転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第587話 高貴なる方々、困惑する

“コトッ、ジョロジョロジョロジョロジョロ”

落ち着いた雰囲気の室内、漂うはカモネールを基にブレンドされたハーブの香り。

 

“カチャカチャカチャ、コトッ、コトッ、コトッ、コトッ”

テーブルに置かれたティーカップからはほんのり甘みを感じるハーブティーの香りが立ち昇る。

給仕のメイドが一礼の後その場を離れると、窓際の席に腰掛けた若者が口を開く。

 

「カーベル、ロナウド・テレンザについて分かっている事はあるか?」

「はい、ご報告申し上げます。

ロナウド・テレンザ、テレンザ侯爵家三男。

幼少期に水属性魔法の魔法適性に目覚めたため、“自身は選ばれた者である”と思い込み、周囲からは所謂“勇者病”として浮いた存在であった様です。

そんなロナウドが才覚を現したのは先のダイソン公国との戦争、第二次アスターナ戦役において南部および南西部貴族軍をバルカン帝国の広域破壊兵器精霊砲の脅威から救った出来事でしょう」

 

「あぁ、その話は親父から聞いている。何でも従軍していない筈の三男が突然魔導士を連れて現れて、数万という将兵を救ったって奴だろう?

いくら負け戦の中で話題反らしの英雄が必要だったからって、作り話にも程があると思ったもんだよ」

口を挟んだのは野性味を漂わせる青年。彼は呆れた様な表情で肩を竦める。

 

「ラグラ、今は私が殿下にご説明しているんだ、口を挟むのは後にしてくれ。殿下、失礼いたしました、続けます。

先程ラグラが申した通りその真相については不明ですが、王城に入った諜報の報告、状況の説明に登城したテレンザ侯爵家長男クリネクス・テレンザの報告により、大規模な戦闘と撤退戦が行われその際ロナウド・テレンザが何らかの働きをした事は事実でしょう」

 

「はい、僕からもいいかな?アルデンティア殿下も既に知ってる話かもしれないけど、ロナウド・テレンザが授けの儀において称号<万軍を救いし者>と<争いを鎮めし三英雄>を授かった事は事実だよ。

つまりさっきラグラが言ってた眉唾物の報告も一旦は事実として受け止めておいた方がいいって事なんじゃないかな?

じゃないとさっき魔法訓練場で見せた<ウォーターボール>の説明がつかないからね。

 

ステータスに現れる称号って奴は神々が我々人類を見守っている証拠とも言われているんだ。つまり称号に現れた以上ロナウド・テレンザは<万軍を救いし者>に相応しい功績を挙げたってこと。

それだけの力があると思って対応した方がいいって事なんじゃないかな?」

 

カーベルの発言に補足を加えたのはにこにことした微笑みを湛えた青年。彼は第四王子アルデンティアの顔を見つめ、言外に“どうします?”と促すのだった。

 

「ハァ~、しゃくではあるが認めざるを得ないだろうな。三英雄だなどと持ち上げられて調子に乗っているだけの愚か者と思っていたが、実力に裏打ちされた内患であると。

ダイソン公国然り、南西部貴族連合然り、その後ろに控えるバルカン帝国の脅威を考えれば迂闊な行動をとれるものではない。

 

今必要な事は国内情勢の安定化、再びオーランド王国を王家を中心とした強力な国家とし、国内外にその威光を示さなければならない。

ゆえに下手な騒ぎは避けなければならないだろう。

 

ロナウド・テレンザの件はしばらく様子見としよう。奴が貴族諸侯をたきつけて騒動を起こすようであれば、我々が前面に立ち断罪せねばならんがな」

アルデンティアはそう話題を締めくくると、いま一つの件に話を変える。

 

「今我々が気にしなければならないのは勇者、そして二名の聖女についてだ。彼らの実力は見ていたのだろう?」

アルデンティアはこの中で最も魔法に詳しいカーベルに視線を向ける。

 

「はい、まずは聖女アリス・ブレイクですが、実力としてはまだまだと言ったところでしょう。おそらくですが攻撃魔法の訓練は殆どしていないものかと。

出自も男爵家の三女、それ程教育に力を入れられるような環境ではなかったものかと。接点を持つのであればそうした訓練を通じ交流を深めることが得策と思われます。

 

次に聖女エミリー・ホーンラビットですが、魔法習熟度としては並みであるかと。彼女は何かと話題になるホーンラビット伯爵家の次女、それなりの魔法訓練は済ませてきているのでしょう。

何と言っても辺境の蛮族、力無き者には配下の者も従わないでしょうから。

もっともその実力は殿下に及ぶべくもありませんが。

 

