「えっと、シャロンも昇進したいの?まぁ出来るかどうか試す事は問題ないけど、必ずしも昇進するとは限らないよ?」
“ガクガクガクガク!!”
俺の言葉に首を上下させる白骨ドラゴン、本人に悪気がなくともすごい迫力です。まぁシャロンは御神木様の結界領域に来てからずっとグラスウルフ隊と一緒だったし、仲間だった者たちが進化して自分だけ置いてきぼりみたいな気持ちになっちゃったのかな?
本当にシャロンってばアンデッド魔物とは思えないくらい感情豊かだよな~。やはり元の素材がドラゴンだったってのが大きいのかな?感情豊かなスケルトンってのもあまり聞かないし。
でもジミーのところのシルバリアンみたいな魔物もいるくらいだし、アンデッド魔物と言っても様々って事なんだろうか。
「分かった分かった、それじゃ<長期雇用契約「あの、出来れば私達もお願い出来ないでしょうか?」・・・」
声を掛けて来たのはキメラの二人、オーガベースと亀の甲羅を背負ったワーウルフ。この二体はここに来た当初に比べ体型も大分変ったし、今では言葉使いも確りしてるからてっきり進化してたもんだと思ってたけど、そう言うのと進化はまた違うんだろうか?
考えてみればグラスウルフ隊も目茶苦茶大きくなってたけど、あれは大きくなったってだけで進化とは言わないしな。でもボアは大きくなるとマッドボアって言わないか?あの二種も何か明確な格の違いがあったりするのか?その辺の線引きってどうなってるんだろう、さっぱり分からん。
「えっと、今シャロンにも言ったけど、俺のスキル<魔物の雇用主>による進化はその魔物が進化可能な状態であった場合のみ<昇進>により進化を促す事が出来るものであって、必ずしも進化させる事の出来るものじゃない。その点は理解して欲しい。
まぁ<長期雇用契約>自体お前たちに何か不利益になるようなものじゃないから構わんけど、お前たちはそれでいいのか?
お前たちはブー太郎に忠誠を誓っている様に見えたんだが」
「はい、確かに私たちにはブー太郎様と共に在りたいという思いがあります。ですがそれはケビンさんが嫌というものではありません。
むしろブー太郎様が付き従っているケビンさんの傘下に入ることは、私達の望みでもあります。
私たちは助けられた身ですので図々しいお願いだとは思いますが、どうか私たちも皆さんのお仲間にお加えください!!」
そう言い頭を下げるキメラの二人。空気を読んでかシャロンも一緒に頭を下げます。
って言うかデカイから、それって頭下げてるんじゃなくて攻撃だから、俺じゃなかったら潰されて死んでるから!!
「あ~、うん、分かった分かった。それじゃ早速<長期雇用契約>をしてみようか」
俺はそれぞれの額に手を翳し、<長期雇用契約>を行うのでした。これで条件が満たされていれば通知が来ると思うんだけど。
“キンコン♪
<昇進>の条件を達成した魔物が三体確認されました。昇進を行いますか?”
自己診断
<魔物の雇用主>
現在の契約魔物・・・<長期雇用契約>六十体・<短期雇用契約>三体
昇進可能魔物
シャロン(スケルトンドラゴン)・名無し(人造キメラ)・名無し(人造キメラ)
「なぁブー太郎、ちょっと気になってたんだけどさ、お前ってこの二人に名前とか付けなかったの?従業員として一年以上一緒に暮らして来たんだよね?」(ジト~)
「えっ、いや、普通魔物は自分たちに名前なんか付けませんからね?簡易的な呼び名はあっても名前ってないですから。
俺だってケビンさんに名付けてもらうまでは“木の実拾い”って呼ばれてただけだし、去年ケビンさんがオークの森で拾ったオークのおっちゃんも、“石工のおっちゃん”とか単に“石工”って呼ばれてるだけでしたから」
慌てて取り繕うブー太郎、まぁ普通はそうだわな。現にグラスウルフ隊はそれぞれの個体名なんか付けてなかったしね。
でも白骨ドラゴンにはシャロンって名前を付けてたんだよな~。ブー太郎の奴、よっぽどペットが欲しかったんだな、その気持ちは分からんでもないけど。
「それじゃその二人にはブー太郎が名前を付けてあげてくれる?どうも名付けって行為は互いに強い縁を結ぶものみたいなんだよね。
だったらそれを行うのは俺じゃなくてブー太郎が筋ってもんじゃん?二人共ブー太郎と共に在りたいと思ってるみたいだし」
