転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第595話 転生勇者、教務棟を訪ねる

俺が女神様より勇者の職を授かり王都学園に入学することが決まった時、シルビア師匠は「王都学園の魔法の授業は酷く稚拙でつまらない様に感じると思うけど、それは予め覚悟しておいてね」と言っていた。

その話を聞いたケビンお兄ちゃんは、「どんな授業であっても知らない事や知らない考え方なんてものもあるし、学びは何処にでもあるものだから。・・・これも修行だ、頑張れ!!」とどこか他人事のように気楽な言葉を掛けてくれた。

 

初めて受けた魔法の授業、ガイアス・タスマイヤー先生の“基礎魔法学”の時間に魔法訓練場で見た新入生たちの魔法。正直稚拙としか言いようのないものばかりだった。

この中で魔法を撃つ、どれくらいの威力であれば許される?期待されている力はどの程度?

俺達マルセル村出身者は、他の者たちとは違った悩みに頭を抱える事となってしまった。

まぁその問題は先に初級水属性魔法<ウォーターボール>でやらかしてくれたロナウドのお陰で解決する事が出来たんだけどね、本当にロナウド様々である。

 

その後行われた様々な魔法関連授業は、正直“これ、受ける必要がある?”といったような内容の物ばかりであった。

唯一これはと思ったのはシルビーナ先生の“分析魔法学概論”の授業、魔法をただの現象として捉えるのではなく、法則として捉えそこに新たな理論をはめ込む取り組み、シルビア師匠の教えに通じるものがあり挑戦者の姿勢が見えるとても興味を惹かれるものであった。

ただ周りの生徒の受けはあまり良くなかった様ではあったけれども。

 

シルビーナ先生、授業の進め方が下手なんだよな~。聞かせよう教えようって言う気が一切ないんだもん。

あれじゃただの研究発表だよね、こちらに自身と同等の知識を求められても、俺たち新入生だからね?知らないのが当然だからね?

中には熱心に話を聞いて「流石はシルビーナ先生だ」と目を輝かせている様な生徒もいたけども、そんな生徒ごく少数だから。

あの人たちは魔法研究部に入るね、なんかリリアーナ先輩と同じ匂いを感じるし。王都学園の魔法研究部の伝統はこうやって引き継がれていくんだろうね。

 

「ねぇジミー、“便利な生活魔法活用術講座”の授業って、ずっとさっきみたいな感じなの?なんか懇切丁寧に世間一般の常識を破壊して行くような」

「あぁ、そうだな。俺達マルセル村の者にとっては常識的な事も世間一般じゃ相当に非常識なようだからな。

そうしたマルセル村の常識を懇切丁寧に理解し易く教えてくれるような授業と言えばいいのか。

最大の衝撃はこれだな」

 

そう言いジミーが取り出したのは一冊の教本。

 

「これは授業で使う教本として配られたものだな」

「「生活魔法と応用」、著者 : ケビン・ワイルドボーイ。・・・ケビン・ワイルドボーイ!?」

突然大きな声を上げた俺にビクッと驚くエミリー。いや、本当ごめん、だからその拳は勘弁してください。

 

「あぁ、ケビン・ワイルドボーイ、それってケビンお兄ちゃんの偽名らしい。捻りも何もないけど、それで誤魔化せると思ってる辺りケビンお兄ちゃんらしいと言うかなんと言うか。

ネイチャーマン先生曰く、ケビンお兄ちゃんは自身が著者であると知れると生活魔法の普及に支障をきたすと考えたとかなんとか。凄い嘘っぽいけどな、絶対に面白そうだからって理由で適当に付けただけだと思うぞ」

そう言い肩を竦めるジミー、俺もそう思います、ケビンお兄ちゃんってお遊びをするときは全力でふざけるもんな~。これもお遊びの一環だったんだろうな~。

 

「それと講義の中でネイチャーマン先生が<ウォータージェット>を披露した」

「えっ、<ウォータージェット>って去年俺とエミリーが領都学園の見学に行った時にケビンお兄ちゃんが魔法訓練場でやらかしたあの!?」

 

「おそらくな。俺はその魔法を見てないから分からないが、離れた場所の木の枝を切り落としてたぞ。流石に魔法訓練所の的に使われてる標的の岩を切り裂くほどの威力はないと思うが、アレはかなりのものだ。オークくらいなら遠距離から余裕で仕留められるんじゃないのか?」

