのぬいぐるみだ。

よくお母さんの手伝いをしてくれた二人へのご褒美だ」

「「えっ、ドラゴンのぬいぐるみ!?やった~!!お母さん(おかーたん)、お家に帰ろう、お家に」」

 

草原を跳ねまわりながら喜びを伝えるランディーとポールの姿に、「もう、グルゴったら子供たちに甘いんだから~」と呆れた顔を浮かべるガブリエラ。

 

「すまんすまん、でも俺も家族と一緒にゆっくりしたかったからな。ガブリエラ、悪いがお茶の準備を頼めるか?道具は俺が片そう。

それにガブリエラには色々と王都の土産話をしたかったんだ」

 

枯草揺れる草原、楽しげに笑う子供たちと、その様子に微笑みを浮かべる妻ガブリエラの姿。

グルゴはそんな家族の様子に目を細めながら、“家族との幸せは必ず守り抜く”と己の誓いを新たにするのであった。

 

―――――――――

 

王都貴族街に佇む一軒の広い屋敷。そこは王都貴族社会において知らぬ者はいない名家、“王家の剣”、“王家の影”と呼ばれる者たちを統べる者、ベルツシュタイン伯爵家の王都屋敷であった。

 

“コトンッ”

美しい所作を見せるメイド、テーブルに置かれたティーカップからは爽やかな若葉の香りが漂う。

来賓室に通された俺は、カップの取っ手を掴むと、香りを楽しんでから口を付ける。

 

「いただいたマルセル茶、楽しませてもらっているよ。聖茶のような特別な効果はないけど、すっきりとした味わいは心を穏やかにしてくれる。

変な効果がない分安心して飲めると言うか、私は好きだよ、このマルセル茶」

「ありがとうございます。ベルツシュタイン伯爵閣下が喜んでくださったと知れば、職人たちの励みとなりましょう。

いずれはお茶職人の数を増やし広くマルセル村の特産品としたいのですが、中々移住者が集まらずうまく行きません。

ベルツシュタイン伯爵閣下の配下の者で引退なさった方などがおられましたら是非マルセル村へ。伯爵閣下の配下の方々でしたら心より歓迎させて頂きます。

 

と言うかまともな方なら大歓迎なんですが、うちに来る移住希望者って碌でもない連中ばっかりなんですよね。

鬼神ヘンリーや剣鬼ボビーの教えを受けたいって冒険者とか、贅沢な暮らしをしたいって連中とか。

別にね、村に骨を埋める覚悟があるんならそれでもいいんですよ?でもなんて言うのか、利用して利益を得ようとするような者ばかりでして、マルセル村に対する帰属意識がですね。

そんな連中なもんですからしばらく経つとみんな逃げ出しちゃうんですよね、あれだったらマルセル村に観光に来る動物好きの親子とかの方が全然ましですよ。

残念ながら皆さん観光が終わったら帰っちゃうんですが。

まぁ楽しんでくれるんならいいんですけどね」

 

“スーーーッ”

ティーカップのマルセル茶を静かに啜り、テーブルに置く。

目の前のベルツシュタイン伯爵閣下は、そんな物おじしない俺の態度にも特に気にした様子もなく、自身もティーカップに口を付け小さなため息を吐く。

 

「それで、今回は何をやってくれちゃったのかな?

まぁ聞かないといけないんだよね、これ。ホーンラビット伯爵が言っていたんだよ、“ケビン・ワイルドウッド男爵の報告を聞くことが一番胃に悪い”と。

本当に頼むよ、私の身体を労わってくれるんならなるべく騒ぎは起こして欲しくはないんだけど?」

・・・あれ~、おかしいな~。王都の影の支配者、諜報組織“影”の総帥であるハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下のお姿がドレイク・ホーンラビット伯爵閣下のお姿と重なって見えるんだけど。

俺、疲れてるのかな?ちょっと働き過ぎ?やっぱり王都学園の講師なんて俺には荷が勝ち過ぎたんだよ、きっと。

 

「これはこれは、ベルツシュタイン伯爵閣下に()かれましては御心を騒がせたこと深くお詫びいたします。

それで事の次第を報告させて頂きますが、簡単に言えばマルドーラ伯爵家のお家騒動に巻き込まれたと言ったところでしょうか。

 

ベルツシュタイン伯爵閣下は御存じかも知れませんが、我がホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士グルゴ・ナイト男爵は所謂訳アリの人物です。

元の名をグルゴビッチ・エスティニオス、マルドーラ伯爵家において騎士長の要職にあったと聞いております。

 