問題となる勇者ジェイク・クローですが、魔法練度は相当なものであるかと。学園における三学年の優秀な生徒と同程度の実力は既に有しているものと思われます。

流石は勇者の職業を授かるだけの事はあると言ったところでしょうか、これからさらに力を付けると考えれば、勇者物語に語られるような武勇を発揮するという事も納得できます」

 

第四王子アルデンティアは顎に手をやり暫し考えを巡らせる。思い出されるのは学園に入学する前に父であるゾルバ国王陛下から直々に給わった助言。

 

「アルデンティア、その方には伝えておかねばならん事がある。

此度の王都学園入学に際し、新入生として勇者と聖女の入学が決まった。これは勇者物語にある剣の勇者以来の慶事であり、国内情勢の安定化を図る途上である我が国としては、これ以上ない後押しとなろう。

 

だが王家として勇者と聖女を無理に取り込む事は、過去の例からみても良策とは言えない。魔法の勇者は失意のうちに命を落とし、剣の勇者は賢者と共に国を捨てた。

彼らを権力により従わせることはさほど難しくはないだろう、だがその事により何が起きるのかは説明するまでもあるまい。

“勇者とは女神様が我々人類に与えて下さった剣であり、聖女とは癒しである。彼らが見て聞いた物事は、そのまま天に伝わるものと覚悟せよ”

これは剣の勇者が国を去ったのち、当時の貴族社会を憂いた宰相が残したとされる言葉である。それ程に当時の貴族社会は腐っていたという証拠であろう。

何か一言言いたくなるという気持ちは、我にも分からんではないがな。

 

アルデンティア、何故王都学園で身分の垣根を越えた交流が推奨されているのか今一度よくよく考えよ。その上で彼らとの友誼が結べたのならそれに勝る国益はない」

 

あの時、何故国王陛下はあの様なお話をなさったのか、その真意とは一体・・・。

 

「あれ~、アルデンティア殿下、もしかして悩まれてます?常に即断即決の殿下にしては珍しい。

だったらこうしません?

アリス嬢はカーベルが接触、名目は魔法の手解きでいいんじゃないかな?実際カーベルの魔法は僕たちの中で一番だし。

エミリー嬢は僕が接触してみますよ、エミリー嬢は常に勇者ジェイクと一緒みたいだしラグラは勇者ジェイクの実力を見てやるとか言って模擬戦を仕掛けそうだしね」

 

「馬鹿野郎、俺がいつそんな戦闘狂みたいな真似をした。やるんならちゃんと手順を踏んでだな」

「でも挑んじゃうんでしょ?」

 

「当たり前だろう、こんな機会早々あるもんじゃないからな」(ニヤリ)

 

途端笑いだす面々、室内に漂っていた張り詰めた空気が一気に霧散して行く。アルデンティアは“よき友に恵まれたことだ”と自然頬を緩ませる。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。ラビアナ・バルーセン様、アリス・ブレイク様がおみえになられていますがいかがいたしましょうか?」

扉越しに給仕のメイドから掛けられた、予想外な人物の訪問の知らせ。

 

「・・・構わん、入室を許可する」

聖女アリスとラビアナ、この一見不釣り合いな者たちの訪れに、顔を顰めるアルデンティアなのであった。

 

―――――――――――

 

「アリス、あなたはご実家でどういう生活をなさっていましたの?男爵家の三女であれば将来の為に料理の一つでも習っていそうなものですけど?」

二限目、調理実習室で行われた“王宮料理人が教える男性の心を掴む料理術講座”は散々なものでした。と言うかなんですの、アリスのあのリアクション芸人張りのドジっ子ぶりは。小麦粉の袋を開ければ出し過ぎる、粉を篩にかけていたと思えば白煙に包まれる、選別した粉をボールごとひっくり返して粉まみれになる。

今時メシマズ女子は流行りませんことよ?

幸いなことにクッキーの焼き加減は魔道具による自動調整、焦げ焦げの岩石クッキーが出来上がるなどというコテコテの展開にはなりませんでしたけれども。

 

「はい、私の家、ブレイク男爵家は小さな村が一つあるだけの領地でして、特産品がマッシュなんです。ですので子供の頃からマッシュの皮むきを行っていました。

小麦は税として納税してしまいますので、基本的な主食はマッシュでした。取れたてのマッシュを皮付きのまま茹でて、茹で上がったら岩塩を付けていただくのがご馳走でした」

「・・・そう、ご家族の為によくお手伝いをなさっていたのね、アリスは偉いですわ。ご両親もさぞ自慢の娘だったのでしょうね」

 

不意に聞いてしまったアリスの境遇。主食がマッシュって、小麦粉は何処に行きましたの、小麦粉は。納税していたって絶対違いますわよね?国に納める分以外が確りあるはずですものね?

