「ん?俺?スライム集めだけど?
いや~、昔ボビー師匠に王都の下水道ってところにはスライムが沢山いて時に下水の流れを詰まらせるって話を聞いた時はそんな大げさなって思ったけど、聞くと見るとじゃ大違い、凄い数のスライムがうじゃうじゃしてるのね、もうびっくり。
それとビッグラットだっけ?あのデカネズミ、やたら繁殖しててさ。中にはグラスウルフくらい大きい個体とかがいるんだもん、あんなの見習い冒険者に狩らせちゃ駄目だよね。
せめて訓練場で確り指導してからじゃないと、普通にケガじゃすまないよ?
それにね・・・」
「イヤイヤイヤ、ちょっと待とう、ケビンお兄ちゃん。ケビンお兄ちゃんはグルゴさんギースさんと一緒にマルセル村に帰ったんじゃなかったの?学園の正門前で別れてから一週間くらい経ってるよね、なんでまだ王都にいるの?
って言うか何不思議そうな顔をしてるのさ、驚いてるのはこっちだっていうのに」
俺の言葉に目を見開いて驚き顔になるケビンお兄ちゃん。一体何だって言うのさ。
「いや~、ジェイク君が凄く立派になったなと思ってつい。子供の成長は早いって言うけど、こう村を出て一人立ちしたって言うか一人前になったって言うか、村のお兄ちゃんとしては感慨深いものがですね。
それでなんで王都にいるのかって話だけど、さっきも言ったけどスライム捕まえてました。ちょっとスライムが大量に必要になってね、マルセル村周辺のスライムはビッグワーム農法に必要だから勝手に捕まえる訳には行かないし、どうしようかと思っていたところで王都の下水道スライムの話を思い出してね。
聞けば指定範囲のスライムだったら全部捕まえていいって言う話だったんでごっそりと。
ビッグマウスはついでと言うか、下水道で作業をしてるとそこら中から出て来てですね。これも駆除対象だって言うんでごっそり狩らせてもらったって訳です」
そう言いどや顔を決めるケビンお兄ちゃん。でもさっきの受付嬢と見習い冒険者の話だと、ギルド本部に入っていた下水道スライムの討伐依頼は全て終了したって話じゃ・・・。
「やい、そこのおっさん、話は聞かせてもらったぞ。俺たち見習いの仕事を奪いやがって、この落とし前どう付けてくれるんだよ、あん?」
俺がこめかみを揉みながらケビンお兄ちゃんと話をしていると、横合いから声を掛ける青年の姿が。
周りからは青年の言葉に賛同するかのように、「そうだそうだ、この落とし前、どう付けてくれるんだ!!」といった罵声が飛んでくる。
「ん?メイジさん、スライム討伐の仕事って見習い冒険者専用の仕事だったんですか?
だったら悪い事をしちゃったのかな?」
「いや、そんな事はないぞ。正規の冒険者でも受けれる、と言うか是非やって欲しい雑用依頼だな。
基本街の雑用は冒険者ランクに関係なく受ける事が出来る。これがいわゆる低級魔物の討伐依頼とかになると話は変わる。
銀級上位やそれ以上の冒険者が銅級や銀級成り立てが受けるような依頼を奪ったら下の者の仕事がなくなっちまうからな。
その辺はギルド側で厳しく指導させてもらっている。
で、スライム討伐の話に戻るが、はっきり言って滞っていた依頼で行政官からもどうにかしろとせかされていた所謂塩漬け依頼だったんだ。
そこの坊主が言うように見習いが率先して行ってくれていたなら、こんな事にはならなかったんだがな~」
おそらくギルド職員であろうメイジさんが呆れ混じりのため息を吐きながら、ケビンお兄ちゃんの言葉に答える。
ケビンお兄ちゃんは青年に向き直るとクイッと肩を竦める仕草を向けた。
「うっ、うるせえ、俺はそのスライム討伐の依頼を受けようと思ってたんだよ。それをお前が奪いやがって」
「えっと、冒険者の仕事は早い者勝ちじゃなかったっけ。君がどう思っていたのかは分からないけど、ちょっと遅かったみたいだね、残念。それじゃこれで」
そう言いその場を離れようとするケビンお兄ちゃん。
「見習いだと思ってバカにしやがって、模擬戦だ!!模擬戦で決着を付けてやる。お前も冒険者だったら逃げんじゃねえぞ!!」
ケビンお兄ちゃんを睨みつけ、ビシッと指を差して宣言する青年。対してケビンお兄ちゃんは・・・。
「断る!!なんで俺がそんな面倒な事をしなくちゃいけないんだ、意味が分からん!!」
両腰に手を当て胸を逸らしながら、ドヤ顔で断りの言葉を向けるのでした。
・・・ですよね~。ケビンお兄ちゃんが空気を読む?無い無い無い。雰囲気に流されない男、それがケビンお兄ちゃん。別に憧れないけど。
「なっ、お前、それでも冒険者か!!模擬戦の申し込みを断るって、お前には冒険者としての矜持はないのか!!」
「ない、と言うか冒険者じゃない!!