「お~~~、凄い」

ジミーの話に思わず感嘆の声が漏れる。魔力視で見た感じ魔力量は人並みよりやや多いくらい、だが魔力の揺らぎが非常に少なく、これまでよく修行して来たのだろうことが見て取れる。

生活魔法の研究者ビーン・ネイチャーマン先生、こうした人もいるのかと、世の中の広さを改めて痛感する。

 

「フレアリーズ殿下、ぬいぐるみなら他にもありますので、こちらのラクーンのぬいぐるみなんかはいかがですか?このやや丸みを帯びた耳など非常に可愛らしく」

 

「いえ、ネイチャーマン先生、御気遣いいただきましてありがとうございます。ですが私は別にぬいぐるみを取り上げられたことに落ち込んでいた訳ではないのです。

私のスライムちゃんが、この手に包まれたスライムちゃんの柔らかな触り心地が、あの素晴らしい解釈のもと制作されたスライムちゃんのぬいぐるみがですね・・・」

 

う~わ、フレアリーズ第五王女殿下、まさかのスライムマニアだったよ。お付きのヘレン嬢が頭を抱えられておられるよ。

 

「ハハハ、そうですか、スライムを。という事はフレアリーズ殿下はスライムの飼育を?」

「はい、ウチのスラちゃんはとってもかわいくておりこうさんなんですよ?私が声を掛けるとプルプル身を震わせて応えてくれるんです♪」

そう嬉しそうに答え花の様な笑顔を浮かべるフレアリーズ第五王女殿下。

流石は王族、プリンセススマイルの破壊力は半端ないです。

でもな~、俺やジミーはもっとすごいものを何度も見てるからな~。ロナウドは、おっ、顔を赤くしてやがる、脇を小突いてやろう。

 

「ハァ~、フレアリーズ様、本当にスライムの何がそんなにいいんですか。あんな役にも立たない最下層魔物なんていなくてもいいじゃないですか」

ネイチャーマン先生がいれたハーブティーに口を付けながら呆れのため息を吐くヘレン嬢。

スライムも実際飼うと可愛いんだけどな。俺も黒蜜先生を飼うまでは可愛いなんて思った事もなかったけど、大福は宿敵だったし。

 

「ハハハハ、まぁ世間一般のスライムに対する認識はヘレンさんの仰る通りかもしれません。スライムが好きと公言なさっているような人は余程の変わり者と言ったところでしょうか。

ヘレンさんはフレアリーズ殿下がそうした世間の目に晒され貶められるのではないかと言ったことを危惧なさっておられるのでしょう。世間の認識など一朝一夕に変わるものでもありませんからね」

ネイチャーマン先生はそう言ってから席を立つと、本棚から一冊の本を引き抜くのでした。

 

「「スライム使いの手記」、著者:ジニー・フォレストビー。

この本との出会いは衝撃的でした。思わずなけなしのお金でこの豪華版まで購入してしまい、妻にどれ程説教されたか。今思い出すだけでも身の震える思いです。

皆さんは御存じですか?剣の勇者様が賢者様に科せられたという反省の姿勢、“正座”というものを。足の痛み、痺れ、感覚の喪失、解放されても立ち上がる事叶わず、その痺れる脚をツンツンと(つつ)かれた時の苦痛と言ったら・・・。

申し訳ございません、つい過去の出来事を思い出してしまいました。お忘れいただけましたら幸いです。

 

話が逸れましたが、その「スライム使いの手記」にはスライムという生き物の全てが詰まっていると言ってもいい素晴らしい研究成果の数々が記載されています。著者であるジニー・フォレストビー氏はテイマーでしたがテイマーの外れスキル<魔物の友>という特殊スキルを授かっていました。

このスキルは複数体の魔物をテイム出来る代わりに最下層魔物であるスライムとビッグワームしかテイム出来ないと言われているスキルです。

本来であれば冒険者などと言う危険な仕事は諦め別の道に進むのが通常なのですが、ジニー氏は諦めなかった。

ジニー氏はスライムと向き合いスライムの持つ特性や可能性を研究し、数々の依頼を熟して銀級冒険者として活躍されていた。この著書にはそんなジニー氏が冒険者時代に研究したスライムの全てが書かれているのです。

 

・・・あげませんからね。これは貴重な初版本なんですから、いくらフレアリーズ殿下が物欲しそうな顔をなさっても絶対にあげませんから。

ご自分で購入なさるか大図書館で借りて読んでください。

大図書館にはワイルドウッド男爵様が寄贈した豪華版の本が数冊置かれているはずですので。購入されるのでしたらモルガン商会王都支店でお問い合わせください。出版元がグロリア辺境伯領のモルガン商会となっていましたので」

