転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第597話 転生勇者、剣聖の教えを受ける (2)

“カンカンカンカンカン、タンタンタンタンターン”

武術訓練場に響く木剣を打ち合わせる音。手元付近を打ち据えられ、木剣を取り落し唖然とする生徒たち。

 

「ハッハッハッ、どうしましたかな?実戦の場では集中力の切れた者から死んでしまいますぞ?」

そう言い若干の殺気を漂わせる大剣聖様に、慌てて身を正す生徒たち。

 

武術訓練場で急遽行われる事となった大剣聖クルーガル・ウォーレン様による特別授業、ある者は興奮し、ある者は感激し、それはまるで憧れの大スターを前にしたファンたちといった様相を呈していた。

当初大剣聖クルーガル・ウォーレン様はその知名度に相応しくとても人当たりの良いまさに剣聖といった指導を行っていたのだが、エミリーたちが武術教諭の言葉を忠実に熟しちゃいまして。

 

“我々の実力などウォーレン様にとっては児戯にも等しいもの、失礼のないよう全力で胸を借りるように”

普通こう言われると小細工無しに全力の振り抜きで打ち込んだりと、ザ・熱血青春ものといった感じの展開を行うんだろうけど、そこはマルセル村でボビー師匠やヘンリー師匠の薫陶を受け大福先生に鍛え抜かれた俺たち。

俺たちの本気、それは即ち実戦における勝利。状況を分析し作戦を組み立て油断や隙を誘い勝利を掴む。それは狩りであり作業、そこに名誉や栄光、ましてや自己アピールなんて必要ない。

この場での勝利はどのような形であれ目に見える状態で一本を決める事。そう言った意味でフィリーの指示は完璧だったよな~。

 

先ずはエミリーとロナウドが左右から猛攻を仕掛ける事で意識を自分たちに集中させ、要注意人物と思わせる。

流石は大剣聖様、初手の攻防でロナウドとエミリーの実力に気付き最大限の警戒を行ってたもんな。密着しての猛攻を嫌った大剣聖様が二人を引き剥がすのは当然の流れ、そこにアルジミール君とライオネス君の打ち込み。

通常であれば大剣聖様には当然見えていたんだろうけど、その動作に被せる様にエミリーとロナウドが若干気配を消しつつ打ち込みの姿勢に入ったものだから堪らない。

大剣聖様の意識は完全にアルジミール君たちを陽動としたエミリーとロナウドの攻撃に引っ張られ、まるでスローモーションで近付いて来る木剣を眺めながら喰らうかのように、あっけなく一本取られてしまったって訳です。

達人故に身動きが取れなくなるという非常に高度な攻防、全ては指示を出したフィリーの采配の賜物。

 

この高度なやり取りが分かった生徒って、どれだけいたんだろうか。学園長はいまいち分かって無さげ、武術教諭の先生は凄い感心しているから分かっていたのかな?

アルデンティア殿下たちは、・・・駄目みたいですね、残念です。

 

「ワハハハ、やられてしもうたわい。本当に若者の力と言うものは想像を超えて来るの~。いや、見事であった、私の完敗だ」

笑いながら生徒たちの実力を褒める大剣聖クルーガル・ウォーレン様、でもその目が一切笑っていないって言うね、完全に火が着いちゃってるじゃないですか~~~!!

 

「次、・・・」

そして続けられる大剣聖様の八つ当たり、もとい指導。

もうね、新入生涙目よ?大剣聖様、一切の隙を見せないんだもん。淡々と熟す熟す、アルデンティア殿下の時の様な懇切丁寧な指導はどこに行った?

生徒の皆さん、構えを取ったと思ったら得物の持ち手を叩かれて終了なんだもん。

そんであっという間に俺たちの番ってね。

 

「次、ラビアナ・バルーセン、タミル、ブロン・テンバーン、ジェイク・クロー、ジミー・ドラゴンロード」

 

呼ばれて前に出たのは人目を引く目付きの鋭いトップオブお嬢様と、俺たち平民チーム。タミルさんが魔導士でブロン君が聖騎士と。ブロン君、俺と同じ騎士爵家の人間で、父親はいないんだとか。結構複雑な家庭の事情を抱えておられるようでしたので、それ以上のお話は避けさせていただきました。

 

「え~っと、ラビアナ様はどうなさいますか?俺たちはラビアナ様のご指示に従いますが」

俺は残りの面々に目を向けてからラビアナ様にお声を掛ける。そんな俺に、頷きで了承を示す平民チーム。

 

「何を言ってますの?勇者ジェイク、この場の最大戦力はあなたでしてよ?強者に従うは世の習い、勇者ジェイクが陣頭指揮を執るのが当然ではなくて?」

首を傾げそう言葉を返すラビアナ様、確かこちらのお方は公爵家のご令嬢であらせられるんじゃなかったっけ?いくら建前上自由交流が認められているとはいえ、中々にできた御仁の様ですこと。

 

