転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第586話 辺境の剣客、選択授業を見学する

「それじゃジェイク、俺とロナウドはジェイクが気になるって言ってた生活魔法の講義を見学してくる。エミリー、ジェイクの事は頼んだ」

「うん、エミリーにお任せだよ。悪い虫はこの拳で・・・」

 

「「「エミリー、自重は大事だから」」」

「そ、そうだね、分かったよ」

 

魔法訓練場での基礎魔法学の授業は結構な騒ぎになってしまった。主な原因は隣ですまし顔をしているロナウドのせいなのだが、俺が最後に行った<疑似ボール魔法>は、ガイアス先生的に結構な衝撃だったらしい。

“魔法適性のない者が魔法を放つ”、この事は魔法職に携わる者たちからすればあり得ない事象であり、“自身の適性以外の魔法は使う事が出来ない”という常識と共にあり得ない事とされていたようであった。

驚いたグラスウルフの様な表情をした他の生徒達もそうだが、放心状態で何やらぶつくさ呟いているガイアス先生の姿はとても印象的であった。

 

「フィリー、そういう事だ。悪いが俺は別の授業を受ける事になる。それぞれの講義の様子は昼の学食ででも話そうか」

「はい、それではまた後程。ジミー君もがんばって」

 

廊下で別れそれぞれの教室へと向かう俺たち、ジェイクたちは調理実習室だったか。俺たちは・・・。

 

「第二校舎203教室、随分と狭い教室だな」

俺は学園案内図を見ながらボツリと呟く。

 

「まぁそうだろうな。この授業は別に必須というものでもないし、成績に関係のない講座、趣味のようなものだ。

学園側としてもそれほど多くの生徒が受講するとは考えていないんじゃないか?

この時間帯ならサロンも開いているし庭園のカフェテラスに行ってもいい。勉強熱心な奴は学園大図書館にでも籠ってるんじゃないのか?

ま、貴族連中は第四王子殿下を囲んでサロンでお茶会でも開催してる頃だろうさ」

そう言い肩を竦めるロナウド。ジェイクの話ではこのロナウドも侯爵家の令息だったはずなんだが、こんな所にいていいのか?

 

「なぁロナウド、ロナウド様?どう呼んだらいいんだ?」

「ロナウドで構わない、ジミーの事はエミリーやジェイク、フィリーやディアから聞いているからな。

俺もマルセル村で修行しエミリーちゃんチャレンジを受けた身だ、マルセル村の者に身分による礼儀など強要しない。あの拳の前にそんなものは無意味だ」

 

そう言いブルリと身を震わせるロナウド。エミリーちゃんチャレンジ、俺は受けていないが村の大人たちが顔を引き攣らせるくらいにはきついものだったらしい。

エミリー曰く“大福本体三つ首ドラゴンヒドラに比べたら全然だよ”とのこと、まぁそれならドラゴン化したバンドリアと同じかそれよりも下と想定しておけばいいだろう。

ドラゴン化したバンドリアの拳と同等・・・ジェイク、生き残れよ。

 

「そうか、それならロナウドと呼ばせてもらおう。

それでロナウドは社交の方はいいのか?テレンザ侯爵家と言えば南西部貴族連合の盟主、寄り子や同盟関係の貴族子弟との交流も必要だと思うんだが」

 

「まぁそうではあるんだが、俺の名が大きくなり過ぎてしまってな。詳細人物鑑定でも称号に<万軍を救いし者>とか<争いを鎮めし三英雄>といったものが出てしまって・・・。

下手に俺が派閥を作ることは王家を刺激する事になりかねない、そこで学園在籍中は舐められない程度に大人しくするという事になってな。これも政治的配慮って奴だ」

 

「イヤイヤイヤ、十分やり過ぎてたからな?お陰で俺たちがどの程度まで抑えればいいのかっていう目安にはなったが。

その節は大変世話になった」

そう言い頭を下げる俺に「ブフッ」と笑いだすロナウド。

俺たちは互いの顔を見合わせ、堪えられないといった感じで一頻り大笑いしてから、講義の行われる203教室に入って行くのだった。

 

――――――――――――――――

 

しかし新入生の最初の授業は大変な事になってしまいましたね~。殆どの生徒が放心状態、中にはやたら興奮している様な女子生徒もいましたが、あの子は魔法というものに初めて触れたといった感じでしょうか。

少なくとも魔法というものの基礎知識がある者にとって、ロナウド君やジミーのような存在は常識の埒外以外の何ものでもないでしょうね。

ガイアス教諭がちゃんと復活できるのか、変な方向に曲がるのか。ここは学園長の腕の見せ所でしょうか。

 

