転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第574話 転生勇者、冒険者ギルドに向かう

“““““タッタッタッタッタッタッタッタッ”””””

若者たちの朝は早い。まだ空が白み始める前に起き出し、校庭でランニングを行う事から彼らの一日は始まる。

走り終えてからは丹念にストレッチを行い身体の状態を整えてからの素振り、自身のスキルに呼び掛け動きの無駄を削ぎ落し、自身と得物を一体化させる。それは木剣であったり、木刀であったり、長杖であったり。それぞれの身体やスキルに合った武器を選び、より高みを目指して。

 

「フゥ~、止め。時間だ、寮に戻って朝食にしよう。

食事が終わったら正門前で集合で」

「分かったよジェイク君、また後でね。フィリー、ディア、早く行こう♪」

二人を促して生徒女子寮へと戻って行くエミリー。俺とジミーはそんな彼女達を見送ると、手拭いで汗を拭き生徒男子寮に戻って行く。

まだ春先だってのに朝から何で汗を掻いてるのかって?そんなもの魔力枯渇状態でトレーニングをしているからですが何か?

 

これは以前マルセル村でケビンお兄ちゃんとケイトさんが行っていたトレーニング方法、魔力枯渇状態で肉体訓練は純粋な身体能力を鍛えるのに最適との事。いつも寝る前にやっている魔力枯渇筋トレを朝の訓練に取り入れたって奴です。

 

「“ゴクッゴクッゴクッ”、カ~~~ッ、旨い!!訓練後の魔力水は堪んないな~。やっぱり身体が魔力を欲してるって事なんだろうな~、食事も目茶苦茶美味しく感じるし」

身体を動かした後は魔力と体力の回復、ケビンお兄ちゃんは蜂蜜きな粉飴とビッグワーム干し肉で補充していたけど、俺たちは訓練前に水筒に作っておいた濃厚魔力水と寮の朝食で補っている。

濃厚魔力水の作り方は簡単で、生活魔法<ウォーター>で水を出す際に自身の魔力をたっぷり加える事をイメージする事で作ることができる。

ここに蜂蜜と一摘みの塩でも入れればより美味しくなるんだろうけど、無いものは仕方がない。

・・・これはバイトを探さないと。王都は物価も高いって聞くし、みんなと相談しないとな。

 

「ジェイク、早く戻るぞ。今日は冒険者ギルドの見学に行くんだろう?エミリーたちを待たせたら悪い」

「あぁ、悪い。ちょっと喉が渇いちゃってさ。というかジミーもちゃんと魔力水を飲んどけよ?いざって時に魔力枯渇でしたじゃ目も当てられないんだから」

 

「そうだな、スライム浴をしてから飲んでおくよ。

しかし学生ギルドは残念だったな、登録が入学後じゃ今の俺たちには利用できないしな」

 

リリアーナ先輩に聞いた学生ギルド、図書館見学の後立ち寄ったんだけど、残念ながら入学前という事で俺たちには利用する事が出来ませんでした。

入学後ダンジョン探索の授業の時に各人専用の学生ギルドカードが発行されるんだとか、その辺は冒険者ギルドの雰囲気を大事にする学園側のこだわりが感じられます。

 

「依頼掲示板を見たんだけど、ちゃんと冒険者ギルドをしてたよな。雑用依頼とか採取依頼とか、これって冒険者ギルド職員の監修でも入ってるのかな?

実際のギルドと見比べるのも楽しみだよね」

俺とジミーはこれから向かう冒険者ギルドに期待を膨らませながら、急ぎ寮の部屋に戻るのでした。

でもこの部屋の様子って他の寮生に見せれないよな、歳若の男子生徒がスライムに呑み込まれている光景は心臓に悪いもん。

エミリーたちなんかは俺たちがスライム浴をしてると妙に鼻息が荒くなってるし、傍から見たらよっぽど奇妙な光景なんだろうな。

とは言えこのスッキリサッパリする感覚、癖になって止められないんだけどね。

 

「ごめん、ジェイク君、待たせちゃった?」

「いや、そんな事ないぞ?俺たちも今来た所だ。通行証はちゃんと持って来たか?」

 

「うん、バッチリだよ」

そう言い首から紐で下げた通行証を見せるエミリー。朝食後、外出用の平民服(マルセル村産)に着替えた俺たちは、エミリーたちとの待ち合わせ場所である学園正門に来ていた。

ここ王都学園では基本的に制服着用が義務付けられている。それはこの学園の生徒であるという事もあるが、侵入者対策の意味合いが大きい。

学園の制服はそれ自体が個人認証の為の魔道具であり、学園の各所に設置された個人認証魔道具の通行パスになっている。

その為制服以外で学園内を歩く場合や外出する場合は、通行証の携帯が必須なのであった。

 

「「「「「おはようございます」」」」」

「あぁ、おはよう。朝早くからお出掛けかい?」

王都学園の正門前には門兵が常駐していて、学園の様々な事態に対処している。今は時間帯的に正門が開いているので制服を着ている生徒はそちらを利用するのだが、私服の者たちは通用門を利用しなければならない。

それを無視して正門を潜ろうとすると、トラップが発動してその場で倒れ込んでしまうらしい。古代文明がどうとかダンジョンがどうとか言われてるけど、中々すごい技術だと思う、わざわざ試してみようとは思わないけど。

 

「はい、折角王都に来たんで冒険者ギルド本部ってところが見たくって。

でも凄いですよね、これだけ広い王都の管理だけじゃなくて、オーランド王国全体の対処も行ってるんでしょう?

ギルド本部ってどれくらい大きいんですかね」

俺がそう言いワクワクといった感情を隠さずにいると、何故か門兵は愉快そうに笑いながら言葉を返すのでした。

 

「ハハハハハ、確かに冒険者ギルド本部建物は大きいが、この広い王都の依頼をギルド本部だけで回すのは無理があるぞ?

王都には三つの冒険者ギルドがあってな、王都冒険者ギルド本部、東支部、西支部に分かれてるんだ。それでも王都だ、冒険者の数も相当数に上る。それぞれの支部もギルド本部に劣らないくらいに大きいとは聞いている。

中央学園から一番近いのがギルド本部、東支部の側には魔法学園、西支部の側には武術学園がある。

購買に行けば王都の簡易地図が売ってるから今度購入して主要建物を調べておくといい、王都も場所によっては危険だからな、道に迷いでもしたら大変だ」

 

「はい、その辺は寮母さんから伺ってます。スラム地区とか歓楽街とかですよね。流石に俺たちもそういった場所には行きませんよ。

そうは言っても田舎育ちなんで気を付けるに越した事はないんですが。

それじゃ、行ってきます」

門兵の心配をよそに、軽く会釈をして通用門を潜る若者たち。見習い冒険者が着るような平民服に身を包んだ彼らは通行証を石柱に翳すと、学園前の通りを街に向かい歩いて行く。

警備の門兵たちはそんな若者たちを見送りながら、“今年の新入生には随分と向上心のある者たちがいるものだ”と優し気に目を細めるのであった。

 

―――――――――

 

そこは王都の中心地と言ってもいいような大通り沿いに面した重厚な建物でした。

 

「うわ~、ここがオーランド王国王都冒険者ギルド本部か~。やっぱり本部って言うだけあって大きいな~」

その外観と雰囲気はまるで市役所か県庁、物騒な格好の冒険者たちが出たり入ったりしている様はここが冒険者の聖地なんだなという事を窺わせます。

これにはエミリーもびっくりといった様子、そりゃそうだよね、言うなれば上京したてで新宿駅に行くようなものだもん、人の多さにびっくりってもんでしょう。

 

「ジェイク、エミリー、いつまでもこんな所で眺めていても仕方がありません、中に入りましょう。

冒険者に絡まれても面倒なので、ここからは銀級冒険者の私が先導しますね?ジミー君たちは私の付き添いって事でいいかしら」

 

一人冒険者風の服装をしたディアがそう言うと、皆が頷いてそれに従うのでした。

 

“ザワザワザワザワ”

目茶苦茶広い受付ホールにはいくつもの受付カウンターが並び、多くの冒険者たちが列をなしていました。

 

「王都冒険者ギルド本部へようこそ。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

入り口から入って直ぐの所で足を止めていると、腕に腕章をしたギルド職員の方が透かさず声を掛けてくださいます。その対応はまるで前世の銀行か役所のよう、流石王都冒険者ギルド本部、業務の効率化がサービスに直結していると言ったところでしょうか。

 

「あぁ、すまない。私は銀級冒険者のディアという。この子たちは私が頼まれている見習の子でね。

王都は初めてで正直よく分からないんだ、詳しい説明を受けるにはどうしたらいいのかな?」

ディアの説明にしばらく考えを巡らせるギルド職員。

 

「そうですね、それでしたらこちらの札をお持ちになって番号八番の窓口にお並び下さい。お客様相談窓口となっておりますので、詳しい話を聞く事が出来ると思います」

「どうもありがとう、助かった」

 

