転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第60話 村人転生者、働く

「おはようございます。本日からの作業はホーンラビット牧場脇の管理棟兼新居の建設になります。こちらは通常の家屋と同様の造りになりますが、管理小屋の機能が加わる分部屋数が多くなります。大変だとは思いますが頑張って行きましょう。

緑と黄色は建設現場の整地と井戸掘り場所の選定、それとレンガブロックの作製作業を行ってください。ケイトは俺と一緒に材木の切り出しと搬出、太郎は周辺の警戒です。

皆さん、怪我の無いよう安全に作業を行いましょう。

命大事に、ご安全に!」

 

「ん!」

“クネクネクネ”

“ガウッ”

 

周辺五箇村農業重要地区入りに向け着実に動き出したマルセル村。村長代理のドレイク・ブラウンはその為の布石を打ち出し始める。

 

その一つがこれまで各家単位で行っていたビッグワーム干し肉の製造を村の事業として一本化し、専用の作業所で行う事で効率化を図ると言うものであった。これによりこれまでマルセル村にはなかった“働き口”と言うものが生まれる事となり、村の女衆は“賃金を貰う労働者”として雇われる事となった。

 

また新規事業の模索も並行して行われた、一つは以前から村の予算を使い建設が行われていたホーンラビット牧場の本格始動である。飼育対象である角無しホーンラビットは村の男衆により搬入済みであり、飼育担当の村人グルゴとガブリエラの手により日々餌やりと角無しホーンラビットの健康管理が行われている。

 

もう一つの事業、キャタピラー繊維製品の生産も事業規模はまだ小さいものの生産体制が整いつつある。指導監督である裁縫師ベネットの下、新たに村民となったキャロル、病から復帰したエリザの二人が主体となり、キャタピラー繊維の採取、攻撃糸の作製、その糸を使った機織り等を行っている。因みにキャタピラー小屋への餌やりと増え過ぎたキャタピラーの草原への放流はキャロルの主人であるジェラルドの仕事である。

 

次々に増える新たな事業、その為に必要な建物。街の建築職人に頼もうにも皆が二の足を踏む辺境の最果て。必然的にその仕事は素人ながら建物修復と建築の技術を独学で習得した一人の少年へと回される事となる。

 

「おう、ケビン、これから森にお出掛けかい?」

畑で作業を行っていた村の大人が少年に声を掛ける。人口の少ない村では、大人たちの声掛けが子供たちの安全を守る為の必要不可欠な行為に他ならないからだ。

 

「おはようございますマルコお爺さん、ちょっと材木が必要なんで森の木を伐採しに行こうと思いまして。漸くビッグワーム干し肉の作業所建設が終わったと思ったら今度はホーンラビット牧場の管理小屋兼新居ですからね?休む暇もありませんよ。

と言うかこれって授けの儀の前の子供のセリフじゃないですよね、やっぱりドレイク村長代理はどこかおかしいと思いません?」

 

「ハハハハ、それはケビンがそれだけ頼られてるって事なんだろうさ、諦めろ。所でエール作製用の小屋の建設なんだが・・・」

 

「そう言えばマルコお爺さん、家具の作製が滞ってるらしいじゃないですか、今度新居が出来たら少なくとも二台分のベッド枠が必要なんですから頑張ってくださいね?あとベネットお婆さんが刺繍する魔方陣の図案はどうなってるのかって聞いてましたよ?それと耐久性の高いインクの作製はまだかとも」

 

「うわ~、そんなにすぐに終わるか~!!昨年まではのんびりとした老後を生きておったのに、ケビン、お前だけは逃がさんからな、絶対に道連れにしてやる!」

 

「ハハハハ、それはこちらのセリフです、なに大丈夫、倒れそうになってもスタミナポーションとローポーション、それと例のスカーフで回復していただきますから」

 

「く~、コイツどこまで年寄りを酷使するつもりだ~」

 

村のお年寄りと少年の温かな交流、辺境の田舎では互いに家族の様な関係を築く事が円満な暮らしの為の必須技能なのだろう。

 

 

”スパンッ、ドサ~ッ”

 

「ケイト~、この木そっちに運んでくれる?」

「ん。」

 

背中から延びる巨大な黒腕を巧みに使い次から次へと材木を運び出すケイト。周囲に作業の安全を喚起するかのように羽織ったヒカリゴケジャケットを光らせ、お気に入りの薄はちみつ色のスカーフを首に巻き付けてせっせと働く姿に、“あの死に掛けだったケイトがここまで元気に・・・”と、涙ぐみそうになるケビン少年なのでありました。

