転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第588話 辺境男爵、忙しなく働く

「以上が今週の王都学園の様子となります」

幾つかの品の良い調度品が並べられたシンプルな執務室、執務机に腰を下ろし報告を聞いていた部屋の主は、想像よりも大人し目な報告内容にホッと胸を撫でおろす。

 

「そうですか、ケビン君もご苦労様でした。慣れない学園の講師という立場、さぞ疲れたでしょう」

部屋の主、ドレイク・ホーンラビット伯爵は、執事ザルバの淹れてくれた癒し草の若葉の煮出し茶に口を付けながら、配下の青年の労を労う。

 

「ハハハ、そうですね。あっ、少々言葉を崩させて頂きます。

いや、ドレイク村長、やっぱり俺に勤め人は無理ですって。俺ってば基本その日の気分でプラプラしてる人間ですよ?

そりゃケビン建設は頼まれた仕事をきっちりこなしますけど、アレってば完成形の見えるものばかりじゃないですか。そんな俺が学園の先生って、生徒に質問やら相談された時ってどう対応したらいいんですか?

俺に若者の未来なんか背負えませんっての、改めてボビー師匠って凄いと思いましたよ」

そう言いガックリと肩を落とす青年ケビンに苦笑を浮かべるドレイク。

 

「ハッハッハッ、まぁそう言わずもう少し頑張ってみなさい。

私はケビン君には人に物事を教える才能があると思っているよ、君はなんやかんや言って面倒見がいいからね。

確かに村の剣術指南役はボビー師匠だが、子供たちに魔法戦闘の助言をしていたのはケビン君だっただろう?」

「そう言われればそうですけど、俺がした事なんか困りごとを聞いてちょっと思い付いた事を話しただけですよ?」

 

「それくらいでいいんじゃないかな?あまり周りに合わせてケビン君らしくない事をしようとしても持たないだろう?ケビン君だし」

「あ~、酷くないっすか、俺だって頑張ってるんですよ?まぁすぐにボロが出そうですけども」

そう言いどちらともなく笑いだす二人。

 

「いずれにしても大した事がなくて良かったよ。これからも子供たちの見守り、よろしく頼む。基本的な報告はベルツシュタイン卿の方に回してくれればいいからね、こっちの方は事後報告で。

それと王家の方から夏のオークション用の素材出品を頼まれているんだが、その選定を頼めるかな?」

「あ~、それがありましたね。俺がチャチャッと見繕って来てもいいんですけど、それだとマルセル村が俺ありきだと思われちゃうんですよね。

来週でしたら時間が取れますんで、男衆総出で狩りにでも行きましょうか、今の時期は魔物も活発化してますし直ぐに必要数は揃うと思いますんで」

 

ケビンはドレイクに言葉を返すと、「詳しい打ち合わせはお任せします」と言って執務室を後にするのだった。

 

「パトリシア、調子の方はどうだい」

執務室を出たケビンが足を向けたのはホーンラビット伯爵家屋敷の庭園。低木に若葉が揃い始めたそこでは、可愛らしい三体のホーンラビットが庭先に生え始めた若草の新芽を食んでいる。

 

「旦那様、お仕事お疲れ様です。でも本当にごめんなさい、いくら悪阻(つわり)が酷かったからって実家に帰る様な真似をして」

庭先に置かれたテーブルと椅子、控えのメイドが空のティーカップに入れたてのマルセル茶を注いでいく。

 

「そんなことは気にしなくてもいいよ、と言うよりパトリシアの身体の方が心配だからね。

うちの連中は荒事なら問題ないけど妊婦の面倒はな~。残月がいるから大丈夫だとは思うけど、やっぱりこうした事は経験豊富なセシルお婆さんや出産経験者のお義母さんたちに頼った方がいいと思うんだ。

ガサツな俺たちじゃパトリシアの心の支えには成れそうにないからさ。

それにいざって時に傍にいられない俺よりも、お義母さんたちの方が常に傍にいてくれる頼れる存在だろう?本当に助かってるんだよ、俺って小心者だから」

そう言い面目なさげに頭を掻くケビン。そんな夫の姿にクスリと笑みを浮かべるパトリシア。

 

「旦那様は本当にお優しいんですね。それとボタンちゃん達をあんなに可愛らしくしてくれて、ただでさえ可愛らしかったボタンちゃん達が美しさと可愛らしさを兼ね備えた至高の存在に。

