転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第582話 悪役令嬢、現状を確認する

「フゥ~、やはりヒロインとメイン攻略対象であるアルデンティア第四王子殿下との初邂逅シーンは素晴らしいものがありましたわ。

流石乙女ゲームのクオリティーとでも申しましょうか、お二方とも輝きが尋常ではありませんでしたもの。

それに比べ私は目つきが鋭過ぎますわね、これでは貴族令嬢と言うよりも一角の武人でしてよ?」

 

身だしなみを確認する為に開いたコンパクトの鏡に映る自身の顔に、思わずため息を漏らす。気の強そうな目元やスッと通った鼻筋、幸の薄そうな薄い唇にシャープな顔のライン。

ザ・悪役令嬢と言わんばかりの外見は見る者を威圧する。

それに付け加え私は公爵家の令嬢、この学園でも王家に次ぐ地位の者、いくら平等を謳う王都学園とはいえ、それが建前であるという事など誰しもが知っている事。

 

集められた高位貴族子弟同士のマウントの取り合いは、社交界が荒れている今だからこそより激しさを増していると言ってもいい。

本来であれば私の周りを公爵家派閥の令嬢たちが取り囲み、扇を口元に当てドラマに出て来る某大学病院の院長のように肩で風を切っていたところがこうして自由に出歩けているのがその証拠。

我がバルーセン公爵家が国王派に寝返った事で、中央貴族を中心とした貴族派の中では新たなトップを巡り結構揉めているらしい。

 

でも考えてみれば公爵家が貴族派を抑えていたのって、王家への反発を起こさせない為って側面が強かったはず。だって公爵家って王家に近しい血筋ですのよ?

それが何故対立構造になっていたんだか。実は裏で確り手を握っていたっていうのならまだしも、お父様はあわよくば王家の利権を全て掌握しようとなさっていましたわよね?

 

オーランド王国も歴史の長い国、時代が過ぎれば当初の思惑とは全く違った形になってしまう。オーランド王国はある意味末期状態を迎えていたのかもしれません。

であればダイソン公国の独立も起こるべくして起きた時代の一幕、お兄様が仰る様にこの国はいま一度原点に立ち返る必要があるのかもしれませんわね。

 

その為に私が出来る事、それはバルーセン公爵家が王家と足並みを揃えられるように我が家が権力に固執していないと示す事。

すなわち好き勝手にプラプラする事!!

まぁそれでもある程度の節度は持たないとなりません、公爵家の品位を汚す事は論外、二学年には甥もおりますし、やたらな事をすれば甥にも迷惑を掛けてしまいます。

 

「でも楽しみですわ、入学式では在校生代表としてフレアリーズ第五王女殿下が、新入生代表としてアルデンティア第四王子殿下が壇上に上がられるとか。

フレアリーズ第五王女殿下とはダイソン公国との戦争が始まる前に何度かお会いした事があったっきり、アルデンティア第四王子殿下とはアスターナの戦場で父セオドア・フォン・バルーセン公爵が大敗を喫して以来お会いする事が叶わなくなってしまったし」

 

久し振りに拝見したアルデンティア殿下は見事に王子様といった風格と甘い雰囲気を漂わせておられて、ヒロインのアリス嬢との組み合わせが最高でした。

あぁ、なんて尊いのかしら。ザ・王道、制作スタッフとはいいワインが飲めましてよ。きっと舞浜駅近くの夢の国が大好きな方々でしたのね、時代に流されないその姿勢、尊敬いたしますわ。

 

でもそうなると他の攻略対象の方々も気になります。

婚約者候補として登城を許されていた頃、私がアルデンティア殿下の側近の方々とお会いする機会などはありませんでした。

当時はあくまで候補、他にも幾人かの候補者がおられた事やお付き合いも一年余りと短かったことを鑑みれば致し方のない事やもしれませんが。

 

「・・・という事は未だ多くの御令嬢が候補者として名を連ねていらっしゃるはず。

我がバルーセン公爵家は父セオドアの大敗を受けて候補筆頭から脱落した・・・。

これは、新たなる悪役令嬢の予感、アリス嬢とアルデンティア殿下の動向から益々目が離せませんわ!!」

 

く~、この思いを分かち合う相手がいない事がとても残念です。かと言って公爵家の使用人にこの様な話は出来ませんし、ジレンマですわ~~~。

 

進む廊下、私は入学式の行われる大ホールに向かいながら、如何すればこの思いを解消できるのか、深く考えを巡らせるのでした。

 

――――――――――

 

く~、最高でしたわ。大人の色気漂うゾルバ国王陛下、お美しくなられたフレアリーズ第五王女殿下、そして我らがアルデンティア第四王子殿下。

最前列アリーナ席での観覧、声を上げなかった自身を褒めてあげなければいけませんわね。

よく我慢いたしましたわ、偉いわよ、ラビアナ♪

 

でも出来れば団扇とペンライトは欲しい所でしたわね、扇ですとバブルと呼ばれた時代の踊り子になってしまいますもの。

ワンレン・ボディコン、唇には真っ赤なルージュでしたかしら?流石にあの様なはしたない衣装は公爵家の者として抵抗がありますわね。

辱めとしては十分有効でしょうけど。

 

・・・でもちょっと見たくもありますわね。殿方を喜ばせるナイト衣装として提案してみるのも悪くないかもしれません。今度お兄様の奥方様にご提案してみましょう。

公爵家の夫婦仲が良好になる事は、御家安泰に繋がる素晴らしい方策ですわ。

 

入学式が終わり生徒たちが向かったのは校舎内の大講堂、その間貴族家の父兄たちは大ホールで社交に励まれます。流石高位貴族家、何事も無駄がない。

大講堂で行われるのは今後の授業の履修についての説明との事でしたが、中に入れば既に各派閥によるグループ分けが始まっていました。

 

上級職を授かったとして入学を許された平民や下級貴族たちは、それぞれの寄り親や領地に関係が深い方の下に集まっている様子。そうでない者は早めに生徒寮に入っている為か、寮生たちで固まっているようでした。

彼らは寮生の先輩から色々と学園の話を聞いているのか、既に自衛の構えに入っているようです。

まぁお気楽極楽の私は攻略対象の確認が先決なのですけれども。

 

「あの、先程は知らぬ事とはいえ大変失礼致しました。私、その、何分田舎者なものでして、第四王子殿下のご尊顔を拝見したのは本日が初めてでして、その・・・」

見ればヒロインのアリス嬢がアルデンティア第四王子殿下に平謝りしています。入学式の際壇上に上がられたアルデンティア殿下の御姿に気が付かれた時は、驚くとともにとんでもない不敬を働いたと生きた心地がしなかった事でしょう。

怯えつつ上目使いで話し掛ける小動物的態度、本来の天真爛漫さからのギャップは大きなお友達の心をがっちり掴んで離しません。

 

「やぁ、アリス、さっき振りだね。何か驚かせてしまったようだね、改めて名乗ろう。

僕はアルデンティア・ウル・オーランド、気軽にアルデンティアと呼んで欲しいかな?

アリスも知っての通り僕はこの国の第四王子でね、普段中々同世代の者と接する事は出来ないんだ。だからこの学園に来て初めて知り合いになれた<聖女>でもあるアリスには、もっと楽に接して欲しいと思っている。

どうかお願い出来ないだろうか?」

対してアルデンティア殿下はキラキラしたエフェクトが見えそうなくらいの爽やかさで、親し気にアリス嬢に語り掛けます。

ここでポイントとなるのはアリス嬢の職業である<聖女>を強調した所。これは周囲に対し“この<聖女>は既に私が唾を付けた獲物だ、ちょっかい出すんじゃないぞ!”と牽制を掛けると共に、アリス嬢と親しくすることは<聖女>獲得の為の行為であり他意はないと暗に知らせる事に繋がります。

アルデンティア殿下は未だ婚約者の決まっていないお立場、そこにぽっと出の小娘が近付けば、他の婚約者候補たちは面白くないでしょうからね。

 

あぁ、だからゲームでの私はアリス嬢に絡んで行ったのですね。ゲームでの私は候補ではなく正式な婚約者、いくら身分の垣根を払った王都学園であるとはいえ、自身の婚約者に近付く余計な虫を排除しようとするのは当然の行為。

でもゲームのヒロインはガンガン殿下と接触するのですけれど。

 

冷静に考えてゲームのヒロインって貴族社会に喧嘩売ってます?貴族令嬢は縄張り意識が強いのですよ?

現に今もアリス嬢に対してものすごい勢いでヘイトが溜まって行ってるんですけど?いくつかのグループが“後でシメる!!”って殺気に満ちた視線を送ってるんですけど?

その辺は殿下の側近の方々が気を利かせてそれとなく・・・無理っぽいですね。

 

ゲーム内における殿下の側近は三人。

元第一騎士団騎士団長ベイル伯爵様の次男、ラグラ・ベイル。聖騎士の職を授かった所謂俺様系脳筋キャラ。

南東部の大貴族家ハンセン侯爵家三男、カーベル・ハンセン。宰相ヘルザー・ハンセン閣下の甥にあたり、自身もいずれは宰相にという野望を抱く知的キャラ。

オーランド王国教会ルビアン枢機卿猊下の末子、ピエール・ポートランド。既に司祭の資格を有しており、王都教会に籍を置いている。

いずれもタイプの違う見目麗しい男たち、ここにアルデンティア殿下まで加わっているのだから布陣としては完璧と言わざるを得ない。

 

そんな輪の中にぽっと出田舎娘であるアリス嬢が加わればどういう事が起きるのかなど、火を見るより明らかでしょうに。

 

“ハァ~”

私は大きくため息を吐くと(無論口元は扇で隠しておりますわ)、アルデンティア殿下たちの下へと歩を進める。

 

「これはこれはアルデンティア王子殿下、お久しぶりでございます。バルーセン公爵家が子女ラビアナ・バルーセンでございます。こうしてお会いするのは実に一年半ぶりのこと、御尊顔を拝する事が出来、胸の高まる思いでございます」

 

そう言い洗練された所作で美しいカーテシーを決めるラビアナ。その醸し出される高位貴族令嬢としての圧に、周囲の者たちはゴクリと息を飲む。

 

「ん、あぁ、ラビアナか、久しいな。そう言えばお前も学園に来る年であったか、元気そうで何よりだ」

言葉とは裏腹にあからさまに機嫌を崩すアルデンティア。その態度は言外に“今更何をしに来た”といった思いを知らしめる。

 

「はい、お蔭様をもちまして。幸い我が家も代が変わり落ち着きを取り戻す事が出来ました。これも全てはゾルバ国王陛下の英断のお陰と日々感謝を捧げさせてもらっております。

亡き父に代わりお礼申し上げます。

 

そこのあなた、確かアリスと言ったわね。いくら学園が身分の垣根を越えた交流を推奨しているとはいえ、いつまでも殿下のお時間を奪っては失礼でしてよ?

殿下は思慮深い御方、ゾルバ国王陛下が壇上で仰った立場を越えた交流、“人を知り、己を知る”を自らが実践する事で学園生徒の模範となろうとしているのです。決してアリスだけを特別に思っての事ではなく、この一事を切っ掛けに多くの生徒との交流を持とうとなさっておられるのです。

それは殿下の周りで様子を窺う気の弱い者たちに対する優しさ、殿下の広い御心。アリスはその思いを汲み取り行動しなければなりません。

 

どうやらあなたはあまり社交界というものを知らない様子、ここは(わたくし)ラビアナ・バルーセンが貴族としての作法を教えて差し上げましてよ?」(キッ)

 

“ヒッ”

何処からか短い悲鳴が漏れる。だがこれでアリス嬢に向かっていたヘイトは霧散し、いい気味だといった侮蔑の感情へとすり替わる。

貴族令嬢など所詮体裁を繕っただけの狼。いえ、これは狼に失礼でしたわね、彼らは非常に知的と聞きますし。

 

「ラビアナ、貴様勝手に何を「皆さん、静粛に願います。これより学園の履修科目についての説明を始めます」・・・」

「アルデンティア殿下、説明会が始まりますので失礼させていただきます。アリス、行きますよ」

 

私はこちらに鋭い視線を向けるアルデンティア殿下に一礼をし、アリス嬢と共にその場を後にする。

 

「あ、あの、ラビアナ様、その・・・」

「あぁ、ラビアナでいいですわ。学園内では身分の垣根を越えた交流が推奨されてますもの、アリスもその様に緊張なさらないでくださいまし。

でも先程は危なかったのですよ?確かにこの学園では身分に関係なく言葉を交わす事が出来る、ですが身分がなくなったわけではない。この制度はあなた方の様な有用な職業を授かった者たちを私たち高位貴族が内に引き込むための方便なのです。

 

権力により無理やり従わせることは女神様より禁止されています。これに逆らい天罰を受けた国は多い。

ですからこうした若者たちの交流を通じ国の為、領地の為、自分たちの駒として働く人材を養成しようとしている。

 

でもその事を分かっていない者たちは多い、特に思春期の女子生徒たちはその傾向が強い。

まぁ社交界は碌でもないですわよ、立場上何度も顔を出しましたが、あの自慢大会や棘のある言葉の応酬は辟易としてしまいますもの。

 

アリス、これだけは覚えておきなさい。あなたは<聖女>、王子殿下をはじめ多くの者たちがあなたを取り込もうと動くでしょう。ですがそのことに嫉妬する者が出るのも世の常、なればこそ与えられた職業に慢心することなく実力を示し続けるのです。

貴族社会はどう繕っても力が全て、あなたが力を示し続ける限り嫉妬の炎があなたを焼く事は叶わないでしょう。

それでも困った事があったなら声を掛けなさい、これでも私は公爵家の娘、王国有数の権力者でしてよ」

 

そう言いどや顔を向けるラビアナ。心の中では“これからヒロインには様々な恋愛を繰り広げてもらわなければなりませんもの、邪魔者は徹底排除でしてよ”と目茶苦茶お花畑な事を考えるも、キラキラとした尊敬の眼差しを向けるアリスがその事に気付く事はないのであった。




本日二話目です。
クリスマスプレゼント、貰った?
いってらっしゃい。
by@aozora
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