 

そう言いいそいそと本棚に「スライム使いの手記」を片すネイチャーマン先生。これはフレアリーズ第五王女殿下に渡したら二度と帰って来ないとの判断からですね。借りパク確定、王族って怖い。

 

「ネイチャーマン先生、話は変わりますがケビンお兄ちゃん、ケビン・ワイルドウッド男爵との関係についてお聞かせ願いたいのですが。

俺はどうもその辺が分からないんです、ケビンお兄ちゃんは基本マルセル村にいるような人ですし、そのケビンお兄ちゃんが王都学園の講師をされる様な人と親しくされているという事が」

 

そう言いネイチャーマン先生に鋭い視線を向けるジミー。確かにそれは俺も不思議に思っていた事、正直今でも信じられない。だってケビンお兄ちゃん、ずっとマルセル村にいたし。

 

「そうですね、確かにジミー君が不思議に思われるのも当然でしょう。

私がワイルドウッド男爵様に初めてお会いしたのは昨年の春の事、あれは私がぬいぐるみ工房モフモフマミーでグラスウルフのぬいぐるみにするか、それともフォレストウルフのぬいぐるみにしようか悩んでいる時の事でした。

この学園に通われているような高貴な方々には理解しづらいかもしれませんが、ぬいぐるみというものは庶民である私たちにとっては結構な贅沢品なのですよ。その当時の私は生活魔法の研究者とは名ばかりの一介の雇われでしたから。

日々様々な仕事を熟し食い扶持を稼ぐ、妻には随分と苦労を掛けて来たと思います。

 

そんな私の唯一の趣味、癒しがぬいぐるみだったのです。中でもモフモフマミーのぬいぐるみは他の追随を許さない素晴らしい出来の作品たちです。生活を切り詰めて少しずつ貯めたお金でぬいぐるみを買う、これが私にとっての最高の贅沢であり喜びでした。

 

ワイルドウッド男爵様は叙爵されて初めての王都と言っていましたか。

以前はアルバート子爵家の騎士をしていたものが、先のダイソン公国との戦争を終戦に導いた功績で主家であるアルバート子爵家が家名を変更されホーンラビット伯爵家として陞爵、ご自身は準貴族である騎士爵から正式な貴族である男爵に叙爵されたのだと仰られていました。

 

もっともその話を教えていただいたのはぬいぐるみの素晴らしさについて熱く語り合った後の事でしたので、知った時には冷や汗が噴き出したものでしたが。

正直な話、ワイルドウッド男爵様は地方商人のご子息が初めての王都にはしゃいでるようにしか見えなかったのですよ、蚕クイーンやダンゴムシキングのぬいぐるみを抱えて「堪らん、堪らんぞ!!店主、これらの品を全て貰おう!!」とか仰られていましたので」

 

そう言いどこか懐かしそうに微笑むネイチャーマン先生に、大変申し訳ない気持ちになる俺たち。ケビンお兄ちゃん、自重して!!平民にとってお貴族様との付き合いはストレス以外の何ものでもないの!!

 

「その後私が生活魔法の研究をしている話をしたところ、是非その研究成果を見たいと仰られまして、王都滞在中は何度か我が家に。

私が王都学園に講師として雇っていただけるようになったのもワイルドウッド男爵様のお計らいによるものなんですよ。

「来年度ホーンラビット伯爵家次女エミリー・ホーンラビットお嬢様と騎士ジェイク・クローが王都学園に入学するから、彼らが何か困っていたら手を貸してやって欲しい」と仰られて。

当然王都学園には厳しい採用基準がありますし、その事は臨時講師である私も同様、採用試験の為にワイルドウッド男爵様には沢山の技術を教わりました。

幸い私はこれまでの研究で下地が出来上がっていたからか、そうしたものをすんなりと身に付ける事が出来ましたが。

あの時は泣きましたよ、これまでの私の人生は間違ってはいなかったとね」

 

そう言い優しく微笑むネイチャーマン先生の表情は、とても晴れやかでどこか眩しく見えるのでした。

って言うかケビンお兄ちゃん、こんなにいい人を巻き込んじゃ駄目じゃん!!しかも王都学園の臨時講師の採用試験を受けさせるって、どれだけの伝手を持ってるのさ~~~!!

 

俺たちは改めてケビンお兄ちゃんの謎の交友関係に戦慄を覚えると共に、その無茶苦茶ぶりに頭を抱えざるを得ないのでした。




あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いします。
本日一話目です。
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