転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第580話 悪役令嬢、入学式に臨む

夜が明ける。窓から差し込む日の光が、一日の始まりを嫌が応にも教えてくれる。

 

「ハァ~、遂にこの日が来てしまいましたわ。結局運命は変えられないということなのかしら」

 

爽やかとは言い難い朝の目覚め、こんな事なら前世の記憶など思い出さなければよかったと何度思った事か、だが思い出してしまったものは仕方がない。

置かれた立場、この先迎えるであろう運命の歯車。

努力はしたのだ、ただ漫然と状況を受け入れる事などせず、出来る事を一つずつ。

 

初めてその違和感に気が付いたのは三年前、お父様に連れられ王家主催の夜会に参加した日の事。初めてお会いしたゾルバ国王陛下、でも以前どこかでお会いしたかのように感じられるその横顔。

アルデンティア第四王子殿下の婚約者候補に選ばれた時は、珍しくお父様よりお褒めの言葉をいただいた。だが自身の中には喜びよりも不安な気持ちが膨らんでいく。

アルデンティア第四王子殿下というお名前、知っていて当然であるはずの知識が、何故か喉の奥に引っ掛かる。

 

自室に戻り鏡を見る。強気なややつり上がった目元、意志の強そうな薄い唇。アルデンティア第四王子殿下の婚約者、バルーセン公爵家の六女ラビアナ・バルーセン。

 

“!?”

突然繋がる記憶の欠片、それは画面の向こうに映る未来の自身の姿。

断罪され、父親であるバルーセン公爵に見捨てられ、失意のうちに儚くなる自分。

その死にざまは様々、暗殺者ギルドの人間に口封じのために殺される、バルカン帝国の諜報員に利用するだけ利用され、やはり口封じに殺される。王都を追放され自領の田舎に向かう馬車が盗賊に襲われ殺される、国外追放を言い渡され、バルカン帝国に向かう途中何者かに襲われ殺される。

年の離れた国内貴族に嫁がされてもてあそばれた挙句死んでいくといったものもあったか。

 

死亡が約束された未来、ゲームの中の悪役である自分は、全ての人々の悪感情を一身に受け罵声と嘲笑の中死んでいく運命を背負わされていた。

 

これは所謂前世の記憶、今を生きる私に齎されたメッセージ。

ならば抗おう、最悪の結末を回避するために。

 

王家との婚姻を破棄する事は論外、今はまだ婚約者候補、しかも相手は第四王子殿下。王妃教育のような難しい枷は無く品行方正である事が求められるのみ。

家の為、己の為、公爵家の駒として、王家との橋渡しとして。

この三年間、出来る事は全部やって来た。

 

「でもお父様が戦死なさるだなんて、そんな展開、ゲームにはなかったのだけれど」

ゲームには語られない学園入学前の出来事、ダイソン公国とオーランド王国貴族軍との戦い。第四王子殿下は自身が従軍できない事を酷く憤っておられた。戦地に赴き逆賊デギン・ダイソンをその手で討ち取ると常々仰られていた。

自ら戦地に赴き全体の指揮を執るお父様を手放しに褒め称えておられた。

でも結果は貴族軍の惨敗、お父様は多くの将兵と共に儚くなられ、最終的にダイソン公国とオーランド王国は不可侵の関係を結ぶ事で終戦を迎えた。

 

終戦から一年、第四王子殿下と自身との関係は酷く冷めたものになっている。公爵家を継いだ年の離れた兄オルセナ・フォン・バルーセン公爵は第二王子に与し何やら画策していたようであったが、今では国王派の貴族として各貴族家をまとめ上げている。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。お嬢様、御当主様がお呼びです」

「兄上様が?分かりました、直ぐに向かいますと伝えなさい」

 

「畏まりました」

扉越しのメイドの言葉に大きくため息を吐く。ゲーム開始前に互いの関係性を強固にする事で最悪の事態を回避する、その計画は瓦解したとみていいだろう。

であればどうするか、幸いと言っていいのか王家との関係を推し進めていた父セオドア・フォン・バルーセンは戦死した。兄オルセナ・フォン・バルーセンは血縁による関係強化にそこまで固執していない。

いや、以前の兄オルセナであれば父セオドア以上に第四王子との婚姻を望んだかもしれない。

だが一体何があったのか、昨年四か月ほどバルーセン公爵領の本邸に戻っている最中に兄は別人のように変わってしまった。

ダイソン公国との終戦、その後の復興と大貴族の長として思うところがあったのか、誰恥じる事の無い公爵家当主になられていた。

 

「失礼いたします。ラビアナ、御当主様のお呼びにより参りました」

「うむ、入れ」

迎え入れられた先は公爵家当主執務室。兄オルセナは何やら難しい顔で書状のようなものに目を通している。

 

「ラビアナ、分かっているとは思うが王都学園には第四王子アルデンティア殿下をはじめ、第五王女フレアリーズ殿下他多くの貴族諸侯の令息令嬢が通われている。

我が家は公爵家、オーランド王国貴族の長であり王家に次ぐ地位でもある。だが決して慢心する事なく勉学に励め。

 

今オーランド王国の貴族社会は大きく揺らいでいる。理由は無論先の戦争で多くの貴族家当主が英霊となられたことにある。

だがこれはある意味オーランド王国が今一度王家を中心としてまとまる機会でもある。

学園ではアルデンティア第四王子殿下、フレアリーズ第五王女殿下の支えとなるように努めよ」

 

「はい、バルーセン公爵家の名に恥じぬ様、精一杯努めてまいります」

私の返事に満足そうに頷く兄オルセナ。

 

「ラビアナ、お前は本当によく出来た娘だ。貴族令嬢としてお前ほど優秀なものはいないであろう。

だが気負い過ぎるな、無理をする事はない。あるがままを受け入れればまた見えて来るものもあるだろう」

そう言うオルセナお兄様の目は、優しく慈愛に満ちていた。

・・・あれ?オルセナお兄様ってこんな人だったっけ?以前はもっと野心的な人を人とは思わない様な性格だった様な。

ゲームでは語られないと言うか、登場しない人物だったから事前情報はないけど、ラビアナの家族関係って案外まともだったの?

イヤイヤイヤ、それにしては悪役令嬢のラビアナは無茶苦茶やってたような・・・。

 

「それとこれはハッキリと言っておかなければならないな。

ラビアナは現在アルデンティア第四王子殿下の婚約者候補ではあっても婚約者ではない、これは先の戦争の影響で婚約が正式に決定しなかった事に起因する。

そして現在の国内情勢の関係上これ以上我がバルーセン公爵家が力を持つ事は王家にとって不利益になりかねないと考えている。

ゾルバ国王陛下は現状を鑑み、アルデンティア第四王子殿下の婚約者は殿下が学園を卒業するのに合わせ発表する事とした。

 

ラビアナ、もしお前が望むのなら我は兄としてバルーセン公爵家当主として全力でラビアナを応援しよう。

だが未だその心が決まっていないのであれば、学園での生活で確りと将来を考えなさい。

ラビアナの人生はラビアナだけのものだ。後悔だけはするなよ?これは兄として贈る唯一の助言だ」

 

・・・えっ?あの、あなたは誰ですか?

なんか行き成り理想のお兄様が現れたんですけど?歳の差が開き過ぎているからお兄様と言うよりお父様にしか見えませんが、お父様とお呼びしても?

確かお兄様の御長男様は既に旅立ちの儀を終えられてましたわよね?次男様は学園の二年生だったかしら?

あら、それじゃ先輩ですわね、これからお世話になる身、叔母としてご挨拶をしなければ。

 

私は本当に自身の事で一杯一杯であった事、周りが何も見えていなかった事に気付かされた。

やるべきことは全てやったなどとどの口が言うのか、もっとも大事な家族との関係をないがしろにして。

もっとも兄の家族とは共に過ごす機会も無かったのだから致し方のない事ではあったのだが。

 

「ご助言、ありがとうございます。お陰様で心の中の不安が晴れて行くようでございます。

ラビアナ・バルーセン、お言葉に従い今一度自分に何が出来るのかを考えてみたいと思います。

本日の入学式、よろしくお願いします」

 

私はラビアナ・バルーセン。冒険RPG「ソードオブファンタジー」を基にした乙女ゲーム「蒼天の花嫁」に登場し、ヒロインである聖女の前に立ちはだかる悪役令嬢。

でも今その枷は外された、私はただの貴族令嬢ラビアナ・バルーセン。

“折角の転生、推しのスチルでも追掛けようかしら?

