「あっ、リリアーナ先輩、いらしていたんですか?」
「「「こんにちは、リリアーナ先輩」」」
学園生徒女子寮の寮長リリアーナ先輩に学園施設を案内してもらっていた俺たちは、魔法訓練場でリリアーナ先輩から施設の説明を受けていた。
魔法訓練場には春休みだと言うのに多くの生徒が集まり、熱心に魔法の訓練に取り組んでいる様であった。
「あら、あなた達も来てたの?練習中に邪魔してごめんなさいね。
ちょっと学園から頼まれて今度の新入生に学園内の施設案内をしているのよ。
紹介するわね、彼女達はあなた達の先輩にあたる二年生の生徒で、私が部長を務める魔法研究部の生徒なの。
魔法研究部は伝統ある部活でね、古くは勇者物語に登場する剣の勇者様と旅をした賢者様が所属していたと言われているわ。
王宮魔導士の中にもこの魔法部出身の方が多くいらっしゃるの。
昨年王家にエリクサーを献上して話題になった賢者ユージーン様の事は知ってるかしら?あの方は少し前の中央学園の卒業生なんだけど、彼も魔法研究部に在籍していたのよ、学園生の頃からかなり有名な方だったと伺っているわ。
あなた達も魔法に興味がある様だったら部活見学の時にでも顔を出してちょうだいね」
そう言いニコリと微笑むリリアーナ先輩。こうやって学園の事を何も知らない後輩を勧誘して行くんですね、上手いやり口です。
「リリアーナ先輩、折角ならあれを見せてくださいよ。いいかお前ら、ビックリするなよ?これが王都中央学園の大魔導士、リリアーナ先輩の実力なんだからな!」
「ちょっ、あなた何言ってるのよ、私は学園の案内をってみんなして手を組んで目をキラキラさせるんじゃない!!
ハァ~、一回だけよ?もう一度とか言われてもやらないからね?」
魔法研究部の後輩たちにせがまれて前に出るリリアーナ先輩。
“スーーーッ”
制服のマントから取り出したのは短杖の魔法杖。
「<ファイヤーボール×10>」
“バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ、ドドドドドドドドドド~~~ン”
「「「「お~~~、流石はリリアーナ先輩、大魔導士の名は伊達じゃない」」」」
「やめてよ、
そう言いその場を離れるように促すリリアーナ先輩。背後では魔法研究部の二年生たちが興奮して盛り上がりを見せています。
「みんなごめんね、こっちで勝手に騒いじゃって。
それでさっきやったのは所謂<短縮詠唱>と呼ばれるものね。これは魔法に精通する事で目覚めると言われているスキルなの。
王宮魔導士の殆どはこの<短縮詠唱>が出来ると言われているわ。
でもただ短縮詠唱が出来るってだけだと実戦じゃ心もとない。学園では<待機>という一回に数発の魔法を発動させる技術が開発されてるんだけど、それと同じように一度に何発もの魔法を撃ち出す技術というのが存在するのよ。
有名な所だと白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”所属の魔導士、キャサリン様がこの技術を使われると言われているわ。もっとも有名なのは元白金級冒険者で“獄炎のルビアナ”と呼ばれたルビアナ・ブリーチ様。
一回に五十を超えるファイヤーランスを撃ち出したり百のファイヤーボールを操ったという話は最早伝説ね」
リリアーナ先輩は「それに比べれば私なんかまだまだなんだけどね~」と言って前を行かれます。
「なぁジミー、さっきの見てたか?」
「あぁ、魔法訓練場に設置されているすべての標的を正確に捉えていたな。あれは一朝一夕で出来る様なものじゃない、繊細な魔力操作、全体を俯瞰でとらえる空間把握能力。
この先輩、相当やるぞ」
“どんなところにも必ず学びはある”、俺はケビンお兄ちゃんの言葉を思い出し、口元に深い笑みを浮かべるのでした。
“キンッキンキンキンッ、カンッ”
「ほらほら声を出せー、腕が下がってるぞー!!」
「「「はい、バルド先輩!!」」」
“キンキンキンキンキンキンッ”
剣を振り、激しく打ち合う生徒たち。その真ん中で一際大柄な生徒が檄を飛ばす。
「ここは武術訓練場、生徒たちが剣の稽古を行う時は基本的にこの場所を使うわ。さっきの魔法訓練場もそうだけど、ここには特殊な結界が張られていてね、痛みは感じるけどケガを防ぐ効果が施されているの。
やっぱり訓練だし痛みを感じなければ真剣に覚えないって事なんだろうけど、なんでわざわざ痛い思いをしないといけないのかがいまいち分からないのよね」
そう言い肩を竦めるリリアーナ先輩に乾いた笑いを返す俺たち。ハイポーションは当たり前、更に上を行く七色の光を放つ謎ポーションや身代わり人形を前提とした訓練を行ってた俺たちって、どう考えても異常だよな~。
ジミーなんか霊亀と殺し合いをして「流石霊亀、まだ俺では届かなかったか」なんて呟いてたもんな~。ジミーの場合勇者病って言うより修羅だな、戦国武将か薩摩隼人だな、うん。
「ん?なんだ、魔法馬鹿のリリアーナじゃねぇか、お前が武術訓練場に来るなんて珍しいな。
後ろの連中はなんだ?」
「誰が魔法馬鹿よ、それを言ったらアンタは剣術馬鹿じゃない。
この子たちは今年の新入生よ、学園に頼まれて学園施設の案内をしているの。こっちの事はいいからアンタは後輩の指導でもしてなさいよね」
そう言い手の甲をシッシッと振るリリアーナ先輩。
「エミリー、これはアレか、アレなのか?」
「ジェイク君、要注意人物だね。この先の展開、見逃す訳にはいかないよ?」
王都学園、そこは華やかな青春の舞台。
「リリアーナ先輩、あちらの先輩は?」
「あぁ、アレ?バルド・シュティンガー、ああ見えてシュティンガー侯爵家の四男なのよ、ああ見えて。
シュティンガー侯爵領って言ったらリフテリア魔法王国と国境を接する北の玄関、多くの魔法技術が集まる魔導士憧れの地なのよ?