マルドーラ伯爵家の先代当主と正妻であるマルドーラ伯爵夫人は長いこと子宝に恵まれませんでした。これは貴族家として先々の不安材料になりかねない、そこで先代様は側室を設けお二人の間に子をなした。

それがガブリエル・マルドーラでありグルゴビッチ・エスティニオスが剣術指南役として仕えていた人物です。

ですがあることが切っ掛けで先代と正妻との間に男児が誕生した。そうなると邪魔になるのが側室とその子供であるガブリエルです。

グルゴビッチはガブリエル暗殺の実行犯として指名され、橋の欄干から落ちたガブリエルの後を追わされて橋脚から身を投じた。

 

あとは王家に報告が上がったようにガブリエルの死は事故として処理され、先代の戦死を受け正妻のお子様であるウリエル・マルドーラ様が伯爵家の家督を継ぐ事となった。

全ては順調、マルドーラ伯爵夫人は王都社交界でご活躍されていた。

 

そこに不意に齎されたのがグルゴビッチ・エスティニオス生存の知らせです。これは本当に偶然でした。王城前広場の戦没者慰霊碑、今は亡き先代マルドーラ伯爵様に花を供え祈りを捧げているところをマルドーラ伯爵家の騎士に目撃されてしまった。

グルゴさんとしては主家であるホーンラビット伯爵家の名を出す訳にはいきませんから、北の田舎で農兵のような仕事をしているとかホーンラビット牧場の飼育員をしているといった一見分かりにくい情報を与える事で警戒を促したんですけどね。

中央貴族の地方貴族を見下す慣習が情報の精査を邪魔したのか、はたまた農兵をしているくらいなら良くて下級貴族であるだろうと高を括ったのか、ワイルドウッド男爵家王都屋敷に十二名の騎士を送り込みましてね。

 

マルドーラ伯爵夫人は御存じなかったようですね。“商人街の悪夢”、悪名高い我が家の事を知っていれば少しは警戒したでしょうに。

売られた喧嘩は高額買取が貴族の基本、嘗められたらお終いでしたか?まるで冒険者のような思考法ですが、これが王都の仕来たりと言うのなら仕方がありません。

“場においてはそれに合せよ”、王都貴族社会の流儀に従わせていただいた次第です」

 

俺の説明に終始頭を抱えるベルツシュタイン伯爵閣下、何かおかしなことを言ったのだろうか?

 

「うん、いや、うん。ワイルドウッド男爵が事を荒立てない様に配慮したっていう事は分かった。

いくら下位の者に対してであろうとも他家に騎士を向かわせることは宣戦布告に他ならないからね。今回の件に関してマルドーラ伯爵家が異議を申し立てても王家としては自分たちで解決せよとしか言いようがないかな?

 

幸い王都を騒がせた訳ではない、あくまで両家の屋敷内での出来事。王家としては下手に干渉できない領分の話、仲裁に入る事くらいはするけどね。

 

しかし何を如何すればあの気位の高いマルドーラ伯爵夫人が自ら領地の別邸に引き籠るという選択をするんだい?報告を聞いた時はへたをすればホーンラビット伯爵家とマルドーラ伯爵家の全面抗争に発展しかねないと危惧したんだけど」

 

「あぁ、アレですか。マルドーラ伯爵夫人には魔力枯渇と霊薬摂取による魔力回復を繰り返していただいて、こちらの誠意を分かって貰ったってだけですよ?

ホーンラビット伯爵家としても折角落ち着いて来た国内情勢を乱したい訳ではありませんから。要らぬ諍いはないに越した事はない、大変有意義な話し合いでした。

 

無論暴力などはふるいませんよ?倒れられているマルドーラ伯爵夫人を霊薬で介抱し、笑顔を向けただけですから。

その様子は夜会に参加されていた多くの貴族家の方々も目撃なさっておられますので確かです。

何故かマルドーラ伯爵夫人が大きな声を上げ騒がれておりましたがそれも介抱四回目にはすっかり大人しくなられて、こちらの話を真摯に聞いて下さるようになりました。

 

やはり理性ある人同士、言葉を交わし合えば分かっていただけるんですよ。こちらとしても過去に縛られて生きていたい訳ではありませんから、大変良い結果になったと満足しております」

 

そう言い俺は再びティーカップを手に取り口を付けます。あ~、お茶が美味しい。

 

「そ、そうなんだね、うん、話し合いは大切だよね。いや~、ワイルドウッド男爵が短絡的な人物じゃなくて本当によかったよ。

マルドーラ伯爵家としても今回の件に関して何か言うつもりはないみたいだとの報告が上がっていてね。

両家共に理性的に行動してくれて良かった良かった。

 