 

「ところでケイトさんや、君魔力制御しっかり出来る様になったよね?最近じゃ魔力過多症の治療薬を飲まなくても平気になったって、こないだザルバさんに物凄く感謝されたんだけど。何で未だにそのヒカリゴケジャケット着てるの?」

 

「ん?ん。」

「えっ?ヒカリゴケが体温調節してくれるの?うっそ~ん。

断熱効果バッチリで常に体感気温が一定ってなにそれ、めっちゃ優れ物じゃん。それじゃ手放せないよね」

 

新たに分かるこの世界の魔法植物の可能性、ヒカリゴケと共存する子供ケイト。将来ヒカリゴケの専門家にでもなるんだろうか?

ニコニコしながら作業に戻るケイトに、俺も帰ったらヒカリゴケでコケ玉でも作ろうと決心するケビン少年なのでありました。

 

 

全体を魔力で包んで水魔法魔力を意識しながらゆっくりと移動っと。

伐採した材木はまだ生木状態、本来であれば自然乾燥で数カ月は放置しておかなければいけないんですがすぐに必要な場合はそうも言ってられない。

そこで登場するのが便利な魔法って訳なんですけど、以前単純に“水分だけ抜けばよくね”と思って脱水の要領で“ウォーター”を掛けたら木が割れちゃいましてね。どうやら急速な脱水乾燥は薪として使う分には問題なくとも材木に使うのには向かない様子。

そこでホーンラビット牧場建設の報酬で貰った村長候補マイケル・マルセル所有だった魔法の本を調べたところ、水属性魔法に材木の乾燥を行う為の魔法がございました。

 

戦場において城壁や砦の建設は必須ですからね、そうした魔法が防御系の魔法として発展してもおかしくは無いって事なんでしょう。軍事技術の転用が生活を向上させるってのはどこの世界でも変わらないって事なんですかね。

水属性魔法使いの再就職先として材木業者や建設業者が挙げられるのはこうした魔法のお陰らしいです。(「魔法の書」“水属性魔法の利用と解説”より)

で、この魔法の書によりますと“樹木には水や栄養を吸い上げ葉に送る管の様なものがあり、その管を伝わり水分が排泄される事を意識して魔法を行使するとより丈夫な材木になる”との記述がございました。つまりただ脱水するだけじゃダメだった訳ですね。

まぁそうは言っても俗に言う“魔法”の使えない自分はそのイメージで以って水分を自力で排泄させるしかない訳でありまして、要は以前魔力纏いの指導で行った様に魔力を移動させる要領で水分を移動させてみました。コツは水属性の魔力を意識する事、慣れないうちは盥に水を張って中に手を入れて水を動かす練習から始めるといいですよ?

まぁ自分は以前から“水の腕~”とかやってたんですぐに出来たんですけどね。

 

水抜きが終われば枝払いを行って必要な長さに切り分けます。切り取った枝は火付けに使うので束にして回収、田舎では全て有効利用が基本ですからね。本当は葉っぱも集めたい所だけど流石に大変なのでパス、その辺の頃合いは各自の判断って事で。

 

「ケイト~、それじゃ材木を運ぶよ~」

「ん。」

 

木の皮を剝いたり成形はしないのか?そんな事は建築現場でしますがな。森は危険なんですよ?いくら気を付けていたからって何が起きるか分からない、それが森なんですから。今回は三往復くらいすれば大丈夫かな?

俺たちは互いに巨大な魔力の腕を何本も出し材木を掴み上げると、足取りも軽くマルセル村へと戻って行くのでした。

 

「太郎、帰るよ~」

“・・・バウッ ”

太郎が若干引き気味なのは気のせいでしょう、仕方がないよね、犬だし。

 

――――――――――

 

“パチンッ、パチンッ”

囲炉裏の真ん中で薪の爆ぜる音がする。温かな炎が小屋の中を照らし、五徳の土鍋からは美味しそうな野菜スープの香りが漂う。

その傍らには美しい銀色の髪を無造作に束ねた耳の大きな妖精が、黒く艶のいい毛並みの犬の身体を優し気な笑みを浮かべながら撫でている。

 

“ヴィーゼ”

そっと呟く妖精。その声音は、どこか遠く純粋で幸せだった頃を懐かしむかの様な響きであった。

 