幸いだったのが一年生の二限目が選択授業の空きコマだったこと。生徒たちは精神的に疲れ切ってサロンでぐったりといったところではないでしょうか。

式神からの情報ではジェイク君とエミリーちゃん、フィリーちゃんの三人は調理実習室に向かった様子。講義担当者の王宮料理人サンドニッチ氏は影の耳目、ベルツシュタイン伯爵閣下の配下ですからね。何かあればベルツシュタイン伯爵閣下に連絡がいくでしょう。

 

という訳で私は趣味の時間といきましょうか。

 

“ガチャ”

第二校舎二階の小教室である203教室の扉を開け教壇に向かう私。

歳の頃は四十手前、やや白いものの混じったくすんだ髪、ゆったりとしたジャケットに白いシャツ、胸元のループタイがいい感じに中年の悲哀を感じさせます。

 

「はい、皆さん、はじめまして。今日から“便利な生活魔法活用術講座”を担当させて頂きます、講師のビーン・ネイチャーマンと申します。

どうぞよろしくお願いします」

教壇の下にカバンとステッキを置き、教室内を見回します。1・2・3・4・5・6、結構いらっしゃいますね。

ここは選ばれし者が集まる王都学園、生活魔法など馬鹿にして生徒が集まらないものと思っていたのですが。

 

「え~、今週は選択授業の見学が行われるとか、皆さんの中には生活魔法といったものが講義としてこの伝統ある王都学園で行われる事自体、疑問に持たれた方も多いと思います。

講義の内容とは若干趣きを異にしてしまいますが、皆さんには生活魔法を生活に取り入れる事の有用性について少しお話しいたしましょう。

 

この中に今年の新入学生の方はどれ程居られますか?手を挙げていただいて・・・四名ですね、ありがとうございます。

ではその四名の方は先程魔法訓練場で行われました基礎魔法学の授業で、そちらに居られますロナウド・テレンザ君とジミー・ドラゴンロード君が行った魔法をその目でご覧になられたかと思います。

え~、他学年の方に分かり易く申しますと、一限目に本校舎を揺らす様な轟音がしたかとおもいますが、あの原因がそちらに居られるロナウド・テレンザ君の魔法ですね。

何故私がその事を知っているかと言えば見ていたからですね。新入生の皆さんの実力はとても興味深いものでしたので、タスマイヤー先生にお願いして見学させていただいていたのですよ。

 

いや~、あの魔法は本当に素晴らしいものでした、持ちえた才能というものもあったのでしょうが、さぞや多くの訓練を積まれたのでしょう。

ロナウド君が放った訓練場の的を周囲の地面ごと吹き飛ばした<ウォーターボール>、ジミー君のは投げたといった方がいいのでしょうか、王都の魔法使いでは思い付く事も出来なかったであろう<疑似魔法ボール>という技術。

本当に画期的なものでした。

 

ではなぜこのお二人がそれ程素晴らしい魔法を行使できたのか、これは私なりの考察となりますが、重要なのは<魔力制御>と<魔力操作>の二点と言えるのではないでしょうか」

 

“カツカツカツカツ”

「ふむ、この白墨というものはいいですね、とても書き易い。王都学園はこうした設備が揃っていてとても羨ましい。

私が学生の頃は講師の話を一言一句聞き漏らすまいと・・・。

ハハハハ、失礼、少々感傷に浸ってしまいましたね。

 

この<魔力制御>と<魔力操作>は文字通り魔力を扱う、魔法を行使する際の根幹となるスキルです。一流の魔法使い、一流の魔導士といった者たちは皆この<魔力制御>と<魔力操作>のスキルに目覚めていると言われています。

では彼らはどうやってこのスキルに目覚めたのでしょうか?

生まれ付きの才能でしょうか?そうした者も確かにいるでしょう、ですが多くの者たちはそうしたものを持ち合わせてはいない。

ではどうしたのか。

 

ここで基礎魔法学の教本でもある「魔法の書」の序文を思い出していただきたい。

かつてエルフの魔術すらも身に付けようとした大魔法使いはこの様な言葉を残しています。

“魔力枯渇を恐れるな、我が強大な魔力を身に付け今日大魔法使いと呼ばれる様になったのは、全て若かりし頃に無謀にも魔力枯渇を繰り返しながら魔法の習得に努め、繊細な魔法の運用を身に付けたからである。努力は決して裏切らない、全ては結果として返って来る。”

彼らは皆この教えを忠実に守り、幾度とない魔力枯渇を繰り返しながらも魔法の訓練に励みその境地に達した。

つまり数多く魔法を撃ち続ける事こそが、<魔力制御>と<魔力操作>のスキルに目覚める為の必須事項という訳です」

 

“ガサゴソガサゴソ”

私は教壇の下に置いた手提げカバン型マジックバッグを開くと、中から手桶を取り出します。

 

「“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”」

“バシャッ”

「“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”」

“バシャッ”

「“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”」

“バシャッ”

「“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”」

“バシャッ”

「“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”」

“バシャッ”

 

手桶に注がれるコップ五杯分の水、視線を生徒たちに向けると、“一体何をしているのか”といった困惑顔をしているのが見て取れます。

 

「いま、私は五回生活魔法<ウォーター>を行いました。ですが魔力が減ったといった感覚は殆どありません。

これは皆さんが行っても一緒でしょう、それ程に生活魔法<ウォーター>は魔力消費量が少ない。

これがもし属性魔法であるボール魔法であったのならどうでしょう?

五回や十回は才能豊かな皆さんなら問題ないかもしれません。ですが二十回、三十回と数を増やしていったら?

一般的な魔法職の冒険者は一回の冒険で三十回、優秀な方でも五十回も魔法を撃てば撃ち止めとなると伺った事があります。

これは人によるところがあり、銀級上位や金級と呼ばれる冒険者の場合より多くの魔法を行使できるようですが、多くの者はそこまでの力はありません。

魔法訓練場で日々訓練を行う生徒さん方も似たようなものではないでしょうか、魔力量というものは早々に増えるものではありませんから。

 

ではこれを生活魔法に置き換えてみましょう。生活魔法<ウォーター>でもいいでしょう、<プチライト><プチファイヤー><プチピット><アイマスク><ウインド>、いずれでも構いません。

一日中訓練を行ったとして、魔力枯渇を起こすでしょうか?

ハッキリ言えば無理です、生活魔法で魔力枯渇を起こすには余程の工夫を行わなければならないでしょうね。

何が言いたいのかと言えば、どれ程の魔法行使をしようとも、精神的肉体的に疲れない限り訓練し続ける事が出来るという事です」

 

ここ迄の話でその有用性に気が付いた生徒は・・・ロナウド君とジミー、それとあの女子生徒は・・・はぁ!?何でこんな講義にフレアリーズ第五王女殿下がいらっしゃるんですか!?お隣は御付きの生徒さんですよね?なんかもの凄く帰りたいって顔をなさってるんですが、よろしいんでしょうか?

いや、最初に気付きなさいって話でしょうが、普通生活魔法の講義に王族が来るなんて思わないでしょう、何なんですか一体!?

 

「オホンッ、失礼。

ここで最初の話に戻ります。「魔法の書」に書かれている大魔法使いが魔力枯渇を何度も起こしながらも訓練をし続けた結果手に入れたものはなんであるのか。

一つは大魔法使いとの呼び名に相応しい膨大な魔力、人は魔力枯渇から回復する事で自身の魔力量を増やす事が出来るという事は、魔法職の者たちの中では広く知られた事実です。

もう一つが<魔力制御>と<魔力操作>による繊細な魔法の技術。

魔力の制御や操作はどれだけ強力な魔法を使ったのかではなく、どれ程多く魔法を行使したのかによります。何度も何度も繰り返す事で徐々に身体に“魔法を行使する”という事を染み込ませる。これは剣術における基礎訓練に近いものがあるのかもしれません。

利き手以外の手で文字を書く、ワインを何度も飲み比べて味を覚える、要するに身体に覚えさせる必要があるのです。

 

皆さんには申し訳ない事なのですが、私には魔法の適性はありません。ですが魔法というものに触れてしまった以上、その魅力から逃れる事が出来なかった。結果行き着いたのが生活魔法でした。

これから一年、私が研究の中で集めてきた生活魔法の様々な使い方の工夫や、独自の発見についてお話し出来ればと思います」

 

ロナウド君とジミーは少し興味を示してくれたようですが、残念ながら講義の内容はジミーが既に知ってる事なんですけどね。

一年生お二人は、よく分かんないって感じですね。まぁ暇つぶしにでも顔を出していただければ。

第五王女殿下は・・・俄然やる気ってどういうことですか!?御付きの方が頭を抱えていらっしゃるんですけど、「無能から何を教わるおつもりですか?」とか言っておられるんですけど?

・・・まぁいいでしょう、特に問題はないはずですから。

 

私は一抹の不安を抱えつつ、「それでは生活魔法<ウォーター>の便利な応用方法についてお話ししましょう」と講義を続けるのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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