俺は薬師ギルド所属の調薬師、暴力は苦手なの!!」
「だったら依頼を出せ~~~!!調薬師がスライム採取なんかしてんじゃね~~~!!」
「いや、だってお前らやらないじゃん。その証拠に下水道スライム討伐が滞ってたじゃん。
現に東支部と西支部の下水道スライム討伐は滞ったままだし?
薬師ギルドの職員が言ってたぞ、癒し草ももう少し丁寧に採取してくれると助かるんだけどって。
見習い受付じゃ癒し草採取の指導や武術指導も行っているんだって?俺に文句言う前にそういったものを受けて知識と経験を積んだら?」
ケビンお兄ちゃん煽る煽る、文句を言ってた青年が少年の様になっちゃってるじゃん、地団駄踏んで頭掻いてるじゃん。
あっ、遂に切れちゃった。
「うわーーー!!」“ビシンッ”
う~わ、殴り掛かろうとして逆にデコピン喰らって悶絶してるし。
メイジさん顔を手で覆ってるし。
「あ~、ケビン、こっちは俺が対処しておくからお前は帰れ。なんかお前がいると余計騒ぎが大きくなりそうで怖い」
「酷い、こんなに真面目な調薬師にその言い方って酷くありません?
まぁいいですけど、後はよろしくお願いします」
ケビンお兄ちゃんはそう言うと、一人見習い専用受付ロビーを離れて行くのでした。
―――――――
「いや~、何かジェイク君たちには悪いことしちゃったね~。折角冒険者ギルドに来てたってのに俺の騒ぎに巻き込んじゃって」
そう言い頭を掻きながら前を行くケビンお兄ちゃん。
冒険者ギルド本部別棟の見習い冒険者専用受付ロビーでケビンお兄ちゃんと再会した俺たちは、見習い用の依頼を受けることなく、ケビンお兄ちゃんの後を追うように街にやって来ていた。
「ハハハハ、まぁあれは仕方が無いと言うか間が悪かったと言うか。俺たちがケビンお兄ちゃんの知り合いだっていうのは周りにばっちり分かっちゃったからね。
あのまま見習いの受付ロビーにいても余計な騒ぎに巻き込まれそうだし、冒険者ギルドにはまた日を改めて行く事にするよ」
地味装備(組み紐)を付けたジミーやフィリーはいいとしても、俺やエミリーはばっちり見られちゃってただろうしね。身体から溢れる魔力の漏れは、ギルド本部本館で見た冒険者たちよりやや低い程度に抑えてあるからそこまで目立ってないと思うけど、警戒するに越したことはないしね。
「う~ん、でもそれじゃちょっとこっちの気が咎めるな~。
そうだ、それだったらちょうどいいから王都の知り合いの家を紹介しておくよ。
ジェイク君たちには何かあったらグロリア辺境伯家王都屋敷やモルガン商会王都支店を頼るように言ってあるけど、王都中央学園に通っている事を考えるとちょっとヤバ過ぎて相談を躊躇しちゃうような事もあると思うんだよね。
そんな時にもの凄く頼りになる御方だから、顔合わせをしておいて損はないと思うんだよね」
ケビンお兄ちゃんは何か凄くいい事を思い付いたといったような顔をして、俺たちをとあるお屋敷へと案内するのでした。
「・・・ケビンお兄ちゃん、ここってお貴族様のお屋敷だよね?それもかなり高位のお貴族様のお宅だと思うのは気のせいじゃないよね?」
連れて来られた場所、そこは貴族街と呼ばれる多くの貴族屋敷が立ち並ぶ一般人は自由に出入りの出来ない場所。
「まぁそうだね。でもみんなは王都中央学園の通行証があるし、俺も許可証を持ってるしね、これから貴族街に来る機会もあるだろうし気にしない気にしない」
そう、貴族街には街を隔てる塀と出入りを見張る門があり、用のない一般平民の出入りを取り締まっている。その通行には各貴族家が発行する通行許可証が必要で、俺たち王都学園生徒は特例として貴族街の出入りが許可されている。
尤も俺たちはグロリア辺境伯家王都屋敷発行の通行許可証を持っているので、別に問題ないんだけど。
ケビンお兄ちゃんに案内されて到着した屋敷は、グロリア辺境伯家王都屋敷に決して引けをとらない立派なお屋敷、その時点で高位貴族のお屋敷であることが窺えます。
ケビンお兄ちゃんはこっちこっちと言いながら俺たちをその屋敷の正門・・・ではなく大きく迂回した裏の使用人通用口の方へと案内するのでした。
「こんにちは、ワイルドウッド調薬店のケビンです」
「おや、ケビンじゃないか。この前は何か大変だったね、旦那様が頭を抱えてたよ。それで今日は大勢様だけどどうしたんだい?」
「ハハハ、その節はどうも。今日はうちの新人を紹介しておこうと思いましてね?旦那様にはいつもお世話になっておりますので」
通用門を守る門兵とにこやかに会話をするケビンお兄ちゃん。
「ねぇ、ジミー、あの門兵」