俺が立てた作戦は単純、大剣聖様の周りを取り囲んで隙をついて殴るというもの。

正面に<聖騎士>のブロン君に立ってもらい、<聖騎士>のスキル<挑発>で気を引いてもらいながら攻撃の方向を誘導。左右を挟む俺とジミーで牽制を行い、背後に回ったラビアナ様とタミルさんに止《とど》めを刺してもらう感じ。

 

「まぁ上手く行くかどうかより大剣聖様の胸を借りる事が重要ですから、ラビアナ様とタミルさんは記念だと思って攻撃を仕掛けてください。

ブロン君、俺たちも協力するからよろしく」

「あ、あぁ。なんか緊張してきちゃったけど、精一杯頑張るよ」

 

俺たちは簡単な打ち合わせを済ませると、大剣聖様に挑むべく前へと踏み出すのでした。

 

「ふむ、お主が<勇者>の職を授かったジェイクじゃな。中々よい目をしている、これは楽しめるかの?」

そう言い愉悦の籠った瞳を向ける大剣聖様、これは模擬戦を通して俺の実力や人間性を見定めに来たって感じですかね。

 

「始め!!」

武術教官から掛けられた声に、サッと大剣聖様の周りを取り囲む俺たち。

 

「<挑発>“胸をお借りします、大剣聖様”、<グレートシールド>」

<挑発>と<聖騎士>の職業スキルを使い、大剣聖様の攻撃に備えるブロン君。俺にちょっかいを出そうと思っていた大剣聖様は、<挑発>により強制的に目標を変更させられややお冠のご様子。

 

「中々よい度胸であるな。ならば受けてみよ、<スラッシュ>」

<スラッシュ>は剣士の武技の中では最も初級の技。だがその使い手は大剣聖様、その威力は有象無象の<スラッシュ>とは比べるべくもなく。

 

“グワ~~ッ”

予めスキルまで使い構えていたにもかかわらず、後方に吹き飛ばされるブロン君。うわ~、大剣聖様、大人げね~。

 

“フンッ、カンカンカン”

剣士系武技スキル<スラッシュ>は基本的な技であり本来の威力はそこまで凄くも無い為か、技後硬直といった事もほとんどない。ほとんどないという事は言い換えれば刹那の硬直、刹那の隙があるという事。

そんな物を見逃すほどマルセル村の修羅は甘くない。

 

瞬間踏み込みと共に打ち込んでいくジミー、大剣聖様が驚きに目を見張りつつも応戦を始めるや、その隙に横合いからの攻撃を仕掛ける俺。

武技を仕掛ける暇など与えず純粋な打ち込みだけで大剣聖様を翻弄する俺たち。

 

“ヤァー”

そんな大剣聖様の背後に勢いよく長杖で殴り掛かるタミルさん。だが大剣聖様はタミルさんに振り向く事もせず木剣だけを背後に回し、手に持つ長杖を弾き飛ばす。

でもタミルさんの攻撃は陽動、本命は・・・。

 

「ここですわ」

闇属性魔力を纏い周囲からの認識を逸らして背後に迫ったラビアナ様の一撃。ラビアナ様って時々こうやって周囲に紛れて身を隠してるんだけど、一体何をやってるんだろうか?

まぁ、見た目ゴージャスだし?否が応でも目立ちますし?人目を避けたい事もあるんだろうけどもさ、あなたはどこの暗殺者ですかっていったような動きをですね。

やっぱり王都の貴族社会は魑魅魍魎の世界なんだろうな、怖い怖い。

 

「分かっておったわ、小娘が!!」

でもそこは大剣聖と呼ばれた男、潜って来た修羅場の数が違う。ラビアナ様の闇属性魔力による隠形にも気が付いたうえで泳がせていたようです。

 

“ドカッ”

「一本、勝者、ラビアナ・バルーセン、タミル、ブロン・テンバーン、ジェイク・クロー、ジミー・ドラゴンロード」

 

あまりにあっけない状況に、信じられないといった風に口を開けたまま固まる大剣聖様。俺は残身を解き、一礼をしてから後方に下がる。

俺がやった事は単純、大剣聖様の意識がラビアナ様に向いた瞬間に木剣を撃ち込んだだけ。でもそんな事マジモードの大剣聖様が許す訳がない。

それじゃどうして俺は大剣聖様から一本取る事が出来たのか。

 

「勇者ジェイクよ、今のは一体・・・。お主のことは決して意識から外してはおらなんだはず」

「秘剣“朧”、遥か東方の島国扶桑国に伝わる剣技です。達人と呼ばれる者たちは皆目に頼るような戦いは行わない。五感を使い、魔力察知や気配察知を駆使し、相手の動きを先読みして次の一手を繰り出す。それは目に見えぬ様な高度な攻防になれば尚の事。

であればそれを利用しない手はない。

気配と魔力を残しまるでそこに実像があるように錯覚させれば自身を隠す事が出来る」

 

俺はそう言うとサッと身を沈め剣聖様の下に近付く。周りの生徒は“それが一体何だ?”といった顔をしているが、ただ一人大剣聖様だけは驚きに目を見開いている。

 

