転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第590話 乙女ゲームの破壊者たち、無自覚にやらかす

乙女ゲーム「蒼天の花嫁」、それは主人公(ヒロイン)のアリスが王都中央学園という才能豊かな若者と高位貴族子女の通う学園に入学し、慣れない環境の中で努力と挫折を繰り返しながら、見目麗しい攻略対象者たちと出会い交流を深めていく王道青春ラブストーリー。

その背景として冒険RPG「ソードオブファンタジー」の世界が採用されているためファンタジー要素が強く、魔法やダンジョン、剣の訓練といった修行パートもあり、それにより攻略対象者の好感度が上下したりするやり込み要素が売りだった。

 

例えば第一騎士団の騎士団長の息子であるベイル伯爵家次男ラグラ・ベイルを攻略するには授業選択で戦士系職業を選択し剣術の修行を行ったり、魔術後方支援の授業を選択し訓練で傷付いたラグラに光属性系魔法の<ヒール>を施したり。

共に修業を積めば<信頼>と<親愛>を、回復に勤めれば<友愛>と<好意>を得るといった感じである。

ダンジョン攻略パーティーに参加する事で各攻略対象からの信頼を得られやすくなったり、礼儀作法の授業を受ける事でアルデンティア殿下やカーベル様の好感度を上げやすくなったり。

 

その人物ごとにより好感度上げの方法が違ってくるから、解析班の検証が盛んにおこなわれていたっけ。恋愛要素そっちのけでアリスのステータスを上げまくって、王都に潜む巨悪・暗殺者ギルドの幹部を倒したり学園ダンジョン単独攻略やワイバーン討伐を成し遂げたなんて猛者もいたけど。

乙女ゲームなのに攻略対象フル無視ってそれでいいのか運営とも思ったけど、冒険RPGを制作するゲーム会社でした。開発陣のお遊び、冒険RPGも楽しんで出来れば「ソードオブファンタジー」も買ってね!!と言ったところだったんだろう。

 

まぁ買っちゃいましたけどね、確りファンブックも購入してやり込んじゃいましたけどね。

暗殺者ギルドの話でチラリと姿を現す謎のイケメン白炎が暗殺者ギルドの総帥って分かった時には、「なんで攻略キャラじゃないのよ、運営仕事して~~~!!」って絶叫しちゃいましたけどね。

 

「あの頃は完全にゲームの世界にのめり込んでいましたものね。「ソードオブファンタジー」をプレイしてから再び「蒼天の花嫁」をプレイするとより世界観に浸れると言うか、深みが増すと言うか。全てのキャラに色が付いた気がして、ついつい徹夜でモニターに齧り付いたものですわ。

今考えればそんな事をしていたからお肌が荒れてしまっていたのだというのに。

適度な運動と十分な睡眠、規則正しい生活リズムという物がいかに重要か。上下スエットのボサボサ髪喪女は卒業ですわ。

何と言っても今世の(わたくし)は公爵家令嬢、ラビアナ・バルーセンなのですから」

 

“バッ”

半分くらい開いた扇で口元を隠す。咄嗟にこうしたザ・悪役令嬢と言った所作を行えるのも、日頃からの弛まぬ努力の賜物ですわね。

口元を隠しただでさえ鋭い視線を向ければ、どんな殿方もいちころでしてよ?公爵家の威光は活用してなんぼですもの、ホッホッホッホッ。

 

まぁ現実逃避のお遊びはこの辺にしておきましょう。何故私がこんな回想じみた事をしているのかと言えば、目の前の状況に絶賛混乱中だからにほかなりませんわ。

 

