転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第596話 転生勇者、剣聖の教えを受ける

“職業”、それは女神様が力ない人類にお与え下さった福音である。

日々魔物の脅威に晒される人々が生き抜く為に、戦う為に与えられた希望の光、それが授けの儀において女神様より授かる事の出来る“職業”であると言われている。

中でも強力な職業、有用で特別な職業と言われているもの、<勇者>・<聖女>・<賢者>・<剣聖>の持ち主は、世界に強い影響を与え続けてきた。

 

<勇者>、それは“力”の象徴。女神様が人類にお与え下さった剣であり希望。時代時代に現れる“魔王”という災厄から人類を救い、人々を導いてきた。

<勇者>の現れは慶事であり、女神様が人類を見守り続けている証であると言われている。

 

<聖女>、それは“癒し”の象徴。人類の苦難はなにも魔王ばかりではない。多くの人々を苦しめるもの、それは怪我であり病。様々な理由で土地は穢れ、多くの魔物が生み出される。

嫉妬、欲望、恨み、辛み。人の内側から生まれる穢れは、人を、物を、土地を、多くのモノを汚し貶める。

<聖女>の救いは人々の願い。<聖女>は人々をやさしく見つめ、慈悲の心で救い給う。

 

<賢者>、それは“知恵”の象徴。<賢者>とは探求する者たち、求める者たち。その在り様は時代を進め、人々を導き、人類の文明を発展させ続けてきた。

魔法然り、魔導然り、様々な道具然り。<賢者>の尽きる事の無い好奇心と探究心は、人々に発展と未来を示し続けるだろう。

 

<剣聖>、それは“武力”の象徴。戦う力、挫けぬ精神、<勇者>が女神様から与えられた“力”の象徴であるのなら、<剣聖>は人類から生まれた“武力”の象徴。

多くの武芸者が目指す頂点にして憧れ、人々を魔物の脅威から救い続ける最強の剣にして盾。

<剣聖>が立ち続ける限り、祓う事の出来ぬ厄災はない。

 

 

“シュッ、スーーーー、シュッシュッシュッ、スーーーー”

振り下ろされたロングソードが、清廉な朝の空気を切り裂く。青年は静かに剣を構えると目の前の空間をじっと見据える。

 

“フンッ”

“スパッスパッスパッ”

剣が走る、剣が躍る。青年は油断なく残身を取り、大きく息を吐くとゆっくりと構えを解いた。

 

「ふむ、あれからも確りと鍛錬を積んでいたようですな」

不意に掛けられた声、青年は声のした方に振り向くと、一礼の後言葉を返す。

 

「おはようございます、クルーガル先生。まだまだ未熟ではありますが、日々の鍛錬だけは欠かす事なく続けさせていただいております」

「うむ、自身の職業に慢心する事なく努力を続ける、簡単そうで中々できる事ではない。

私はこれまで多くの者たちを教えてきたが、ラグラ殿ほど将来が楽しみであった者など両手で数えるくらいしかおりませんぞ。その者たちは皆各国で国を支える要職に付いている、この分であればオーランド王国も安泰と言ったところですかな?」

 

そう言い満足気に頷くクルーガルに、恐縮といった表情を向けるラグラ。

 

「クルーガル先生、先生の教えはしかとこの胸に刻み、日々精進し続けてまいります。

それで先生は本日は・・・」

「ふむ、昨夜も話しましたが、この度オーランド王国に勇者が誕生したとか。

現在世界で勇者が確認されている国は二つ、スロバニア王国の南隣国であるナミビア王国と、大陸南東の国、ガジン王国。これはドルメキアン商業国の情報であり確かなものであろうかと。

ここに我がオーランド王国が加わる事で、オーランド王国の発言力は世界的にも大きなものとなる。

 

だが勇者とは力の象徴、本人がどの様な人物であるのかなどとは関係なく周りが持ち上げるもの。であればその資質をこの目で確かめてみたくなるというのが人の(さが)でありましょう」

 

そう言い獰猛な笑みを浮かべる老齢の偉丈夫に、またこの御方の悪い癖が始まったと顔を引き攣らせるラグラ。

 

「しかしクルーガル先生、王都学園には関係者以外の立ち入りは禁止されています。行き成り押し掛けても」

「その点は抜かりありませんぞ、既に王都学園には伺いを立て、学園長殿より許可をいただいておりますでな。

“アルデンティア第四王子殿下をはじめとした才能ある若者たちに大剣聖と呼ばれた私が手解きをしたい”と申し出たら一発でありましたぞ。

いや~、肩書とは便利なものですな~」

 

そう言い愉快そうに笑う目の前の伝説に、乾いた笑いで返すラグラ。

 

「では我々も学園に行く準備をせねばなりませんぞ、ゆっくりし過ぎて遅刻などしては目も当てられませんからな」

そう言い朝の支度を促すクルーガルに、嫌な予感しかしないラグラなのであった。

 