借金の返済による食糧難、小領の貴族にはよくある事と聞いていましたが、ここまでとは。アリスってばゲームではあんなに明るく振る舞っていましたのに、結構ヘビーな背景を持っていたのですね。

前世の私はそう言った事には一切思い至りませんでしたわ。所詮ゲーム、画面の向こうの作り話、何処かそんな思いがあったのやもしれません。

 

「はい、ありがとうございます、ラビアナ様。私、お菓子を作った事なんか初めてで、如何したらいいのか分からなくって。

こんなにかわいいお菓子が作れたのなんて夢のようです。これもラビアナ様のお陰です!」

そう言い花の様な笑顔を向けるアリス、クッ、なんて尊い。その純真無垢な笑顔に灰になって崩れそうですわ。

 

「そう、それは良かったですわ。では早速そのお菓子を持ってアルデンティア殿下の下に参りましょう。

殿下には昨日から何かとお世話になっているのでしょう?アリスの感謝の気持ちを少しでもお返しできれば、アルデンティア殿下もお喜びになると思いますわよ?」

「そ、そうでしょうか?あまりに畏れ多いと言いますか、不敬にあたるのではないでしょうか?」

 

こちらを見てブルブルと震える子猫の様な視線を向けるアリス。あざとい、めっちゃあざとい、こんな表情を見せられたら殿方のハートもいちころではなくて?

流石は主人公、ぜひそのままアルデンティア殿下に突貫かましてください、とっても捗りますわ!!

 

手作りクッキーイベントはゲーム内でも何度かありましたわね。攻略対象の好感度上げと現在の親密度を知る為のいい目安になっていたはず。

親密度がマイナスになってしまうと受け取って貰えないというバッドスチルになるんですのよね。

ゲーマーの中には逆ハーレムエンドを目指すとか言って方々のイベントに手を出しまくって好感度を下げてしまう方々もいましたわね。“なぜ逆ハーレムエンドがないのよ!!”と嘆かれましても、企画制作が冒険RPGを作るようなゲーム会社だからとしか言えませんわ。

私のような王道派の人間にとっては大変好ましい展開でしたけれども。

あちこちに粉を掛ける尻軽女になびくような殿方というのもね、ゲームとは言え恋愛は真剣に楽しんでいただきたいものですわ。

 

まぁ今回のクッキーイベントは初回、アリスがどの攻略対象に興味を示しているのかを知るのが重要ですし、お相手によっては伸ばすべきステータスも変わって来ますものね。

それに未だ姿を現していない隠し攻略キャラもおりますし、ワクワクが止まりませんわ。

 

「失礼いたします。入室の許可をいただきありがとうございます、アルデンティア王子殿下」

本校舎の調理実習室から学園サロンのある建物に移動し、施設メイドにアルデンティア殿下との面会をお願いしたところ、殿下から了承の意を給わる事が出来ました。

これ、私だけで伺っても無理でしたでしょうね。流石は主人公、聖女の肩書は伊達ではないと言ったところでしょうか。

 

「ラビアナ嬢、アリス、よく訪ねて来てくれたね。今日はどうしたのかな?」

そう言いニコリと微笑まれるアルデンティア殿下。

クホッ、流石の破壊力、本物王子のイケメン力は53万なのか!?

 

「はい、あの、先程調理実習の講義でクッキーを作りまして。アルデンティア殿下には昨日からお世話になりっぱなしで、その、少しでもお礼の気持ちをお伝えしたいと思いまして、ご迷惑でなければ受け取ってはいただけないでしょうか!!」

 

そう言い両手で紙袋に入ったクッキーを差し出すアリス、無論袋の口は可愛らしいリボンでラッピングされています。

と言うかアリスのメンタルって強過ぎません?他の侯爵家の御令嬢や伯爵家の御令嬢方は未だに姿を見せませんのに、いくら私が連れてきたとはいえ王子殿下に対してこれ程堂々と。

 

「うん、ありがとう、アリス。早速だけど一枚いただいてもいいかな?」

そう言い袋のリボンを外しクッキーを摘まむアルデンティア殿下。

 

“コリコリコリ”

「うん、蜂蜜の甘さが絶妙だね。この爽やかな感じにはほんのり甘みを感じるカモネールのハーブティーが似合いそうかな?

丁度僕たちがいただいていたお茶がそうだったんだよ、どうもありがとう、アリス」(ニッコリ)

「そ、そ、その様なお言葉、勿体無くもありがたくも。生涯の誉れでございます~~~~」

 

・・・アリス、テンパり過ぎ。何を言ってるのか分からなくてよ?

そんなアリスの様子に思わず吹き出すアルデンティア殿下たち。殿下たちの様子に顔を真っ赤にして俯いてしまうアリス。

ザ・青春の一コマ。

アリス、素晴らしい仕事ですわ!!

私は心の中でガッツポーズを取りながら、この夢のような空間を満喫するのでした。




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