「あぁ、相当に出来るな。魔力の揺らぎが淀みない。おそらく意識的に抑え込んでるんだろうな、実際は相当な使い手だろうが周りに悟らせない様にしている」
俺たちの会話が聞こえたのだろうエミリーたちも、緊張した面持ちでケビンお兄ちゃんの様子を窺っている。
「お~い、皆行くよ~」
ケビンお兄ちゃんの掛け声に、門兵に会釈をしてから急ぎ後を追い掛ける俺たち。
「これはケビン様、いらっしゃいませ。それと皆様、ようこそお出でくださいました。旦那様がお会いになられるそうです、どうぞこちらへ」
通用門を入るとそこには初老の執事の方が待っており、俺たちは案内されるがままお屋敷へと通されるのでした。
「ではどうぞ、こちらでおくつろぎになってお待ちください」
通されたのは品の良い調度品が並んだ来賓の間のような場所、グロリア辺境伯家のお城やヨークシャー森林国のプラウド侯爵家のお屋敷なんかに行った経験があるからどうにかなってるけど、やっぱりこういった所は緊張すると言うか落ち着きません。
それに・・・。
「ねぇジミー君、このお屋敷の使用人の方たちって」
「あぁ、全員一角の者たちなんだろうな。でもこの感じ、どこかで感じたと言うか、知ってるような・・・」
“ガチャリ”
開かれた扉、先程の執事の方と一緒に部屋に入って来たのは壮年のやや疲れた顔をした男性。
「やぁ、ワイルドウッド男爵、お待たせしたかな?
それと君たちがマルセル村の若者たちだね、王都学園入学おめでとう。我々王都貴族は君たちの入学を心より歓迎するよ」
そう言い笑顔を向けるお貴族様。えっと、この場合はどうしたらいいんでしょうか?
「あぁ、ごめんごめん。この辺の挨拶の礼儀って俺もよく分かってなくてね。紹介するね、こちらハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下、王都諜報組織“影”の総帥、ガーネットさんたちの上司に当たる方だね。
ベルツシュタイン伯爵閣下、ご紹介いたします。
こちらは我が主家に当たりますホーンラビット伯爵家次女、聖女エミリー・ホーンラビットお嬢様。隣がクロー騎士爵家嫡子、勇者ジェイク・クロー。ドラゴンロード男爵家嫡子、剣天ジミー・ドラゴンロード。ソード男爵家次女、賢者フィリー・ソード嬢。同じくソード男爵家長女、聖騎士ディア・ソード嬢。
こちらの四人は王都学園の新入生として、ディアはエミリーお嬢様のメイドとして王都学園に在籍する事となりましたので、ご挨拶いたしたくお伺いさせていただきました」
ケビンお兄ちゃんの紹介に騎士の礼をする俺とジミー、エミリーたちは足を引きカーテシーの格好をします。(スカートじゃないけど)
って言うかケビンお兄ちゃん、何て所に連れて来ちゃってるのさ!!王都諜報組織“影”って要はCIAじゃん、ここってCIA長官のお屋敷じゃん、オーランド王国の超重要施設じゃん!!
「ハハハハ、そっか~、話には聞いていたけど、まさに勇者一行。勇者物語の一節みたいな人物紹介だね。
私はハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵という。ワイルドウッド男爵から紹介のあったように王都諜報組織“影”の総帥をしている、どうぞよろしく。
君たちももっと気楽にしていいよ、我々が君たちを害するような真似はしないから。
ただオーランド王国も一枚岩じゃなくてね、君たちを取り込もう、利用しようとする者たちは多い。
特にジェイク君とエミリー嬢は勇者と聖女、その知名度は計り知れない。王家としては是非国の中枢に参加して欲しいというのが本音かな?
ただそれもね~、剣の勇者や魔法の勇者の話の如く、利用するだけ利用しようという者がそこら中にいるっていうのも否定出来なくてね。そんな事にでもなった日にはオーランド王国最後の日が再びって事になりかねない、それだけは避けなければならない。
だから何かあったらすぐに我々に知らせてください。
なるべく迅速に対処するから。
決してそこの理不尽が動く事の無い様に、これ、本気で頼むよ?
あとワイルドウッド男爵、ヘルザー宰相閣下からそろそろ聖茶の在庫がなくなりそうとの連絡があってね、追加注文を頼めるかい?
出来れば我が家の補充分も欲しいんだけど」
そう言いケビンお兄ちゃんにジト目を向けるベルツシュタイン伯爵閣下。
“““““・・・ケビンお兄ちゃん、王都で一体何をやらかしたのさー!!”””””
ニコニコ笑顔で「ご注文ありがとうございます」と応じるケビンお兄ちゃんに、心の中で盛大なツッコミを入れざるを得ない俺たちなのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora