王都冒険者ギルド本部本館にて見習い冒険者の説明を受けた俺たちは、早速別棟の見習い専用受付へと向かう事になった。
「しかし王都の冒険者ギルドって俺が思ってたのと随分と違うんだな。冒険者ギルドって言えば銅級や銀級の冒険者が新人冒険者に絡んで来たり、何かあれば直ぐに“模擬戦だ~”とか言って騒ぐもんだと思ってたんだけど。
ケビンお兄ちゃんの話じゃミルガルの冒険者ギルドはそんな感じのところだったって事だし、ブー太郎の従魔登録に行った時だってボビー師匠とケビンお兄ちゃんが凄く警戒してたしね」
俺はどこか拍子抜けといった感じで肩を竦める。王都に向かう際も、グルゴさんからやたらな問題を起こさない為として冒険者ギルドに立ち寄ることを禁止されていた。
満を持してやって来た王都冒険者ギルド本部、トラブルが無いに越したことはないものの、どこかテンプレ展開を期待してしまった俺は悪くないと思う。
「そうですね、私がグロリア辺境伯領領都で冒険者登録をした時はまさにジェイクが言う様なことばかりでしたよ?
“女が剣士なんざ生意気だ”とか“俺たちが確り指導してやるぜ。昼も夜もたっぷりな”とか、本当に碌でもない連中ばかりで。
まぁあの時はダイソン公国との戦争の煽りで銀級以上の冒険者が様々な貴族家で大量雇用されたという事もあり、銅級で燻っていた馬鹿が調子に乗ったってだけなんですけどね。
でも王都冒険者ギルド本部がまともであるのはある意味当り前なことかもしれません。ここは王都、王家の目の届くところで無頼の集団が大手を振っていると知れればどんな処罰を受けるのか分かりませんから。
少なくともオーランド王国における冒険者の取りまとめを行っているギルド本部が荒くれ者共の巣窟などという事にでもなれば、冒険者制度そのものの見直しが行われる事は必定。ギルド本部としても冒険者の綱紀粛正は本腰を入れて行っているという事なのでしょう。
やはりその辺は土地柄という事が大きいのではないでしょうか」
ディアの言葉になるほどと納得顔になる俺たち。冒険者ギルドとは言うなれば人材派遣業、様々な現場に人材を提供するのが主な業務でその業務範囲は多岐に渡る。そんな者たちが無頼の輩だったら管理責任者である冒険者ギルドに非難の目が向けられるのは明らか、ギルド本部も必死だったことだろう。
これが常に魔物の脅威に晒される辺境地域ならまだ許される部分もあるかもしれない、辺境は力こそすべて、魔獣退治をしてもらえるのなら多少の横暴には目を瞑るしかないといった切実な理由もあるのだから。
だがここは王都、王家が騎士団や軍を擁し、貴族家の私兵団すらいる。そんな場所で我が儘放題に振舞えばどうなるのかなど、その辺の子供でも分かる事。
それでもギルド職員たちの不断の努力により今の状況が維持されていることは疑いようのない事実なんだろうけど。
“ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ”
そこは先程の本館建物ほどではないものの、地方の冒険者ギルドよりも大きいのではないかと言うくらいに立派な造りの建物であった。よその冒険者ギルドとの違いは受付ホールが一階にあり解体所が設けられていない事。
見習い専用と謳うだけあり、依頼ボードに張り出される依頼は街の雑用依頼ばかり。基本的なルールとして見習い冒険者は討伐依頼を受ける事が出来ない為、この辺は当然の措置だろう。
「失礼、少々よろしいか?」
ディアが声を掛けたのは、受付ホールに立つ案内係の腕章をしたギルド職員。
「はい、王都冒険者ギルド本部見習い専用受付へようこそ。どの様なご用件でしょうか?」
「あぁ、先程本館の相談窓口でこちらの事を伺ってな、詳しい話を聞きたいのだがそうした相談はどの窓口に向かえばいいのだろうか?