「125、126、127、カーベル様、曲げた際の肘の角度がおかしいです。それでは肘や肩を痛めてしまいます、もう少し両手の位置を広げて、はい、結構です。

128、129・・・」

何故かアリスと同室という<賢者>の職を授かったフィリー・ソードさんに腕立て伏せの指導を受けるアリスとカーベル様。

カーベル様が両腕をプルプルさせて限界を訴えるも、光属性系魔法の<リフレッシュ>を掛けて強制的に疲労を回復させるフィリーさん。眼鏡のブリッジに右手の中指を当てクイッと上げる仕草が妙に様になっています。その際レンズがキランと光るのは仕様なんですね、その無駄なこだわり、嫌いじゃありません。

 

私はそんな混沌とした光景から目をそらし、事の始まりを思い出すのでした。

 

――――――――――

 

「ラビアナ様~、どうしたらいいんですか~!!」

基礎魔法学の講義では新入生の魔法習熟度が如実に現れる事となりました。貴族家出身の者たちは授けの儀の後それぞれの家で家庭教師に指導を受けてきているためか、殆んどの者が見事にボール魔法を使いこなしていました。

上級職を授かり入学した者たちも、魔法職の者たちばかりでなく戦闘職の者たちもある程度の訓練は積んできている様でした。

 

とは言え例のロナウドショックにより実力の半分も発揮できない者たちが多数いたことも事実ですが。

 

「なんですのアリス、朝から騒々しい。淑女は落ち着きをもって、常に余裕を忘れない事は物事を冷静に判断する為の基本ですわよ?」

そう言い扇で口元を隠し冷徹な眼差しを向ける私。アリスには自ら動く力を付けてもらわねばなりませんし、あまり私にべったりというのも問題ですわ。

私《わたくし》、推しの恋愛模様を覗き見たいのであって自身の恋愛観を押し付けたい訳ではありませんもの。

強制的にクッキーイベントを起こしていなかったか?嫌ですわ、親切にされたら礼の気持ちを伝える、人として当然の礼儀でしてよ?

 

「すみません、ラビアナ様。(シュン)

あの、私、もっと魔法を上手に扱えるようになりたくて。その、出来ればラビアナ様にご指導願えればと。

ラビアナ様は<短縮詠唱>のスキルに目覚められる程魔法に精通していらっしゃいますし・・・」

グホッ、その小動物的上目遣い、私のハートにクリティカルでしてよ。流石主人公、ゲームではそうやって数々の殿方を攻略していったのですわね。

 

以前から疑問でしたの、なぜ乙女ゲームのヒロインたちはああも自然に攻略キャラにお近付きになれるのかと。攻略キャラの多くは見目麗しいばかりでなく、とてもではないですが身分の釣合いが取れない方々ばかり。

いくら設定として身分の垣根なく接する事が出来るとは言え、無理があり過ぎなのでは?と。

事実新入生の多くは身分ごとに集団を形成し、集団行動をとっていますわ。その点上級生の方々は互いの距離感を確かめながら交流されているようですけれども。(公爵家屋敷メイド情報)

 

でもアリスのヒロイン力が貴族家の令嬢令息にどの様に映っているのか、多少気になるところですわね。

“あの娘、王子殿下に対してなれなれし過ぎませんこと。少々教育が必要ですわね”などといった事になってしまったら目も当てられませんし。

ゲームであればその筆頭は私でしたけれども、今の私は傍観者(ウォッチャー)、他家の令嬢令息の動きは把握しておりませんし。

 

「そ、そういう事ですのね。ところでアリスはご実家で魔法の練習はなさりませんでしたの?

授けの儀からそれなりに時間はありましたわよね?」

「あっ、はい。えっと、私の住んでいたブレイク男爵領には光属性の魔法適性持ちはいなかったんです。だから私が<聖女>の職を授かったと分かった時は、両親共にすごく驚いて。

それで<聖女>と言えば治療魔法じゃないですか。私、職業に目覚めたからか何となくですが治療魔法の事が理解出来て。

ですので実家にいた時は毎日村の各家庭に赴いて、<ヒール>や<リフレッシュ>といった魔法を使って回っていたんです。

今考えれば光属性系魔法は使えるんだから<ライトボール>くらい練習しておくべきだったんでしょうけど、当時はそんな発想も全くなくてですね・・・」

 