いや、絵になるけどね、流石王侯貴族から狙われ続ける種族と言った納得の光景だけどね、そいつ“太郎”だから、そんな小洒落た名前じゃないから。太郎もなに寛いじゃってるのよ、優しい魔力が伝わってきて心地がいい?まぁお前がいいんならそれでもいいけどさ。

何か“私にも仕事をくれ~、仲間外れにするな~”って騒いでいた残念エルフ、もとい森の賢者様。この度、ケビン農場の管理責任者に就任いたしました。パチパチパチ。

まぁやる事は基本変わらないんですけどね、作物の収穫、小屋と畑の管理ですね。収穫は早朝緑と黄色の手伝い、彼らが刈り取った癒し草や野菜を運び出す作業ですね。

小屋の管理はいつも通り生活して頂ければいいだけなんで問題なし。それに小屋には太郎がいますから、安全面もバッチリです。

太郎自体が危ないんじゃないのか?まぁ元野良犬ですし人にも慣れてないんでどうかと思ったんですけど、そこは伝説の種族ハイエルフ、見事手懐けちゃいました。太郎も“優しい魔力が~”とか言ってたし、なんかその手のスキルでも持ってるんじゃないのかな?

この世界の犬の起源はグラスウルフって言われているくらいだし、エルフ(元草原の民の疑いあり)との相性もいいんじゃないんだろうか。

 

弓を持った銀髪のエルフが猟犬を連れて草原を駆け抜ける、凄く絵になる。自由に外出させてあげたいのは山々なんだけど、エルフだからな~。

 

「ところでアナスタシアさんや、アナお婆さんに変装している時ってその大きな耳はどうなってるの?」

 

「ん?あぁ、これですか?見てみます?」

そう言うと何か黒い魔力を纏ったアナスタシアさん。その魔力が消えた時そこにはいつもながらの腰の曲がったアナお婆さんが。美しい銀糸は煤けた色の白髪に、ふくよかな皺の刻まれた優しい面立ち、そして大きな耳は普人族の様な小振りなものに。

 

「これは長年エルフ族が研究し作り上げた変装術、呪いの一種じゃな。但し自分が自分に掛ける姿形を変える呪いじゃ、解術は容易、いつでも元に戻れる優れものではあるかの」

そうしゃがれた声で話しながらも皺皺の手で太郎を撫でる事を止めないアナ婆さん、うん、ぶれない。

まぁ痣を作ったり見た目を男に変える呪いがあるんだから、見た目を老けさせる呪いがあっても不思議じゃない。側室に夢中になる旦那を取り戻すために正妻様が呪いを掛ける、しかも呪いであると分かりにくい様に少しづつ見た目が老けて行く様に。うん、普通にありそう。その応用だったら魔術に長けたエルフ族なら余裕で改造出来そうだし。

毒も使い方次第で薬になるって典型ですね。

 

「でもそこまで呪いに精通しているんだったら例えばそばかす顔で目元が一重でボヤッとした田舎娘風とか、疲れた顔の場末酒場の娼婦風とか、マルガス村やスルベ村にいた様ないかにも田舎の女性風とかの顔に出来ないの?」

俺の提案に“あ、”と言った顔になるアナお婆さん。隠れ住む事、目立たない事に意識が向き過ぎて、“目立たないながらも隠れて活動する”と言った間者的思考には思い至らなかった様です。

 

だったらマルセル村の女性を参考にした方がいいんじゃないのか?あのね、この村の女性は訳アリばっかりで何故か美人さんが多いのよ、平家落人の隠里状態なのよ、参考にならないのよ。アナスタシアさんうっかりしたところがあるからな~、耳を隠してそばかす付けただけで安心しちゃいそうだし、その辺はしっかり変装して貰わないと。

 

「ケビン君や、なにか希望が持てたわい。グルゴやガブリエラとも相談していい感じの村娘になって見せようではないか」

うん、暇人に目標が出来たようです。本当、何でも俺に押し付けられても解決なんて出来ませんっての。自己解決してくれるんならそれに越した事はなし、いや~、良かった良かった。

畑の引き籠りアナスタシア・エルファンドラからの難題に目処が立ち、ほっと胸を撫で下ろすケビン少年なのでありました。




本日二話目です。
一部地域では本日新入生の入学式ですね。
新たなる学生生活の始まり、頑張ってください。
いってらっしゃい。
by@aozora
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