俺の言葉に動揺の隠せないブー太郎。ブー太郎、腹を括れ。もうその二人は確りお前の家族なんだよ、めっちゃ期待の籠った瞳でお前の事見てるじゃん。
何かブー太郎さんが頭を抱えて悩んでいらっしゃるので、俺はその間にシャロンの<昇進>準備をば。
「ケビン、ちょっといいか」
声を掛けて来たのはいつの間に来られていたのか、御神木様(分体)でした。いつの間にかも何もここは御神木様の結界領域、初めっからお気付きになられていたんでしょうけどね。
「どうなさったんです御神木様?」
「うむ、実はシャロンの事なんだが・・・」
御神木様の話によると、以前からシャロンに相談を受けていたとの事。曰くみんなと一緒に飲んだり食べたりわいわい騒ぎたいんだとか。
まぁシャロンってば白骨ドラゴンだし、飲み食いなんて出来ないし、やれてレイスなんかが行うライフドレインが精々なんじゃないかな~。
「それで我の眷属になる事でそうした事の出来る身体になれないかといった話があったんだが、ただ眷属にしただけでは今の状態と大差ないという事で断念した事があった。
だがケビンが<昇進>による進化を行うというのであればあるいはと思ってな」
それは提案、ただのキャタピラーであった紬が食いしん坊精霊女王に進化したように、骨っ子ドラゴンのシャロンも想像を超える進化を果たす可能性があるのではといった話。
「・・・それ、やってみましょうか?」
示された未知の可能性、そんな仮性心を擽るワクワクするような事、止められない止まらないじゃないですか!!
「ケビンさん、名前が決まりました。オーガ要素の強い方が“ダリア”、ウルフ要素の強い方が“ジャスパー”です。
二人とも気に入ってくれたみたいで良かったですよ、あ~疲れた」
そう言いくたっとするブー太郎。あれは大分魔力を持って行かれたんだろうな~、ある程度の強さを持つモノに名前を付ける行為って結構な魔力を使うし。
世界樹様に頼まれて名前を付けた時なんか死ぬかと思ったもんな、何でもホイホイ引き受けちゃ駄目って事ですね、はい。
「よし、それじゃ先にダリアとジャスパーの進化を行っちゃうからこっちに来てくれる?一度<シェルター>で周りを囲っちゃうから」
俺は二人を呼び寄せると生活魔法<シェルター>を展開、進化の際の発光が周りに漏れないようにしてから<昇進>を行うのでした。
「さて、もういいかな?<破砕>」
ある程度待ってから土のドームを<破砕>で壊す。崩れ去ったドームから現れたのは二体の魔物。
「「・・・誰?」」
スラリとしながら引き締まった肉体、肌は赤み掛かっているものの出るところは出て引っ込むところは引っ込むといった女性ならではの肉体美がそこにはあった。
ややつり上がった強気な瞳はブー太郎を見るや優しさを浮かべ、深紅の髪からのぞく二本の角はその者の意志の強さを表している様であった。
「はい、ダリアでございます。進化とは、ここまで素晴らしいものだったんですね、今までどこか存在が不安定で希薄であった私でしたが、今はダリアという個としての存在と言いますか、まるで生まれ変わったかのようで凄くしっくりくるんです。
ブー太郎様、ケビン様、これからもよろしくお願いします」
そう言いニコリと微笑むダリアの姿は、戦いの女神と称しても良いくらいの美しいものであった。
「うむ、確かにこの進化というものは素晴らしい。これまでどこか
いや、実際に生まれ変わったのだろう、新たな存在ジャスパーとして」
それは鎧姿の戦士、暗黒大陸に住む獣狼族の戦士が鎧に身を包んだ姿と言えばいいのか、頭部の三角耳と腰に揺れる尻尾が、彼が普人族ではないという事を教えてくれている。
「「イヤイヤイヤ、亀の甲羅は何処に行っちゃったの?その鎧って体の一部なの?意味が解んないんだけど?」」
キメラのジャスパーは進化したら獣狼族のイケメン戦士になっちゃいました。うん、意味が分からん。
ワーウルフ体型だったよね?ウルフ要素がガッツリ削られちゃってるんですけど?亀要素が鎧って、触手はどこ行った~~~!!
やっぱり魔物の進化って訳が分からないっす。
「あ~、うん。取り敢えず二人は軽く身体でも動かしてってダリアは服が合わないか。ブー太郎、紬に来て貰って二人の服を作ってもらってくれる?
ジャスパーのその鎧って脱げるの?消せるんだ。マジで亀要素どこに行ったし。取り敢えず二人の事はブー太郎に任せた、なんか食べさせてあげてくれ。おそらく物凄く腹が空いてるだろうから」
未だ自身の変化に戸惑うダリアとジャスパーの事はブー太郎に丸投げ、俺はさっきから順番待ちでソワソワしているシャロンの進化に取り掛かるのだった。
「それじゃ御神木様、お願いします」
「うむ、承知した」
“キンコン♪
<長期雇用>対象、個体名:御神木様より<長期雇用>対象、個体名:シャロンに対し、<精霊契約>の申請がなされました。申請を許可なさいますか?”
「うん、ちゃんと申請が来ましたね。それじゃシャロン、広場の真ん中に座ってくれる?<防護城壁:ドーム>」
“ゴゴゴゴゴゴゴゴッ”
作り出されるは分厚い壁に覆われた石造りのドーム。だって白骨ドラゴンの進化ですよ、しかも精霊契約付きですよ?絶対ヤバい奴じゃん、シェルター如き軽く突破しそうじゃん、失明必至じゃん。
備えあれば患いなし、ケビン、学習しました。
「それじゃ行くよ~。<対象:シャロン・昇進>」
始まる進化、多分ドームの中は光の洪水で凄い事になってるんだろうな~。紬の時は繭が出来てたんだけど、シャロンの場合はどうなんだ?
墓地が出来ていて土の中から這い出てきたら怖いんだけど。
「それじゃドームを壊しますね、<破砕>」
待つこと暫し、<業務連絡>でシャロンにどうなっているのかを聞くも返答無し。しようがないのでドームを壊して中を見て見る事にしたんですが。
「・・・卵ですね」
「卵だな。だが大きいな、マルセル村にいるエッガードはもう少し小さくなかったか?あっちがドラゴンの卵としての平均なら、シャロンは卵の殻に覆われただけの別物と考えた方がいいんじゃないのか?
例えば紬の時の繭みたいなものであるとか」
御神木様の言葉に納得顔になる一同。あの時はブー太郎や熊親子もいたんだよな~、なんか懐かしい。
「シャロン、ちゃんとモノが食べれる身体になりますかね?」
「どうだろうか、少なくとも肉体の変化はあるであろう。でなければこの卵の説明がつかんしな」
俺と御神木様はシャロンが無事食べ物を食べる事の出来る肉体を手に入れられる事を祈りつつ、卵から孵ったときの為に大皿一杯の茹でヒカリゴケ(ドラゴンの塒産)や御神木様の葉っぱサラダを用意するのでした。
ブー太郎の連絡により駆け付けた紬がダリアとジャスパーの作業着(白シャツにオーバーオール)と布製の靴を作り上げた頃、その変化は現れました。
“コツコツ、コツコツコツコツ”
卵の中から殻を
“ピシッ、ピシピシピシピシッ”
ひび割れ、大きく亀裂の入る巨大卵、そして・・・。
“バリッ、キュワーーーーーーー!!”
ほっそりとした白い腕、濡れぼそった長く白い髪、未だ成熟し切っていないといった若い身体、頭部にはドラゴンの頭蓋骨を模したような骨の被り物を被った美しい少女。
「“お腹減った~”ってそれって紬とまる被りだから、発想が一緒だから。
って言うかなんで美少女?ドラゴン要素って頭の被り物だけじゃん、口元人間じゃん。
まぁいいや、食事は用意してあるから気の済むまで確り食べな、細かい話はお腹が落ち着いてから聞くから」
俺の言葉にテーブルに並べられた大皿に駆け寄るシャロン。マッパの白肌美少女が大皿にがっつく光景、スゲーシュール。
「紬、シャロンにツナギを作ってあげて、あと靴も。前に紬が作ったケビン建設のツナギと同じ感じでいいから。
ブー太郎、やったね、娘が出来たぞ」
「ダ~、俺まだ独身ですから、嫁さんもいませんから、“キュイーーー”
シャロンも一緒になって“パパーー”って呼ぶな~~~~!!」
風が流れる、草木がそよぐ。木々の細枝には春の訪れを知らせる若葉が、小さく顔をのぞかせる。
魔の森の最奥にそっと隠された御神木様の聖域、その中では今日も魔物たちが楽し気に騒ぎ、穏やかな日常を送っているのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora