転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第58話 転生勇者、森の悪魔を狩る

「お母さん、いってきま~す」

マリアお母さんに元気よく声を掛け家を出る。

 

「エミリー、準備出来た~?」

向かった先は隣の家のエミリーの所、大きな声での呼び掛けは田舎暮らしの常識だ。

でもケビンお兄ちゃんと何時も一緒にいるケイトさんは“ん。”しか言わないんだけど、ケビンお兄ちゃんはどうしてケイトさんが訪ねて来た事が分かるんだろう?聞いても全部“魔力が~”で説明されそう、スーパー勇者病患者は何でもアリだからな~。

こないだトーマスお父さんにそんな話をしたら、“お父さんが魔法の言葉を教えてあげよう。何か理不尽に悩んだらこう呟くんだ、<ケビンだし仕方がない。>これで大体どうにかなる”って教えてくれた。やっぱり大人の人は経験が違う、難しい問題は棚上げ、良いと思います。

 

「ジェイク君、ちょっと待って。お母さん、いってきま~す」

俺の呼び掛けに、エミリーが扉を開けて顔を出す。彼女は家の中のミランダおばさんに元気よく声を掛ける。

 

「エミリー、気を付けるのよ。いくらあなた達が強いからって相手は魔物なんですからね、なにがあるか分からないんだから、ちゃんとボビーさんの言う事を聞くんですよ」

エミリーの声にそう言葉を返すミランダおばさん、やはり娘の事を心配しない親はいないと言う事なのだろう。でもおばさん、お宅のエミリーさんはそんな恐ろしい魔物を撲殺する“殲滅姫”ですからね、心配すべきなのは森のホーンラビットが絶滅するかどうかですから。

 

「もう、分かってるってば、いってきま~す」

 

「二人とも気を付けるんですよ、頑張ってね~」

玄関先に出て手を振るミランダおばさんに手を振り返しボビー師匠の下に向かう俺たち。そう、今日は何時もの訓練とは違う、久々の実戦、ウズウズするなと言う方が難しい。

待ってろよ、ホーンラビット、ズダンズダンのギッタンギッタンだー!

やる気は十分、気合いも十分。子供たちはいよいよ始まった狩りの季節に獰猛な笑みを浮かべながら大人達が待つ集合場所へと向かうのでした。

 

「ジェイク君にエミリーちゃん、早かったね。お、二人とも新しい木刀持参かい?気合い十分じゃないか」

声を掛けて来てくれたのは最近お世話になっているグルゴさん。グルゴさんが教えてくれる対人戦闘のやり方は凄く勉強になる。

これ迄の大福との戦闘ではチームとしての戦略や戦術を考えて来たけど、対人戦は戦闘でありながらその本質は心理戦であり対話。冬場の訓練で村の大人の人達と多くの剣を交えたけど、そこまで考えてヨシ棒を振ったりしてこなかったからな~。

ほとんど反射的に受けたりかわしたりしてた、俺もすっかり脳筋戦士になっていたみたいだ。

 

その点グルゴさんの教えを取り入れた戦い方は何て言うか知的?心の中の男の子の部分が疼くよね。敵を倒した後に“フッ”とかやりたい。こんな事言ったらジミーに馬鹿にされそうだけど、ヘンリーおじさんなら分かってくれると思います。

何かヘンリーおじさんからは同類の匂いがするんだよな~。

今度おじさんの冒険者時代の武器コレクションを見せて貰う約束もしているし、春の作付け作業が終わるのが楽しみです。

 

「皆さん、お忙しい中お集まり頂いてありがとうございます。本日のホーンラビット討伐は普段の間引き討伐とは色合いの異なるものとなります。詳しくはこれからケビン君から説明がありますので、よく話を聞いて下さい」

 

集まった村人達に声を掛けるドレイク村長代理、ホーンラビット討伐って聞いていたから何時もの狩りだと思っていたら、どうも違っていたらしい。

詳しい説明の為に続いて前に出たケビンお兄ちゃんが、何時もの飄々とした調子で話を引き継いだ。

 

「皆さん、作付け作業がお忙しい中お集まり頂きありがとうございます。季節もかなり暖かくなり、魔物達も活発に動き出し始めました。ホーンラビット達も冬眠から目覚め、下草の新芽を食べる事に忙しくしている事でしょう。

この時期は多くの肉食魔物が冬眠から目覚め獲物を探して動き回ります、その為ホーンラビット達の警戒心が最も高い季節とも言えます。ですので今回は通常の狩りは行いません。

 

森の方には今朝方僕が赴いて予め睡眠香を撒いておきました。皆さんには眠りについているホーンラビットの角を切り落としてこの軟膏を傷口に塗り着けてから本体と角を回収して貰います。目標は五十体、一人三体も捕まえて貰えれば結構です。

ただし先程も言った様に肉食の魔物が活発に動き出す季節でもあり森では何が起きるか分かりません、十分に周囲に気を配って行動してください」

 

えっと、狩りは?血沸き肉踊る戦闘は?ケビンお兄ちゃんの説明に自分が抱いていた想定が狂い混乱する俺、そんな俺の肩をポンポンと叩くのはグルゴさんでした。

 

「あ~、ジェイク君、もしかしなくても所謂討伐との想定の差に混乱していると言ったところかな?エミリーちゃんやジミー君も多かれ少なかれそんな感じだね。

でもね、ケビン君の言ってる事は至極まっとうで、冒険者としては正しい姿なんだよ。最もその事が分かっていない冒険者の方が圧倒的に多いんだけどね。

彼の発想はどちらかと言えば狩人や軍人のそれに近いのかな。彼等にとって討伐とは仕事であり作業、如何に安全かつ効率的に目的を果たすか、それだけなんだよ。そこに武勇や憧れは不要、逆に邪魔でもあるんだ。

戦場において最も優れた指揮官がどう言った人物か君たちには分かるかな?」

俺たちの方をゆっくり見回すグルゴさん、ただ強い事が優れた指揮官の条件ではないと言う事なのだろうけど。

 

「作戦を成功させる指揮官ですか?」

ジミーの答えにグルゴさんは優しく微笑み、俺たちに答えを教えてくれた。

 

「確かに当初の目的を果たすのは素晴らしい事だ。どの様な犠牲を払おうとも目的を達成する者は称賛されるかも知れない。

しかしその為に犠牲になる者からしたら堪ったものではないんじゃないかな?」

グルゴさんの問い掛けに俺は何も答えられなかった。相手は普段討伐しているホーンラビットだからと気が緩んでいた事に今更ながら気付かされた。

 

魔物を討伐しました、だが被害は甚大です、その勝利に酔いしれ失った戦友を悼む英雄達。確かに彼等は救われた民にとっては英雄だろう、だがその為に失われた命にとって彼等は英雄なのだろうか。グルゴさんはこう言っているのだ“そんなものは無能者の戯れ言だ”と。

 

「ケビン君の戦闘に激闘と言う言葉は無いんだよ。彼にとって魔物は駆除するものと収穫するもの、あとは関わり合いにならない様にするものかな。

無理無茶無謀とは無縁なのがケビン君であり彼の信条、彼が指揮官であればその部隊から犠牲が出る事はあり得ないだろうね。

私が思う最も優れた指揮官とは部下の犠牲を出さない彼の様な人物の事なんだよ。最終的な戦果はそうした者の方が圧倒的に高いんだ、何せ部下が皆生き残っているんだからね」

そう言いウインクをするグルゴさんからは、どこか寂しそうな雰囲気が漂っているのでした。

 

――――――――――――――

 

ホーンラビット達が冬の眠りから目覚め始めた。ボアやマッドボアと言った森の魔物達も獲物を求めて彷徨(うろつ)き始める、本格的な活動期が始まった証拠であろう。毎年の事ではあるものの、ここが辺境の地であると言う事を改めて思い知らされる。

そんな生命力溢れる森の中を煙玉片手に走り回る者が一人。自らを最弱と位置付け何者にも悟らせず行動する者、ケビン少年その人である。

 

しかしホーンラビットの繁殖力って本当に半端ないのね。毎年あれだけ間引きしているにも関わらず春先になると元気に顔を見せるんだよね。

この時期きちんと間引いておかないと爆発的に増えたりするからな~、凄い厄介。まぁ、この時期はどこの村でもホーンラビット討伐を行っているって以前行商人様も仰ってたし、作付け作業も終わらないのにそんな命懸けな事をさせられる村人って、悲惨以外の何者でもないよね。

 

街に近い村とかなら冒険者に依頼するって手もあるらしいけど、こんな田舎に現役冒険者なんていないしね。冒険者ギルドもなく買い取り先もないんじゃ仕事にならないんだから仕方がないんですが。村長代理がその辺の代行を行えばワンチャンあり?いや、こんな辺境に来る冒険者なんてろくでもないだろうから無しだな、うん。

俺たちが守ってやるとか言いながら好き勝手する冒険者の話しは行商人様やドレイク村長代理から散々聞かされたからな~、あの人達余程嫌な目にあったからか話が長い長い。

管理されてない暴力集団、ダメ、絶対ですっての。

 

そんで今日はホーンラビットの捕縛ですね、ホーンラビット牧場本格始動です。

当初管理人にはザルバさんを当てるつもりだったんだけど、村の管理の仕事が増えちゃいましてね。ザルバさん、ドレイク村長代理と新たに村長代理の下で働くようになったジェラルドさんと共にあくせく走り回っております。

 

何でもビッグワーム干し肉の生産工場を作って本格的な出荷体制を整えるとかなんとか。

ちょっと待とう、また俺に仕事を回す気じゃないだろうな。流石にちゃんとした職人に頼んで欲しいんだけど?

最果てに来るような職人なんていないって今まではどうしていたのさ。頑張ってみんなで作った?凄いな辺境の村人、何でも出来るのね。

 

開村当初は街で職人を募って建物建設を依頼したとか、その後は修繕を繰り返して誤魔化し誤魔化し使って来たらしい。

住民が増えて皆で作ることもあったがそこは素人仕事、粗が出まくって大変だったとの事、ゴルド村の様に建物全体が揃った村の方が珍しいとの事だった。

あそこは村長が元石工だからな~、うちの村の建築もやってくれないだろうか。今の時期は忙しくて無理、そうですか、分かりました。

 

そんなこんなで忙しいザルバさん達に代わりウサギさんの飼育係に任命されたのがグルゴさん。まぁ彼はケビン農場の手伝いですからね、手が空いてると言えば空いてましたし。

でもそうなるとアナお婆さんの抑えが、なんか最近“私にも何かやらせろ”って顔をしてウズウズしてるんですよね。隠れ住む虐げられし民の危機意識はどこに行った、楽しそうなのは良い事なんですが。その辺も今後何か考えないといけないって言うね、何で次から次へと。

 

「ハイ皆さん集まって下さい。ホーンラビットの収穫に行きますよ~。危険なホーンラビットは予め眠らせてございますのでご安心下さい」

今回使用した睡眠香は以前使った物の改良版、使用時に臭い匂いが発生する優れものです。発想は都市ガスにわざわざ玉ねぎの臭いを付けたり電気自動車にモーター駆動音を後付けするのと同じ、睡眠香が使われてますよと周囲に知らせる為の工夫ですね。

 

だって悪用されたら大変じゃん?悪い奴は何処にでもいるのよ?秘密なんて暴かれる為にあるのよ?

でもこの臭いが強烈で、ホーンラビットが眠っているのか臭いに気絶しているのかってレベル。

やっぱりゴブリンの腰巻きは最強ですね。睡眠効果もその場でずっと吸ってなければ問題ない事は検証済みなんで、臭いがしたら逃げれば大丈夫。それって魔物を眠らせる目的としてはどうなのとか言われそうだけど、安全第一ですのでその辺は諦めて頂く方向性で。

 

俺が朝早く森に睡眠香をばら撒いて来たのも主な理由が臭いからって言うね。まぁ作業が早く進むのは良い事です。

予定通りに森のホーンラビットたちは皆さん気持ちよく眠っておられます。泡を吹いて苦悶の表情をしている?さぁ、何の事でしょうか。

ほら皆さん手を止めない、森は危険なんですよ、早く作業を終わらせますよ。

そうしててきぱきと働く事数刻、必要数のホーンラビット(角処理済み)を手にする事が出来ました。

 

「ねぇ、ケビン君、その大きなボアはどうしたのかな?」

こちらの方を向き驚きの顔をするドレイク村長代理。ホーンラビットを獲りに来たのにボアがいたらそりゃ驚きますよね。

 

「いや~、なんか倒れてたので仕留めておきました。流石にこの場での血抜きは危険なんでやってませんが帰ったら皆で分けましょう」

 

「ほう、ケビン君の睡眠香はボアにも有効って事か、中々素晴らしい。それでその後ろの黒い塊は何かな?」

 

「あ、これですか?なんか犬がいたんで拾って来ました。僕前から犬を飼うのが夢だったんですよね。やっぱり牧場と言ったら牧羊犬ですよ、羊じゃなくてホーンラビットなんですが、敷地の周りを護らせるのに犬は最適ですから」

 

そう言いにこやかに“犬”を撫でるケビン少年、そしてそんなケビン少年を前に大人しくされるがままになる黒い体毛をした“犬”。一見何処にでもある様な微笑ましい光景。

だがその様子を見て村の大人たちは思った。

“それ犬じゃなくてブラックウルフの若い個体だから、魔物だから!”

 

何故か授けの儀の前であるにも関わらず数多くの魔物を手懐けるケビン少年、勇者病<仮性>の彼は一体何処を目指していると言うのか。

ケビン少年の無軌道振りに、頭を抱える村の大人たちなのでありました。




本日二話目です。
月曜日だ~。早くもだるいとか言ってる方、まだまだこれからだぞ!
もう直ぐスギの花粉症も終わるんだ、頑張ろう。
ヒノキが始まる?
・・・ドンマイ。
いってらっしゃい。
by@aozora
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