そうそう、一つ聞きたい事があったんだが、ギース・ブレイド男爵が招待客と揉めたという報告が上がっていたんだが、それは一体どういった経緯だったのかな?」

 

「あぁ、あれはですね・・・」

俺はベルツシュタイン伯爵閣下の言葉に夜会の夜のギースさんを思い出し、“中央貴族の面の皮って凄い”と苦笑いを浮かべるのでした。

 

――――――――――――

 

「キルリアイス、あなた、キルリアイスでしょう?」

その声はマルドーラ伯爵夫人との有意義な話し合いが終わり、夜会会場を後にしようとした時に不意に掛けられたものだった。

 

「キルリアイス?失礼、ご婦人はどなたかとお間違いではないでしょうか?私共にその様な名前の者は・・・「あっ、ケビン悪い、それって俺の事だわ」・・・はぁ?えっ、はぁ?

えっと、ギースさんって前の名前“キルリアイス”だったんすか?

って言うかキルリアイスって・・・・ブホッ、アッハッハッハッ、ギースさんがキルリアイス。

“俺の名はキルリアイス、どんな魔物でも切り捨てる。でも嫁のスリコギ棒は勘弁な”」(キリッ)

 

「ブハッ、駄目だ、我慢できない。ギースさん最高!!」

「うるせえ、これでも武術学園じゃ“瞬剣のキルリアイス”とか言われて評判良かったんだよ!!

ってグルゴさんまで一緒になって笑わなくてもいいじゃないですか~!!」

 

さっきまでのシリアス展開は何処へやら、プルプルと肩を震わせて笑いを堪えるグルゴさん。グルゴさん、耐えるんだ、俺の屍を越えていけ!!

 

「やっぱりキルリアイスだったのね、すっかり立派になって。元気なようで良かったわ。あの子もずっと心配していたのよ?突然あなたが王都から姿を消すんですもの。

でもびっくりしたわ、あなたがあのホーンラビット伯爵家騎士団の一人になっているだなんて。王都に来ていたんなら顔くらい見せてくれればよかったのに。

でもこれからは大丈夫ね、いつでも遊びにいらして?

そうそう、皆さんはキルリアイスのお仲間ですもの、是非我が家で歓迎させてくださいまし。皆さんは聖者の行進で有名なホーンラビット伯爵家騎士団の方々、家族の者も喜ぶと思うのよ」

 

そう言い笑顔で話を進める御婦人。

 

「すまん、騎士ギース、こちらのご婦人は?」

「あぁ、以前話したかな?俺の元婚約者の女性の母親だな。

俺が冤罪を掛けられて家を放逐された時、元婚約者と一緒になって散々罵ってくれた人物だよ。

ほら、あの隅っこに隠れているのが元婚約者と元親友。隠れて浮気した挙句俺にいわれのない罪を擦り付けて見事結婚を果たした英雄様方だ。

相変わらず隠れるのが上手いよな、俺に何かされるんじゃないかってビクビクしてやがる。びくつくくらいなら暗殺者ギルドに俺の始末を依頼しなければよかったのにな。

 

まぁ言っても過去の事だ、今更どうでもいいんだけどな。

という訳で俺はキルリアイスでもなんでもない、ホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士、ギース・ブレイド。

ご婦人、申し訳ないが俺はあなた方と関わり合いになろうとは思わんし、関わり合いになりたくはない。

どうしてもと言うのなら」

“ブオッ”

立ち上がる強大な覇気、その力の奔流は荒ぶる姿とは裏腹に繊細に操作され、一部の人間にだけ襲い掛かる。

 

「その身に過去の清算をして貰わなければならないが、・・・その覚悟はあるんだろうな?」

“ドウンッ”

その言葉と共にぶつけられた濃厚な殺気。

 

“ヒッ、バタバタバタバタバタバタ”

途端その場に倒れる複数の人々。

 

「あ~、ギースさん、イライラっとしたのは分かるけどちょっとやり過ぎかな~。ほら、ギースさんのお知り合い、白目剝いて口から泡吹いてるし。

って言うか折角覇気の強さを調整して周りが気絶しない様にしてたのに、最後の最後で全員潰しちゃってどうするのさ。

まぁホーンラビット伯爵家の者に手を出せばどうなるのかって事は、確り分かって貰えたと思うからいいんだけどね?

しかしこの状況で掌返しをするかな~。いくらホーンラビット伯爵家の威光を使って発言力を高めたいからって、王都の貴族社会って怖!!」

 

俺は王都貴族の逞しさを感じつつ、“うん、面倒くさい。俺には無理!!”と王都貴族社会とは距離を置く事を決心するのでした。




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