—―――—――—―――

 

王都学園武術訓練場、そこでは授業のため集まっていた生徒たちが、隠し切れない興奮に騒めいていた。

 

「なぁ、あの話って本当なのか?大剣聖クルーガル・ウォーレン様が学園に来てるって」

「あぁ、本当らしいぞ。剣術部の先輩が正門で馬車から降りたクルーガル様を目撃したって言ってたしな。

どうもアルデンティア第四王子殿下の取り巻きのラグラ・ベイルと一緒だったとか。おそらくだけどベイル伯爵家に招かれてるんじゃないのか?」

 

「はぁ?ベイル伯爵家って言ったら今や落ち目の旧勢力じゃんか、何でそんな家に大剣聖クルーガル様が」

「馬鹿、やたらなことを言うなよ。ベイル伯爵家の長男は近衛騎士団の班長をしてるんだ、ベイル伯爵家がいつまた返り咲くのかなんて分からないんだぞ?

それに現役時代ほどではないとは言え、未だ騎士団長だった頃の発言力は残ってるんだ。下手な話しでも伝わってみろ、どんな報復があるのかなんて分からないぞ?」

 

「うげ、マジかよ。うちみたいな弱小伯爵家じゃ直ぐに潰されちまうじゃん。本当に王都学園は気の休まる暇がないわ。

身分関係なしの交流とか言われて暢気な顔をしている上級職の連中が羨ましい」

「馬鹿、アイツらだってそれが建前だけの話だってことはとっくに知ってるよ。後ろ盾のある連中はその貴族の笠に隠れてるし、後ろ盾なく寮に入った連中は上級生の先輩たちによくよく言い聞かされてるらしいからな」

 

「なんだよそれ、俺親から上手い事上級職の者を引っ張って来いって言われてるんだけど!?」

「まぁ、うん、頑張れ。俺の所も似たようなもんだ、一緒に声掛けから始めようか」

 

「「・・・世知辛いよな」」

 

平民には平民の、下級貴族には下級貴族の、高位貴族には高位貴族の。

それぞれに悩みや苦しみというものがあるのだろう。

やたら耳がいい俺には小声の噂話も筒抜けだったんだけどね。

 

「どうしたジェイク、妙に神妙な顔をして」

「いや、ちょっと噂話が耳に届いてね、お貴族様ってのも大変だなと」

 

「まぁそうだろうな。よくケビンお兄ちゃんが王都貴族社会は魑魅魍魎の集まりって言ってたくらいだからな、王都学園に通うような令息令嬢なら背負っているものも半端ないだろうさ。

それよりこの生徒たちの浮ついた感じの原因は分かったのか?」

 

そう言い肩を竦めながら俺に言葉を促してくるジミー。ジミーは周囲がどう騒ごうが関係なし、障害があるなら踏み潰せばいい的な所があるからな~。

ジミーもう少し周りに気を配ろう、小虫精神は大事だぞ?(エミリーちゃんの調教済み)

 

「あぁ、なんでも大剣聖クルーガル・ウォーレン様という御方が学園に来ているらしい。第四王子殿下の側近のラグラ・ベイルと一緒に馬車から降りたところを目撃されたらしい」

「・・・という事は」

 

「まぁ目的は勇者である俺の実力を測りに来たか、よく分からない剣士職であるジミーの実力を測りに来たか。<剣天>って奴は教会でも初めて確認された職業だったんだろう?」

「あぁ、魔力量の関係で王都学園に入る事になったが、そうじゃなければ領都学園だっただろうって話だったよ。

あの時は油断したと言うか、勝手に魔力が溢れてしまってな。本当にやっちまったと言うかなんと言うか」

 

そう言いガックリと肩を落とすジミー、普段なんでも卒なくこなすジミーだけど、やらかす時は盛大にやらかすからな。そういうところってドラゴンロード男爵家の血筋なんだろうか。

ケビンお兄ちゃんやヘンリー師匠もそうだし。

 

「まぁ、結果的にみんなで同じ学園に来れたんだから良しとしとこうぜ。

それより先生が来たぞ、それと学園長とやけに雰囲気がある人。

あれが大剣聖?」

 

それは学園長と共に武術訓練場に現れた偉丈夫、年の頃はボビー師匠と同じくらいか、物事に達観したような落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 

「皆静かに。もしかしたら既に噂で聞いていたかもしれないが、本日は彼の大剣聖クルーガル・ウォーレン様が、我が王都学園新入生の授業を見学しにいらしてくださった。

これは大変名誉な事であると共にまたとない機会でもある。皆の現在の実力をウォーレン様に見ていただき、指導を受けて貰いたい。

なに、我々の実力などウォーレン様にとっては児戯にも等しいもの、失礼のないよう全力で胸を借りるように」

「「「「「はい、ウォーレン様、ありがとうございます!!」」」」」

 

武術教諭の言葉に、嬉し気に応える生徒たち。剣聖と手合わせできるなんて、メジャーリーガーにバッティング指導を受ける野球少年と同じ気分なんだろうな。

 

「・・・ジミー、駄目だからな。ちゃんと押さえろよ」

「何を言ってるジェイク、俺がそんな失敗をする訳ないだろう?」

そう言い獰猛に口元を歪めるジミー。全然分かってないじゃん、ニチャ~って擬音が聞こえてきそうじゃん!!