まだ王都に着いたばかりで王都冒険者ギルドの流儀を何も知らないんだ」
そう言い自身の銀級冒険者ギルドカードを見せ、背後の俺たちに目配せをするディア。
ギルド職員はそれだけで全てを察したようで、「それでしたら」と言って黄色い番号札を渡して七番受付窓口に並ぶように指示してくれるのだった。
「ハァ~、王都のギルド職員は本当に優秀ですね。グルセリア支部の職員たちが無能という事ではないんですが、この語らずとも察してくださるような受け答えの後だと、どうしても比べてしまいます。
ここは貴族街も間近な立地という事でそうした技能が必須なのかもしれませんが、本当に頭が下がりますね」
ディアの呟きに頷きで同意する俺たち。何か自分たちが田舎者であることを再認識させられている様な、ケビンお兄ちゃんの「マルセル村でのんびりゴロゴロしたい」という言葉の意味がよく分かると言うかなんと言うか。
「でもディアも卒なくこなすよね。私は付け焼刃の似非お嬢様だから、ディアが傍にいてくれるのは本当に心強いよ。
これからもよろしくね、ディア」
「イエイエ、私など大したことはありませんよ。私はフィリー様をお守りする為に剣を振るっていただけのボア騎士です。こうした対人のやり取りは生まれも育ちも確かなフィリー様の方がお上手ですよ。
私など足下にも及びません」
「えっ、ディア、なんかさりげなく私に面倒事を押し付けようとしてない?そりゃ人前に出る機会は多かったけど、私ってばお役目に就任してすぐにゴブリンよ?交渉事なんてほとんどしてないのよ?」
「「「「大丈夫、フィリーなら出来る!!」」」」
「何でそう言うところばっかり息がぴったりなのよ~!!」
「「「「アッハッハッハッハッ」」」」
俺たちは愉快な会話を楽しみつつ、ギルド職員に案内された七番受付窓口に並び順番が来るのを待つのだった。
「なんだと?魔物の討伐依頼を受けれないとはどういうことだ?
冒険者とは魔物と戦う事が仕事なのではないのか?貴様らは我を愚弄するつもりであるか!!」
その声は受付ホール全体に響き渡るほど大きなものだった。見れば場違いに鎧を着込んだ青年の姿、おそらくはいい所のお坊ちゃんといったところだろう。
ここは冒険者ギルドが見習い冒険者育成の為に一般冒険者と区分けをした専用窓口のある別棟だ。当然の様に依頼は街中の雑用ばかりであり、周りにいる見習い冒険者たちも総じて軽装である。
「申し訳ございません。これは冒険者ギルドの規則でして、見習い冒険者には討伐の依頼を出す事が出来ないのです。
ですがそれは依頼が無いというだけの事でして、討伐行為自体を禁止したものではありません。お客様が自主的に狩りを行い本館の解体所受付に獲物を持ち込む分には何ら問題なく買い取りをさせていただきます。
ただしそれはあくまで獲物の買取、冒険者ランクに関わる評価対象とはならない事をご了承ください。
ですが雑用依頼はそうではありません、丁寧な仕事には正当な評価が下されます。ある一定の評価が溜まりましたらギルド職員より詳しい説明がございますので、ぜひ頑張ってみてください」
そう言い慇懃に礼をするギルド職員。大声で騒いでいた青年は「まったくふざけた制度だ」と言葉を残すと、不満げな表情を隠すことなく取り巻きらしき者たちと一緒に建物を出て行くのだった。
「次の方、どうぞ」
七番受付窓口からの呼び掛けに、慌てて向き直ると、受付嬢のお姉さんはくすくすと笑いながら声を掛けてくれた。
「驚かせたようでごめんなさいね。でも毎年今の時期になるとああした勘違い貴族お坊ちゃんがやって来るのよ。
冒険者は魔物と戦う事が仕事、これは別に間違ってるわけじゃないけど、冒険者の仕事はただ戦う事だけじゃないの。討伐依頼であれば周辺の情報を集めたり依頼人から話を聞いたり、採取依頼であれば採取物が何処にどの様な状態であるのか、採取方法や保存方法はどういったものであるのか。
私たち冒険者は依頼人があって初めて成り立つ職業であるという事を確り意識しなければならない。
その事を学ぶ為の見習い制度であり、街の雑用依頼だというのにその事がまるで理解できていない。
見習い制度をただ人より早く冒険者になれる制度と勘違いしちゃってる人って結構多いのよね。
冒険者は旅立ちの儀を迎えれば基本誰でもなる事が出来る、でもその先、銀級冒険者になって大成できるかどうかはそうした事が分かっているかどうかが大きいのよ。
