オーランド王国王都バルセンに存在する三つの学園、その中で最も古く格式のある学び舎、王都学園。
そこは王族、公爵家、侯爵家、伯爵家という国の上澄みたる高貴なる身分の令息令嬢が共に学ばれる特別な場所。そしてそこにはオーランド王国中から聖女・賢者・剣聖といった上位職を授かった者たちが集められ、共に学び研鑽を積む事で互いを理解し交流を持つ出会いの場所。
「一同、起立!!」
““““ザッ””””
広いホール、各自用意された席に着座していた生徒や高位貴族たちが一斉に立ち上がる。
「来賓代表、ゾルバ国王陛下御来場」
““““ザッ””””
その場にいる生徒及び高位貴族たちは頭を垂れ、この国の代表であるゾルバ国王の登場を敬意を持って迎える。
「臣下の礼、大儀である。ここは学園である、皆の者、頭を上げよ」
国王の言葉にあげられる頭、通常であれば貴族位も持たぬ自分たちがその尊顔を直視する事など不敬に当たるとされる若者たちも、この時ばかりは特別と正面の壇上に上がる国王に熱い視線を送る。
「新入生の諸君、この伝統ある学び舎王都学園に集まった事、大儀である。王都学園はオーランド王国の未来を担う者たちを育成する場である。
この学園を卒業した者たちは王国の要職に就き、王国の中枢を作り上げる者たちである。
我はオーランド王国国王として、諸君らの研鑽に期待する。
この場に集まった貴族諸侯の者たちは既に承知している事であろうが、敢えて述べよう。
この度目出度くも我が国に女神様より<勇者>の職を授かった者が誕生した。彼の者の名はジェイク・クロウ。
我が国の誇りにして世界の希望とならんとする若者である。
これは吉報、先の戦争により傷付いたオーランド王国に齎された光であり国を挙げて祝うべき慶事。
だが我は<勇者>を王国の為に担ぎ上げる事を是としない。それは女神様の御意思に逆らう事であり、これ迄の歴史を見てもそうして表舞台に引きずり出された勇者がどうなって行ったのか。
魔法の勇者は何故失意のうちに人生を閉じたのか、何故剣の勇者は国を捨て旅立ってしまったのか。
勇者ジェイクよ、我が望むはその方が王都学園で多くを学び、多くの生徒たちと友誼を結ぶ事でこの国を、オーランド王国を知ってくれるという事だ。
その方の故郷は我が王国北西部ホーンラビット伯爵領であり、ここオーランド王国であるという事を誇りに思ってくれる事だ。
学園という場所が何故身分に関係なく交流を持つ事を是としているのか。
それは自身の立場では知り得ない思いや考えを知ることにある。
人を知り、己を知る。これまで無意識に作り上げてしまった凝り固まった思想を打ち壊し、より強固な自己を作り出す為である。
もう一度言おう。諸君らは未来のオーランド王国を担う者たちである。
一人でも多くの者が我の期待に応えてくれることを望む」
それは激励、それは期待。国王自らの言葉が、生徒一人一人の胸に熱い火を灯す。
「ゾルバ国王陛下、御退場」
““““ザッ””””
下げられた頭、国王ゾルバ・グラン・オーランドは壇上から会場を見回すと、近衛騎士を伴い悠然と舞台を降りて行く。
“これで馬鹿どもの牽制になればよいのだが、難しいであろうな”
内心は決して表には出さず、大きくため息を吐きたい気持ちをグッと抑えながら。
「学園長祝辞。生徒一同、起立」
入学式は進む、会場に集まった新入生たちはこれから始まる学園生活に胸を躍らせ、壇上の者の言葉に耳を傾けるのであった。
―――――――――
“ガヤガヤガヤガヤ”
入学式が終わり、新入生たちは教員たちの案内の下大講堂へと移動していた。
「ジェイク君、私国王陛下のお顔を拝見したのって初めて。金貨に彫られているお顔は国王に即位なさった若い頃のお顔だからちょっと違う印象だったけど、でも本物の国王様だよ、やっぱり王都って凄いんだね!!」
入学式の挨拶でのゾルバ国王陛下の登場に、未だ興奮冷めやらぬといった様子のエミリーさん。
イヤイヤイヤ、それはまぁ分るんだけども、俺名指しされちゃったんですけど?オーランド王国をよろしくねって言われちゃったんですけど?
マジでどう反応していいのか分かんないんですけど?