何でそこの四男が脳筋剣士なのよ、意味が分からない」
「うるせえ、誰が脳筋だ誰が。いくらリフテリア魔法王国のお隣で魔導士や魔法使いが多いからって、領民全てが魔法使いな訳ないだろうが。国境警備を含め領内には騎士も兵士もいるんだよ、武官だって必要なんだよ!!」
何やら俺たちの事はそっちのけで言い合いを始める二人。
「エミリー、これは難しくないか?俺にはどう見ても喧嘩仲間にしか見えないんだけど」
「チッ、チッ、チッ、甘いよジェイク君。魔法重視の侯爵家の四男、しかも剣術馬鹿。家族の中では割と浮いた存在、そこに現れた魔法大好き少女。
反発し合いぶつかり合い、いつの間にか互いを意識している事に気が付き。揺れる心、素直になれない男女の葛藤。これがラブロマンスだよ、ジレジレだよ。
十六夜さんが言ってたんだよ、学園ラブロマンスは最高だって。
これから一年、そんな二人の恋愛模様を見る事が出来るんだよ?こんな機会この先一生ないかもしれないんだよ?」
興奮し拳に力を込めるエミリー。フィリーとディアも一緒になって頷いています。
「あ~、エミリー、ちょっと落ち着け。声が大きい、さっきから周りに聞こえまくってるから。
リリアーナ先輩とバルド先輩が顔を真っ赤にしてるから。
こう言うのはコッソリ見守りつつニヨニヨするのがいいんじゃないのか?ケビンお兄ちゃんからはそう聞いているんだが?
あまり刺激し過ぎるとうまく行くものも行かなくなるから、ちょっかい掛ける時は慎重に行動しろとかなんとか言ってたぞ?」
“ボフッ”
「「「バ、バルド先輩!?大丈夫ですか」」」
うわ~、バルド先輩、純情だった様です。なんか真っ赤になって倒れちゃったんですけど?顔から湯気出てない?大丈夫?
「そ、それじゃ、次に行くわよ、次に!!」
顔を真っ赤にしながらも足早に武術訓練場を下がるリリアーナ先輩。これ、絶対今夜当たり自室で悶えるんだろうな~。
俺は何か悪いことしたなと思いつつ先輩の後を追い掛けるのでした。
「ふ~、暑い暑い、もう春ね~。えっとここは学園生徒専用のダンジョンよ、通称学園ダンジョンと呼ばれるところね。
階層は全部で十階層、詳しい事は今後授業で習って行くからその時に指導教諭に聞いて頂戴。
あまりこういったお楽しみを先に話しちゃうと面白みに欠けるじゃない?」
そう言いウインクするリリアーナ先輩。年上の余裕を演出なさっておられますが、顔の火照りが取り切れていませんよ?
「学園生徒は授業でダンジョン攻略を行う事になってるんだけど、その時組んだパーティーが絶対という訳じゃないの、人には合う合わないがあるじゃない?