君たちは見た事のない顔だけど新人見習いといったところかな?今の時期に冒険者ギルドに顔を出す新人見習いは学園生徒さんね。
君たちは他の冒険者よりも優れた職業を授かっているとは思うけど、基本が分かっているかどうかは今後の活動に大きく響いてくるはずよ、しっかり覚えておいてね」
受付嬢のお姉さんはそう言うと、「ご相談をどうぞ」と言葉を続けるのだった。
「どうもありがとう、大変ためになった。では依頼の際は直接受付窓口に行き相談に乗ってもらう事としよう」
「そうですね、私共も指導役の冒険者の方が付いて下さっている事は大変心強く思っております。また問題が生じましたらこちらの七番受付窓口にお越しください。
皆様の冒険者活動がより良きものになることをお祈りしております」
受付窓口での相談は、割とスムーズに進める事が出来た。基本的に俺たちはディアを含めた五人パーティーで依頼を熟したいとの要望があったのだが、銀級冒険者であるディアが見習いの依頼を行う事に問題があるのではといった懸念があった。
だがそれはディアを指導役としての見守りパーティーを組むことで解消されるとの事であった。
王都冒険者ギルド本部としては後進の育成指導に力を入れており、ディアのように見習いの見守りに就く冒険者には別途ギルドポイントを与えているとの事であった。
雑用依頼も見守りパーティー単位で受ける事が出来、受付カウンターで指導役のディアがギルドカードを提示すればそうしたパーティー用の依頼を斡旋してくれるとの話であった。
「ジェイク君、それじゃこの後はどうする?何か依頼でも受けてみる?」
「そうだな、まずは依頼ボードに貼られた依頼内容を確認してから受付に並んで、比較的簡単な依頼でも受けて「なんでだよ、下水道のスライム退治依頼がないってどう言う事だよ。あんなの誰もやりたがらない常時依頼じゃなかったのかよ」・・・」
今度は先程とは違った気になる話。下水道スライムって、図書館で借りた「スライム使いの手記」にも書かれていたいくら討伐しても直ぐに増える無限再生魔物じゃなかったっけ?
「それとビッグラットの討伐依頼も無くなってるんだけど、これってどういう事?下水道管理局が何か行ってるとか?」
ざわめく受付ホール。冒険者は情報が命、その情報のあるなしで報酬の多寡や身の安全が決まるといっても過言ではない。
耳聡い者はそこに何かがあるのではと声を潜める。
「あっ、はい。こちらの依頼は確かに現在終了となっています。西支部と東支部に出された依頼に関してはまだ取り下げられていませんので、下水道のスライム討伐とビッグラット討伐をご希望でしたらそちらに向かわれる事をお勧めいたします」
「いや、そうじゃなくてどうして依頼が終わってるのかを聞きたいんだよ。あんなものなくなるような依頼じゃねえだろうがよ」
「そうは申されましても終了したからとしかお答えできません。これはギルド職員立ち合いの下確認した事ですので確かです。
下水道局よりギルド本部に依頼されたスライム討伐とビッグラット討伐依頼は完了いたしました」
そう言い笑顔を浮かべる受付嬢に、引き攣り顔になる見習い冒険者。前世で笑顔は攻撃行動の一種って聞いたことあるけどあの有無を言わさぬ迫力はちょっとマネできる気がしません。
「いや~、流石は王都冒険者ギルド本部、一般冒険者と見習い冒険者を区分けして問題を未然に防ぐ、素晴らしい取り組みかと。
ではまた半年くらい経ちましたらお伺いさせていただきたいと思います」
「ハハハ、確かにそうだな、他の冒険者ギルド支部じゃ見習い冒険者と低級冒険者の問題は未だ解決されちゃいない。
しかし本当にいいのか?ちゃんと冒険者登録をすれば正規の報酬がもらえるし、ウチとしても割のいい依頼を紹介できるんだが。
上の連中もアンタの働きには注目してるんだよ」
「イヤイヤイヤ、その話は本当にご勘弁を。俺、弱いですから、本業の冒険者の方々に絡まれたらひとたまりもありませんので。
それに本業は調薬師ですので。それじゃメイジさん、俺はこれで」
それはどこかで聞いた事のある声音、つい最近別れたばかりの故郷の思い出。
「「「「「ケビン兄ちゃん、なんでこんなところにいるのさ!!」」」」」
「おや?これはマルセル村の誇り、若者軍団の皆さんじゃないですか。そちらこそどうして冒険者ギルドに?」
こちらを向きコテンと首を傾げる人物、それはマルセル村の理不尽ケビンお兄ちゃんその人なのでした。
本日一話目です。