「対人戦、しかも少数での高度な駆け引きの場でしか役に立たない技ですが、先程のような状況では非常に有効な技となります。

世界は広いという事を改めて教わった剣技です」

俺の言葉に、楽しいおもちゃを見付けた子供の様な満面の笑みを浮かべる大剣聖様。

 

「勇者ジェイクよ、お主の剣技、確りとした指導者がおると見たがどなたであるか聞いても?」

「はい、元白金級冒険者ボビー師匠、王都では“下町の剣聖”や“剣鬼ボビー”と言った方が分かり易いかと」

 

周囲に広がるざわつき、“剣鬼ボビー”の名は“鬼神ヘンリー”の名と共に、“辺境の蛮族”として知れ渡っていたのである。

 

「“下町の剣聖”、お主は“偏屈屋のボビー”の弟子か!!どうりでどこか既視感のある剣技だと思えば。そっちのデカいのもボビーの弟子であろう、奴のいやらしさを確り受け継ぎおって。

ならば遠慮はいらんな、遊びはここまでだ。お主らの本気、みせてみせい!!」

そう言い全身に覇気を漲らせる大剣聖様。先生~、大剣聖様がご乱心で~す。

 

「あっ、うん。皆は少し下がって見学するように。ジェイク・クローとジミー・ドラゴンロードは確りと学ばせてもらいなさい。この様な機会は今後一生ないだろうからな」

うわ~、先生逃げやがった。学園長は隣で頭抱えてるし。

 

「ジェイク、先手は俺でいいよな?さっきは止めを譲ったんだ、いいよな?」

ジミーが眼鏡をキランと光らせながら、俺の顔を覗き込むように聞いて来る。その口元は獰猛に歪み、最早隠す気ありませんと言った状態。

 

「ほれ、早くせんか。グズグズしているようなら私から行くぞ?」

「あぁ、待たせてすまない。俺から行かせてもらう」

ジミーはそう言うと一人前に出て木剣を構えるのだった。

 

――――――――――

 

“ドカドカドカドカドカドカドカドカ、バゴンバゴンバゴンバゴン、ドカドカドカドカドカドカ”

 

大剣聖クルーガル・ウォーレン様、数多くのスタンピード、ワイバーンの群れの襲来、オーランド王国を揺るがした大盗賊団の討伐、数々の武功を上げた生きる伝説。彼の活躍は多くの吟遊詩人が唄にし、世代を超えた英雄として今なお第一線で活躍される大剣聖様の事を知らない者などいない。

 

“ズゴンッバゴンッズゴンッバゴンッズゴンッバゴンッ”

「ワッハッハッハッ、楽しいぞ、楽し過ぎるぞ。もっとだ、もっと私を楽しませろ!!」

「俺はちょっと退屈だぞ?まだまだ引き出しはあるんだろう?折角だ、全部見せてみろ」

 

“ドカドカドカドカドカドカドカドカ、バゴンバゴンバゴンバゴン、ドガドガドガドガドガドガ”

 

私はいったい何を見せられているのかしら?先程一緒に大剣聖様に挑んだ男子生徒が大剣聖様を翻弄なさってるように見えるのは目の錯覚よね?

公爵家の使用人の中にはとてつもない剣技の持ち主が何人もいましたけど、ここまで無茶苦茶な戦いはしません事よ?

大体二人の得物は初級訓練用の木剣ですわよね?刃引きの訓練用の剣ではありませんわよね?

何故地面が爆ぜますの?打ち合いの衝撃波がここまで伝わってくるほどの打ち合いをして、何故木剣が壊れたりしませんの?意味が分かりませんわ。

 

「ワッハッハッハッ、無茶を言うでないわ。この戦いに剣技は無用、そのような隙をお主が与える筈もあるまい。

ならばこそ、なればこそ、我が生涯を懸け突き詰めし技を貴様に送ろう。<スラッシュ>」

 

それは剣士の初級武技、だがその一切の無駄が省かれた動きは見る者を惹き付け、唯々その光景を目に焼き付ける。

避ける事叶わず、ジミーはその技を受け倒れる、誰もがそう思わざるを得ない程その技は洗練され美しかった。だが・・・

 

「龍牙一閃、“鬼切り”」

“シュパーーーーーーーン”

走り抜ける閃光、大剣聖の遥か先で残身の姿勢を取るジミー。

 

「大剣聖の生涯を懸けた<スラッシュ>、堪能させてもらった。礼を言う」

“ドサッ”

その場に崩れ落ちる大剣聖クルーガル・ウォーレン。

 

ええええええええええええええええ!?

何で男子生徒が大剣聖様を打ち負かしてしまいましたの!?相手は伝説の大剣聖様でしてよ、オーランド王国の誇り、世界を股に掛けた超大物でしてよ!?

 

自分たちの常識を遥かに超えた事態にその場にいる者たちが呆然と立ちすくむ中、当の男子生徒ジミーは眼鏡のブリッジをクイッと押し上げレンズをキランと光らせながら、「次はジェイクの番だぞ?」と一言残し、生徒たちの中に戻って行くのでした。




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