ディアはそう言い黄色い札を受け取ると、俺たちを伴い八番窓口へと向かうのでした。

 

「こんにちは、王都本部へようこそ。本日はどの様なご用件でしょうか?」

順番が来て受付カウンターに通された俺たちを待っていたのは、きっちりと制服を着熟しいかにも出来る女性といった雰囲気を纏った受付嬢。

 

「失礼、私は銀級冒険者のディア・ソード。最近王都に到着したばかりで正直右も左も分からなくてね。

私の主な仕事は後ろの子達の見守り、彼らには見習い冒険者として街の雑用依頼を熟しながら冒険者の心得を学んで欲しいと思っている。

ところで冒険者本部は見習いの為の雑用仕事の受注も受けているのだろうか?」

「はい、王都冒険者ギルド本部といたしましても見習い冒険者の育成には力を入れております。

但し一般冒険者との無用な混乱を避ける為、見習い受付窓口は本部建物脇の別棟で行っております。

これはお恥ずかしい話なのですが、冒険者の中には見習い冒険者を下に見て便利な小間使いのように使おうとする輩もおりまして。ギルド本部ではそうした問題を引き起こさない為にも、区分けと監視を強化する事で対処しているという訳です。

 

またディア様のように見習い冒険者の見守りを行う冒険者の方には専用のパーティー申請をお願いしております。これも見習い冒険者保護の観点から生まれた制度ですので、ご協力をお願いいたします」

 

受付嬢の話に思わず声を出す俺たち。王都冒険者ギルドって進んでる、力こそ正義のミルガル支部とは訳が違うのね。

 

「なるほど、それはいい制度だ。私も銅級の馬鹿な冒険者は結構見て来た、燻ってる奴ほど馬鹿は多い、これはどこでも同じだろう。

それとこれは王都に来てから知った事だが、王都にはギルド本部の他に東支部、西支部とに分かれていると聞いた。それぞれで何か大きな違いがあるようなら教えて欲しいんだが」

「はい、確かに王都冒険者ギルドは本部とほか二つの支部に分かれています。これは王都の人口から考えれば少ないと言えるかもしれませんが、ギルドの運営上何とかこれで回さざるを得ないのが実情です。

私としてはより細かい区分けを行って後五つくらい支部を増やして欲しいところなんですが。

 

失礼しました。それで違いと言いますと依頼内容に随分と差があると思われます。これはそれぞれの立地によるところが大きいのですが、東支部は居住区が広がるため王都民の生活に密着した雑用が多く、西地区は職人街等の雑用が主になります。

本部は商人街や貴族街が近い為そうした場所からの雑用が比較的多いと言えます。

ですが雑用依頼でもものによっては冒険者の品位といったものを求められる場合もありますので、見習いの内はどの支部であろうとそれ程大差のない依頼内容となるとは思いますが」

 

そうか~、やっぱり場所によって依頼は変わって来ると。

そうなるとテンプレ依頼の“子猫を探せ”とかいうようなものは東支部、頑固職人の名工と遭遇するような依頼は西支部に行けって事ですね?

 

「なるほど、助かった。では早速別棟の見習受付に行ってみる事にする。ありがとう」

ディアはそう言うと、銀貨一枚をカウンターに置きその場を下がろうとする。

 

「ディア様、一つだけ。お手伝い系の依頼を受けられる場合、学園の制服を着用されますと無用な問題を避けることが出来ます。中には見習い相手と難癖を付ける様な依頼人もおりますので、そうした場合は是非お試しを」

そう言い一礼をする受付嬢。流石出来る女性、こちらが何も言わずとも学園に所属する生徒という事はバレていたみたいです。

まぁ王都に不慣れな見習いを連れた冒険者って段階でおかしいって事になったんだと思いますけどね。銀級以下の冒険者は領間の移動が制限されてますから、そうなると学園生徒って考えるのが自然でしょう。

 

「ジミー、エミリー、今の会話聞いてた?流石王都の受付嬢、卒がないと言うか、観察力が凄いと言うか。見習うべき事が多かったな~」

「うむ、ディアの受け答えも堂に入ったものだったな。情報収集も確り行っていたし、勉強になったよ。」

 

「う~、なんか私だけ出番が少ないんですけど?存在が希薄なんですけど?」

「「「「フィリー、頑張れ」」」」

俺たちは「私も出来る女性ってところを見せ付けたいです~!!」と呻るフィリーを慰めながら、別棟の見習い受付へと向かうのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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