 

「うむ、王都学園の生徒諸君、はじめまして。今紹介を受けたから分かると思うが、クルーガル・ウォーレンと言う。

大剣聖などと大それた称号を給わっているが、要は生き意地汚いおいぼれよ。多くの厄災と戦い生き残ってきた、この称号は褒美のようなものかの。

 

武術教諭殿も仰っていたが、今日は皆の実力を見せてもらおうと思っての。一人一人といきたいところじゃが、人数もおるし五人一組でお願い出来るかの、これでも指導者としても長い故確りと動きは見れるでな」

そう言いニコリと微笑む表情には子供のようなワクワクと言った感情が見て取れる。これってマルセル村でボビー師匠やヘンリー師匠が俺をボコボコにしていた時の顔じゃん、歯ごたえのある元気な若者超楽しいって奴じゃん、大剣聖様、遊ぶ気満々じゃん!!

 

「それでは組み合わせはこちらから呼ぶぞ。戦士職の者は木剣を、魔法職の者は長杖を使うように。

アルデンティア殿下、ラグラ・ベイル、カーベル・ハンセン、アリス・ブレイク、ピエール・ポートランド」

「「「「「はい」」」」」

 

そうして始まった模擬戦形式の指導、うん、大人と子供ですね。

流石大剣聖、上手いわ~。絶妙な体捌きで相手を誘いつつ問題点を指摘したり良い所を褒めたり、剣聖と言う肩書上多くの貴族屋敷に招かれて指導を行ってきたんだろうな~。

当たり障りのない絶妙な言葉遣い、周囲にバレない様にしつつも巧妙に仕組まれた忖度、大変勉強になります。

 

「いや~、流石は第四王子殿下、その鋭い踏み込みは王者の風格ですな。

如何せん身体が出来上がっていない為か動きが若干遅れ気味ですが、言い換えればまだまだ伸びしろがあるという事、これからも精進を続けなさいませ。

 

そちらのお嬢さん、位置取りが良かったですぞ。おそらくは回復職かの?

回復職はパーティー編成の要、周囲を信頼しいつでも周りの状態を見ることが大切じゃで、その調子で頑張りなさい。

 

他の者の連携も素晴らしい、アルデンティア殿下はよい仲間に恵まれておるようですな」

 

アルデンティア殿下べた褒め。確かに全体の動きはよく連携が取れてると思うし、こんなの一朝一夕じゃできないと思うんだけど?

って言うかアリスさん以外いつもの殿下の取り巻きじゃん、そりゃ連携も取れるっての。

そんな中に突然放り込まれた割には確り付いて行けたアリスさんって結構凄いかも。そりゃ剣聖様がお褒めの言葉を与える訳だわ。

 

「次、アルジミール・マルローニ、ライオネス・ベルーガ、ロナウド・テレンザ、エミリー・ホーンラビット、フィリー・ソード」

「「「「「はい」」」」」

 

周囲で見守る生徒たちの中から前に歩み出たエミリーたち。大剣聖を前に気負う事もなく構えを取る彼ら。

 

「ふむ、中々精悍な顔つきの者たちじゃの、これは楽しみじゃて」

「始め!!」

 

““バッ、ドガドカドカドカドガドカドカドカ””

開始の合図と共に駆けだしたロナウドとエミリーが左右から怒涛の連撃を仕掛ける。

 

「アルジミール君とライオネス君は、ロナウドとエミリーが避けたのと同時に仕掛けてください。大剣聖の横薙ぎが来ます、3、2、1」

「「えっ、あっ、は、はい!!」」

 

「クッ、やりおるの。<横一線>」

“ブオンッ”

““バッ””

 

「今です!!」

「「ヤァ!!」」

“ドカドカッ”

 

「一本、そこまで。勝者、アルジミール・マルローニ、ライオネス・ベルーガ、ロナウド・テレンザ、エミリー・ホーンラビット、フィリー・ソード」

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

あまりの展開に静まり返る武術訓練場、自身の起こした結果がいまだに信じられないといった表情でその場に固まるアルジミール君とライオネス君。

 

「ワハハハ、やられてしもうたわい。本当に若者の力と言うものは想像を超えて来るの~。いや、見事であった、私の完敗だ」

そう言い愉快そうに笑う大剣聖の目は全く笑っていないのでした。

う~わ、この人負けず嫌いだわ、次の組み可哀想。

俺はこの後の組になりませんようにと祈らずにはいられないのでした。




本日二話目です。
初詣いきました?
いってらっしゃい。
by@aozora
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