そう言い俯いてしまうアリス。まぁそうですわよね、<聖女>と言えば癒しの象徴、回復魔法を使うイメージはあっても攻撃魔法といった発想は直ぐに出て来なくても仕方がありませんわ。

ゲームでも基本回復魔法を使っていればストーリーは進みましたし。

 

でもここは現実、魔物に襲われた時に自衛手段がないのは致命的。(わたくし)自身、如何に生き残るかといった観点で修行に励みまくりましたもの。

 

「ハァ~、そういう事であれば致し方ありませんわね。アリスらしい話と言うかなんと言うか、回復魔法の訓練を行うこと自体必要な事でしたでしょうから、その判断は間違いではありませんわ。

いくら聖女とはいえ訓練なしに回復魔法を十全に使えるべくもなし、たとえ出来たとしてもしっかり理解して使っているのかそうでないのかでは、使用する魔力量や回復度合いに雲泥の差が出てしまいますからね。

それでは今日の放課後魔法訓練場にまいりましょうか」

「はい、ありがとうございます、ラビアナ様。私、一生懸命頑張ります」

 

朝の一時、そんないつもの日常。その時の私は気付きもしませんでしたの、私たちの会話に耳をそばだたせ口元に笑みを浮かべる殿方がいたということに。

 

―――――――――――

 

「やぁアリスさん、君も魔法の練習かい?」

放課後、アリスと共に向かった魔法訓練場。初日の基礎魔法学の授業の際にロナウド・テレンザにより破壊された的は、周囲のクレーターと共にすっかり修復され、まるで何事も無かったかのように多くの生徒が魔法訓練に勤しんでおりました。

流石は名門王都学園、聞けば数年おきにロナウドのような生徒が現れるようで、そうした際のバックアップ体制も確立しているのだとか。

俺Tueeeeは異世界物の定番とはいえ、ここって乙女ゲームの世界でしたわよね?基本が冒険RPGだからそっち寄り?

実は似ているだけの全くの別世界とか?それにしては状況があまりにも・・・。

難しい事は寝ながら考えろですわ。下手な考え休むに似たり、折角の転生、楽しんだもの勝ちでしてよ!(キメッ)

 

そんなくだらない事を考えつつ(当然表情には出しませんわ、これでも高位貴族令嬢でしてよ?)魔法訓練場に向かった私たちに声を掛けてきた人物、それは・・・。

 

「あっ、こんにちは。ハンセン様も魔法の練習ですか?」

アルデンティア殿下の側近の一人知的キャラ担当カーベル・ハンセン様でした。

 

「ハハハ、まぁね。こないだの基礎魔法学の授業では上には上がいるという当たり前の事を思い出させてもらったからね。

魔法の上達の道は魔力枯渇を恐れない日々の努力、私もまだまだだという事だよ」(ニコッ)

 

クッ、自らの才能に驕ることなく努力を惜しまないイケメン、尊い。アリスに向ける爽やかな笑顔も好ポイント、こうした日常系スチルも捨てがたいものがありますわ。

 

「そうだ、よかったら一緒に魔法練習をしないかい?自己鍛錬もいいけど、人に教える事で見えてくるものもあると、私に魔法の手解きをしてくれた魔導士の先生も言っていたんだ。

正直ただ漫然と訓練を積んでいただけじゃロナウド・テレンザの領域には到達できるとは思えなくてね」

そう言い肩を竦めるカーベル様。アリスに下手な心理的負担を与えない様に自身を下げ協力を請うといった名目で魔法指導を申し出るその心遣い、イケメンはやっぱり中身からしてイケメンなのか?

イケメンにこんな申し出をされたら恋愛耐久値ゼロの前世の私なら一発よ!?残念ながら今の(わたくし)にその様な声を掛けてくださる殿方はいませんけども!!(血涙)

 

目付きか、この目付きが悪いのか!!

目元を黒い布地で覆ってしまえばあら不思議、マニアな大きなお友達が大好きな神秘的な美女の出来上がりでしてよ?ゴスロリ風衣装はどこですの?

 

「アリス、よろしいのではなくて?カーベル様は既に中級魔法を習得なさっている程の御方、その見識は私など及ぶべくもありませんわ。

カーベル様、アリスは攻撃魔法についてはほとんど何も知らないも同然。ご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします」

そう言いカーテシーを決める私に気を良くされるインテリイケメン。うん、今日の夕食は美味しく頂けそうですわ。

 

「いいかいアリス、魔法は丁寧な詠唱と明確な魔法像。ただ魔法の詠唱を行うのではなく、自身の中でその魔法の具体像を描く事でより強力な魔法を発現する事が出来る。

先ずは私のボール魔法を見ながら、その感覚を掴んで欲しい」

「はい、よろしくお願いします。カーベル先生!!」

 

そうして始まったカーベル様による魔法訓練。熱心に指導を行う知的イケメンとキラキラした瞳で素直に指導を受けるアリス。

そしてその様子を後方腕組み待機で眺める私。(感涙)

これは日頃の行いがよろしかったからですわね、女神様に感謝ですわ。

 

・・・でもカーベル様の魔法、しょっぱいですわね。映像的にはこの上なく素晴らしいのですけれども、単純に魔法の習得という意味ではちょっと。

先程仰られていた指導方法も何か古臭いと言うか発展性が無いと言うか、それこそ天下の大魔導士の方の魔法を目標にするのならまだしも、明確なビジョンがカーベル様のしょっぱいボール魔法って・・・。

 

ハッ、思い出しましたわ、これは前世の世界で会社の同僚と行ったゴルフ練習場での一コマですわね。訳知り顔のおじさまが若い子にスイング指導していた光景にそっくりですわ。

どこかで見た事があると思ったらそう言う。何か凄いスッキリいたしましたわ。

 

「・・・基礎がなっていない、魔力の集束が甘い。それ以前に体力が足りなさ過ぎる」

ボツりと呟かれた的確な駄目だし。そうそう、こういう指摘をされる方もいましたわね。一度そう考えてしまうとこの場所がゴルフ練習場にしか思えませんわ。

缶ジュースの自販機はどこですの?

 

「む、なんだい君は、私の指導法にケチをつけるのかな?」

あっ、カーベル様の無駄に高いプライドに火が着かれてしまいましたわ。あの方、大丈夫なのでしょうか?

 

「ケチというより駄目出し?魔力の運用に無駄が多過ぎる、そんなんじゃ直ぐに魔力枯渇を起こしてしまって十分な訓練は積めない。

・・・もしかしてそれが目的?魔力枯渇を繰り返す事で魔力量を増やそうとしていた。

であったのならば余計な事を言いました。訂正してお詫びいたします、申し訳ありませんでした」

そう言い丁寧に頭を下げその場を離れようとする女子生徒。

そんな彼女の態度に顔を引き攣らせるカーベル様。カーベル様、結構煽り耐性が低かったのですね。

 

「なっ、貴様「あっ、フィリーちゃん。フィリーちゃんも魔法の練習をしに来たの?良かったら一緒に練習しない?」」

カーベル様の言葉を遮り女子生徒と会話を始めるアリス、貴方は天然の殺し屋ですの!?

フィリーさんってあなたと同室の方ですわよね?物凄く嫌そうな表情をなさっていますわよ。

 

「勝負だ!!貴様と私、どちらが優れているか、貴様の魔法がどれほど劣っているのかその思い上がった心に刻みつけてやろう!!」

そう言いビシッとフィリーさんを指差すカーベル様。

口は禍の元、私はフィリーさんに対し同情を禁じ得ないのでした。(合掌)




本日二話目です。
年末もお仕事の方々、お世話になっております。
頑張って。
いってらっしゃい。
by@aozora
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