色んな人とパーティーを組む事も一つの勉強になるって事は覚えておいてね。
授業以外にも放課後や休日にダンジョン探索を行う生徒もいるわね、その時手に入れたドロップアイテムや魔石は購買脇の学生ギルドで買い取って貰えるのよ。
学生ギルドは疑似的な冒険者ギルドね、社会学習の一環として学園内の手伝いなんかの仕事も斡旋しているの。
報酬はポイント制で購買や食堂利用の際に使う事が出来るわね」
ほう、学生ギルドとは。学園の生活に慣れてきたら休みの日は王都冒険者ギルドに行こうと思っていたけど、先ずは学生ギルドで冒険者体験をするのもいいかもしれない。
俺は皆に目配せをすると、心のメモに学生ギルドの事を書き込むのでした。
「ここは学園が誇る施設の一つ学園大図書館ね。この大きな建物が丸々図書館施設なの。政治・経済・歴史・文学・地理・魔法、あらゆる分野の書物が保管されていると言われているわ。
探したい分野の本が分からない場合、図書館司書に尋ねるといいわよ?
彼らって凄いの、どこにどんな本があるのか全部記憶してるのよ。その上ある程度の内容も覚えてるみたいで、必要な資料を探し出してきてもくれるわ。本当に人間業じゃないわよ?」
そう言い大きな建物の中に入って行くリリアーナ先輩。
「「「「「うわ~~~~~、凄い」」」」」
そこは広大な本の森、本棚にはびっしりと本が埋まり、そんな本棚が壁から何からあらゆる場所に配置されているのでした。
「えっ、図書館司書の方って、これを全部覚えているんですか?
あの、俺、普通に迷子になりそうなんですけど」
「アハハハ、その気持ち分かるわ~。私も入学したての頃は何度か館内を彷徨ったもの。
ここってエントランスホールって呼ばれてる場所なんだけど、この先の館内は幾つかの区分けがされていてね、学園生徒でも立ち入りを禁止されている場所や許可がないと入れない場所なんかもあるのよ。
なんでもリフテリア魔法王国の魔導技術が使われていて、建物内の空間が拡張されているって話よ?
本当に興味深いわよね、私もリフテリア魔法王国には一度行ってみたいと思ってるのよ」
そう言いうっとりとした目をするリリアーナ先輩。
うん、この人は正真正銘魔法馬鹿だわ。シルビア師匠やイザベル師匠と同類だわ。
「あら、リリアーナじゃない、こんな所で何をやってるのよ?」
背後から掛けられた声に一斉に振り向く俺たち。そこにはボサボサの髪に白衣を羽織ったいかにも研究者といった女性が立っていたのでした。
「あっ、シルビーナ先生。と言うかいいんですか?そんな恰好でうろついて、また学園長先生に怒られちゃいますよ?」
「フフフ、大丈夫、学園長は今日から五日間の休暇。ああ見えて確り貴族だからね、社交界って大変よね。この時期はお偉いさんもこぞって社交に忙しいからこっちとしては万々歳、思いっきり羽を伸ばせるって訳。
で、そっちの見慣れない顔は何?魔法研究部の新入部員?」
「違いますよ、今日学園に来た今年の新入生です。
みんなに紹介するわね、こちらは王都学園の魔法講師でシルビーナ先生。さっき魔法訓練場で話をした<待機>の技術を体系化して、生徒でも訓練次第で使えるようにした凄い方なの。見た目こんなだけど。
魔法研究部の顧問をして貰っているのよ。
シルビーナ先生、紹介します。
手前からエミリー・ホーンラビットさん、ジェイク・クローさん、ジミー・ドラゴンロードさん、フィリー・ソードさんです」
リリアーナ先輩の紹介に俺とジェイクは騎士の礼をし、エミリーとフィリーはカーテシーを決めます。
ディアはどうしたのか?後ろに控えてますが?ディアは生徒ではなくエミリー付きのメイド、出しゃばったりは致しません。
「あぁ、話は聞いているわ。君が噂のジェイク君ね、君も大変ね~。それとよく分からない職業のジミー君、武術教官たちがどう扱ったらいいのか随分と悩んでいたみたいよ?
なにか君のお兄さんが学園に挨拶に来た事があったらしくて、詳しい事は聞いてないんだけど、その時にうちの人間が手も足も出なかったとかなんとか。
その上で君の職業がよく分からないアレでしょう?スキル研究所からも何か分かったら教えて欲しいと依頼されているらしいのよ。
でもまぁそんな事は大人の話、あなた達生徒には何も関係ないわ。
学園に入った以上、よく学びよく遊び、確り青春を謳歌しなさい。そこの魔法馬鹿みたいに魔法まみれになるのも一つの青春だしね」
そう言いウインクを残して館内の奥に進んで行くシルビーナ先生。リリアーナ先輩は「シルビーナ先生の方がよっぽど魔法馬鹿じゃないですか!!」と声を上げて、図書館司書のお姉様(熟練)に注意されています。
「ジェイク君、何か王都中央学園って思ってたのと違ったね」
「そうだな、何処かケビンお兄ちゃんの匂いがする」
俺たちは思った以上に濃い先生との出会いに、“この先の学園生活、一体どうなるんだろう”と去って行く白衣の後ろ姿をただ茫然と眺め続けるのでした。
本日一話目です。