あぁ、この世界にはカメラは無かったのよ、誰かカメラを作って~!!”

 

私はこの三年間背負い続けてきた重圧から解放され、晴れやかな気持ちで王都学園へと向かう準備をするのでした。

 

――――――――――

 

今朝の王都学園はとても活気に溢れている。それもその筈、今日は新入生の入学式、多くの貴族、多くの生徒が集まる大切な日。

かく言う私も新しい生活の第一歩を踏み出すのだが。

そんな思いで通勤し、職場である学園の教務棟へと向かう途中、私は奇妙な女子生徒と知り合う事となった。

 

「そこの君、こんな林の中に隠れて一体何をしているのかな?」

その女子生徒は林の低木に身を隠し、まるで獲物を狙う狩人のようにジッと気配を消していた。

 

「シーーー、声を出さないでください。と言うか身を屈めてください、早く!!」

女子生徒の気迫に押され、思わず身を屈める。すると暫く後どこかソワソワした様子の新入生らしき女子生徒が、周りを見回しながらやって来るのが見えた。

 

「そこの君、如何したんだいこんな所で?何か探し者でもしてるのかな?」

声を掛けたのは向かい側からやって来た男子生徒。

 

「あの、私、こんなに立派な場所に来たの初めてで。その、色々見廻っているうちに迷ってしまって。

入学式の行われる会場って、ここを真っ直ぐ行けばいいんですよね?」

何処か自信無さげに上目使いで質問する女子生徒、そんな彼女の態度に若干訝しむもクスリと笑みを浮かべる男子生徒。

 

「えっと、君は今年の新入学生かな?何か上級職を授かっての入学とか」

「はい、えっと私、<聖女>の職を授かって。本当は学園なんか通えるほど裕福じゃなかったんですけど、通える事になって。

あっ、すみません、申し遅れました。私は今年王都学園に入学する事になりましたアリス・ブレイクと申します」

 

慌てて頭を下げる彼女にどこか優し気な眼差しを向ける男子生徒。

 

「落ち着いて、アリス。僕は上級生でもなんでもないから。君と同じ新入学生だよ。入学式の会場に向かうんだったらこっちじゃないよ、ここは教務棟のある場所だからね。

僕は魔法講師のシルビーナ先生を尋ねようと思ったんだけど、どうやらすれ違いになってしまった様でね。よかったら一緒に会場に向かわないかい?どうせ行先は一緒なんだ」

「えっ、いいんですか?

ありがとうございます、本当に助かります!!」

 

女子生徒は花の咲いた様な笑顔を浮かべ男子生徒に感謝の言葉を向ける。

そして楽し気に話をしながら去って行く美男美女。

・・・えっと、私は一体何を見せられたのでしょう。

テンプレか?コテコテのテンプレなのか?十六夜が大好きな学園ものの恋愛小説の導入部分なのでしょうか?

 

“ガサゴソ”

「ふ~、堪能しましたわ。やはり学園とはこうでなければいけません。

そこのあなた、巻き込んでしまいましたわね、ごめんなさい。

では私はこれで失礼いたしますわ」

 

立ち上がり美しいカーテシーを決めるやその場を後にする女子生徒。

・・・王都中央学園の生徒、濃過ぎませんか?

私ビーン・ネイチャーマン、これからの講師生活を無事に勤め上げる事が出来るのでしょうか?

楽し気にその場を離れて行く女子生徒の背中を見詰め、一抹の不安を覚えるケビン・ワイルドウッド(隠密任務中)なのでありました。

 




本日二話目です。
クリスマスイブだ~~!!
いってらっしゃい。
by@aozora
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