もうね、頭の中真っ白。入学式で学園長がしゃべってた事とか、在校生代表で第五王女殿下が仰ってた事とか、新入生代表で第四王子殿下が仰っていた事とか。
と言うか王女殿下と王子殿下のお名前すら頭に入らなかったんですけど!!
「なぁなぁロナウド、俺の立場ってそんなにヤバいの?俺ってば王都学園に来るまでは期待外れにならない程度に大人しくしてればいいと思ってたんだけど・・・」
「無理だな。ジェイクが<勇者>の職を授かった段階で、ブラックウルフの群れに放り込まれた角無しホーンラビット状態になるのは明白だったからな。
令嬢共は皆が皆ジェイクの事を狙ってると考えていいだろう、“勇者の血を引いている”というだけでその家の格が上がると言っても過言じゃないしな。
令息共は少しでもお近付きになりたいと声を掛けて来るんじゃないのか?出来れば我が家に遊びに来て欲しいとかなんとか。夜会の誘いはひっきりなしだと思うぞ?
<勇者>って職業はそれだけ影響力のある職業だと思って間違いない。
更に言えばだ、ジェイクは自覚していないみたいだがお前の容姿はかなり整っている。エミリー嬢と並んでいても全く引けを取らないくらいにな。
爵位は騎士爵、王都学園の者にとっては平民と変わらない。貴族家の者からすれば“一族に加えて差し上げましょう感謝しなさい”といった言葉しか出ないような関係性だろうな」
う~わ、マジかよ。
ロナウドの言葉にガックリと机に突っ伏す。どこかどうにかなると高を括っていた過去の自分を殴ってやりたい。
「まぁそう言った問題を未然に防ぐ為にゾルバ国王陛下自らが壇上に立たれたんだろうけどな。
仰っていただろう?「その方の故郷は我が王国北西部ホーンラビット伯爵領であり」って。
あれは暗にジェイクは既にホーンラビット伯爵家に取り込まれてるぞ、へたに手を出すと“辺境の蛮族”を敵に回すぞって脅しを掛けた言葉だからな?
遠回しにジェイクに恩を売ったってことかも知れないけど、本命はそこ。
国王陛下はよっぽどホーンラビット伯爵家騎士団を、正確にはケビン・ワイルドウッド男爵を恐れているってことなんだろうな」
「「「「あぁ、凄い納得」」」」
ロナウドの解説に大きく頷きで応える俺たち。そんな俺たちにロナウドが首を傾げながら言葉を向ける。
「ところでジェイク、そっちの二人は一体誰なんだ?凄い親しそうだが、グロリア辺境伯領の関係者か?」
「あぁ、ごめん。紹介がまだだった。
まずこっちの女性はロナウドも知ってる相手だ。“聖者の行進”の時に一緒に参加していたパーティーメンバーのフィリー。授けの儀で<賢者>の職を授かってな、マルセル村名物の訳アリだったもんで目立たない様に変装している。
と言っても眼鏡を掛けてるだけなんだけど、これが凄くてな。ケビンお兄ちゃん特製“目立たない眼鏡”、そこにいるのが自然で気にならない、かといって意識すれば自然とその場に存在するっていう優れもの。
ロナウドも全然気にならなかっただろう?」
言われてみて初めてその違和感に気が付いたと言わんばかりに驚きの表情になるロナウド 。だよね~、ヤバいよね~。高位貴族のロナウドだからこそ気が付くこのヤバさ、暗殺者だったら喉から手が出るくらい欲しい逸品なんじゃないかな?
「それと隣の背の大きいのが俺の親友のジミー。前に話しただろう?暗黒大陸に武者修行に行った親友がいるって。
ジミー先生、めちゃめちゃ強くなって帰ってまいりました。どれくらい強いかと言えば、鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーを二人同時に相手して勝つくらい。意味解んないでしょ?俺も分かんない」
俺の言葉に口を開けたままポカンとするロナウド。そんな間抜けな顔にも拘らず絵になるって、イケメンってスゲーな。
「まぁジミーはヘンリー師匠の息子でボビー師匠の愛弟子だからね、強くて当然と言えば当然なんだけど。剣の道に対する執着が異常だからな~。
ケビンお兄ちゃん曰く才能と努力の塊なんだって、そんなジミーに勝っちゃうケビンお兄ちゃんは一体何なんだって話なんだけどね。
因みにケビンお兄ちゃんの実の弟、ジミーはヘンリー師匠の身長とメアリーおばさんの容姿を受け継いで、ケビンお兄ちゃんはメアリーおばさんの身長とヘンリー師匠の容姿を受け継いだんだってさ」
俺の言葉に「あぁ、そういう」と納得顔になるロナウド。本当にドラゴンロード男爵家の兄弟って似てないんだよね。どっちもとんでもない存在って点は一緒だけど。
って事はミッシェルちゃんも将来・・・うん、この事を考えるのは止めよう。チェリー、お兄ちゃんはいつまでもチェリーの味方だからね。
「そうなのか。ジミー殿、貴殿の兄上には大変世話になった、テレンザ侯爵家を代表して心からの感謝を申し上げる。
私の名はロナウド・テレンザ、テレンザ侯爵家の三男である。何か困った事があったらいつでも言って欲しい、テレンザ侯爵家の力の及ぶ限り助力する事を誓おう」
そう言い手を差し出すロナウド。ジミーはロナウドの手を取ると「こちらこそ世話になったようで感謝する。微力ではあるが何かあれば声を掛けて欲しい」と言葉を返すのでした。
・・・ジミー、お前のどこが微力だ、霊亀と相打ちって段階で自身の実力を考えろよ?
「ところでなんでジミーもその“目立たなくなる眼鏡”をしてるんだ?
別にケビン殿の弟というくらいであれば何も問題はないと「「「ジミーはヤバいから、メガネ装備は必須だから」」」・・・そ、そうなのか?」
声を揃えた否定の言葉に若干ビビるロナウド、でもこればっかりはな~。素顔のジミーって色気がヤバいから、目立たなくなる組み紐を手首に巻いて髪を縛っていても、チラ見する人がいたくらいだしな~。
「まぁそれぞれ事情があるってことで。という事でロナウド先生、これからも俺たちの風除け役、「「「どうかよろしくお願いします」」」」
「お前ら・・・まぁいいけどな、そこまで期待するなよ?うちはついこないだまで田舎侯爵とか言われて馬鹿にされていた家だからな?」
「「「「イヤイヤイヤ、今やテレンザ侯爵家に逆らおうなんて貴族家はいませんから。いよ、南西部貴族連合の盟主、格好いいぞ!!」」」」
「クッ、学園内では身分の垣根がないからって言いたい放題言いやがって、マジで気を付けろよ、根に持つ馬鹿だっているんだからな?」
うん、やっぱりロナウドはいい奴だわ。俺たちはニヨニヨした顔でロナウドを見つめつつ、“ロナウドってば結構ツンデレ?”とか失礼な事を考えるのだった。
「皆さん、静粛に願います。これより学園の履修科目についての説明を始めます。机に準備してあります資料を見ながらお聞きください」
講堂の正面、壇上で教諭が説明したのは以下の通り。
・学園の授業には必修科目と選択科目がある。
・必修科目は進級や卒業にもかかわるので必ず受講する事。
・履修科目は用紙に書かれたもの、選択科目の中には学年を問わず受ける事の出来るものもある。
要するに大学の授業のような感じだと。各クラスに分かれてといった授業の進め方じゃないんですね。
この辺は王都学園と他の地方学園との違いなのかな?武術学園に通っていたギースさんの話では各クラスに分かれての授業が普通って言ってたし、グルゴさんもそんなことを言ってたんだよね。
まぁ王都学園と他の学園だと一学年辺りの人数が違うってのもあるのかもな。伯爵家以上の上級貴族と子爵家以下の下級貴族じゃ絶対数が違うし、地方学園にはお金さえ払えば平民も通えるしね。
貴族子弟や有用なスキルを授かった人材とのコネを作る為に入学するとか、以前マルセル村に修行に来たアレンさんがそうだったんだよな。
魔法の授業なんかは選択制の部分もあるって言ってたけど、クラス分けのあるなしが一番の違いって事なのかな?
「以上が履修科目の説明になります。選択科目に関しては今週いっぱい見学することができます。選択科目の履修届は来週の初めまでに事務所に提出してください。
以上で説明会を終わります。本日はこれで解散となります、各自気を付けてお帰り下さい」
淡々とした説明に各科目の内容が書かれた用紙とにらめっこをするエミリー。俺は一体どうしようか。
隣の席のエミリーから“ジェイク君一緒の授業を受けようね♪”と言う圧をひしひしと感じつつ、何か面白そうな授業がないものかと頭を悩ます俺たちなのでした。
本日一話目です。