あの子達を見ているだけで幸せな気持ちになります。

セシルお婆さんもボタンちゃん達との触れ合いがとても胎教に良いと仰って下さったんですよ。

ボタンちゃ~ん、マリーゴールドちゃ~ん、スミレちゃ~ん、ケビン様がいらしましたよ~」

 

“““ピョコッ、ピョコピョコピョコピョコ、コテン”””

パトリシアの呼び掛けに、然も今気が付きましたといった風に頭を上げ、ピョコピョコと集まって来るホーンラビットたち。額から伸びる小さな丸みを帯びた角が元の種族を分からせるも、可愛さと愛らしさを兼ね備えたその生き物たちからは、“森の悪魔”と呼ばれ人々から恐れられる魔獣の姿を連想するは出来ない。

 

「みんな、パトリシアの事、よろしく頼むよ?それとみんなのお世話は」

「「「はい、ラビちゃん達のお世話は私たちメイドにお任せください!!」」」

ビシッと姿勢を正し礼をするメイドたち。進化したホーンラビットたちは既に別種、メイドたちの心を鷲掴みにした彼女達は、この先もホーンラビット伯爵家の象徴として長く愛され続ける事になるのであった。

 

―――――――――――

 

夜の帳が下りる。春の作付け作業に精を出していたマルセル村の者たちもそれぞれの家に戻り、家族との会話に花を咲かせる。

 

「それじゃ行って来るよ、後の事はお願いね」

「ん、いってらっしゃい。あとの事は任せるといい」

「いってらっしゃい、旦那様。申し訳ありませんが先に休ませてもらいますね」

 

二人の嫁に見送られて海沿いの城から空に舞う。向かうは山の中腹にある一軒の飲み屋。

 

“ガチャッ、カランカランカラン”

扉を開き店内に入る。ドアベルの音が静かな店に響き渡る。

 

「おはようございます、マスター。開店準備の方は済んでいます」

「おはよう、トライデント。いつも悪いな、一人先に準備に向かわせて」

 

店内ではスラッとした背の高い男性が、カウンターテーブルの奥から声を掛ける。白シャツに黒のスラックス、黒のベストを着込み、クロスタイの中心には赤い魔力結晶の留め具がきらりと光る。

ニコリと微笑む姿は天上のバーテンダー、我ながら服装のチョイスは完璧だったなと、自身を褒め称える。

 

「それじゃ直ぐにでも開店しようか、お客様がお待ちかねだろうからな」

俺はそう言うと急ぎスタッフルームで着替えを済ませ、女神様像の前に膝を突きあなた様に開店の知らせを送るのだった。

 

 

“遅い、いつまで待たせるのよ!!最近じゃ居酒屋ケビンに来るのが唯一の楽しみなんですからね!!

トライデント~、いつものちょうだ~い”

 

祈りを捧げて直ぐ、店の壁に備え付けられた扉を開け放ち入って来たあなた様は、常連客よろしくトライデントに注文を伝えます。

そんなあなた様にもトライデントは笑顔を崩さず、カウンター後ろの棚からボトルと蜂蜜瓶を取り出し、光属性魔力マシマシ蜂蜜カクテル(キラービーバージョン)を作り始めるのでした。

 

“グツグツグツグツ”

調理場の竈に掛けられた鍋から立ち昇る旨そうな香り、煮込まれたマッシュに菜箸を刺し、柔らかさを確める。

 

「よし、こんな物かな」

棚から自作の器を取り出し、そこにお玉でよそって行く。王都のこじゃれたお店で陶器類を購入しても良かったのだが、ここにくるお客様方の特殊性を考えると人用の器じゃ耐久性が足りない。

対最強生物用ジョッキ、世界樹の枝から削り出しで作らせて頂きました。

と言うかここの食器類ってほとんどが垢すり岩製か世界樹の枝製、グラスのみ魔力マシマシガラス製の物を採用させてもらっています。

あなた様がその辺うるさいんですよ、蜂蜜の美しい色合いが見れないとかなんとか。女性相手の接客業は大変でございます。

 

“コトッ”

カウンターテーブルに差し出された器に盛られた煮込み料理から立ち昇る食欲を誘う香り、伸ばされた箸がマッシュを摘まみ、口元へと運ぶ。

 

“あふっ、でもホクホクで美味しい。確り味が染み込んでる、ご飯ちょうだい!!”

「あっ、ごめんなさい。もうお米切らしちゃいました。

ちょっとこっちもバタバタしてたもんで、エルフの里に仕入れに行く暇がなかったんですよね、あそこ遠いし。

買い出しに行くんなら武連国か創国、海を越えた扶桑国ですかね。もう少し南の国でも稲作は行われているらしいんですけど、蒼雲さんのお話だとおコメの品種が違うそうで、炊いて白飯で食べるには向かないらしいんですよ。それはそれでまた違った楽しみ方があるらしいんですけど」

 

俺の言葉に“何でこのおかずでご飯がないのよ~!!”と子供のように騒ぐあなた様、気持ちはよく分かる。

俺も初めてビッグワーム改を食べた時同じことを思ったもんな~、ご飯って凄いよな~。

 

「あの~、あなた様。天上の世界じゃ米は売ってないんですかね?出来れば味噌や醤油も欲しいんですけど」

“あ~、言ってたわよね。でも天上界って基本パン食なのよね~。

ちょっと調べてみたんだけど、エイジアン大陸の東方の担当者たちは米も食べてるみたいでね、購入先を聞いたら下から個人的に買って来てるって言ってたわ。

下の物って個人的に使う分なら比較的持ち込みが自由なんだけど、数量制限があったりするのよ。ケビンが欲しがるくらいの量となると申請が必要な上に結構時間が掛かるのよね。私達って寿命が長い分時間感覚が地上人と違うじゃない?それこそケビンが飛んで買いに行った方が余程早く済むくらいには掛かりそうなのよ”

 

そう言い申し訳なさそうな顔をするあなた様。天界通販とは行かなかったか~、ちょっと残念ですけど、まぁ致し方がないかと。

 

“ガチャッ”

開かれた扉、途端漂う強者の気配。

 

「フィヨルド様、いらっしゃいませ。お飲み物はいつものでよろしいでしょうか?」

“うむ、濃い目で頼む。おぉ、あなた様よ、久しいな。その後仕事の方は順調であるか?”

 

カウンターテーブルに肘を置き声を掛ける最強生物、あなた様とはすっかり飲み仲間でございます。

 

“あら、久し振り。って言うか私が中々来れなかっただけか~。最近じゃ#@&&(御方様)の方がこっちに顔出してるくらいだしね。彼もようやく今の暮らしに慣れ始めたってところだし”

“おぉ、あのトライデントそっくりの若者か。初めて会った時は我の事を見て固まっておったからどうしようかと思ったが、中々度胸のある若者であることよの”

 

“コトッ”

最強生物はそう言い愉快そうに笑うと、トライデントから差し出された木製ジョッキ(特大)をクイッと飲み干すのだった。

 

“ところでケビン、最近はやらかしてないでしょうね。一時期上では魔王カオス様が現れたって大騒ぎになったんですけど” 

そう言いながらお箸でマッシュとキャロルとマッドボアの煮込みを摘まむあなた様。そのジト目は一体何なのでしょう、俺は無実だ。

 

“おお、その話は#@&&から聞いたぞ、マルセル村の催しで行った劇の役柄であったか。あまりの完成度に「ケビンがとうとう魔王を名乗り出した」とか言って天界が一時騒然としたといったものであったか。

こ奴がそんな面倒な事をする訳もあるまいに・・・いや、面白そうと言ってやる可能性も。その辺どうなのだ?”

トライデントにお代わりを頼みながら会話に加わる最強生物、すっかり飲み屋の常連客じゃないですか。

 

「あの、俺本当にやらないですから、これでも新婚なんで、今度子供も生まれますんで。家庭を顧みない親父になるつもりはないですからね?」

““あぁ、うん、何か分かるかも””

 

権力や支配よりも家庭第一、分かっていただけた様で結構でございます。

 

“そう、なら良かったわ。それじゃトライデント以降魔物を進化させたりってのも無かったってことね。

あなたの監視を行っている??%&(放浪の大聖女)が何か怪しいって言ってたから心配だったのよ”

 

「・・・・」(ニコッ)

 

“ケ~ビ~ン~、お前一体何やった~!!全部吐け~~!!”

カウンターを乗り越え胸ぐらを掴むあなた様。ギブギブ、分かりましたから、話しますから~!!

その後あなた様主催の従業員大鑑定大会が行われる事となったのは、致し方のない事なのでありました。




本日二話目です。
年末休みだ~、大掃除だ~、サブいよ~。
いってらっしゃい。
by@aozora
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